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13代國政の玉鋼打ち鋸発注 玉打ち練り返しは夕焼けのように輝く 川越の名工中屋辺作から五代目中屋滝次郞正義へ 150年続く小江戸鋸鍛冶  鞴の吹き上がり炭火造りは消えないツールジャパンの凄み

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

21世紀、このハイテク時代に江戸期からの正統技能の伝承、街の火造り鍛冶塲が現存するツールジャパン。 和紙や和食と同様に、長い時間を経て到達した産業伝統技術・世界技能遺産としてリスペクト。ボンヤリしているとやがてタイムトンネルで行く時がくる。

先代13代國政の相伝では、道具事情や刃物オーダーの実際も聴き語りを留めています。
昭和18年、徴兵されて横須賀海兵團に入隊。仕事場を閉じ、道具刃物を供出。手許には貴重な伝世品数枚を残しています。当時は、量産品が出回りはじめ、産地には本職用の専門鍛冶職がまだ多く活躍していました。

敗戦で全てを奪われ失い、指物木工技術に必須の鉋・鋸・鑿を揃えるために奔走したことなど。戦争前、物資がまだ潤沢であった時代の状況や職人の動きなども書き留めました。幾つかの重要な話柄を記載します。

川越の玉打ち名工「辺作」を訪ねて

川越にいた玉打ち鋸の名人中屋辺作をよく知っている、所沢の腕がよい箪笥職人あがりの「泰ちゃん」がいて、同行紹介で注文依頼のために出掛ける。辺作さんは、変わり者で、気に入らないと何年も注文を造らない。女房・子供はなく、薄暗い、おんぼろ仕事場で上質ものだけを造り続けていた。「玉打ち」玉鋼で鍛造する最高の鋸でした。

目黒から早朝、20里の道を自転車で走り、帰りは夜になった。
玉鋼打ちの練り返しは、まるで夕焼けのように綺麗であった。日本刀用玉鋼がかなりストックされていた時代です。

中屋辺作 玉鋼打ち畦挽き   縦挽き刃 15目/ 寸  横挽き刃 27目/寸

この時、注文したものは
・枘引き 2丁
・胴突き    1丁
・ががり    1丁
・畦引き   2丁  計 6丁

値段は、ががりが15円、胴突き10円 当時の工賃が一円 /日 の時代。

遠方からの訪問を歓び、よほど気に入られ、天丼をもてなしてくれたので、同行者がしきりに驚く。早速、仕事に取りかかり、三ヶ月後に枷をはめて送ってきた。(戦禍をくぐり現存)

ガガリ縦挽きとヒッキリ横切り

「ががり」縦挽きでは、上方の深沢清吉が第一人者で、薄刃で尺一ものでは切れ味が極めて優れていた。
「ひっきり片刃」(挽切り・横切り)では、中屋久作が破格の値で、とても買えるものではなかった。
上質・高度な仕事に必要な道具とはいえ、数ヶ月分の稼ぎを全て投じるのは大変なことである。鍛冶職オーダーメイドの高品質な鉋や鑿も、稼ぎの一週間から半月、ハイクラスで一月分であった。目立ては、当然自分で、仕事の切れ間や雨の日に行う。

戦争で仕事場・材料、道具を奪われ、更に、敗戦後の預金封鎖政策で家計は大きなダメージをうけ、疎開先でも過重の苦難が続く。戦時中は機械、刃物道具を供出させられ、敗戦後も家族は悲惨な生活だった。辛い、大変な時代を生き抜いてきたのです。

五代滝次朗作「九寸胴突き」 30目/寸 白紙2号 / 針葉樹材用    2001年購入 ¥ 25.000-

現代 中屋滝次朗正義・川越の仕事場にて  2017年 8月  16年ぶりの再訪問から

火護りの神

鞴・炭火造り火床(ホド)

やっとこ(矢床箸)・焼き入れ鋏

金床

ハンマー・鎚

銑がけ削り屑

仕上げ塲

仕掛かり・造り置き

現役の手造り鋸鍛冶職は、川越に残る中屋滝次朗正義だけとなり、後継者がいないまま、卓越練達の手仕事が途絶える日も近づきます。鞴の火造り練り返し、銑がけ・歪み取りは貴重な手技です。(多くのマスコミ取材、雑誌紹介で著名ですので、本稿では、詳しい来歴は省きます。)

現在は、オーダーメイドで五万ほどと聞いていますが、制作は5日かかり、決して高いものではない。後々の目立てなどのメンテナンスを考慮すれば、調整まで出来る有り難い職能です。新参は、一生涯使える道具を揃えることから始まります。
不思議なことに、鉋は頻繁に研ぎますが、鋸は目研ぎ・目立ては疎かです。切れないから替え刃でというのは「買えば」なのです。目立て出来ず、回収もせず、ドンドン鋼材資源を使い捨てることを慎むべきではないでしょうか。

新調ストックをはじめ、遠方からも目立・造り直しが沢山きていました。
絶頂期にあり、ご注文、目立て依頼はお早めに。

■制作品目:枘挽き、両刃・片刃、胴突き、釘挽き、畦挽き、剪定・枝おろし、
香道用、華道用、正倉院型、山林・造林鋸、大鋸、根切り、カマ挽き、引き回し
玉鋼・摺合わせ・アサリ無し 他, 特注物

五代目中屋滝次朗正義 伊藤 守

〒350 – 0824  埼玉県川越市石原町1 ー 8 – 6
TEL. 049 – 224 – 3200   takijiro134@topaz.ocn.ne.jp

*鍛冶屋は火造りのプロですから、工房の鉄工道具は自作です。産地・流派で伝承されてきた独自の細部の形状や名称などは明らかではありません。説明は、関東呼びです。

*職人技の身体記憶を外部から見ても捉えることは不可能ですが、動作、音や火造り温度、鍛造のタイミングは記録できます。次世代の修行は、ひっついて、見て倣い習い覚えるしかありません。伝承できるデッドラインはあと数年でしょうか。

ⓒ2019, Kurayuki Abe

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木の総合学研究 2019  「鋸鍛冶の仕事塲と製作」「玉鋼鍛造鋸の記録」「胴突き・畦挽き鋸」「相伝・正調の鍛造火造りの手仕事」

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