「木」と芸術「木」の本「木」の道具・工具工芸木工

「木工」の本  巨匠 J.クレノフのキャビネットメイキング ベストブック-3. James Krenov’s Books

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

キャビネットメイキングをファインアートにした天才の飛び抜けた 造形センスと技量が薫る連作ズラリ_木の生命を読みとり、敬虔な精神が漲り、工房では若い感性にも威光を押さえ、極めて優れた指導力を発揮しました。

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・THE FINE ART OF CABINETMAKING 
ISBN 0-442-24555-6
1977
Van Nostrand Reinhold Company
A division of Litton Educational Publishing ,Inc. NY
225 x 286 mm   p.192 ハードカバー
$14.95  / JPN 5,230 - 東光堂書店 TOKYO 2冊購入
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目次 Contents
Introduction    p.6
1.Wood   p.8
2. Workshop and Tools   p.60
3. Details of Cabinetmaking   p.118
Index   p.191

Fine Woodworking Program / College of the Redwoods スタートから存続への重責

 このカレッジオブレッドウッドのFine Woodworking Programの設立スタートでは、地元木材産業が開拓時代から伐採し続け、森林資源が枯渇する状況にいたり、モノつくりへのシフトを意図して様々な貢献をしました。

原木製材から家具・室内産業への転換を図り、技能養成を計画。当時、スエーデンで活躍していたジェイムス・クレノフは、ボストンのRITやカリフォルニア大学Santa Cruz校での指導のあとに、州立のCollge of the Redwoods  Mendochino校(本部:Eureka)に招聘されワークショップをメインにしたコミュニティカレッジで技能訓練・作家養成校を開設したのです。

1期生は、Jimの住まいの建築から工房準備をともにし、全人的な接触が続き、夫人と共に極めて厚い信頼関係ができ、長いつきあいがスタート。全米から工房スタイルの学校に希望者が増え、またJimの作風にあこがれスエーデンのカールマルムステンを経て来訪する生徒やドイツ、日本からの志望者も集まり国際的な木工履修ポットになりました。
JK 履歴 A Summary
http://www.crfinefurniture.com/1pages/ shopinfo/jkobit.html
 渡来したアーテイストが後進を育てるのは、支える地元スタッフの全面的な協力が不可欠です。これには、始めの卒業生がいろいろと学校運営を助け、有能な人が多数いたことが現在につながっています。滞在中にも、卒業生が度々現れて先生達にコンタクトし、仕事上の相談や機材の調達、材料の協同購入、有益な情報収集をしていました。
同時に、生徒との接触が多く、後輩の面倒もみる関係が相互扶助にもつながる好循環が生まれます。卒業したらおさらばでは、双方とも後が続きません。来日時、Jimの意見では「専門校開設後、初めての卒業生と二期生就職の成否が存続の分かれ目となる」と。果たしてそのとうりになった事例を思い出します。卒業しても折々に戻って、仕事の糧や後進の面倒もみる親密なつきあいが双方にとって大切であると感じます。
人のつながりから、Job & MT マテリアルコネクション, Tool & Machinery  Connectionが拡がってています。
 卒業生は、注文家具や楽器制作工房を開き、観光リゾートMendochino  コースト周辺の町に定住する人が次第に増えました。リタイヤした老後生活者の家に下宿したり、飲食、物販に経済効果をもたらし、観光地の中に教育センターが膨らんで発展してきたのです。町の活性化は、若い人材が学び、腕を磨き、仕事を得て住み続け、サポートする仕組みができれば実現する事例です。
優れた指導者と適切な教育プログラム、モノつくりのための充実した環境・施設が揃って演奏者が参集しコンサートが始まるのですね。近くに風光明媚なリゾート地や観光スポットがあることもクラフトや芸術的な仕事が息づくポテンシャルステージに。
C/R Fine Woodworking Program 生徒募集要項・「道具の自作」「木工家養成目的」
募集要項を見ると、単に木工技術の習得を目的にしているのでは無く、「木」というものについて、「木と木工家との関わり」について個性ある作品の制作に必要なセンスや感受性を開発するために道具を自作し使うこと」について考えていこうとする基本的な姿勢が有ります。出だしから、定則だけを教え込む日本の専門校とはずいぶん違うカリキュラム編成です。卒業生で近くで活躍するプロも加わり、フォローする柔軟な仕組みも継続発展の要因です。
(長い時間、職人・工員を養成して木工産業に送り込んできた職訓教科は、アーテイスト・造形志向が強まり、伝統産業も衰退・変容しています。近年のダブルウエーブに対応していくには、造形デザインや環境資源、ビジネス感覚・実務能力の修得も必須です。既存の就業・産業ニーズに合わせるのではなく、仕事を創り出す開発型人材が望まれています。脱皮しなければ、いずれは終焉。
新しい構想で「木」の学舎を創設し、新しいカテゴリーへシフトをする時期が迫っています。まずは、修得する仕事遂行能力の内実と望ましい組織運営形態、有能人材の捜索、立地等の検討から)
著作の中でジェイムス・クレノフは自作鉋Planesに(p.80 – p/114 )多くのページを割いています。リタイヤ後の2年間は、鉋制作に集中していました。楽器のようでもあり、彫刻でもありました。バリェーションがフルムーンです。雑誌掲載も数回あります。
・Fine Wood Working  Magazine / No.126  Oct.1977   The Taunton Press
P1110625-1
J. Krenov の作品・業績について
天才木工芸作家の足跡を辿り、評価・研究するためにも現時点で気づいた事とイメージを記しておきます。
1 . 制作した作品は類似したバリエーション・系統的なものではではなく、一作ごとに意表をつく斬新な意匠が考案され、テクニックが駆使されてきた。樹種・木目,構造デティールなど多用性に富む。「制作中に次のアイデアが自然とやって来る」とJimは語ります。(サンフランシスコには、世界各地の銘材が集積するのでカレッジにも持ち込み販売が定期的にある。生徒の用材ストックは、40樹種ほどの1 – 2インチ板材、ブロック)
2. 実際の作品は小振りだが、写真からはサイズが大きく感じられる。ノーブルな造形、構造特性や視覚的な効果など解析すべき意味が秘められている。Jim の出自、幼少期の体験、壮年期の出会いなど来歴は既に御大自身で補説しているが、言外の不明な時期もある。
3. 指物師の技術に切出し小刀や彫刻等の彫物、削りがある。熟練した手仕事には、ナイフワークがベースになっている。マスターは、一番使う自作鉋と切出しがお気に入り。
4. 時間が経過しても作品の魅力が失われない。身近におきたい、飽きることがないタイムレスデザイン。基本をガッチリ押さえ、「木工」の本質・究極を追求してきた。
5. 真似しても違うものになる。複製が困難、コピーが作れない。タッチ、独特な雰囲気が漂うスタイル。
6. 素材を最高に活かすセンス・こしらえは、割烹職に似ている。どちらも天然の生物素材を相手に共通するものが多い。独自の木材美を引き立てる生来の才能は、際だっている。
7. ワークショップで学生や優秀なアシスタント・スタッフに囲まれ、注目を浴び、尊敬されながら作品を手がけることが出来る環境に恵まれた。一人孤独では、あの曲想豊かで人を惹きつける作風は全開しなかった。繊細かつ頑固な気質にとって、いつも若い後進に囲まれ、新作へ向かう楽しい時間が流れていた。
8.  晩年の作品には、和風・のモチーフが増えた。自然木の表情を活かすと自ずと形や雰囲気が日本的テイストに近づく。

9.  遊び心がある作品を多数制作。一作毎にそれぞれ思考時間と手間暇を十分にかけ、完成度の高いフォルムに結実。前作をコピーしない。

10. 作品の背後にある様々な影響や実際の制作作業を検証すると「木と芸術」の総合学的な知見が得られ、新しい作品のカテゴリーやムーブメント発生の契機になる可能性がある。偉大な業績は、若い才能を触発する。
11. アーテイスト固有の造形センスやアイデア・創作活動を研究する手掛かりとなる様々な刊行物、写真記録、資料・収蔵品をまとめておきたい。
12. 公開することにより、James Krenov 作品の新たな発見や見識にふれることが出来る。しかし、画像ではなく、実物・本物がベスト。コレクター・美術館収蔵品が一同に公開される日を心待ちにしています。
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木の総合学研究2014 – 2019  「Fine Woodworking 」  「Artwork of Cabinetmaking  by James Krenov 」

「組手」ジョイント

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