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和鑿の鍛接技術イノベーション_刃付け・小端曲げ折り/ 被せ|The innovative Forge Welding of J-Chesels and Blades in18 Century.|江戸伝統鍛接技術の革新 ハンドツールジャパン-73

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

地鉄に炭素鋼を鍛接する刃物の革新は、高価な鋼を節約し、均質で研ぎ易く、全体の強度を保ち、切れ味を高める日本固有の伝統刃物文化を築き上げました。

江戸中期には、鋼小片を刃身に割りいれる刃付け鍛造工法でしたが、さらに地金に鋼(炭素鋼)接合する効率的な造りが技術革新に繋がりました。

地金に被せる高度な技能の開発は、江戸時代初期には現れています。鉋刃の合わせ鋼接と同じではありませんが、明治後期に木造建築仕事が増大し、切削工具の需要が飛躍的に伸びる産業経済隆盛時期に専門職種が現れ、大工道具の注文制作から工場製品既製へと工業化が進んだのです。

全鋼刃に比べて、切れる、研ぎ易い、全体構造強度が優れ、生産性がよい。「鑿は耳で切る」

鋼(炭素鋼)の鍛接工法は、高価な鋼材料を節約し、切れ味が上がり、品質が安定するとともに、製造工程も定量化して経済性が生まれ、増産できるという革新技術へ繋がりました。鋼付け曲げ、小端被せにより「耳」が鋭利になり、「鑿は耳で切る」とは、三代左久作・池上喜校さんの教示によるもの。

木造建築需要は増大した明治30年代、それまで自作していた台鉋の刃入れが間にあわないので台打ち専門代行職が現れてきます。大工道具店が開業するタイミングには、鋸の目立ても同様に分業化が起き、既製品を扱うようになります。

鍛接・鋼付け_細部の仕様比較

A.「鍛接手仕事」鑿地鉄に鋼付け「小端曲げ被せ」

左久作・初代 / 左市広・初代(鋼付け曲げ被せ)

「助国」作 段付き作里 七分・伴裏

切り刃は小端鋼曲げ被せ / 裏金は鋼ベタ接ぎ

手鑢仕上げ

段付き作里鉋

B. 「機械加工鍛接」

量産機械加工による鋼折り小端コバ被せ

「越彦」 初代

越彦・初代  機械加工による鍛接、グラインダー仕上げ

道具・刃物を自分でこしらえる時代から、出来合い、台打ち・柄入れの専業職の活躍が始まり、大工道具店・金物販売業態が全国に拡がった時代です。卓越名工作にみる鍛接技能は、切削力だけでなく粋で洗練された形状、品質の同時に語るものです。所持するだけで自信が涌き、仕事の意欲を掻き立てられ、腕が上がると言います。

鑿の鍛造技術は、上方と関東江戸ものでは仕様が少し異なり、その制作技法も歴代の流派系統で微妙な差異があります。身体記憶による相伝、外部へのノウハウ流出を防ぐために製造技術は公開しないものでした。

本稿では、明治末期、大正・昭和初期に台頭した名品、敗戦後の機械製造の優れた製品の鍛接鋼付け・ジョイントテクノロジーを記載します。

専門職人による重要資料  (削ろう会 第二回武生にて拝受)

■鍛造鍛冶職白鷹幸伯の自筆資料木工刃物製作ベストブック「和鑿」

唯一の「鑿・作里鉋・小刃」鍛造専門職による貴重な流派記録、伝承技術書があります。

「江戸鍛冶の注文帳_誂え刃物師三代の記録」

鑿の鍛造伝統技術 鍛接 鋼と地金の鍛造溶接

イモ継ぎ 投げ接ぎ 平接ぎ・重ね合わせ

 

二代 左久作_池上喬庸著 1992  伝統技術研究会 発行 (木工塾内) p.213 / 152 x 210 x 12mm

 既に、鉋・鋸・墨壺・卦引き、バールの秀作や型写し計測具、合砥の実物名品を別稿に記載しました。

■ 江戸時代初期の一寸二分両刃叩き鑿の発見から

7月7日、大徳寺方丈 屋根裏から江戸時代初期の叩き鑿が見つかったというニュースがありました。

刃幅 1.7cm  全長 23.3cm  口金・冠カツラ付き_赤樫柄に見えます。

天保6年(1635)の建立時に大工が残してくれた両刃叩き鑿が、鍛造技術の実用発達過程を教え、現在の鍛造造り構造に近く、完成度が高いものだったことが判明しました。

伊予鍛冶名工 白鷹幸伯の大工道具の変遷解説資料に江戸初期の隙間があるので試みに嵌めてみます。

削ろう会・第二回武生大会講義  1997年 白鷹幸伯配布資料

本稿では、鉋刃鍛造技術と関連した鑿の制作技術革新が惹起した歴史的経緯を辿ります。今尚ご活躍されており、その技能伝承を果たされてきた卓越名工作の実物を基に、卓越・名工の口伝や身体記憶を裏付ける「日本木工院」の実録作業が続きます。

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木の総合学研究 2025   「江戸鍛冶_和鑿・作里鉋刃・小刀の制作技術と業界史実」「鑿の鋼曲げ・折り地金被せ・鍛接技術」「火造り_地鉄・鋼の接ぎ方」

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