08. 鬢太天秤(びんたてんびん)
「鬢」(びん)顔の左右側面・耳際の髪形周辺部を見立て、天秤形が連続する枘形。正面(前板)を、面(つら)とみて側面に出るこの組手を「鬢太天秤」と呼びます。主に引き出しの前板・側板(かわいた)に使われています。抽斗(ひきだし)の枠体を強固に固めるため、この組手構造が基本です。奥の板は、前板にたいして先側(さきかわ)と呼び、濁りません。
教本などの刊行物にある「包み蟻組み」は、後世の誤用で、英語のネーミングなどから転用されてきました。「蟻組」ではなく、天秤の派生型。「蟻」と「天秤」の識別がわからない人が付けた名称が出版され一般化したため、更に、手作業で組手を工作する仕事がなくなり、江戸時代からの「ビンタ」という言葉も消えつつあります。
「天秤」という名称を使う人は、親方筋を継承しており、「蟻組」というネーミングを覚えた人は、訓練校などで教材や本で学んだことわかります。職人の仕事は、その「言葉」に伝統や知識が深く染みこんでいますので、 技術の伝承は、相対で相伝・聞き取り、実際の仕事を通じて高度な技能へ反映されてくるのです。