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Spiel-Naef 「Naef-Bau Art.526 」 木のおもちゃの世界を変えた初めのジョイント積木創作デザイン |「Bauklötze mit Schwalbenschwanznuten」Swallow’s tail transformed into the creative playthings and jointing structures. Swiss Design 1962 |「契り・蟻掛け」基本形の応用から斬新な技法へ 木のジョイントシステム – 41
大工・家具本職が使う木工ジョイント「蟻」「契り」を積木おもちゃに応用した斬新なアイデアが、玩具の世界に全く新しいデザインを導き、考案・創作を誘発した半世紀_Spiel Naef木の玩具デザインはコモンセンス・時代をこえて、
多彩な木のパズルや高度な知育玩具の プロダクトデザイン、立体造形幾何、オブジェにまで到達_嵌合・架構から係止ジョイント機構にまで派生している重要な基本造形技術となりました。
往年の秀作Naef Spieleが遺品相続で 60年前のオリジナル現品が市場に出てくる時期になり、初期作品の詳細が明らかになります。デティールに「燕尾・鳩尾・蟻口・蝶契り」を造り込む面白い伝統技能の世界から、モダーン育児玩具・パズル・オブジェ創作への道程が見えてきます。
本稿のコンテンツ:
① 斬新な逆の発想で造形力が注目されたNaef-Bau Art.526
② Naef-Bau Art.526 量産市販モデル 1962
③ 燕尾・鳩尾・狐尾_蟻・天秤の違い識別
④ 伝統堂宮大工技法「蟻掛け」象鼻
⑤ 江戸時代中期の日本建築継手「四方蟻」根継ぎ、「契り留め」蝶契り
⑥ 茶室数寄屋_船板契り留め意匠
⑦ ユニバーサルデザインへの応用ジョイント_パッケージ・建材・遊具
Naef-Bauklötze 積み木 1962
❶ 斬新な逆の発想で造形力が注目されたNaef-Bau Art.526
Naef-Bau Art.526 / Naef Spiel Art.501 +Werner Gutemann
S; md möbel design 1962-05 W.Germany
Die Bauklötze mit Schwalbenschwanznuten und entsprechenden Verbindungsteilen schulen die Geschucklichkeit und technisches Gestaltungsvermögen.
燕尾形の積木_斜め切り込み形を利用した仕込み、嵌め合せの訓練や造形表現を学習します。
Naef-Spiele sind aus der Freude am Umgang mit schönen Holz und aus einem vertieften Verständnis für die Spielgewohnheiten unserer Kinder hervorgegangen. im Gegensatz zu der unbeseelten synthetischen Mssenware wollen sie durch neuartige Formen und durch das Material die kindliche Phantasie auf jeder Entwicklungsstufe anregen
ネフ玩具は、美しい木材とつきあう歓びがあり、おもちゃで遊ぶ習慣を身につけ、子供の内面に現れる思考力も深めます。対照的に、無生物の合成大量生産品から通り抜けたい斬新な形態であり、幼いファンタジーを助演し、発達段階を刺激するのです。
Naef-Bauklötze haben vom Schweizer Werkbund die Auszeichnug ” Gute Form” erhalten; auch an der Triennale in Mailand haben sie grösste Beachtung gefunden. SPIEL NAEF 1962
Naef 積木 1962年スイス工作連盟 ” Gutes Form ” 選定( Gutes Spielzeug vom Kurt Naef )ミラノトリエンナーレにて大きな評価をうける /Kurt Naef, Blumenrain 23 Basel / Schweiz
本来、「蟻・契り・天秤組手」ジョイントは、木工大工・家具の本職が使う緊結技術で外せない、見えない構造的な納まりです。
Naef-Bau は、積木にジョイントメカニズムをつける突飛な構造ですが、ピッタリきつく入れるのではなく、ゆるくして積み木の組立パーツにするという全く逆の使い方であり、この意外な玩具デザインの発想をみて業界専門家・関係者は大きな評価をしたのです。抜き差しは、指先の感覚を発達させますが、幼い子供は嵌め込み、奥行きが苦手です。
駆け出しの木工職人Kurt Naefが室内装飾・家具分野から離脱して、おもちゃの世界で成功を収める重要な契機となりました。契り・楔打ちこみから着脱可能なコネクターに造り替えたジョイント積木のカテゴリーを開くことになった画期的な作品です。
❷ Naef-Bau Art.526 量産市販モデル 1962
Naef – Bau Art.526 / 所蔵:MDr. Hori Toshihiko 2024
この初期量産品は、仕上げ木肌をみると丸鋸刃先ひっかき痕(Toothmark)や溝ツキ木口にバリけばだちが残り、各ピースは未研磨のまま検査しないで切りっぱなしです。狂い変形が少ない柾目木取りですが、四方柾・二方柾(平柾)、追柾の混じりがあり収縮差変形を起こしています。
乾燥変形して嵌合接合面が咬み、外れなくなり、材質・切削加工精度に難点がありました。変形が少ない柾目木理でも年輪が均一緻密でないと暴れます_じっとしていない子供と同じように。
更に、肥大成長による年輪幅の粗密で動き、大径木緻密材質でないと寸法精度が安定しません。厚みのある太角「柾目」木取りは、良質な木材のみを使うのが基本_乾燥・吸湿により動くのです。
木理目粗、木口切削痕、バリ・エッジ毟れ・収縮差変形反り・未研磨_寸法精度が重要ですが、材質が粗密不揃いで、カット面が荒れたままで段差がつき、これでは玩具商品にはなりませぬ。
木口カットでは丸鋸刃のブレが残り、鋭利な丸鋸チップソー (カーボングラファイト)が実用化されたのは1970年、小職の学生時代でした。学内の工房で軸傾斜丸鋸盤に装着してその鋭い切れ味・切削面精度にビックリしたのです。
丸鋸刃の目立て研磨精度・回転軸のブレ・固定治具が原因ですが、木材切削加工をサブコントラクターに委託していたために材料撰別が疎かになり、粗雑な仕上げとなった苦い経験でした。(以下、修復作業・関連技術ノウハウを記載)
外れないパーツを叩き「打ち抜き」
蝶契りを外してから、蟻口内側を細目金工平鑢#200-#300で再研磨し、きつくなった嵌合度を緩めにします。蟻口側面の逆目立ちを研削し、契り側は削りません。
この不良品を抱えて、人工乾燥後のシーズニング養生、シャトル圧縮木材加工を知り、研磨・面取り仕上げ工程を取り入れ、次第に高度の品質工程管理に繋がりました。
❸ 燕尾・鳩尾・狐尾_蟻・天秤の違い識別
Schwalbenschiwanzuten 燕尾形(ドイツ・スイス・イタリア圏)
ミラノの燕尾・日本の「蟻・蝶契り」及び「天秤」
Coda di rondine Pierluigi Ghianda 1991 Milano
蝶契り バウ工房大門 厳 1991
「天秤」組手
❹ 伝統堂宮大工技法「蟻掛け」象鼻
❺ 江戸時代中期の日本建築継手「四方蟻」根継ぎ、「契り留め」蝶契り
江戸時代中期の大工雛形に「四方蟻」継ぎがあります。対角斜方で嵌め込み、常識では組めない四辺同形の刻みでパズルのように見せる余技でした。柱根継ぎに入れ、緊結して何度も外せない継手です。
ジョイントを密着させ、外れないように高度な技を覚えると、緩くばらせる枘の嵌めこみは、全く考えつかない次元の違いに感じます。
遊びの造形デザインに仕立てるには、木材の品質木理、刃物加工・仕上げ精度等、いくつかの技術的課題がありました。コモンセンス・固定観念を超えて斬新なものが現れてきます。
❻ 茶室数寄屋_船板契り留め意匠
船板契り・割れ止め 明治34年 目黒邸橡チョ亭 新潟県魚沼郡須原村
契り入れ・楔打ちは、継手や枘口が効かない部位を締め固める技法です。國政流伝承による江戸中期の契り・楔には、使う塲所に応じて形状のことなるものをこしらえる枘に変わる緊結方法でした。(関連コンテンツ参照)
❼ ユニバーサルデザインへの応用ジョイント_パッケージ・建材・遊具
蟻型(打ち抜き)
成形パズル(打ち抜き)欧州ブナ・塗装着色 Uniscef
段ボール梱包材組立て(打ち抜き)
嵌め込み、止め具、係止つなぎ、組立て等、形態的ジョイント、保持力を利用する様々な使い方が拡がります。枘先の切り欠きは、突起を穴に差し込む基本形から発達してきました。原理は、簡単にいえば「くっつきあう」形です。
Woodwork Summit 1991 招聘メンバー来日以来、ようやく初期の現品モデルや関連記録資料が揃うことになりました。 Naef-Bau Art.526は、木工専門職の技術を玩具に取り入れ、おもちゃの世界を幼児から大人まで楽しむものにした画期的なCreatine Playthings 創作デザインの軌跡ですが、Kurt Naef の卓越した才覚が滲み込み、響きます。Play on_「 流行は職人が造り出す」つなぎ合わせる基本はかわりません。
この他に堂宮大工の半燕(柱根継ぎ)、指物師の燕端(台輪嵌め)があります。「燕」さんは、ロシアの丸太組みジョイントにもとまりますがロングテイルになりましたので別稿に記載します。
関連コンテンツ:
・國政流相伝 -2.「契り」と「楔」の種類 伝統の形・江戸指物技法 -続 木工ジョイント- 20 http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/9506
・「蟻」と「天秤」の違い・識別 國政流の相伝-3. 木工ジョイント-22. http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/9764
・「おしゃぶり」と「ちぎり」 國政流相伝-1.伝統の形・江戸指物技法 木工ジョイント-11. http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/3817
・Pierluigi Ghianda「木」のジョイント-02 ミラノの井桁組 KYOTO http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/2483
※ Naef-Bau Art.526 資料提供:MDr.Hori Toshihiko 2024
/作画デジタル処理:Round ・Maruyama Satoko
木の総合学研究2025 「ジョイント積木のデザイン開発アイデアソース」、「Spiel-Naef 初期デザイン・販売品記録 1957 -1962」、「木工ジョイントシステム嵌合・係止・接合・組立技術の考現」、「A study of classic and modern joint-technology on woodworks.