ジョイントシステムに関する研究 ー甚五郎國政の指物ー(2)

デザイン学研究 No.32 : 日本デザイン学会 1980

ジョイントシステムに関する研究 ー甚五郎國政の指物ー(2)
A Study on The Joint-System –Joinery Design of Jingorō Kunimasa–(2)

阿部蔵之 Abe Kurayuki
AQデザイン研究開発事務所

 

1. 研究の目的と方法

ジョイント機構は、空間構成やプロダクトデザインにおいて、単に局所・部分的な構造要素としてのみならず、機能・形態を支え意匠全体を統合し重要な基幹部位を形成している。
第一報では、ジョイントに関する体系的な把握究明を行うため伝統木工技術「指物」に関する調査を行い、秘伝とさてきた國政流変形枘を逆枘の組手系譜を明らかにした。本稿では、そのデザイン手法を解析するため、まず形態上の類形・製作過程について考察を試みたのでその概要を報告する。

2. 考察と結果

〔2-1〕「蟻と天秤」の識別

木工技術に関する文献資料は、江戸中期以降の大工雛形木版本 1)2)や工匠家伝書3)及び、それらを集成した技術書があるが、指物に関する記述は断片的で内容に脈絡がなく職人の口伝や慣用表現に誤謬が多い。特に明治以後、西洋の建築技術導入に伴い、固有の技術や来歴を無視して語彙が書き変えられ後続の出版物4)は先例をそのまま範拠としているため著しい歪曲が見られる。

図ー1.「蟻」と「天秤」の比較分類

例えば、「包み・隠し蟻・鳩尾接」等の呼称はLapped Secret(E)やVerdeckte Doppeltver-deckte(G)を引用したもので、天秤と蟻を同一視するヨーロッパのDovetail、Fox-tail、Schwalben Schwanzにあてはめるのは適当ではない。これらの類例に比べ我国の技術は多様でキメが細かく、用語も独自の意味をもつ。組手には、枘形が表出するものと「内枘」と呼ぶ外に表われないものがある。蟻と天秤は、緊結密着度と剛性を高めるための工作法であるが、図ー1のように明確な仕様上の差異が存在して「蟻」は箱組には用いない。

〔2-2〕枘形の構成 ー「類形と形象」

國政流変形枘・逆枘は、天秤形を基本原形とし、その勾配の強弱・分割…組合せ・転位…反転・複合…連接により相互展開が可能となる。図−2は、組手二方位〔長手・横手〕に現われる枘形を映し基本から極め技へ至る変化の過程を示した。枘形は、任意に刻むのではなく板寸法・木理・材質・嵌合度・枘間に応じて割りつけて行く。この一連の派生バリエーションは、組上りの美しさ・精度及び技術手法と形制の点で卓越しており、更に構造体そのものを造形的に一体化し簡潔な表現の内に様々な工夫が凝らされている。木材のもつ装飾性を十分に生かし、視覚的な効果を包括した組手群は、まさに観せる技に到達し、同時に、製品に附加価値を与えて工手間を上げ手技の究極を志向した工匠の感性や美意識が木の文化につちかわれて、ひとつの工藝様式へと開花したのである。

〔注〕1)廣圖保教:番匠町屋雛形(上・下)宝暦14年(1763)、須原板。
2)石川重甫:匠家雛形増補初心傳(上・中・下)/文政7年(1824)。
3)中村達太郎:日本建築辭彙。明治39年(1906)。丸善。
4)木檜恕一:木材加工及仕上/P129〜P189。大正9年(1920)博文館。

図ー2.國政流 変形枘・逆枘の構成 ー「類形と形象」