木のジョイントシステム展

代々、門外不出・一子相伝とされて来た、江戸指物「國政流」十三代・阿部都匡の仕事を、史上初めて公にした展覧会。

釘を使わずに家具を組み上げる「指物」のジョイントとして用いられる、三十六通りもの変形枘(ほぞ)・逆枘の組み手バリエーションを一同に展示し、実物とともに加工手順をパネルで紹介。

銀座のギャラリーオーナー・渡辺ひろこ氏からリクエストを受け、十四代を継承した阿部蔵之が父とともに展示を企画した。芸術新潮、インテリア誌「室内」などに展覧会の様子が紹介され、雑誌編集者、業界新聞社、アメリカ大使館・文化部担当者らも取材に訪れた。

 

展覧会ポスター

 

案内状より

現在、日本は高度工業化社会となり、産業経済はハイテクノロジーによって大きく変容し、その一方では、伝統的な文化や技術・職能が消滅する時代となりました。

プロダクトデザインや空間構成を行う場合、ジョイント機構は、その形態や機能を具現するために欠かせない基本要素であり、さまざな接合技術が開発されています。部品や素材相互間の結合・組立から構造体の性能や質的水準・物理的な属性及び生産方式等を特徴づける基本因子技術ノウハウとなることが多く、意匠全体を統合していると同時に、新しい技術開発やデザインの創造には、ジョイント機構が重要な要素技術(Critical Technology)となる場合が多いことも事実です。

数年前より、「ジョイントシステムに関する研究」と題して、國政流組手系譜について研究発表して参りましたが、<木>と人間のかかわり展・1985〔日本デザイン学会・木の文化コミッティー主催・会期:5月30日~6月2日〕の展示構成を担当したことも契機となって、ギャラリーズペース21・渡辺ひろこ氏の御協力で、13代國政流変形枘・逆枘の公開展示を行うことになりました。継承されてきた技術や意匠上の特長をみますと、累代の工匠が心技・研鑽をつくして築き上げた技には、合理的で優れた造形性をも具有しており、江戸後期(文化・文政時代)から末期に虚墨や立体幾何学的な抽象化技法・システマチィックなデザイン手法をもつ高度な木工技術体系が発達し、モダンデザインの発生をそこにみることができます。従来の文献資料にはない逆枘(Reversal Joint)は難解なからくり・パスルにも似ており、美しい枘型は伝統のかたちを華やかに表現しているものです。

この新緑の好時節に、木の文化の馨りをひろげ、より多くの人々にご覧いただけますよう、ここにご案内申し上げます。

1985年5月吉日
阿部都匡・阿部藏之+AQデザイン開発研究所

 

会場の様子