笹継ぎジョイント・実測調査

見学者が途絶える厳寒日に実測作業をした。 脚立のうえで震えながら、和紙・トレーシングペーパーをあてて幹拓、 採寸した。

庭側に雨戸用の一筋鴨居がついており、背割り・芯だぼの 部分は、見えないため想像した納まりである。切り込みは、笹の葉をず らした形で木目が自然な仕上がりになるように墨付けし、天から鎌楔を 入れ、引き合うように片込栓打ち。他に、類例を見ない。 構造や、意匠・造作・家具類の文化財調査は、何度か行われていたが、見えない組み立て継ぎ手ディティールの大工仕事の記録はなかった。 20m近い一本丸太は、高山別院の縁側軒桁例があるので入手不可能ではない素材であるが、一本にみせるための工夫で真ん中に継ぎ手をいれている。部屋から庭の広々とした開放的な空間を演出するため中間に柱を立てず、 上屋根に撥ね木をいれて、軒桁を吊りあげている構造。

数年前に、継ぎ手を発見し撮影していたので、管理事務所に許可を申請、 実測記録を保存資料として提出。 他に、類例を見ない。

調査記録

1980年1月31日 金沢市 [成巽閣 つくしの縁 軒桁 笹継ぎ] (管理事務所 佐藤氏許可を得て実測、記録図面を作成し納める。大名礼状あり。) 庭園を室内と一体・開放的に取り込むために、約20mの縁側に中間の柱を 入れない演出を工夫した類例のない構造。(蝶の間から庭園を広く眺める演出) 長い軒桁一本(直径 5寸:約150mm)でささえる構造を撥ね木[桔木]で、屋根小屋組の途中から梃子のように組み、この軒桁を吊り上げる架構。 長い一本の木のようにみせる意表を突く、類例のない練達の匠の技である。 軒桁は、一本の磨き丸太のようにみせるため中央部で笹の葉形に刻み、上部から 鎌楔(片側込栓打ち)を打ち込み、接合する「笹継ぎ」を入れている。 軒桁の外側に、雨戸用一筋鴨居が付いており、開けたてれば見事な庭の景観と一体化 する仕掛け。

「笹継ぎ」は、数寄屋大工から教示をうけた縁側の縁板・板継ぎに笹の葉形の仕事 があり、このギザギザを笹の葉に見立てたもの。 宮大工は、燕の尾に見立て、「燕」という職人もいたが、規則的なパターンではない ので、「笹継ぎ」がふさわしいと思う。 刻み型紙は、継ぐ丸太元末の木目バランスをみて墨付けし、型紙を半分に切り離し、 貼り付けてそれぞれの木口を刻む。 なお、実測は見える部分のみで、径5寸丸太の外側に付け鴨居があるため、 背割り・芯太枘(しんだぼ)が入っていると想像しているが、解体修理時に確認したい。 この他の笹継ぎの類例はまだ見聞しない。 同じように縁側を長く開放的に造る構法は、飛騨高山、高山別院にも見ることが出来る。この別院縁側軒桁は、継手を入れず、杉丸太 一本ものを使用。撥ね木 [桔木] 構造ではなく、中間に柱を2本立てている。

成巽閣(せいそんかく)

国指定重要文化財(昭和13年7月指定) 文久3年(1863)造営 加賀藩主13代 前田斉泰が、母・真龍院の隠居所として建立 名勝庭園 兼六園に隣接