MT マテリアルトリートメント「木歴・木録」木の内科木工

カエデ・ハナの木の虫黴び防御・セルフキュアー Insight 木の内科-18、続ブロック材マテリアルトリートメント-03

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

 芯持ちブロック材は成長プロセスの木歴レコーダーであり、本来の性質や成長の経時変化を見ることができる。多数の同時伐採材は、数量を診ることで固有の性質を察知_損傷やストレスによる影響、生体に刻まれる防衛反応、治癒オペの痕跡を残し、動かないように見える静かな樹体内生命活動を鮮明に語ります。

カエデ原木は岐阜県白鳥町近域産出、枕木製材ラインで良材を同時選別_赤・白の芯持ちブロック材20本を屋外自然乾燥17年。

割れ止め・柿渋塗布、木口及び二材面三回塗布して、芯央内部観察のため両木口、短尺カット450mm 4面電動プレーナーかけ、平衡含水率計測 。急がず無理のないマテリアルトリートメントを試行_長期自然乾燥で適度の虫入り、干割れの少ない良好な結果となりました。こうして少しづつ木の時間に身をおき、樹木内界を巡ります。

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芯央部から抗菌出動する赤身色素の突起状浸潤・バリアー

成長層細胞に深く侵入した斑点状Pith Flecks (虫喰い髄班)と樹皮辺材部から入る木喰い虫侵入エリアを芯材部から出る抗菌物質で囲み閉じ込めている損傷変異部。芯材色素が突き出る形で菌類虫の侵入損傷部へ到達する抵抗オペ、セルフ治癒現象です。

虫喰痕周縁に消化排出物濡れを囲む浸透変色の痕跡。芯央部からの色素(内部蓄積薬理成分)移動は、打撲損傷や昆虫・菌類の侵入をガードする細胞レベルのケアー反応とみえます。

積雪による曲がり、強風や打撲の物理的ストレスによる変色とは異なり、菌類・潜孔虫によるダメージで生じるピスフレック。芯央部からの色素移動突出、到達先に細胞異変があると対抗的バリアーで囲み抑止、自己治癒の動きを見ることが出来ます。樹芯央部赤身は,明らかにダメージを感知し、セルフキュアーオペレーションをしています。この虫喰い・ピスフレックが一つ入っても、素材の品質価値が大幅に低下する欠点材となつてしまう。

自然乾燥17年の楓ブロック材

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① 芯央赤身あり 190W x 131H x 460L  13.5 – 16.4% 8.8kg

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② 芯央無し 185W x 130H(80)x 454L  14.0 – 16.8%  8kg

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③ 芯央無し 180W x 130H(80)x 448L  15.3 −17.2%  8.5kg

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④ 芯央赤身あり 185W x 135H x 457L  14.5 – 16.1% 8.5kg

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⑤ 芯央無し 185W x 120H x 467L  13.6 – 16.1%  8.5kg

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⑥ 芯央赤身あり 180W x 120H x 467L  13.6 – 16.1%  8.5kg

*含水率%計測:MERLIN 25HD

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白 辺材木喰い虫入り多い ピスフレックはやや少ない

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赤 ピスフレック多く、白に比べ木喰い虫入りは少ない
17年の自然乾燥でも乾燥干割れ収縮が少なく、芯割りなしでもクラック・反り捩れ変形が少ない。ウッドカーバー削り部分は、木喰い虫入部トリミング処置。

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内部組織・材質の特徴

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芯材部赤身がはっきり出る樹体と、ほとんど差違の無い白の違いがあり、春秋成長材差が少なく、均質な肥大成長する木部芯央から辺材へ樹皮方向に放射状微細針条組織が屈曲し、2年~14年ほどの長さで年輪層を貫通する。肥大成長と同時に短く不連続、飛び絣的パターンを反復。

イレギュラーに生まれる針細条帯は水平組織を構成し横筋立体的に形成されます。(ブナ科は、微少班が散在し、内皮から芯央へ入る長い求心細胞・ブナ目は幅があり、年輪層貫通域は連続し長い逆向き放射髄線)この微細針線細胞が屈み曲がり伸びひろがり、均質で靱性に富み、緻密安定した組成となります。

割劣、反り収縮変形が少ない。材質は重厚緻密で強靱 木肌は、艶やか光沢あり手触り滑らかで、材色は人肌に近い。音響性能、刃物当たり、接着・塗装性が優れ、多用途で有用樹種トップクラスの素材です。根から吸い上げた鉱物が筋状に入る金筋は、このブロックでは見当たりません。伐採後5年ほどは、芯央部も活動が続きます。

 

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ハナの木 ハナイタヤ

株元口の二股分岐部樹芯組織( 80yrs.)
奥会津柳津町野老沢 20100212 穴沢林業伐採、会津坂下町 堀木材にて製材20100611AQ
原木丸太製材、厚板MTマテリアルトリートメント、桟木積み、自然乾燥、マテリアルトリートメントは後述します。

自然乾燥シーズニング、ベストマテリアルトリートメントで変形・黴び虫害・劣化を抑制

自然乾燥は、風通しのよい塲所で数年ゆっくり寝かせます。現在ではKD人工乾燥技術が進み、2インチまでの厚さはクリアー。楓・Maple生材は、桟木が当たる部分に黒黴変色が染み込むので、スパイラルや突起プロフィールで接触面が少なく、風通しの良い特殊なものを使用。

桟木積み前に、虫・黴び抑えの柿渋を4全面塗布後割れ止め。厚板の人工乾燥スケジュールKDでは、穏やかな含水率低下が難しく内部応力が残りますので、欠点を出さず、無理のない材質とするか、自然素材の持ち味を活かすトリートメントが必要です。

テストは、全面柿渋塗布後(一部木口のみ生漆)浸透濡れをみて内部異常変質を観察、割止め防止剤を塗布して黴び発生変色、虫害、干割れ劣化を抑制します。

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枕木サイズブロック材の自然乾燥 990129 -20150901AQ

 

ハナノキ楓BS桟木積み自然乾燥 柿渋、割れ止め塗布MT  20101010 – 20130923AQ

 

一時的でも桟木痕は内部に染み残る黒黴変色

 

生育環境・履歴や素性のすべてを語る内科的ベストサンプル材のクオリティ

樹種の特徴や固有の性質を備えた典型的なものがベストですが、同じ樹体はなく、複数の部位を構造的にイメージして一木をカットします。
表皮から芯部までサイズ、ボリュームがあり、節・あて・随班変色、かな筋、入り皮等、色々な特徴・欠点も抱えて、素性のよい木理、綺麗な材色部分もあるものが一番。伐期、生育産出地、伐採事由と関係者が見えること。株、元木末まで、小片ではなく芯材辺材樹皮丸ごと全形で、カットトリミングできるもの。赤白など同時供材があれば幸運。樹齢、産地の違いも大きく、一本ですべての資質を備えているのは無理ですが、上品な樹相より、個性・多様性にも富むサンプルのほうが有り難い。

素性のよい立派な優良材も必要ですが、銘木商人が先にねらいますから高価で手が出ない。必要部分だけ切り分けてはもらえず、一木丸ごと買いになります。質感を味わい、切削などの物性テスト、持上げ運ぶことができる一抱えほどのブロック材サイズが望ましい。

樹皮は製材ごみではなく、樹体の大事な表面保護、微生物の居留、抗菌微少成分の生成、外気センサー機能のほか、形成層芯央部への伝達補完もする重要な部位ですから捨てられない。サンプルの選別も多様な観点で集めるとストックが膨れます。個性の強いもの、美しい木理もシグマ1.5の範囲にいれます。

長期ストックでは、柿渋塗布面でも周縁辺部に木喰い虫が入りました。カエデは糖分を多く含むため、虫類が寄りつき、長期自然乾燥の歩留まりは半分程度です。

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緻密な材質は靱性があり、薄い切片の指曲げで粘りを確認できる。

カエデは、美しい木理で手肌に馴染むテクスチャー、高い耐久強度を持ち、応力靱性に富む均一な有用材料。切削・接着・塗装性に優れ、工芸素材として様々な用途に使われてきました。接着集成ではなくマッシブな使い方ができ、シデと同様、圧縮加工が可能。調理道具・育児玩具など無害の自然有機素材として魅力的です。行き先は、アートクラフトマン柏木工房の挽物造形作品に。

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「カエデ 雞冠木」 史料

「新撰類聚往来」中巻「具木名」

室町時代1648年 筆記本「108樹種を記載

 

■ 雞冠木 かへで

和漢三才圖會  巻八十二 香木類   ( 江戸後期 正徳二年1712 編纂版本)

蝦蟇手木カエテノキ 蛙の手形や雞の鶏冠形状・紅葉色 俗称モミジ

モミジは、地方樹種が多い。

ⓒ 2016 , Kurayuki, ABE

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木の総合研究2016 – 2019  「堅木ブロック材の自然乾燥シーズニング」「ハードウッドマテリアルトリートメント」「イタヤカエデ・ハナノキカエデの内科」「木歴・木録」「Maple – Insght」

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