MT マテリアルトリートメント | 「木歴・木録」 | 巨樹見学紀行 | 木の内科
シナの木・赤 樹齢390・310年 江戸初期より時空を超えて存立してきた巨樹の抗体防衛材質 未見の生命維持の形・美質 別格稀少広葉樹原木の一期一切 Insight 木の内科-37
樹皮内皮から入るアンカー髄線微細房壁と年輪形成一体の列状階層肥大成長、軽軟均等・緻密な年輪の重層ガード、虫黴菌の侵入汚染阻止、外力遮断、負荷の分散吸収、抗体色素集積と抗菌バリアーなど、不倒長寿生命力をもつ樹体内組織とその立木存立の潜性深奥を窺う。
シナの木は、東北地方の山里では樹皮繊維を織り編み物や篦木器に使われ、30 – 50年生で伐採されてきました。稀少な巨樹に出会えるだけでなく、同時期伐採二本揃いは、300 – 400年の遙かな時間を超えてきた生命力やその組織内部を詳しく知ることができるきわめて貴重な期会です。
数百年の大木は、奥山の沢筋に稀に見つかりますが重機は入れず、巨木の伐採搬出は困難を極め、良質原木産出に巡り合うことは希有。2005年師走に取得、厚板挽き材。自然乾燥12年を経て稀少な樹体内の変化を把握、エコマテリアルとしての有用性を様々な視点から考究していきます。
同時伐採原木 素性は異なる二体・ベストレアーサンプル材
A:元木・通直 枝下二芯 樹皮厚く、無傷の安定した健全組織
B:二番玉 曲がり力枝大節 芯クラック・目回り 辺材部のピスフレックへ抗体バリア出動 巨木特有のテッポウ虫入り穴抜けあり
* 樹皮剥がし・挽材作業協力:柏木工房 柏木 圭 20060207
A シナの木・赤 390yrs. 元口径 960 x 900 mm x 2.100 L 岩手県産出原木 2005年11月
B シナの木・赤 310yrs. 元口径 800 x 760 mm x 2.100 L
自然乾燥12年のトリム材面
A-5 A-1 元木・ 元口
木口・木端柿渋塗布、汚れはつかず材色はフレッシュ 樹皮内皮からのアンカー髄線継ぎ足し髄線と年輪肥大層が整列 順当な生命活動を示す。 芯央部・辺材白太の境界面に抗体色素(緑褐色)集積が際立つ
A-1 チップソー切断木口 軟質組織のため繊維管孔はつぶれています。
木口内部微細組織は、カミソリ刃で切削すると本来の材色・レアーな材面が現れます。付着していた内皮からでるアンカー水平髄線をとらえる。樹皮をつけたままではバンドソーを痛めるため製材機に入れません。樹皮付きの挽き材サンプルは難しい。
シナ・赤の内皮アンカー細胞・継ぎ足し肥大成長と生命維持の先端部 ミクロの階層構造
内皮から形成層へ微細アンカー(髄線水平微細組織 0.01 mmほど)が前年部に継ぎたして均質に伸張肥大、多層連続列状ユニット細胞が並ぶ立体織のウェービング状に成長。水平アンカー髄線と年輪秋冬年輪界面に囲まれたスペースに導管繊維束が充填され、微細バンクの「房」が連続する一体組織となります。斷面は連格子状になり安定した構造。
衝撃や菌類の侵入を隔壁でガード、緩衝し抑制できる房構造。均質な縦水平微細壁が並び重なり合う立体織物の構造を造りだしています。辺材白太と芯央の境界に抗体色素を集積し、外部からの侵入に耐抗する活性防衛色素抗体(緑褐色帯)が鮮明です。
ミクロのアンカーが伸び継ぎ足し肥大するこの細胞成長は、ブナ科の侵入する向芯逆放射細胞とは異なり、同じ厚みで繰り返し積み重ねていく緻密なシステムです。
軽軟・均質木地のプレーンなテクスチャーは、この多層列状房組織が造り出す揺振耐抗力、応力負荷の吸収、黴菌昆虫の侵入・害傷ガードを同時に備えています。立ち木樹体内部の特異な細胞成長は耐性を高め、倒れにくい割裂しにくいダメージを回避する固有の性質を生み出しています。巨樹の生命維持の本質は、抗体の生成配備・肥大成長の仕組みそのもの。生木状態では鮮明な表情は出ないので、十年ほどの生干しがコントラストもよい。
B-3 シナ赤310 yrs.
元木元口の材面 表面をプレーナーかけ 汚染変色なく綺麗な材面を保持
ピスフレックを囲む抗体色素バリア
B-5 辺材部・芯央の境界面抗体色素集積
自然乾燥による「シナの木」の特徴、材観、物性、性格、好感イメージ
・軽く軟質で緻密なしっかりした材質
・刃物アタリ、切削加工性に優れている
・年輪木目は際立たず無地均質プレーン 目立たず、主張しない、おとなしい木地
・入り節、ピスフレック、脂壺、シミ色変など欠点材は少ない。
・クリーンで清潔無害、脂分は微少で無臭・無香
・手触り・視触感が優しくソフトで快適 熱伝導は低い
・音熱電磁遮断、分離隔壁、伝播遮蔽(内部保護)を果たす
・ミクロの多積層材面は、濡れ浸透しにくい 塗装・接着は制約あり
・開花時期には樹皮下に樹液が上がり剥がせるので内皮繊維を編物や織物・バスケッタリーに使われる天然素材
・スイートな質感 樹液はわずかに甘く花芽に行き届くので蜜源となります。
・若木壮齢木と高樹齢大木では質感や材質・物性は異なる。
30 – 50 年生では、年輪成長幅が広く年輪木目はハッキリ。伐採直後にはセルフキュアーで芯部から橙抗体色素が放射されるショック反応がみえました。
自然林縁での自然乾燥虫喰い黴び耐性テスト天乾 12年間 シナ赤 310yrs.を挟む桟木積み
天然植生・生態系が維持されている亜高山帯林縁での天乾桟木積み虫黴び寄りつき状態を観察
原野土場桟木積み 木口柿渋塗布/割れ止め剤塗布 木端材面:柿渋塗布
下から アカシア33mm / シナ赤310yrs. 60mm / 鬼胡桃60 mm / エノキ 60mm /シナ赤33mm – 60mm / アサダ 30mm -4 5mm – 60mm
黴菌・ピン虫・木喰い虫・小蜂による喰荒らし
・アカシアは辺材白太のみ寄りつき、激しい喰い荒らし
・アサダ(白)・オニグルミは柿渋塗布面に芯央まで深く木喰い虫侵入
・エノキ(50Yrs.)は激しい黴侵入、木喰い虫が深部まで入り全損全滅です。
・シナ赤Bは、挽き材天乾で黴菌・蜂巣穴開け、木喰い虫は全く入らない 。木口カット面の質感劣化はなく安定した綺麗な材面です。入りこめず、不味く嫌いな近寄りたくない性質。
エノキとシナ赤の黴入り虫喰われ違い
・原木テッポウ穴抜けはそのまま
シナ厚板の隙間に天然記念生物山鼠の越冬ハウス がありました。
周辺材面にふん尿が残されていましたが、汚れは表面だけで内部に影響せず、綺麗で健全。黴び遮断、抗菌性を確認できました。柿渋塗布面は、3-4年間は有効です。
シナ赤310yrs. 天乾材の平衡含水率測定 12% – 16% – 18%
用途:器物箱体・家具、建築内装、音響材、彫刻・修複保存マテリアル
切り削り易く、無地で型崩れしにくいのでモデリング・彫刻・額装に最適な造形素材とし重用されています。大径木は、伐採されて枯渇しなくなりました。
微細多孔質の表面性状は、加飾・色剤や金箔・石膏付着性もよい。虫黴菌は嫌避し無害非汚染の衛生的クリーンエコ素材。( Basswood と近似していますが耐性抗体に違いあり。)自然抗菌クリーンマテリアルとして有用性は高い。人工強制乾燥のようにダメージや無理が無く、長期の林縁自然乾燥では本来の性質が損なわれません。生物相が豊かな環境下で最良の状態です。自然乾燥で12%まで下がれば、高熱炉で生焼きして材成分に歪みや組織ダメージを残し、粘り・抗体を失う人工乾燥は不要です。
既往の研究資料も定かな知見もなく、シナの木の生命力と樹体を使い活かす人間の都合は、時としてちぐはぐ。切り刻む過程で刮目する部位の木録サンプルを残し、未見初出のライフステージに潜入板して木の本性に近づきます。製材所には昆虫マニアは見かけますが、研究者の姿はありません。
ⓒ2017 , Kurayuki Abe
All Rights Reserved. No Business Uses.
複製・変形・模造・転載作り変え・画像転用・ロボット、Ai無用、業務利用を禁じます。
木の総合学研究 2018-2019 「シナ赤巨木の抗体組織・防衛・生命維持」「広葉樹の黴菌・虫喰い抗体耐性材質比較 自然林縁の自然乾燥12年」
▼ お気軽に一言コメントをどうぞ
次の記事:木の大学講座・特別講座 2018 「木」と保存・修複 世界最先進の「絵画の保存額装」+「木の内科 保護・抗菌抗体材質について」 →
← 辛夷コブシのダイナミックで鮮明な樹体内抗菌・治癒力_芯央逆肥大成長・節からの分泌端末放出・集積とレジスト_黴菌類・虫が寄りつかないミクロの生命維持バイタルサイン Insight 木の内科-36