「木」と住まいジョイントシステム修複・保存工芸木工

ブラックウォールナット・ソリッド材の練りつけパックリ 糊切れキリバリ木工 鑢目おろしサライ鑿ではらう残渣修複 ジョイントシステム-29  ハンドツールコネクション-22

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

エポキシ樹脂、尿素樹脂系接着剤、水溶性ボンド・酢酸ビニールエマルジョンタイプの接着剤では、油分を含有する広葉樹材接着が経時劣化で剥離することがあります。長期の自然劣化で、とくに濃い材色、重い輸入ソリッド材の突きつけ接合部は動きます。構造体は接合部ジョイントから傷み、壊れます。

エポキシ樹脂、尿素系接着剤、水溶性ボンド・酢酸ビニールエマルジョンタイプ接着剤では、油分を含有すると経時劣化で剥離することがあります。長期の樹脂成分の劣化により高い確率で接合部のクラック・糊切れがおきています。木部繊維組織にからむ合着結合ではなく、接着剤性能でくっつきあっている固着状態ですから、やがて離れる。

ブラックウォールナット材の接合部 家具・内装工事の糊切れ・突き板塗装退色

 

実際に、アメリカウォールナットソリッド材で内装・家具を仕上げ、30年近く使うと糊切れ・色あせがおきるようになりました。目立つのは、階段踏み板の矧ぎ、箱体とヒンジ、キャビネット引き戸、テーブル脚部は、オイルフィニッシュの接合面の隔離です。空調、薪ストーブ暖房で冬期の乾燥が強い環境では、ブラックウオールナット材の内装、家具のオイル塗装仕上げは要注意。オイルフィニッシュは定期的なケアー・再塗装を伴います。
超硬高速回転刃物での切削、芋・突きつけや部分雇い核入れ接着では収縮膨張変形、スキがでやすい。枘・組手で接合面積を多くし、核は全面にいれ、接合面の平滑精度(枘引き肌の繊維起こし糊がらみ)を加減して細胞間の合着がおきるような接合をすれば強固なジョイント加工となります。

実際には、木材の乾燥シーズニング、嵌合度、刃物アサリ挽き肌、接着剤の性能、接合構造が関係する複雑な接合リワークです。国内で米国産ブラックウォールナット材が注目され始めたのは、1978 ジョージ・ナカシマ家具個展(新宿小田急ハルク)以後だったと記憶しています。

ズレ・クラック破断を抑え、長期耐用強度を経験的に知る工房技法を頼りに

ブラックウォールナット材を使いはじめたのは高度成長期ですが、突き板はヒートプレートプレスから熱風連続へ変わり、厚みがへり色落ちが早くなり練りつけ化粧板も品質も落ちました。商業材は人工強制乾燥で白太付きのランバー色付けを狙い、光熱炉内気相で材色素移動を発生させます。色調は薄まり、嘗ての深みのあるバイオッレト、優美なブラウンチョコレート色はなくなりました。輸入材は植林木になり、既に天然良材がほとんど手に入らない時代ですから、接着性能比較は、あまり参考にはなりませんが、油気の多い樹種は、接着層自体が経年変化で劣化しますので剥離するリスク、下地処理、修理・再接着の可否も考慮したい。

アメリカでポピュラーな架橋型ポリビニールアセテート合成樹脂接着剤はまだ10年ほどの経験です。楽器制作者は膠を使いますが、修理や経年劣化に配慮して化学合成接着剤をさけています。建築・インテリア、消耗耐久財の家具と修複保存アート作品では、自ずと耐用性能が違います。接着剤メーカー試験データは目安にはなりますが、初期接着力だけでなく、長期劣化を経験して使うとクラック破断を防ぎます。伝統指物、箱屋では続飯を使いますが、現代の上米では接着力が十分ではない。「米」も昔の米ならず。美味しい米は工芸糊材料向きではありません。

1980年代からブラックウォールナット材が日本国内で使われるようになって30年余り、濃色木目は日本でもポピュラーになり、材質の特徴、接着性能、塗装性、劣化耐用性、化粧材仕上げ方法、修理・手入れ方法が一般的に知られるようになりました。油気が多いので「オイルフィニッシュ木地仕上げ」は濡れ性がよく深みがでますが、「オイル拭きとり」を塗装と誤解しているようです。オイルフィニッシュは木地調整からサンディング、オイル塗布を何度も重ねる含浸塗装法なのです。

①収納箱体ヒンジ部:ローズウッド接着  接着剤は油分でゲル状硬化しています。接着力が劣化した剥離面の木破率はゼロに近い。

②集成ソリッド削り成形テーブル脚:水溶性酢ビエマルジョン接着剤、オイル仕上げ 15年   手押し鉋盤 Jointer 矧ぎ

糊切れまでは進行せず、微細な矧ぎ割れクラックが現れるようになりました。

無垢材でも突き板でもバイオレット系が好まれるますが、退色は早い。

③ソリッド材練物 ドアー・大戸:オイル仕上げ

フェノール樹脂接着にしたソリッド材の大戸は、オイル仕上げでも安定して動きません。痩せ、目違い隙間が出ても面取りで目立たない納まり。

雇い核は同質材にしないと接合強度は低下。合板では裏割れクロスバンドから剥離し、接着剤は欠膠を起こします。

④ブラックウォールナット材の階段無垢踏み板・雇い核矧ぎの乾燥割れ

矧ぎ切れは、材の変動方向を壁際の逃げをいれ、材の収縮膨張の動きを吸収できます。
階段踏み板や座板は集成したり剥ぐものではない。

⑤ ブラックウォールナットソリッド材と突き板色ギャップ

オイル仕上げでは、熱風乾燥突き板の色素退色が早い

突き板はオイルの含浸定着度が違い、練り部分は次第に材面の色差が目立つようになります。厚突き0.6mm Tでも、昔のヒートプレス方式に比べ、熱風連続乾燥になってから色あせは早くなりました。 長期自然乾燥では、美しい杢理・色調は損なわれませんが、高熱炉人工乾燥では、白太辺材部をカットすれば芯央色素が重合反応し材色は安定します。

引出し前板、パネル枠ソリッド材とのコントラストが目立つようになります。クリアー塗装木目コーテイングしないと色変りします。

貼りもの・合成材のキリバリ木工全盛です。良質材が枯渇して外材に変わると物性だけで無く、材質成分、雰囲気や耐久性にも影響がでます。簡単に切削して短時間に仕上げたものは、劣化して壊れるのもはやく、歴史に残る作品には届かないようです。ソリッド材の仕様は、動き・経年変化をみると国産ネイティブ材質とだいぶ違う印象です。因みに、国産材広葉樹オニグルミは、ソリッド材で家具・内装を施工することはすくなく、赤身油気は低いので問題が起きにくいと考えています。産出地、個体差は有りますから、芯央部の濃いものは色素樹脂分は多いとみて加工時に下地処理を変えます。

 

「鑢おろし」ベタ裏サライ鑿の転用

 

鑢転用ベタ鑿 13 代國政自作

鉄工鑢目おろしは切れ味抜群、グラインダー研ぎ減らしは気になりません。鋭利で鍛造鑿を凌ぐ切れです。鑢はナイフや鑿に改造すると最高の刃物になります。

新品でも価格は割安、鑢目が損耗している鑢ならば、目サライして整形。刃こぼれが起きてもあまり気にしないでどんどん研ぎ直して使えます。

鑢の「込み」を鑿柄にそのまま入れます。握り柄の先端は、肩で止まるので指掛かりにも具合がよく、研磨は鑿研ぎと同じ。切れすぎにご注意。 

手打ち鑢名工岡崎喜久治(高岡市)の塩水焼き入れは最上の品質でしたので、岡崎作品の鉄工用鑢をグラインダーでおろして極めて重宝な木工用ベタ鑿に造り変え使用。平鑢のストック少々あり。http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/3315

 

ⓒ2018 , Kurayuki Abe

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木の総合学研究 2018 「油気堅木の糊切れ接着不良」「キリバリ木工の接着工法リスクと対策」「鉄工鑢の転造サライ鑿研ぎ・ハンドツールコネクション」

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