「木歴・木録」「木識・木学」日本の自然色木と人間の関わり木の内科木の総合学

柏木の牡丹年輪 Insight 木の内科−5 

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

柏は、葉も材質も華やかさがありハレの樹、「お菓子」に縁があります。木の国・木の文化に愛され、活かされる日本の代表樹のひとつです。

長年出会いを待っていました柏(赤)の原木丸太。昨年春、ストーブ薪の丸太に混入してコナラ・水楢・シナが混じり、同一域DNAサンプルが揃いました。
47ー57年輪の目詰まり材_産出地は長野県北部, 幹の曲がりあり。年輪径断面の楕円から斜面の林地と判断。木口を観ると樹芯から初期成長が肥大しているので自然林木ではなく庭木か屋敷林?また、元木も根元すれすれで平伐りしているので更地にするための伐り方です。年輪幅も順当で日当たり・生育環境がよいことが判ります。
混じりの楢原木は、青い番号テープ付きなので国有林産出材と見えます。20130409 搬入
柏の自然樹が姿を消し、木材市場にはほとんど出てきません。木工素材としての利用は、明治30年までは文献に記載がありますが、現在では希小です。
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柏 元口 樹芯

 樹芯は、牡丹の花状模様がでて、水楢より年輪郭のコンストラクションが強く華やかさを感じます。楢材に似た組織ですが、芯材部分は乾燥するにつれ、ほんのり肌色赤みかかり、素性が良く都会的雰囲気です。樹皮の傷みもなく、樹芯から初期成長幅が大きいので自然林の個体ではないようです。
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元口                 末口

ブナ科 楢類・柏の性格とこれから先

「コナラ・水楢・柏の識別」は、樹皮の形状・色・厚みで判りますが玉切りした木口は、コナラは青みががり重く、割肌は、ごつくコワイ筋張った感じで酸っぱい匂い。水楢は白くソフトでやや重さは軽く滑らかおとなしい木肌でライトスイートサワー臭。柏は水楢より重く、樹皮コルク層が厚く剥がれやすい、
赤みがあり、割ると甘いお菓子の薫り。柏葉も和菓子包みものに使われ、抗菌作用があり、清潔感・衛生的で陽性イメージ。葉形は、家紋になると現代でもシンプルモダンな意匠になります。親しみ易さ、シンボリックな存在感があり視覚的に目立つユニークな形。
それぞれ特長がありますが、製材後は似ているので識別しにくい。薪丸太一年間寝かしてカットしたら牡丹が鮮明になりました。辺材部白太はカビで変色、黄色がかりました。カビの入り方変色も樹種でちがい「木の内科」は長時間看護耐性が必要です。
 木材学は、実際の現場と専門学科の違いが沢山あります。葉の抗菌作用は知られていますが、匂い・薫りの成分分析はいずれやることに。柏の薫材は試す価値がありそうです。材木業者は、楢薪丸太に比重の軽い樹種が混じると値段に響くので「雑木」も土場で分別するようになりました。
選別して揃えると手間単価はアップ。自然林の賑わいが排除され、材料的な面白さがが落ちてしまい燃やすだけの燃料に。ザックリひと「ハエ」丸太の山ごとが内科的薪つくりを楽しめます。50年だと自然更新には少し遅い伐採期です。
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元木根元20140604                末口

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柏材(20130409 -20140612)  樹皮・木肌・カット面  白太カビ入り変色あり、芯材部赤身一部分

学ぶ木・識木

 薪は手斧割りです。一本づつ材質を読み、サンプル材や工芸材料に使えるものを別けて写真撮りしてきました。MT(Material Treatment)記録して鈍行途中下車の連続。気がつかなかった木の素性・変化を確かめつつ、10トン/2 シーズンに渡る作業は、夏までに終わります。
玉切りは、梅雨明け製材挽き予定。 木肌がなまめかしく、お菓子のイメージがあると見ています。冬に枯れ葉がおちず、縁起樹として庭木にする信州人好みの木です。「柏」について木と人のかかわりを総合的かつ専門に研究する人を所望。「Dr.柏木」どこかにいてもおかしくないし、新たに「樹相学」や「木と生活民族文化論」もこれから始まります。
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柏 幹と葉 (松本市内の庭樹 20130523AQ)
里山の柏 明科東川手 20180709

柏の葉と医療、食材はこれからの未来産業ソース

柏の葉成分には、伝習に食べ物を腐敗からガードする抗菌作用があるとされてきました。柏餅は柏葉巻きで手でもてる包装を兼ね、深緑色が美味しそうにみえる彩どりです。手のような連続曲線の葉形がお菓子向き。
この柏葉に「悪玉コレストールを抑え動脈硬化を防止する作用がある」という帯広畜産大学の研究発表があります。(日本農芸学会・2004 広島大会発表)「柏茶」健康機能性商品なんてそのうち出てくる気配です。パン酵母も見つかる可能性あり。
日露戦争当時、軍用皮革タンニンなめし剤用に帯広地域の柏樹林がほとんど伐採されて、今はわずかな民有林に残るばかりです。新発見があれば自然循環再生マテリアルとして復活林も拡がり得るでしょう。

「おやき」菓子の原形

「小麦乎や米粉を練った餅を柏の葉にのせ、もう一枚をかぶせて囲炉裏の灰に入れ焼くおやつがあった。おやきの原型ですが、灰を払い葉のまま食べる。柏の葉は、駆虫薬になった。」 岩手の郷土食がありました。

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柏餅葉加工品

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三つ柏紋重箱・昭和初期(Photo. by Kai Kashiwagi 柏木工房)

柏のクオリアとネーミング

柏をコーポレートアイデンティティに使っている事例では、帯広の菓子メーカー「六花亭」があります。玄関の壁面に柏の大きな板堀の葉のレリーフを装飾し、中礼内美術村に柏樹自然林を配置。中信から東北地域では、楢柏雑木林・自然樹は減り、薪炭林でも少なくなりました。枯れ葉が春まで落ちないので縁起の良い寿樹。和菓子用の柏葉はたくさん商業栽培されていますが、「柏」木のイメージがよいので地名、商業施設・団体組織名に多く使われています。OAKは、この柏に似ている葉形ですが、オークを「樫」と翻訳するのは誤り。日本産樹種は固有種が多いから厳密な名称ではなくポピュラーなネーミングにされてしまいますが、そろそろ日本名のカシワ・KASHIWAで表記していきたい。

六花亭帯広本社 玄関側壁に柏の木の柏葉レリーフ(制作者:板東 優 )
牡丹模様について:「樫」は、太木になると木口芯部に「牡丹」と呼ばれるタンニン重層筋模様が入り、良材ほど顕著で材質を読む手掛かりとします。白樫と赤樫の材質差は、白樫のほうが硬く牡丹の色素も濃く鮮明。(画像は、青樫の牡丹)
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柏餅資料:
*「かしわもちとちまきを包む植物に関する植生学研究」人と自然 Human and Nature , No. 17-11 Jan. 2007 兵庫県立人と自然の博物館   (巻き葉樹種と地方など調査詳述、ネット検索可)

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