「木」とファッションデザイン

樹木イメージを取り込むファッション広告デザイン1999 – 2011 樹木イメージ応用研究・続

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

樹木を広告デザインの添景につかうと、不動無言の脇役はしっかり主役をひきたてて、自然や環境イメージがうつり込み、親しみのある雰囲気をつくる。心地よい上質でリッチな商品性を印象づけます。

「樹下美品」「樹場富遊」「樹上快樂」
人物や物品を樹幹や枝に置くと、樹木の方に気がとられ、単独より豊で良い印象を与えます。撮影物を木目や樹景に置くと違和感がなく惹かれるのは、樹木と共生・進化してきた人間の本性にマッチしているからです。雰囲気全体に「柄」となるイメージングバイアスがかり、印象が強まるようです。

森や樹木を見ると無害・安全、快適で生きる糧になるものとして脳にインプットされ、心地よくなるから本能的に近づき、居場所としたい。

講演会や式典で使う盆栽効果と同じように、木を添えたり背景に使うと立派にエレガントに見栄える、プロのテクニックの一つです。木には、自然が創りだす美しさがあり、本物・高級感が漂うのでしょう。樹形は誰でも分かり、好まれ、身近にあると心理的にも落ち着き、安定します。人と密接して不可分、不即不離が望ましいのです。
 BALLY 1999

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中央にオリーブの樹 コートのモデル右にブランド BALLY
コピー・説明文なし S: wallpaper  Nov. 1999
コンクリートに囲まれた都会に潤いを与えるオリーブの樹をシンボリックにあしらう。
樹木を背景・添景にした広告デザインは、そのシーンにインパクトを加え、主役のキャラクターに影響を与えます。
最近では、エコブームが下火になり、ファッション・アパレル分野では、樹形イメージをつかう場面があまり多く見かけませんが、個性的なイメージ効果をもたらすオーソドックスな手法としてデザインの現場でつかわれています。
樹木や自然は誰にも受けいられるので、特別なリードコピー無しでも意識下で理解し、説得され易いのです。説明文字が無いと自由に解釈できますから。「エルメス1998 , 木の年 HERMÈS1998.ANNEÉ DE L’ARBRE」 のシリーズ広告の影響が広がり、樹景が増えました。
CHANEL  2000
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大樹に寄りかかり、左下足先に小さくinformation TEL. 右下エンドにブランド CHANEL タイトルなし。大径木は、自然で気高く、貴重な存在としてイメージされます。
S: MAPLE  2000年5月号  集英社
VERSUS  2002
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樹の幹に寄りかかる若者女男 見開き右エンドにブランド VERSUS VERSACE
左端に小さくアドレス・Web.  S: wallpaper  No.48 May 2002
樹幹に寄りかかるとリラックス・寛ぎのスタイルになり、購買欲求を起こすためには、格好いいポーズを如何に魅せるか。プロカメラマンのセンスも要求されます。「休」字のポーズ。
CLOSED  2002
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巨木に登る5人の若者  NATURE’S DUTY
センターラインにブランド表示 CLOSED、リードコピー「WE WERE CALLED TO NATURE’S DUTY I SPRING/SUMMER COLLECTION 2002 」
靴で枝に立つのはハラハラもの。樹上に寝袋とロープが少し巻き付いています。実写ならば地上に安全ネットがあるはずですが、モデルは緊張恐怖の表情。実際、巨木が有ると鳥も人間も「集」まるのです。
左下にBELLINI GmbH社名TEL.FAX. Web. S: wallpaper May 2002
PRINGLE OF SCOTLAND  2008
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樹下に腰掛けた靴下を履いたモデル ブランドを足先にレイアウト。左上端にWeb. TEL. 緩やかな姿勢、深い解放感を木陰で演出。
 PRINGLE OF SCOTLAND    S: wallpaper  March 2008
J.PRESS       ONWARD 2013
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「ある日、突然、ダッフルコート」
雪の降る森で、唐松の幹にダッフルコートが暖かい J.PRESS
アパレルメーカーの新聞 全15段カラー広告 2013年日経広告賞 最優秀賞受賞作品, 株式会社オンワード樫山  2013年11月24日
大人のコートTRAD/新スタイル提案は、時代を超え新価値を創出し、勤労感謝の日(土曜日)の翌日の日曜に店舗を訪れた消費者が多かったという記事がありました。左上にコピー、左下にブランドマークを押印のように配置。左右ベースラインに小さく品名・問い合わせ先・社名ロゴを記載。(樹に着せるアイデアはNEWですが、唐松の樹皮には細かい棘があるので抱きついたり触らないで。熊さんも山ブドウ穫り意外には登りません。)
枯れ木とファッションイメージを利用した広告
ROLEX 2007
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一見して女性ファッション?と見違えましたが、MOLOKAI, HAWAII 断崖の危険な枝先に登って寛ぐ美人モデル。コーポレートカラーから著名なSWISS時計メーカーとわかります。アイキャッチコピーは、FEARLESS LUXURY 。
  恐れを知らない性格を枝下・注視始点の品物に結び付けるアイデア。女性の腕にはROLEX。ハイヒール履きでは危険というメッセージなのでしょうか。理屈ではないハラハラ感覚的な構図です。10:12 針の位置にあうような葉無し巨樹の枝ぶりは、目を引く不思議な木。枯木ならば、更に意味深ですが、見る人に印象づける突飛な樹形です。
S: wallpaper   October 2007
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
樹下美人「元祖 森マダム」20111011AQ
大樹は安らぎの好印象を与え、人の存在を際立たせます。森の中は、画面のイメージ全体にエコバイアスがかかり、クリーンな雰囲気とともに自然樹と人工材の視触感の対比が快く映るのです。因みに、民族生活文化圏により好まれる樹種や樹形の違いが有ります。かけがえのないヒューマンコモンセンスの一つです。
*この掲載は、「木と人の関わり」を総合的な視点で「樹木イメージとデザインアートワーク」の本質を考究するための基礎研究レポートです。広告デザインの秀でた実例として解説しています。
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木の総合学研究 2015 – 2019   「樹木イメージを利用した広告デザイン」−2

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