「木」と遊び「木と玩具」ジョイントシステム木工

「蟻」と「天秤」の違い・識別  國政流の相伝-3. 木工ジョイント-22.  

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

「天秤」は組手系譜の基本原形で「蟻は組まない」仕掛ける

 学校で教える知識や技法本から覚える内容と親方筋習得の相伝には、言葉の違いが相当あり、教職が寄せ集めて蒸留編纂した学術的外来造語では、違和感・異物のざらつきが残る。ネィテイブ独自の語感やニュアンスに付帯する技法のイメージは、つながり、響き合い、言葉の属性は遺伝子のように働く。

「蟻」と「天秤」の基本的な違い

「天秤」「内枘」は、正調の伝統技能をつなぎ、「蟻組」「包み・隠し」は、学卒教本のルーツ出自を自ずと語る。

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図-1.「蟻」と「天秤」の比較・識別

天秤 Tenbin

 

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組手基本形で双方の板材面に板厚、枘型木口が現れる  枘先上部は狭く勾配はゆるい
・天秤を形象
・枘勾配がゆるい
・木口面に枘形が現れる
・構造兼化粧
・天秤を差す、組む
・連続構成  天秤は双つでバランスをとり複数
(組手には、外に出ない「内枘」に例外があり)

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組手雛形 1975                 ミュージアムケース 1997 制作

 蟻 Ari  shape of ant’s mouth

切り溝側が主体基材 嵌まる枘先から斜めに切り欠く形で相方を吸付き締める 枘より短く原則として表に出ない納まり「蟻は組まない」

・蟻の口器からの形象、噛むと離れない意。
・枘勾配がきつい
・主に框・継手・反り止め・構造下地
・表に見せない
・蟻を切る 仕掛ける
・単独構成 一口づつ
「蟻」は大工・建築と家具・指物で勾配・寸法が異なる。

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楢材テーブル脚「蟻掛け」AQ 20090117 制作

「蟻」には、「吸い付き」「送り」「落とし」「回し」「引き」「掛」「継ぎ」があり、先拡がりのテーパーで掛止め密着させる木工ジョイントの基本構造。「蟻」は、組手ではない。

身近で、親しみのある自然な言葉が体に染み込む。短く音感が心地よく、一度聞いたら忘れない鮮明なイメージが伝わる。

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英語では Dovetail 鳩尾または、Foxtail 狐尾、ドイツ語は Schwalbenschwanz 燕尾。蟻と天秤の区別はなく、「鳩・燕・狐」は欧米好み。鳩も燕も尾形が長いのです。 蟻口のほうが咥える形でピントくるのは日本好み。ネーミングにも民族性が表れます。

明治時代から西洋を手本教科としたため、学校教育、専門図書では蟻と天秤の違いも混同され識別できないまま。使い別けられる工人は極めて少なくなりました。

 使う言葉でその人の来歴や腕前、仕事内容が判る。

「蟻組み」「組接」「隠し蟻」「包み」「目違い」というデザイン系、訓練校卒は直ぐに判ります。組んだり、包んだり、隠したりはしないのです。

昭和 70年代、建築設計・構造学科の教授たちが「継手・仕口」を規格体系化し、用語を統一する動きがあり、全国調査したことがありました。身体記憶した用語には、技能だけで無く、仕事にまつわる出来事も付随していますから、違和感があれば通じません。

大学教員や建築学会の通達で動かせるものではなく、公務員・門外者は、職人用語を勝手にいじくってはいけない。当たり前です。

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飛騨の大工棟梁は「蟻は仕掛ける」継手・蟻の刻み_本来の仕事を伝える。

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木造建築ジョイントの基本で、「仕掛る」は「蟻」を意味し、構造材の塲所により仕様が決まる。「腰掛け蟻、蟻継ぎ」とはいわない。世紀末、野麦峠を越えて大八賀村の工匠に出会い、伝承技能の教示を受けました。「鎌」「ふれメチ」も見える。1999年11月5日 大野郡大八賀村塩屋にて(現高山市)この時の大工職は、現在の飛騨高山・伝統建築名匠 嶋田 繁(嶋田建築事務所)嶋田さんの刻み塲でした。後に全建総連の棟梁役です。

さて、西欧の木造建築構造ジョイントでは、係止固定・相欠きのDovetail Jointが使われますが、「蟻」に相当する技法はなく、木材の特性である繊維方向で引張り、木口・木端のテーパーで締め付ける強度の高い、日本独自の合理的な軸組緊結ジョイントです。

正調の手仕事を伝える専門用語はいじらない

現代木工の世界では、「楔・契り・蟻・天秤」の仕事も少なく、言葉が失われはじめて正確な意味も判らなくなりました。明治の産業育成・官制教科では、当時の英国やドイツの工作技術を手本として輸入翻訳、舶来知識を引用し続けたために、本来のネイティブ専門職の技能・知見は反映されないまま_師匠親方筋の相伝は途切れ、徒弟学校から職業訓練・技術専門校の教科では間違い、ちぐはぐがしっかり定着しています。

職人技術を吸囓し、見倣い引導する学校教員が尊重されて、親方自前の弟子育成制度は、労働基準法であわや消滅_教育から訓練へ、文部省管轄から労働行政へ移行してしまいました。親方筋や技能の相伝が判らなくなりました。

そろり、小職の引き継いでいる伝承と身体記憶から、正調の技能と専門知識を次世代クレジットフェイスに伝えます。

蟻型の応用事例 ①
Bauklötze mit Schwalbenschwanznuten  燕尾溝のついた積み木   Naef  Swiss Design 1962

日本の継ぎ手の四方蟻を対角斜方ではなく、ストレートカットのブロック形にして嵌め込みつなぐ積み木遊びに応用したデザイン。スイス工作連盟 “Gute Form”選定、 Milano Triennale にて注目され大きな評価を受けた作品。木の素材感をノーブルな造形を通じて知ることができるという評価でした。 s: md moeble design / W.Germany , May 1962  Good toys by Kurt Naef

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家具職人からスタートしたkurt Naefは、おもちゃの開発アイデアを木工技法に見出し、デザイナーとのコラボレーションを行い、数多くのユニークな作品を創作しました。「家具・インテリア業務から方向を変えた当初は、自分が習得した木工家具の職人制作技術を活かそうとして、サイズの小さいものより、大きめで仕上げや材質にこだわった作品となっていた。」(ウッドワークサミット1991 ゲストメンバーのレクチャー記録か ら)

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この再現モデルのブロックピースはメープル、材色の濃い契り型コネクタはブラックウォールナットです。当時のオリジナル写真を見ると角がかけたり収縮変形し、契り形も不揃いで着色しており、嵌合精度が少しゆるかったそうです。カタログや名称と品番は無く、継続されなかった初期作品。後に、Naef社のデザインは、紡績シャトルメーカーの圧縮木材加工を採用して、モルダーで精度を高めることにつながりました。圧縮木材による他社製品との品質差は歴然です。

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メープル柾材を使い、加工精度が高く、契りも別材です。全ピースをセットすると密着し、組子のような精緻なパターンとなりました。角がシャープですので幼児向きではなく、四方蟻ブロックと契りコネクタの連続パターンが新しい表情を創り出し雰囲気が変わりました。「燕の尾」というより「蟻さんの口」のほうが的確。当時のパッケージは魅力的な紙箱と記載されていますが、このリメイクモデルは、シナ合板 筆入れ型・アクリ引き蓋・黒色塗装。(写真からの再現複製・リメイクでオリジナルの寸法ではない。)制作協力:bau工房大門 嚴 1991 – 2002

オーソドックスな木組みのジョイント玩具は、デザインや用途が変わるとイメージも違う知的な造形にトランスファーします。 このままでもパズルやオブジェ、インテリア装飾に使えるのでは。

蟻型の応用事例 ②  送り蟻 締具ジョイントのデザイン開発

木香コレクションのためのケース締具把手 1986

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http://kurayuki.abeshoten.jp/design/mokko-collection

 

現代の工業製品に使われる蟻型

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精密大型カメラのベースプレート sinar  p21984, e4x5 1988   Swiss

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段ボールケース留め具パッケージデザイン

* 図-1.「蟻」と「天秤」の比較・識別 デザイン学研究No.32  p.146-147  日本デザイン学会 1980 ジョイントシステムに関する研究発表 -2

版下:タイプレス印字・イラスト紙焼き・写植文字から版下作成、製版フィルムの時代に作成した論文のオフセット印刷用版下原版の接写、 1980年代の印刷方式です。

*組手:手指を交差し合わせるように枘先が相手側板面に嵌合する木工ジョイント。長さ方向の「継手」と交差直交する「組手」が大工・家具木工の基本技術である。全て組み合わせ部分を「組手」といった。江戸期の大工流派文書では「仕様」。「仕口」という呼び方は「枘差し口」から言い替えられ、明治以降の本で使われている。

「木組み」は、大工の「継手・仕口」に箱根細工の「組木」や宮大工の斗栱・斗組(組物)などを合わせて木のジョイント工法を総括的に表現した昭和40年頃の造語。「継手と仕口」は、現在、大工の世界で使われ組手は出番がほとんどないのです。組手は江戸時代からの記録文書がなく、技法の全体が解明されていない。國政流では「継手・組手」が主体で「蟻・楔・契り」は副次的な役割り。

*相伝されてきた言葉は、すべての教科本・学術研究レポート・専門書と違いますが、それぞれの出自や引用、伝承系統、履歴がわかるのでそのままに。100年あまりゴミが餅に混じり、綺麗にするのが大変。間違いでも下痢はしませんが、部外者が専門職の言葉をいじると本質が歪みます。

*「送り蟻」は次に掲載します。

ⓒ 2016 , Kurayuki, ABE

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木の総合学研究 2016 – 2019  「木の連結ジョイント」「蟻型と天秤組手ジョイント機構」

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