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デザイン・アート化の偏り、遊びの造形軸からシフトしていく先にあるもの-2. 上質のスキルを魅せる実作・個展の場 クラフトフェアの本来・未来
技能習熟は、学歴が邪魔しない瑞々しい若い内に。芸事は生まれる前から、ミラノ座のオペラ歌声は三代遡る。中国色絵磁器・赤絵は三代にわたり綺麗な赤を出すために絵具を磨るという。
大学院を出てからコウトウ技能訓練校に入る現象は、なんかおかしい。狭き門となり、学業苦手派は試験で落とされ易くうれしくない。「木の高等専門大学コース」を設け、体で覚える手仕事の習得は、お早めに。
「自分の個展会場として」参画するクラフツステージ
「クラフトフェアまつもと」の準備折衝では、発表する場がない若い工芸家のために、交流と出会いのステージとして開催企画推奨しました。1984秋から1985 の春。あくまで物売りでは無く、作品のオープンエアー展示目的で市側にプレゼン説得したのです。公園会場では、物販飲食演奏は原則禁止。出展参加者全員で運営し、自分の展示会という構えでした。
「個展の集まる場」制作者が相互に行き交う交流が目的。収益は結果としてあとから付いてくるというスタンスは、その後運営資金の工面でずいぶん苦労しましたが、いまでもそのDNAは生きています。
自分の個展会場ですからゴミをすてる人もなく。儲け目的の売り場ではないから、来訪者共々きちんとしておられる。ギャラリーやミュージアムで乱行はしません。当然、ゲストの品格資質も半端ない。他のクラフトフェアとの本質的な違いは、発表の塲所として始まり、スタート時点から32年の持続力にもあります。元旧制高跡、信州大学キャンパスの旧地という恵まれた教育文化施設も大きな基盤です。
最近は出展参加販売だけで、ブースを離れられない、他の展示を見る時間がない。「創りたいものより売れるモノ」物販へシフトしてきており、「屋外直売所」なんて悪口をいう先生までいるらしい。一度おめにかかりたい。
「なんだこれ、どこかで」
更には、知名度を上げたいのか生活難から、売れ筋の目を引く、スタイリッシュでセンスの良い、手軽な小さいものを多く並べる。初心者未熟ゆえの初々しい新鮮さが取り柄ですが、仕事がぞんざい。冴えたベテランの手業が輝きを失うのは、若い感性を取り込められない接触不足から。その逆、似たようなものが目立つのです。一目で制作者がわかるものを志向しないとやがては離脱。
スプーン・皿・プレートが売りやすいと、皆オナ稚で箸匙の類い荒物を広げ「生活工芸」という始末。本格的でクリエイティブな才能はなえて、フィーリング先行、スキルは後回し下手うま。見たことの無い、はっとする才能を感じさせる輝くセンス、見かけは洗練されていないすごい創作に出会いたい。どうも都会的感覚が蔓延りがち。生活工芸の造語は、奥会津三島町の伝習工芸運動から始まりました。
「作家とサッカク」
審査選出されている作品以外の手軽な小物類が沢山並ぶので、それが流行り傾向と作家志向はサッカクする。他の出展者と似ているものを平気で並べ売るのは、お粗松。本来、審査作品以外は出さないのが、創作作法です。「自作個展の場」という意識が薄くなったてきているようです。
見てくれ、格好いいもの、安直な細工、チョイ真似で泳ぐ。これで一生の仕事とするのは無理というもの。未来から見放されます。事実、途中転廃、離脱も少なくなく、マテリアルも同じで造形センスも磨き不足、アイデアも近い上に、技量もそこそこでは軟弱,日和見。「ガイチュウ作家」まで跋扈するは、いとあわれなり。魅力溢れる刺激的な作品を生み出すシチュエーションは、基礎をマスターした厳しい練磨の先なのです。
もし文芸作品で似ていたらアウト。そのためには、先行類似を全て把握するキャパシテイが必要です。クラフト資料や記録は膨大ですが、開示紹介やアドバイスの専門メディア職能、批評・評価人脈はまだ未開。クラフツ森の拡がりは、まだまだ未踏。茫漠として有望なリソースが眠ります。
それはさて置き、
小学時代に見物した豆腐屋・和菓子屋・疊屋・大工・建具・ガラス屋・左官屋・電気工事・配管業等、専門職の手際よい仕事ぶりは本当に面白く、興味深いものでした。町中がテクニカルショーで基礎学習の塲です。子供は結構よく見ていますから、人柄、腕前の善し悪し、クオリティまでわかるのです。
あれから半世紀、すでに路上や庭先から職人の仕事姿が消え、建築現場は遮蔽鉄板で囲まれてガードマン付き、見えなくなりました。
建具職の玄関ドアー吊り込み 「大矩」でドアー枠の歪みを映す 建具用馬(日野市旭町2丁目 1998)
店舗造作 内装屋の馬使い(松本市中央2丁目 2012)
町の手仕事は隠れ見えなくなり、覗き、寄り道は邪魔にされ、ぼんやり道草もできません。立ち止まり、じっと見ていると怪しまれます。車社会が路上仕事を跳ねとばし、危ないものを排除する「安全第一」管理が染み渡ると、居心地が良くありません。
モノが溢れ豊かな時代に、皮肉にも本格的で独創の輝きが乏しいクラフト作品が目立ち、じっくり十分時間をかけ練達した作品展示が少ない。最近のアート・デザインへの偏りを揺り戻すには、伝来の居職・出職手仕事が表通りに出てきて、長い時間を経て到達した技能スゴ腕や実作をプレゼンして迫力・存在感を示してほしい。親方筋をもつ人も毎年ふえて来ています。
クラフトピクニック 実演・体験のオープンワークショップの賑わい
小さな見学者ご一同 将来有望株
効率利益を追い求める高度工業化社会では、次世代の子供たちが、日常でゆっくり社会体験や物作りをする事が難しい。子供が労働力だった時代には、小学生が新聞や牛乳配達、集金、勧誘までこなし、生情報をインプットしていますから、引越してきた家には、商店会社町案内もできました。
暮れ正月になると、米屋・鮨屋から手伝いオファーがくるほど。地域の地図は頭にはっており、毎日配達と月締め現金領収ができ、大人の宅配・郵便スタッフ並です。家業手伝いはどこも当然でした。いつの間にか身につく基礎生活能力でしたが、今時は、スマホ、熟通い・習い事で超多忙。未成年は、まともに就労できない仕組みになりました。なんだか、世の中急がせる。子供時代も気楽ではありません。
なんか、中を覗きたいもんです。
「俺たちもあそこに出よう、楽しもうじゃないか」
そこで、子供達に早くから手仕事をみる機会を増やし、遊びの中でも見学・体験できるオープンステージがあればベスト。工藝、アートクラフトの世界でも伝統職人の技能は、まだまだ健在ですので、クラフトフェアに姿を現すように願っていましたところ、クラフトピクニックに箒職・左官・大工職が、昨年には桶樽職が参加し、専門技能を実作で見せる場面が続きました。全て自前ですから有り難いことです。
「俺たちもあそこに出よう、楽しもうじゃないか」その精神・気合いを尊重したい。この日、県の森に来訪された多くの親子連れの素晴らしい様子に感激しました。小さな好奇心がいっぱい。
母「言うことを聞かないから捨てて行こう」子「やだぁー」「良い子にする」仕置き樽
先方の見習い すぐコツを飲み込み筋がよい小学六年 体で覚える、このくらいが弟子入り時
31年目の素晴らしい会場シーンです。
元から末への半割、柄を使う、鉄・木楔を交互に噛ませ竹材を交差させる、箍編み手足股を使う,箍締め
*司製樽 原田啓司
飯切り・桶 2013年 グッドデザイン賞選定
+ プロデューサー 株式会社 G’s principle ゆかい社中そらぐみ 池上芽衣
そうそう、最近、丁寧な作りの良心的パン職人工房を Craft Bakeryと呼び、工芸に入ってきました。クラフツの範囲も広がります。果子職は手作り工芸的ですから、パン作りも自然な流れ。手芸は、ホビーの世界ですが、クラフト、工芸品というと専門職のイメージも引きずります。ドイツでは、野菜作りもKraftでした。クラフトマンは、素材選びから作品まで自己表現ですから、まやかしがあれば直ぐ表にでてしまう。職人の制作や手造り作家も産地出所がはっきりしていましたから、擬装インチキしにくく、品質信頼性が高い。今マーケティングで最先のSR Social Reliability and Responsibility がいっぱいの大事にしていきたいカテゴリーですね。原田さん、池上さん、阿南から遠路ご苦労様。スタッフもお見事。
クラフトフェアまつもとは、質、ボリューム、伝統、著名度(注目度)、運営、ロケーション いずれも高い評価を得てきた実績をベースに、これからを展望すると、次の課題や新しい可能性がみえてきました。
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木の総合学 2016 – 2019 「クラフトトレンドのベクトルを変える」 「クラフツフェアと子供」「実作を魅せる手仕事」「桶樽職」「技能見習い、習得・相伝」