デザインの目工芸木工

クラフツ志料- 01.手仕事屋きち兵衛・彫り入道 1997 工芸松本メモリー

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

「木の工芸と音楽の創作」彫刻もミュージックも同じ彫り刻むハーモニッククラフトの才能から

「手仕事屋きち兵衛」木彫工芸店の在りし日。鑿看板の意匠が解りやすくストリートランドマークでしたが公的な記憶がありません。工芸文化都市の音楽・工芸の歴史を刻む小さなメモリーです。

木彫工芸家の一際目立つ木の鑿看板。隣はネズコ下駄専門店。木の手仕事、クラフト店が並んでいた街の記憶。

松本市浅間温泉3丁目の一角に、木彫家 伊東重喜の木彫工房「手仕事屋きち兵衛 彫り入道」がありました。1979 – 1997 18年間自営。現在はなく、貴重な写真となりました。1986 年、nhk新ラジオ歌謡でヒットし、「日本の心を歌うフォークソング歌手(作詞・作曲)安曇野の吟遊詩人」、ラジオ人生相談役などで活躍され、コンサートや講演が増える一方、温泉街の人々はあまり関心を持たず、地元は、木彫工芸家を持ち上げませんでした。

作品は温泉地での販売小品で人物像、レリーフ・アクセサリーなど。ユニークな鑿の看板「彫り入道」温泉街裏通りは廃れ閑散となり、1997年ショップを閉じる。穂高町有明に引っ越されて、音楽活動の傍ら、ラジオ人生相談のホスト役を長年担当されていました。人情味溢れるコメントにお人柄が出て好評だったと記憶しています。

クラフトフェアまつもとに出ていただける機会はなく、最近、活動を再開されています。前後しますが、1986年、長谷川きよし松本ライブコンサートの前座で出演した時、長谷川さんは「いままで前座で多くの歌い手がいますが、この人は、別格です」と紹介したそうです(当時修行中だった工房悠杉山裕次郎談)。「木の工芸と音楽の創作」彫刻もミュージックも、同じ彫り刻むハーモニッククラフトの才能、創作活動と見えました。そう言えば、木工家にはギター抱える音楽志向が多い。

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信濃毎日新聞記事 1997 平成9年12月1日 「木彫創作に専念を」工芸店を閉じ決意
「将来、木彫家を目指す若者の道しるべとなるような感動を与える作品を残したい。自分の夢を追いかける原点にもどろう」と閉店。「富みをもとめて経済活動をするから、環境が汚染されたり、戦争も起こる。もうからなくても、こんな仕事をしたいと若者が思うような生き方をしてみたい。理想を追いながら行き倒れるのが夢」と。
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s:Human Document 「木を彫って、歌を彫って」PHP  No.642  2001 -11

事故は手をつないでやって来る

木の工芸が息づく街景は静かで落ち着いた地味なものですが、ホットするものがあります。生物素材特有のクオリティです。大量機械生産され、ひたすら消費するライフスタイルでは,常にアクセルを踏み続け、トタン板上のネコジタバタが続きます。石油製品は本質的に不安定な人工マテリアルですから、木材の安定感に比べ「ゴミ」になるスピードが早い。数日前、溶鉱炉と直結合理化したエンジン工場ラインが、愛知製鋼爆発事故で連鎖ストップ。車もライフタイムが短く、ゴミ化スピードはさらに早まりました。

もう少しメタル材料を寝かせて、金属組織を安定させるリードタイムの余裕も必要なのでは。直ぐにゴミになるデザインですから効率がよいかも。自然の仕組みに無理なことを強いる滅亡型産業があふれています。「きち」木地さん再登板ですよ。

木の安定質感、自然素材のバリューは、廃棄・循環までをトータルに高い評価をすべきエコマテリアルです。ブランド品のトップメーカーは、ゴールドも貴重材も十分寝かせ暴れさせ、品質が落ち着いてから使います。品格・輝きが違うのだそうです。木材は人工乾燥処理ではなく、自然乾燥しつつ十分寝かせ、熟成するのがベスト。物性は、ダイレクトに人間のメンタリティ・感性に作用するので、工業材料に囲まれていると、人は不安定になります。外観をニセテも、素材のクオリティそのものの違いが分からないのでは追いつけません。

「子供も素材もゆっくり寝かせる」

金属のシーズニング天乾・水分管理聞いたことありますか。

錫・鉛・アルミ・亜鉛・ビスマス・銅等のインゴットは、ストックしている間に含水現象を起こし、十分天乾しないと溶解釜で水素爆発をおこします。金属合金現場のプロの常識。木材と同じようにマテリアルトリートメント、保管状態が重要で屋外天日乾燥もあるのが意外と知られていません。
メタルでも粗雑な扱い、急いではいけないのです。それ故、金属を多量に買い占め埋蔵しても使えないことが起きます。金属も溶鉱炉からでたばかりの状態は、不安定、暴れている。実際、メーカーには錫鉛族メタル干し・ドライストック品管建屋があります。

錫鉛などのメタルにも同じような水気・水分挙動があり、「木は生きているから動く」は、「金属も生きている」と言えるのでしょうか? 水分移動による膨張収縮するだけでは、生きているというのはおかしい。湿気が多い日本では、素材もみずみずしいのがよいのです。

*手仕事屋 きち兵衛  伊東重喜 1949年生まれ )松本市 木彫工芸家・フォークソングシンガー作詞作曲、エッセイスト。

 

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木の総合学研究 2016 – 2019   「木彫工芸家のワークショップ」「工芸の息づく街角・木の看板サイン」「自然素材の寝かせ熟成タイム」「クラフト志料・資料・史料」

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