山藤の厳冬期雪氷雨レア-サンプル 花美しく左巻き・異形奇怪な取り憑き 藤蔓Insight 木の内科-16
美しい花をつけ、捩れくねる藤蔓を厳冬積雪期氷雨倒木で初めてのカットサンプルに。巻き付いていた蔓を切るほどに、目をパチクリ。渓谷自然災害の片付けから、奇怪な得がたいフレッシュ研究マテリアルとなる。
山藤蔓は左巻き。登り絡む親木に取り憑き、外側に回旋成長。縦方向の繊維束を積層し、内皮を貫通して外皮から次の新しい木質部が成長していく。同時に、水平方向にも髭状の強靱な紡錘細胞が輪層肥大を繰り返す。美しい花のイメージとは裏腹に、フレキシブルで強靱な縦横繊維で構造を維持するバイタリティー溢れるヨタもの。取り憑くと日照を奪い、とりついた親木を縛り締めこみダメージ与え続け、親木が衰弱し倒れるまで離れない。木とは違う藤蔓の成長パターンは異形で、共生互助ではない。親木は迷惑厄介、苦痛と感じているのだろうか。排除・攻撃の様子は見えませんので、簪・付け睫毛、ファッションのようなものか。寛容な訳を一度聞いてみたい。
A
春夏・秋冬材部ができる円筒肥大成長年輪ではなく、芯央部から輪層に連続して成長。一年で4 -5 層ほどのイレギュラーな肥大を繰り返しているように観える。枝などの突起障害部や空間被圧されると伸び方向を変え、うねり変形を続ける。連続的にスパイラルに捩れ登り絡みつく。通直以外のコア層外側は、親木幹枝に巻きつき、太さや肥大方向・膨形は一定しないランダムフリーな動き。原始的ネイティブセルの生姿です。
A 42 x 130mm 約30年 元幹木質部輪層 Ⅰ層27/Ⅱ層18/Ⅲ層17/Ⅳ層14/Ⅴ層13/Ⅵ層10/Ⅶ層7
B 95 x 118mm 枝下輪層 Ⅰ層25/Ⅱ層11/Ⅲ層12/Ⅳ層10/Ⅴ層11/Ⅵ層9/Ⅶ層6
C 48 x 68mm 枝上輪層 Ⅰ層18/Ⅱ層10/Ⅲ層5/Ⅳ層4/Ⅴ層13
D 53 x 52mm 樹冠輪層 Ⅰ層15/Ⅱ層8/Ⅲ層4/Ⅳ層3
E 22 mm 子蔓 Ⅰ層17 形成層・内皮から外樹皮に紡錘繊維細胞がフレアー状に広がる。
倒木伐採直後のレアマテリアル。難しい「谷藤伐り」で藤内科を診る立春の希有な自然災害から貴重なサンプルと知見をいただく。
氷雨で親木と共倒れ。予期せぬ自然災害も有り難い、木の内科的収穫になりました。渓流沿い河畔林にある山藤が絡みついた侵入アカシア(40yrs.)も積雪後に氷雨がダブルでのしかっかり、バリバリ折れて倒木が広範囲に発生。災害出動現場にキコリーズ片付け隊は出動し、数本のナチュラル木本サンプルを入手しました。この厳冬積雪期の珍しい谷筋大量倒木はまだ経験なく、山荒れなどこれからが気に掛かります。予期せぬ貴重な樹木サンプルの山に歓びつつキコル。乾いてクラックが来ないうちにカットレアサンプルを準備。
谷藤の美しい花は毎年眺めていても、蔓の切断内部を撮影する事は無理でした。この冬期自然災害は、絶好の蔓性木本の採取チャンスになりました。部位により斷面組織が著しく変貌しています。
立春カット後の内部組織の挙動と細胞組織の特徴
木質部は淡黄色で導管が太く空隙が大きい。春夏- 秋冬成長差で形成される年輪ではなく、成長肥大は連続的。内皮から外皮にむけて繊毛状細胞が放射され、周縁部から伸びられる方向に輪重して木部が再生増殖。目を奪う、生命力溢れる木本組織です。
・親樹にとりつき左スパイラルに登るフレキシブルな蔓輪層構造
・チップソー刃では、内皮から外皮へ伸進する柔毛繊維を切断しきれず、引きちぎり毛羽立つ。
・生の木口状態は、木部の黄色が鮮明で輪層。空隙が多い環孔材。
・縦登り方向の導管繊維束は太く長く強靱。小径の幹カット材は息を吹くと空気が抜ける。
・材密度粗く気乾比重は軽い。
・幹芯部が一定の大きさになると、形成層に密着している内皮端部から外へ向かう髭状繊維細胞が抜けて伸びる。
・栄養分送配と樹皮部の補強を兼ねた横に広がるフレアー繊維細胞で構成される。
・樹皮層から次の周縁新組織が木部を連続成長はじめる。5-6年成長すると重ね膨らむ靱帯層を造る。
・木質部は芯部は淡い黄色で周縁部より濃色。黄色は、苦木に似ているが味は僅かに甘い。山藤の薬理化学作用は微弱か。
・室内常温で水分が急に抜ける。木質部は乾燥に伴い淡黄色があせて収縮し、放射方向にクラック。
・木口面には切断後に内皮ボーダへ色素移動が観られ、乾燥褪色。(カット後12日経過で色差が明らかになる。)
・舐めるとほのかに甘く、食べると無味に近い。
実際、藤の木を厳冬期新月伐採する事は非常に難しく,花が美しい大木となると伐ることがはばかれます。観賞用に大事にされていますから。世話になっている宿主の締め付けは、やくざな所業にみえます。寄り付くニセアカシアもマメ科で、くっつき相性が良かったようです。
樹齢20年_カラマツ絡み締め殺し
工芸分野では、草木染めに使われますが木材利用や薬理効果があまりない。絵付け柄、日本画・イラスト造形モチーフに多用、装飾的。花卉市場には生け花材で出ることもありますが、木材市場では見かけません。自力で立たず、美しい花をつけるのは、災害を受けにくく、虫・ばい菌をガードし邪魔にされず、大事に扱われて生き残る戦略。日本固有種_マメ科
中山間部海抜1000m地帶の入山辺谷を凍らせた氷雨による落葉松倒木道路遮断、電断の被害にとどまらず、谷の広葉樹林も大きなダメージを受けました。一週間後、ヘリが撮影に飛来し、山中倒木数万本と報道。40-50年生の植林落葉松・間伐放置林の先端・幹折れはひどく、大部分は皆滅的な姿となりました。この地方独特の気象「雨氷」Icy Rainは、地表近くがマイナス10度ほどに下がる気象条件時に、上空から雨が降ると瞬間的に凍り、枝葉に取り憑く。谷中が氷結しガラスの森に変わり、朝日を浴びて気温が上がると危険な氷柱のバラバリ氷雨が降ります。気象ニュースでは「雨氷」ですが、次に太陽が登り溶け始めると氷が落ち、Ice Rianに。樹についた着雪氷は重機で持ち上げると約3倍の重さになり、人力では動かせません。
ABE 20160130 – 0204
バッサリ伐らねば中身や性質は分からず、未知のTree – Insight「生木の内科」
専門書・図鑑では、藤花・実、枝葉樹形のみの解説「外見科」で、樹体内がどうなっているのかは切らねばわからず、生えて居る時点と伐採後のカット実物生写真は無いのです。つまり見た人がいないから描けない。樹木医も植木職も切れば商売上がったり。伐り倒す時は枯れ腐り時。健康で典型的な生材を入手するには、自然木で水を上げない嚴冬期、新月時がベストです。自然林内の大きな藤の木を伐り出すには枝落し、隣掛かり木などの危険な作業となり大変、真冬積雪期に凍り付いた蔓をとる木樵はいません。雪どけから春開花、夏場の伐採では水栄養分が多く、黴び腐りが早いので現場で捨てられます。本来、木の内科的観察ベストサンプル収集は真冬です。そう言う訳で、親木に絡みついたまま伐り、直後にサンプルをとることはかなり難しい課題。生木は切り分けたら生き物の最後、Tree からWoodに変わる時に生命現象はダイナミックで不思議な反応変化を起こす。木の内科は、まだ未知の領域。里の藤は右巻きです。
氷雨倒木による道路遮断電断の被害は、逆に研究材料プラスに寄与しました。主な画像はカット直後の接写。気候激変も引き寄せ、自然災害片づけ隊から研究成果の片鱗です。
*雨氷倒木片付け:道路及び河川管理事務所、工事建設会社現場での承諾・連絡済作業です。
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木の総合学研究 2016 – 2019 – 2022 「藤の木内科」「樹学・樹相」「伐採木材学」「厳冬期氷雨後の新月前伐採」「草木染め工芸材料樹」「Wood – Insight」「森の殺し屋」