「木」の道具・工具ハンドツールコネクション木工

無限責任・絶対保証を謳う最高峰屈指の名工作品は、ハイクオリティ品格の卓越追随を許さず 山口介左衛門 他 大場雄一郎・渋木貞介・中屋雄三正直 日本の鋸名作レビュー-2.

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

刃物は使い込まれて研磨やせ、半切れにまでなると作品本來の実力・迫力がでて雰囲気が変わり存在感も高まる。使い手の要求に答える力量を備え、時と共に育って行く道具は分身となり、手仕事の手応えを楽しみ、名人上手の逸品を所持する歓びも大きい。

名作工具刃物は、使い込まれないと実力・価値が分からないので、コレクション・保存総て使用済み中古で本や資料館に陳列出演しています。新品には、まだ道具刃物の生命は宿ってはいないけれど、活躍できるステージ出番を静かに待機。屋号・制作者刻銘が品質保証となつた時代の名工作品評価を実感できる本物は、確実に次世代へ手渡され、流派ブランドから解き放たれて新しい時代へと向かいます。

「鑿・鋸・鉋は半切れ」優秀な刃物は使いこまれていくうちに道具も成長し、名作優品に仕上がるもの。四半世紀も使えば刃物の地金組織が落ち着く頃合い。使い手に馴染み、使い易く最高の状態になります。切れる刃物は、よく使うので減りも早く、いい刃物ほど消耗が激しく消え去ります。
昭和初期及び30 – 40 年代の作品は、木工具の鍛造職人の手仕事が最高度に発達した時代でした。最近まで店頭に並んでいた機械量産前ハンドメイド少量生産時代の頂点にある名工逸品作をクローズアップし、際立つデティールを掲載しました。

名工達人の制作品残影から

昭和三十年代に最も優れた鋸鍛冶といわれた兵庫県三木の宮野鉄之助、新潟県三条の山口介左衛門、大場正一郎 屈指の名工の作品ですが、使い減らすには余りにも貴重な作品となりました。江戸 ー 明治期の伝統の流れをくみ、玉鋼の名品を凌ぐ優れた作品を創り出した腕利きの現物を揃え並べ観ることもあまりないので名作逸品と上等良品を実測記録しました。研究目的でも長期に所持するには商品購入をしなければならず、切れ味を確かめると使用済み中古。研削鋼地肌むき出しのレアーな作品は、新品のまま保管しても錆付は必定。高価な刃物の運命も人間同様に短い。日本鍛造刃物史に燦然と輝く、いわば「國宝」であり、伝世品として難しい保管が続きます。

品質絶対・無限保証 名人名工達の自負・至高のクラフトマンシップ 流派屋号からの離脱、個人銘での自立制作自販の時代へ

① 山口介左衛門作  胴附鋸 別格至高作品

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・九寸 33目/寸:切先55mmH x 刃道247(刃付238)Lmm
鋸身厚:0.23 – 0.26 – 0.28 – 首1.3mmT 鞘11.5w x 314 mmL コミ15w x 183 Lmm 139g
・八寸 33目/寸:切先52mmH x 刃道225(刃付216)Lmm
鋸身厚:0.25 – 0.27 – 首1.3mmT 鞘10.9w x 228 mmL コミ13w x 180 L mm 120g 123g
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首に鏨刻み銘+返し鞘縁に「本介」刻印 鋸身焼入れ色は、見事な蜥蜴色  鞘(背金・弦)本打ち鍛造カシメ微叩き紋  柄差し口鋭利 コミとの結合締まり秀  弾き音:重いブンズン 切れ味無限責任  胴附き鋸の厳正最高峰逸品 究極的芸術域卓越名工 (店頭市価 30,000- / 昭和30年頃)阿佐ヶ谷直平

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製造人 山口俊介

切味無限責任 鍛錬好ク工手精熟ニシテ堪用ノ器二属ス

登録商標 本介 山口介左衛門作  新潟県三条市
胴附 両刃   保証書文
「本品は長年の苦心と研究の結果焼き狂い憮き切れ味耐久力等み於いて絶対に他品の追従を許さずしかるに昭和二十七年二十八年全国金物振興展に於いて東京通産局長賞連続二回受賞の栄に浴し益々需要増加するに当たり世上類似の名称を附したる偽物是有り依って中や介左衛門を改め山口介左衛門作と改名致し本証書附すものなり旧に倍してご愛顧の程」

鉋も影打ちという刻印偽造品が横行したのも事実です。完璧な仕事を成し遂げた名工の実生活は、経済的に困窮の極み。金銭を度外視した見事な作品は、永遠の価値を目指したものと見えます。制作数から見ると、刀劍作品と同様の品格です。二度と現れることがない至高の仕事を残しました。重要刃物文化財級、日本刀の世界ならば国宝です。贋作のほうが多く、本物完品は超稀少となりました。もはやミュージアムクラシスです。

鋸身の焦げ色は、松炭の炎で色付けした化粧仕上げ。切れ味が良く長切れする効果もあったようです。

 

② 大場正一郎  両刃鋸

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・九寸 240mm :切先100mmH x 刃道T縦挽き目248(刃付230)横挽き目Y247〔刃付234)Lmm
鋸身厚:0.37- 0.48 – 0.45 首1.5mmT 122g
鞘11.5w x 314 mmL コミ15w x 183 Lmm 139g  鋸身焼入れ色蜥蜴・首に銘鏨刻+丸印刻 大明神 登録商標  大極上 本目立切味絶対保証   弾き音:澄んだ上品な響き高音域余韻は短くベーン 端正・丁寧な造りトップクオリティの逸品美品
両刃鋸の最高峰作品  (店頭市価 55,000- / 昭和40年頃)現在の評価額は、十倍ほどの稀少品です。

③ 中屋龍重 片刃角鋼 11代國政伝世品 明治後期

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・七寸枘挽き:切先65mmH x 刃道220(刃付212)Lmm   首元にSO刻印 節釘を切る しなやかで腰有りスエーデン鋼という   鋸身厚:0.42 – 0.62 – 0.73 – 首1.6mmT 柄付き 185g

母の機転 東京空襲避難で箪笥の着物に忍ばせて重要名作鋸を疎開先へ送る

父13代國政は、太平洋戦争が敗戦間近になると民間人も徴兵され仕事場を畳み出征(強制動員)。指物師の道具刃物で最も大事な鋸鑿鉋をアメリカ軍の爆撃から逃すために疎開荷物の着物の中に密かに挟み、伝世品は無事残りました。鑿鉋刃は重く当時の鉄貴金属供出命令で差し出さなければならず、銘作優品の刃物は持ち出せない厳しい世相でした。薄く軽い鋸刃だけ入れるのが精一杯。殺され命も生活の糧を奪われる戦争は、優秀な道具も工房家屋・良材も総て灰にしました。

④ 渋木貞助  胴附き鋸 ハイクラス最上品

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胴附き 9寸- 8寸-7寸- 6寸- 5寸
・九寸胴附き枘挽き縦目:切先60mmH x 刃道247(刃付237)Lmm
鋸身厚:0.23 – 0.29 – 0.27 – 首1.0mmT 鞘:11x 315 mmL プレス(背金)5個所カシメ打ち コミ180 Lmm 150g
・九寸胴附き:切先60mmH x 刃道249(刃付235)Lmm 30目/寸
鋸身厚:0.28 – 0.29 – 0.28 – 首1.0mmT 鞘:11x 315 mmL プレス(背金)5個所カシメ打ち コミ182 Lmm 155g

・八寸胴附き 32目/寸:切先54mmH x 刃道249(刃付235)Lmm 30目/寸  34目/ 寸 七寸目あり
鋸身厚:0.24 – 0.24 – 0.25 – 首1.0mmT 鞘:9x284mmL プレス(背金)カシメ 3.1T コミ175L mm 116g

・七寸胴附き 34目/寸:切先54mmH x 刃道249(刃付235)Lmm 30目/寸  36目/ 寸 六寸目あり
鋸身厚:0.25 – 0.25 – 0.24 – 首1.0mmT 鞘:7.4 x202(刃付191) mmL プレス(背金)カシメ コミ158L mm 85g    細狭3.0mmTスリム鞘

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・六寸胴附き 34目/寸:切先45mmH x 刃道183(刃付175)Lmm 36目/ 寸 六寸目あり
鋸身厚:0.21 – 0.21 – 0.24 – 首0.9mmT 鞘:10x242mmL プレス(背金)カシメ コミ150L mm 87- 92g
・五寸胴附き 34目/寸:切先45mmH x 刃道153(刃付142)Lmm
鋸身厚:0.22 – 0.23- 0.225 – 首1.0mmT 鞘 : 7x205mmL プレス(背金)カシメ コミ138L mm 62g
精密繊細な造り 鞘附き枘挽き鋸縦目 7 – 8寸の細歯を「ネズミ目」ともいう。

胴附き鋸の詳細部名称:鋸身上に挟む背軸は「鞘掛け」「鞘付き」は、鋸鍛冶用語、「弦・背金」は、大工道具店や木工職が使います。鍛造、プレスカシメものの品質差は大きい。

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James Krenov(College of the Redwood,CA )1994 -2001 愛用胴附き 貞助5寸 ( 再目立てで交換保管)

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横目をはさみ、二本目毎に上目摺り。縦目の真っ直ぐ降りる良さと横挽きの切削面を平滑にするコンビネーション刃。渋木貞介作・6寸- 7寸胴附き鋸  (ZEROX COPY 50% 分解度・面精度ともに鋸目形の記録には最適です。)

⑤ 片刃組み鋸 縦挽きガガリ、横挽き挽切り 渋木貞助 作

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・九寸一組 8寸目
縦挽き:切先83mmH x 刃道250(刃付238)Lmm 1
鋸身厚:0.36 – 0.43 – 0.5 – 首1.6mmT コミ193L mm 115g

横挽き:切先91mmH x 刃道251(刃付240)Lmm
鋸身厚:0.37- 0.42 – 0.49 – 首1.6mmT コミ193L mm 115g
精巧な半割 しなやか焼入れ上質蜥蜴 弾き音:クリアーで余韻長い

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・八寸一組 7寸目
縦挽き:切先75mmH x 刃道227(刃付216)Lmm
鋸身厚:0.32 – 0.375 – 0.375 – 首1.3mmT コミ177L mm 83g
横挽き:切先85mmH x 刃道227(刃付215)Lmm
鋸身厚:0.32- 0.37 – 0.375 – 首1.4mmT コミ177L mm 87g
しなやかに焼入れ、上質蜥蜴色 弾き音:クリアーで軽快・余韻長い
(店頭市価 32,000- 1994 )

⑥ 両刃 渋木貞助 作

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・九寸両刃:切先100mmH x 刃道249(刃付235)Lmm
鋸身厚:0.32 – 0.375 – 0.375 – 首1.4mmT コミ195L mm 132g

・八寸両刃:切先87mmH x 刃道224(刃付210)Lmm
鋸身厚:0.335 – 0.38 – 0.44 – 首1.3mmT コミ178L mm 91g
(店頭市価 16,000- 1994 )

⑦ 畦挽き 縦横両挽き 渋木貞助 作

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・五寸五分:切先50mmH x 刃道167・166 (刃付160・158)Lmm 鋸身厚:0.44 – 0.48 – 0.55 – 首55 x 1.4mmT コミ195L mm 87g
・四寸: 切先34mmH x 刃道131(刃付124)Lmm 鋸身厚:0.45 – 0.48 – 0.55 – 首83 x 1.0mmT コミ169L mm 70g
・二寸五分:切先40mmH x 刃道78(刃付70 – 72)Lmm 鋸身厚:0.37 – 0.46 – 首126 x 1.0mmT コミ154L mm 59g
・一寸:切先13mmH x 刃道38(刃付34)Lmm 鋸身厚:0.355 – 0.5 – 首100 x1.3mmT コミ84L mm 21g

(店頭市価 16,000 -、 14,00- 、12,000- 、8,000- /1994)浅草水平屋

 

⑧ 胴附き鋸 中屋雄三正直 作 房州舟鋸系鍛冶名手

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・九寸胴附きa:切先54mmH x 刃道247(刃付236)Lmm 30目/寸
鋸身厚:0.26 – 0.29 – 0.29 – 首1.7mmT 鞘:10x 310 mmL 鍛造カシメ コミ187 Lmm 152g

・九寸胴附きb:切先56mmH x 刃道247(刃付236)Lmm 35目/寸
鋸身厚:0.31 – 0.31 – 0.34 – 首1.0mmT 鞘:11.5x 312 mmL プレスカシメ コミ187 Lmm 132g
(店頭市価 25,500- /1985) 神経質ではない力強い切刃 背金鞘尻が半端、焼き入れ強く鞘ラフフィニッシュ  房州舟鋸の直系三代目 粕谷雄治作 中屋雄三正道銘

鋸身の焦げ色は松炭の炎で色付けしたもので化粧仕上げ。この技法は他産地の鍛冶屋もとりいれて広まったもの。

 

鋸品質巧拙の識別 専門家の見識やプロの見立て意見を聞くのが一番

① 手を尽くした入念な仕上げ すっきり見える端正な雰囲気 刃形が整い乱れ崩れていない 勢いがる。
② 切れ味の良さ 挽き始めが吸い込むようにすっと真っ直ぐに入り軽快な感じがある。
③ 弾き音による識別:片刃と両刃は心地良い澄んだ音で響き余韻があり、駄物低質品は濁った歪のある音ペンペン軽薄な印象。
胴附きは、鞘(背金)が鋸身をしっかり固めブレがない重厚な低音がでる。仕込んだ時に柄口にしっかり咥え固定し、鋸身は挽き締まらず、安定しバランスがよいこと。プレスものは低級品。
③鋸身の磨き地肌が微細で美しく、焼き入れ色が綺麗な蜥蜴色で曇りや乱れがない。
④端部エッジまで入念に仕上がっているもの。滑らかでバリ刃物感を残さず、粗雑さを消して仕上げているもの。手間暇かけたものが素晴らしい。
⑤目立て鑢ガケし易いこと。

等が目安です。人それぞれに使い勝手、使用感は違うのでご参考まで。実際に工房現場を訪ね見れば、工人の実力がハッキリ分かります。

展示すると曇り、サビを呼ぶ。手鋸稀少名品は、見せてもらうのが出来ない。

鋼地金を銑研ぎし、鋸刃は鋭く目立てされているので金属分子がスッピンむき出し状態。防錆紙にくるまれていても、息吐き・空気にさらされて曇り、ゆっくりサビついて行きます。展示したり見せたりするだけで劣化するので、コレクション、ストッ実物をみることが難しい。カンピン保存は至難、油拭きは欠かせません。鋸の稀少名品は、姿が見えなくなります。

刻印「請合」は品質保証マーク

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鋸首に打刻された「請合」いは、約束するから転じて「保証付き」の意味に。
もう少し丁寧に打たないと不安ですが。鏨刻打ちに比べ印判は格下扱いになりました。昔の武士の花押を打つのも格好良く流行りました。

なぜか電動工具製品には品質保証がない

販売店主に尋ねると故障問題が起きても、「どんな使い方をしたか分からないから保証しない」ことになっているという。手工刃物には、品質責任がついているが、マキタ日立リョウビは保証書無し。独占マーケットで大手電動工具機械メーカーは製造日・材質表示ゼロ。大事故がリークされなければ、製造物責任なし。これは変な業界です。因みに、製品原材料・添加物、製造年月を一切表示ないウイスキーなどと同じ。化粧品は、化学物質オンパレードです。無限製造物責任、自然循環のモノつくりが責務です。

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*後注意 30年経つと塩ビ鋸カバー劣化が起きていますので鋸身を取り出して保存します。防錆紙は、化学成分が蒸散しますのでパックシールドが必要です。

*無傷完品は稀少 錆無し保存の難しい鋸は、貸したり見せたり触って傷みます。

鋸身を銑ですき(現在は、グライダーで研磨)、鋸歯も鑢で「目立て」るため地金むき出し状態です。鉋刃、鑿に比べると空気にさらされる面積が広く錆がまわりが早い。鋸職人が仕上げた時から錆び始める。使わないと、どんどんさびます。鉋・鑿は、削り体験ができますが、鋸は触ったり、見せるだけでも錆を呼ぶので、店頭在庫でも傷んでいない綺麗な伝世名品は稀です。コレクターは見せません。貸したり、未熟なものが試し切りすると癖がつき、調子が狂うので御法度です。

 

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