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「黒い森とアルプス山脈国の古い水車製材 Alte Bauernsägen 」鋸製材の歴史 +「日本の水車」ウオータークラフト図書 木のベストブック-16

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

「シュバルツバルト(黒い森)アルペン地方の古い農民水車鋸製材」 (スイス・ドイツ ビッテンブルグ州・オーストリア・イタリア地方)

Alte Bauernsägen im Schwarzwald und in den Alpenländern
von Herbert Jüttemann 1984   verlag G.Braun , Karlsruhe  Germany

水車鋸製材について歴史資料と現地実測調査記録をベースに水力利用歯車・枠(柵)鋸機構・搬送装置・動力メカニズムの原理、水車製材所の建屋構造を事例で詳説。製材手工業の発達と変遷、稼働運営の実際を図版テクニカルイラストで理解しやすく解説。中央ヨーロッパの水車製粉と鋸製材装置の産業技術史として、各地の水車装置の特徴から製材技術の発展過程も合わせ、山村の生活産業に密着した水車機構、建屋構造など総合的な観点でまとめ編集した稀少な名著。

アルペン地方の古い農民水車製材所は、丸太製材装置・建物が自力建造され、大工仕事はもとより、鋸刃や車軸金物まで農民鍛冶建造作業でした。自然素材を活用した手工業の発展は近代機械化の起源となり、産業歴史遺産として重要な意味を見出すことが出来ます。水力製材装置と手鋸板挽き作業、水車小屋製粉と精米の違い、動力機械利用のセンスや自然素材利用技術の比較から山岳地域の各民族的な傾向や特長を察知することに繫がります。機械は木扁木製から誕生。

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Inhaltsverzeichnis   目次
Einleitung   序文
1 Terminologie der Bauernsägen    13     農民鋸製材(水車製材)の専門用語
Begriffe: Sägewerk und Sägemühle    鋸製材作業と臼製粉
Hauptelemente eines Sägewerkes     製材場の主な要素
Getriebe    20     歯車装置

2 Geschichte der Sägewerk    21    鋸製材の種類
DasHerstellen von Brettern vor dem Aufkommen von Sägewerken    21     鋸挽き製材の起こりと板材挽き構造
Das Sägen von Brettern mit handbetriebenen Sägemaschinen      28  手工業機械装置による板材の縦挽き
Sägewerk mit Antrieb durch Wasserkraft     30     水力伝導装置による鋸製材
Sägewerk von Leonardo da Vinci     36     レオナルド・ダ・ビンチの鋸製材装置

3 Vergleichende Untersuchung von etwa 100 Sägewerken in Mitteleuropa    48     中央ヨーロッパ約100製材所の調査比較研究
Allgemeines     48   一般的な事柄
Der Antrieb     54       水車の構造
Kraftübertragung zwischen Wasserrad und Gatter     86      水車と鋸ゲート(枠鋸フレーム)の取り合い力の伝導
Das Gatter     104   鋸ゲート
Der Klotzwagen     111     台車
Das Schiebezeug     119     円盤送り装置
Rückholen des Wagens    129     曳き移動台車
Steuerung des Wasserstroms     136     水流調節装置

Hebe- und Transportvorrichtungen für die Sägeblöcke     146  鋸ブロックの昇降搬送仕組み・装置
Die Kappsägen    151     長さ決め鋸(定尺カット横切り)
Das Besäumen der Bretter    155     厚板から角材挽き
Gebäude    159     建屋構造
Hauptarten der Kurbelsägen und ihre Verbreitung    170     重要性を帯びたクランク型鋸の伝播

4 Alte bäuerliche Sägewerk im Schwarzwald    175     黒い森の古い田舎風の製材所
Der Wald und sein Nutzung    175      森林とその利用権
Standortvoraussetzung für Sägewerke    180     製材所所在地の推測
Besitzverhältnisse der Sägewerke    188     製材所の所有状態
Früherwähnungen von Sägen im Schwarzwald    190     黒い森」の製材所について特記
Klop – oder Plotzsägen    197     打撃または突き製材
Kurbelsägen    215      クランク製材
Kombination von Mühle und Säge (Sägemühle〕    222      製粉と製材のコンビネーション (製材所製粉)
Wirtschaftliche Entwicklung der Bauernsägen nach 1850 bis zur heutigen Zeit    235     1850年から現在までの農民製材所の経営発展と終焉
Literatur – und Quellenverzeichnis    240  参考文献及び出展目録
Namenverzeichnis    246  名簿
Sachverzeichnis    247  用語索引

レオナルド・ダ・ビンチの枠鋸挽き装置アイデアスケッチ(1480)から原理的な機械鋸挽きが構造進化手作業板挽きと製材機械化の産業技術、水力の利用の文化的違い、機械装置メカ考究派と手仕事職人技志向との違いを見ることができます。

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優れた鍛造技術による日本の手鋸とヨーロッパ枠鋸の違いが装置化から機械製材の技術進化を決定的にかえてしまう。押し下げる枠附き鋸を使う国と日本独自の引き上げる鋸刃では、手道具から装置化にいたるプロセスが全く違います。

江戸後期には和算や機巧からくりが考案さていますが、この鋸動作の違いは、イス座立位と床座作業の違いや合理的産業的発想と感覚的で個人技能を尊重するセンスからきている。構造動力メカニズムに関心が強い人々と切削面の平滑さ美観仕上がりを大事にして、刃物の切れ味にウットリする情緒的感性が鋭い民族の違いともみえます。

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鉱石などは水車ではなく、水跳ね落とし搗き粉砕があり、水車ではない製粉・精米法「自動化臼杵バッタリ」を北斎漫画(1820)の構図から、しっかり紹介されています。

水車臼製粉と水車鋸製材

アルペン地方では製粉石臼ひきと鋸挽きの二系統の水力装置を考案し,実際に設備かされ稼働していました。水力の動力利用が機械設備の方向へ進んだ地域と鍛造鍛冶技術がすぐれ鋸刃が大鋸など手道具の進化へ動いた国の技術的発展過程、バックグラントの違いも興味深いものがあります。職人技能が優れていたため、普遍的な技術の考究には至らず、また、急峻な山岳地形では現場鋸製材が利便性も良く、水車動力装置の工学的構築、産業化は明治開国西洋文明輸入まで起きませんでした。

日本では水車を大型設備装置化が進まず、水車小屋程度の規模でした。村落内小規模で水車場の跳ね杵つき精米するほか、顔料陶石や杉葉を線香の搗き粉にしていましたが、蕎麦・麦類はほとんど人力でまかなわれ、木製の臼・石臼ひきが主体。藩政時代は、地域経済流通圏が狭く移動の自由が無く、生産効率を上げるニーズが限られていたことも要因です。水車設計技術研究は、やがて流体力学からタービン発電機械工学へと進展していきます。

 

枠付き手鋸から装置化が派生した製材機械の歴史

Spaltsäge 縦挽き鋸(枠付き鋸)が装置化のルーツで、製材技術は鋸刃固定フレームの上下移動から連続回転帯鋸へ飛躍的に発展します。水車駆動軸に枠鋸刃を打ち叩き式、突き割り製材方式も記述。日本では伝統的に枠付き鋸の実用がなく、独自の高精度な薄厚鍛造手鋸が発達してきたため、鋸刃を枠に嵌め込む装置化の発想や技術開発は出現しなかった。木材利用製材の歴史は、手道具鋸刃の進化とは別に水力利用機械装置の考案が産業技術の飛躍につながる大きな契機となりました。

日本刀劍などの高度な鍛造技術は、木材加工道具刃物のクオリティに多大な貢献をし熟練技能を洗練させましたが、逆に汎用機器装置への移行が遅れる結果になりました。さらに、生産効率や商品化の追求も個人の生業的なレベルで推移し、職人技の追求が流派伝承によるクローズシステムを作り上げた結果、近代化とは別の美的感性価値を重んじる風土が生まれ、異質を排除し、こだわりのあるモノつくり気質に傾注したと考えます。

工房作品制作から工場量産製品・商品へとシフトする過程が経済流通の要請だけではなく、独自の価値観で発展してきたことは、素晴らしい伝統産業現場の手仕事を支えたもう一つの重要な姿でもありました。フレームハンドソーから機械バンドソーへのルーツです。

中世から真っ直ぐな樹幹に仕立てる森林育種管理の歴史、結果は「自然のままがベスト」という事実。200年前、森林は恐ろしい近づきがたい塲所だったが、現代では保護しなければならない。ドイツForestamt 森林官は、自然に戻す森林管理へシフト。

ドイツ・アルペン地方の木材産業は針葉樹Nadel Holz の良材が多く、板挽き製材は各地で盛んに行われましたが、広葉樹Laub Holz の楓 Ahorn ,ブナ Buch, Oak 楡Ulme は幹枝下が通直ではなく、曲がりを使うが普通でした。

船のキール材や建築小屋組材用と限られ、真っ直ぐな原木を200年もかけて改良し続けた歴史があります。皮肉にも真っ直ぐな樹木が育ち揃うようになると建築ソリッドが下落し、材合板・ボードでしか需要がなくなった。フランスからドイツにかけて主要広葉樹の人工林が台風被害で広域皆倒災害が起き、人工植林の無理な施業を止めて自然更新に切り替える森林学を根底から変える事態が発生していたのです。

「クラシックな林学は、自然を無視して人間の都合を押しつける無為な所業と気づいたのが最近ようやく。倒木地帶は半分は片付けて自然更新を待ち、半分はそのまま放置して観察しつずけ手を加えない。200年前、森林は恐ろしい近づきがたい塲所だったが、現代では保護しなければならない重要な塲所に変わった。」とNoeinburg Forestamt訪問時の 森林官 Dr.H.R.Pabst の森林管理史話です。この管轄地域では、水車製材小屋を動態保存しています。

ドイツ林学を手本とした日本は、明治3年以来そのまま。手本が間違いに気づき、自然の姿に戻そうとしている一方で、環境風土の違いに加えて固有樹種も古びた学識を教え、無理な輸入森林政策150年にまだ気がつきません。

単一樹種育林施業、いまだに「芯材赤身は死んだ活動停止の組織」「樫・ブナ目は髄線といい放射状組織」と教えていますが実際は「樹皮内部から芯部に成長していく求心細胞組織」であり、学術的教科では逆。実際に原木を伐り削れば明らかです。ブナ科青樫樹皮からの芯央部への髄線成長、逆放射向芯組織について http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/6077

動力水車製材の再現、再興エコロ技

日本では精米・砕粉と揚水の水車構造は発展しましたが、商用木材の機械製材の歴史は西洋からの導入で明治からはじまります。手鋸・大鋸挽き、ハツリ斧、手斧で仕上げ、製材機までは開発されずに人力での挽材が行われてきたのです。良質の木材が豊富で,優れた刃物の鍛造技術があり、木割・砕きがしやすかったことも背景にあります。明治期に入り産業振興策で西洋式製材機が導入されて一挙に工業化を辿りました。

「自然エネル技」をつかう安全・循環型の生産加工装置を水力・木工・鍛造鉄工でまかなえば、手仕事や資源利用の面でもエコ自立産業経済志向に有効な手立てとなる可能性を見出しえると思います。枠鋸、搬送装置、歯車には、強靱な白樫材がまだ使えます。

機構設計は、ドイツやスエーデンの保存歴史産業記念施設が現存しており、谷川の潜在パワーを発電と合わせてフルに活用することが可能です。現代のテクノロジーを反映した21世紀のエコロ技水力製材、製粉、粉砕加工所が実現できるのです。製粉も杵つきのほうが良質な仕上がり。水車製材・製粉は歴史が長く、優れた先例が多く残されています。環境資源も無理な使い方をせず生存基盤を維持できる水車プラントの再現プロジェクトは手近にあります。

870525 – 20141224-20171127  ABE

日本の水車 文献

①「まわる、まわれ水ぐるま」

 

 

INAX ギャラリー  INAX BOOKLET V0l. 6 No.2 1986
目次
座談会 水車から何が見えるか  室田武 河野直践 桝潟淑子   4
臼の目に誘われて 水車利用による製粉の歴史   三輪茂雄   20
写真構成 水ぐるまを訪ねて   河野裕昭   25
鹿児島 福岡 大分 熊本 佐賀 高知 愛媛 徳島 山口 広島 鳥取
岡山 兵庫 奈良 大阪 三重 愛知 岐阜 長野 富山 山梨 茨城
栃木 岩手 青森 北海道千歳
水車の技術文化をたどる   前田清志   49
数こそ少ないけれど − 青森・岩手の水車   斉藤潔   60
粉づくりは水車搗きに限る − 今市の線香水車   半田慶恭   62
扇状地に根づいた技術 − 富山の螺旋水車   田中勇人   66
明治の創意 − 水車大工   今津健治   68
陶磁器の原石を砕く− 東濃の水車   伊野重幸   73
戦後食料難時代の落とし子 ー 三重の超ミニ発電水車   黒川静夫   79
瀨戸内の雑木の影で ー 中国地方の水車   篠原徹   82
重連水車を筆頭に ー 元気ハツラツ九州勢    香月徳男   87
まだまだ現役、これからだ − 訪問・九州水車大工三人衆  神谷杖治   94
水車で川をさかのぼる − ネパールの交通手段として   小川鑛一   99
図版構成  水車と風車・西東 − 川上顕治郎   102
「水車むら」繁盛記 − 臼井太衛   8
「環境」としての水車をつくりたい − 山形でのこころみ − 森繁哉   13
幻の「左公車」を求めて − 中国・水車の旅   水上聡子   16
低速が ” 粘り”を生む − 杉線香と水車   井坂順子   64
水の動きをとりだして− 私の作品   新宮晋   71
なぜか水車から離れられない − 豊原妙   90
人はどこでも生きられる − 水車めぐりで思ったこと   宍戸節子   91

②「日本の水車」 調査:香月徳男、寺本 啓、出水力 原図:佐藤禎一
黒岩俊郎、玉置正美、前田清志編  ダイヤモンド社 1980

( 20180121 追補)

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木の総合学研究 2016- 2019 「水力水車製材の手工業・機械化の歴史研究」「枠付き手鋸から装置化機械鋸製材への歩み」「中部ヨーロッパアルペン地方の水と木の産業技術文化」「日本の水車」「ウオータークラフト」

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