現地伐採から 3日目のスピード製材。現場作業に密着し、原木生育地の環境から素材カットまで途切れなく収録。稀少樹種青樫の実地ファーストケーススタディ
一本の樹の全てを観る、切る、識る、経時変化を捉えて収録継続、いとおしく保管する。
商材では原木情報が限られ、産地やサイズ、品質で材料取引されるだけですので、樹木の性質や来歴・由来を詳しく知ることが出来ません。樹木の全体を知るには、外見・枝葉・花実だけでなく内部を見るためにカットしなければならず、伐採する前から現地で巡り合い、直に総ての作業に立会うことが最も大事なアプローチと考えています。
生育地環境 Where 、伐採期日 When、事情 Why、所有 Whose、来歴由来 History、 樹材質 What、DNA標本 Sample、実務作業 Works、木口割り Sawing、費用・価格 Cost & Price、マテリアルトリートメントMT、用途 Uses、そして薪・炭・純灰まで一連の事象を記録、識ることが総合学のスタートです。幼樹から老木までをとらえるには200-400年が必要ですが、木の時間を意識すると見えてくるものが多くなりました。
・原木:青樫 樹令112年 樹高:約11m 枝下4.5m 、元口径:670 x 800 mm 、末口 700 mm 、株:800 x 1,000 mm 、 樹幹回旋捩れ縦溝あり
・産出地:福島県田村郡三春町 南雲神社境内(伐採撮影:五十嵐 馨 20110503)
・伐採日:2011年5月3日
・木樵:五十嵐林業 五十嵐 馨、諏訪幸彦(奥会津三島町)
・製材:2011年5月6日 会津坂下町堀木材、9月10日 穂高町安曇木材にて株ブロック材を挽材再カット
・MTマテリアルトリートメント:2011年5月−2013年9月
樹齢112年 神社境内の神木 根元枯れで痛み、神殿に倒れかかりそうな危険状態になり長年の懸案を平成23年春、氏子総意で伐採を決断。友人のベテラン木樵が依頼されて珍しい仕事を引き受け、慎重に無事始末。稀少樹種ですので、挽材プロセス、詳細部分を全て記録して研究試作サンプル・標本に。
境内の一角には若木・幼木が育っていますが、この福島県東部温帯が生育北限と思われます。これから木の性質や実際の物性を調べていきます。材色は、白樫より淡黄色、赤樫に比べると明るい材質です。木目は、見事に牡丹・縦縞目模様が大きく入り、材質感を優雅にみせ、装飾的な使い方も出来そうなクオリティ。カット寸法は、自然乾燥時の変形・割れと重量を考慮して人力で動かせるサイズにしました。板目・追柾・柾目どり。
青樫(ツクバネ・長葉樫)日本固有種:緑色の樹皮(青肌)からの木樵呼び名です。学名は葉 の形からですが、枝葉がついていないと識別できず、赤樫・白樫という色で識別する方が実際的で判りやすい。
材部は、文献・木材見本に見当たりませんので樹皮から芯材・木口まで全てを内科的記録。カット内部は専門書にも写真イメージがなく初出です。伐採から数ヶ月間、樹皮や辺材部の自然乾燥による組織変化を観察し、未知の材色経時変化も確認。伐期が5月初旬の水揚げ時期でしたので地面に放置した株は青カビが直ぐに全体に拡がりました。 AQ20110506 – 1216
樫の牡丹
高樹齢になり、根や幹に傷害、菌・虫喰い、腐食等があると芯材部に「牡丹」(タンニン波紋模様)が重なり拡がる現象がでます。菌類を囲み抑止、樹体をガードするセルフキュア−自己修復反応が起き、色素を内分泌する結果、層模様が出来ます。これほど拡がるのは珍しく、神域の保護樹でしたので損傷ダメージを受けず、きれいな木目になりました。(若木にはでないので、老木の芯材赤身とみる見方もあります。)芯部は辺材と一体で生命活動をしており、まさしく生きている組織です。芯材部の解説などは、学説・教科内容とは逆で違います。
製材工程・木取り
樹皮層と放射組織のカット面(樫目・虎斑)自然乾燥 2ヶ月- 6ヶ月
樹皮内部から木部へ入りこむ鋭突刃形の放射組織が成長ともに樫目を逆放射で樹芯へ向かい形成されていく
学説とは逆の「樹皮層から芯央に向かう」逆放射組織 髄線「樫目」は向芯細胞
原木丸太を傷をつけず樹皮の状態が良いまま製材工場へ搬入でき、樹皮の内側から髄線・放射組織の剥離もきれいに 分離できました。堅い鋭利な立突接片、13mmの厚い樹皮をしっかりつないでいます。触ると手が切れる。肥大成長するにつれ内側へ樫目・髄線を伸張していく成長先端部の不思議な層結合組織の木肌表面です。放射組織といい名称のため芯から外皮へ向かい放射成長する細胞組織であると教えてきました。専門書では、形成層から作られ、木部・師部を水平方向に放射している「水分・養分の導通路とか貯蔵器官」としていますが、実際は違う。幼木の直径は小さく、放射組織も未発達で本数が少ない。大径木になると放射髄線が増え緻密な組織になりますから、当然芯央部から増えるのではなく、樹皮部から発生して内部へ連続侵入成長する。樹皮付き玉切り切断面をみれば明らかです。樹皮は、形成層と連動した逆の成長細胞であり、樹幹体を肥大成長と共に強化して樹立を支えます。
また、放射組織 Rayという名称が、内側から外部への拡がりを想起させますので、実は逆の求心・逆放射組織で樹幹を水平(または斜方)横筋のように成長し、樹幹自体が縦横の繊維束で一体で外力に対抗する強靱な細胞となる。縦・天地方向と横水平(斜方)の繊維細胞で4次元の生命構造体をつくり、地上に生きてきた樹木です。幼木から高樹齢大径木までを樹皮の動きから内科的に診れば、従来の学説が未解明で、教科内容は間違いでした。つまり、樹皮へ向かう放射組織ではなく、反対の「逆放射向芯組織」です。白樫・赤樫・櫟・柏・コナラ・水楢・ブナも同様。外側内皮から年輪を貫通して芯部に向かい、横筋のようにソリッド一体化。肥大生長と同時に補強してゆく、ネバリの強い倒れない樹体を造ります。自立応力を身につけ、進化した不倒構造です。
椎の木は、髄線が太くはっきり直線的に顕れず、細く流れブナ樫のような班目は出ない。冬目で係止するような飛びステップで絞られ、年輪層はゆらぎ、春材部の繊維組織が秋材で逆目の交差木理になり拮抗する構造。板目は栗に近い。アベマキは未確認。2015108 – 20161208 補足
伐採後に起きる樹体内変化
樹皮・材質の変色が経過時間とともに段階的におこります。
樹皮・辺材の白班露出(伐採から6ヶ月経過)
青樫 挽き材木理 (自然乾燥一年経過)
青樫元木 黴入り材面
青樫(上)と白樫
NS四年目の自然乾燥 逆放射向芯組織の際立ち鳥肌 20170915
木質部乾燥収縮による陥没と樫目・肥錘髄線が浮き出てきました。突起して鳥肌です。
白樫に比較すると、短太錘形が多く目立ち、肥大して強堅です。自然林縁で足長蜂が多く、MT記録紙も巣作り材料に囓ります。巣には、ハニカム産室内壁カバーに白い部分が混じり、便利な無料木質新建材御用達。20170915 追記
入り節・枝残り巻き込み治癒
抗菌・抗体タンニンでガードし、ダメージ・損傷部を包み治癒する完璧な生体維持セルフキュアーがみられます。自体傷口を直していく様子が鮮明に見えます。空洞を埋め塞ぐ細胞の動きは見事。牡丹は多重に走り、撲樕(ボクソク)生薬を採る櫟と同様に傷の修複・包み込みは見事なバリアです。20181016追記
青樫(ツクバネ、長葉樫)の幼樹・老樹
左:移植テスト一年目:実生幼樹
右:2年目:冷涼のため葉の一部に黒班広がり。左は、春、カモシカおばさんに喰われてしまいお陀仏 現在、右の樹は生きています。
3年目の枝葉・樹皮 樹皮から突起が出る 逆放射向芯組織の始まり
20150830
5年目、既に大木の雰囲気・風格。20170801
■ 10年目、青樫寒冷地順応 新若葉
海抜13,00m亜高山帯ですが元気に新葉をつけました。寒冷地なので冬は玄関土間にいます。
2011年5月3日 実生苗_福島県三春町
青樫・橦羽根樫群落
京都府北桑田郡京北町田貫(周山街道沿)白山神社神木 京都府天然記念物(現右京区)
樹齢約360年 胸高径790mm 樹高27m 屈指の巨樹
葉形は、福島の青樫に比べると丸みがあり、ずんぐり肉厚 20151008 ABE
南雲神社の青樫 伐採前2011 4月
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木の総合学研究 2014 – 2019- 2021 「青樫 伐採から製材・木取りまで」「青樫 – 木の内科」「損傷ダメージのセルフキュアー治癒」「材料学」「髄線組織の逆放射向芯成長」「Hard Wood – Insight」
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