工芸木工

ウッドワークサミット メンバー安曇野会議

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

 ウッドワークサミット メンバー新春安曇野会議 2012
もっともふさわしい人に、技能・最良のマテリアルを引き継ぐために

 1991年10月 Woodwork Summit を開催、その後は参加メンバー相互の交流が続いてきましたが、次世代にノウハウ支援をどのようしていくか、最上の材料・道具、文献資料等を継承していくための方策はどうすれば良いかを相談するため、サミット参加メンバー四人で2012年1月8日の新春会談となりました。  サミット1991、詳しくは、こちら

20120108安曇野穂高の大竹工房にて

大竹 收、杉山 裕次郎、須藤崇文、阿部蔵之が参集して深夜まで今後の仕事の展望や若い世代との関わり方について意見交換。時代の変化に対応するには何でも尋ねたりサポートを頼める世話役メンター的な存在が必要ではないかと、いくつかの方向性と責務が見えてきました。概要についてその時の談論を基に、順次表明、実務的な話柄にしていきます。

 

・時代の急激な変化と危機感、社会産業動向の把握

・経済的裏付け・人材育成・教育訓練・伝承の現状

・木工産業をめぐる環境・事情、関連産業の推移

・次世代継承の方策・方法論、可能性、展望など
 

次世代へのかかわり、仕事の修得・諸事情

次世代手仕事志向の若者は、教えてくれる人や将来の道を探し求めて動いています。工房見学や研修、アルバイトなどを繰り返し、仕事へのアプローチを重ねてプロの専門技術、ノウハウを獲得しようと見聞を広めていますが、適任の指導者に出会うまで道のりは長いようです。

最近、メンバーの身近では、轆轤師・座編み職人の後継弟子が直接コネクションから誕生。デザイン大学在学中に親方の芸大大学院・彫刻専攻特別講座に出会って進路を変え、仕事を覚え基礎技能修得のため技術専門校に一年入り、卒業後は、見習いから徐々に高度な技法をマスターするまで、親方の傍で手足になって働く毎日です。
現在は、学費や生活費など公的な経済的支援・補助がいろいろありますので就業自立までの実際の負担はかなり軽減しています。失業保険でのリカバー・雇用助成もあります。各産業育成プロジェクトも特別な事業資金がでることもあり、孤立無援ではないけれど、先細りの綱渡りに違い有りません。なんとかなるものですね。
徒弟制度の後に、見習い・研修・アシスタントなどいろいろな職務形態ができましたが、直伝の後継者は仕事を全人的に修得するために、寝食をともにし、プロの感覚を磨き、身のこなし・振る舞いまで体得でき、素養を最大限に発揮できる場が望ましいと思います。現在の雇用制度・社会保険など様々な制約があるなかで、理想的な関わり方、共同作業を模索しているところです。現状は、世代間のクレパスが拡がり、かなり厳しい印象です。持ち物・生活水準が高く、耐乏ゼロスタートができない時代です。
・トンチンカンな見習いさん例
親方が軽トラで先を行く, 後から見習い弟子はクロの大型4WD SUV.手を動かしてメモするより、一眼デジカメが楽だとノートペンはもたず。仕事より自分のスタイル固めが先です。その後、姿を見ません。
身体で仕事を覚えるのは絶望的な技専出の若者に現場で出会い、面食らったこともあります。利益率が低いと新築工房を即座に売り払った技専卒元保険社員にも衝撃。子供のときからのものつくり体験に乏しく、受験勉強で手と頭が柔軟な成長期を逃しているための苦労が加重してきます。
手仕事を、身につけるには、遅くても高校までと言われますが、才能と努力で一流の仕事をする友人もいますので、定型は無く、様々です。多様性に富む、素晴らしい仕事を実感できる現場を歩いてから、長い人生行路を楽しむワークデザイン、トレーニングプログラムをたてていただきたい。
「世界は、道を開けてくれるだろう。もし本気で通るつもりなら。」
s;SPENCER’S  MOUNTAIN, 1963

ハード(材料・道具)紹介、コネクションと人のつながりから

貴重な手仕事を継承・支援していくためには、個々の課題とさまざまな要素を同時に解決する総合的なソリューションを創出することから、次の手立ても見つかりそうです。

日々の制作活動のなかで、道を尋ねる新人を案内し、手を貸していくには制約も多いけれど、個人ができる範囲の力添えをしたい。資料や道具の購入できる場所、材料手配の仕方、指導してくれる工房紹介など、それぞれの人脈ネットをいかせれば良い仕事に結びつく可能性も見つかります。また、ストックしている道具の銘品・良質材、図書資料もふさわしいひとに直接手渡したり、頒布するのがベスト。(最近は、道具コレクターがいるので稀少品は、儲け商売人には気をつけないと)

専門技能・訓練学校が減少する時代に、伝統と高度なモノ作りの知識と経験を蓄積し、仕事を支える最高の道具の出会いや材料調達、加工技術・ノウハウを身につけるには、相対・直伝がベスト。顔の見えないネットバーチャルではなく、ヒューマンコンタクトが生まれる出会いの場が重要です。
仕事上、興味関心の高い対象は、目先の実物・現物。まず揃えなければならない道具や材料のベストマッチングから始めることが、紹介・連携の契機になり、最適な世話役務につながると思われます。その手順も検討しつつスマートな関係つくりに発展させたい。
ちなみに、情報しかり、仕事も道具・材料も人づてにくるものが最も確実です。
 

BMC : ベストマテリアルコネクション、最良の材料をもっともふさわしいひとにつなぐ。

BTC : ベストツールコネクション、最高の道具を、最適な次世代にわたす。
この他、稀少文献・図書・記録資料も順次紹介し、掲載していきます。
 
全く収益にならないと参画・後継者は、出てきませんからボランティアではなく、支援業務にできるやり方を実現しないと単なる販売行為になりかねません。モノにまつわる由来・ストーリーが大事なのです。
*ベストツールコネクション
鉋・鑿、鋸、鑢、他 稀少銘品
南京鉋制作記録とストック頒布予定アイテム
・東 敦史作・柏木工房リプロダクト
*ベストマテリアルコネクション
オノオレ・アサダ・シウリ・トネリコ
鬼ぐるみ、姫子、赤ブナ、コナラ赤
白樫・青樫、ニガキ、黄蘗、桂、栃、
山桜・ウダイカンバ・朴・イタヤ
タモ・ハクジ・シデ 他
*稀少文献・重要研究資料引き継ぎ
知的資産の継承・活用

 職能伝承と世代交流の機会をつくることから始める

工房・アトリエ作業は、出職に比べて接触・交流の少ない居職ですので、「稀少材・名作道具・名著・逸品をみるかい」を開催することも仕事と人のを結びつきを強めるでしょう。弟子やアシスタントになれば、自ずと面識がふえ、人脈と技能が継承されていきます。共通の体験、仕事を共有する場が育成する時間になります。

同時に、ビジネス感覚を養い、知見を拡め、共感を集める場となり人間関係も重層的に構築されます。人に寄り添うこうとで覚える多様な経験は、創作の礎です。専門用語も、テキストだけでは修得しきれません。顔を合わせ、共通の生活行動、仕事時間の共有が基本なのですから。
 Net検索で知識を集め、スーパーの商品陳列棚にあるものを選び取るような工具・機材の使い方では、剃り落ちてしまう大事な現場のコツや工夫、ノウハウも沢山あるのです。
ビスポークBespokeは、ファッション用語で衣服・靴の注文・誂えですが、語彙は「話しをききながら」の原意。既製・量産品流通では、制作者と対話することはありません。顔を合わせ対話することは、ハンドメイドの世界で極めて重要な職能です。 急速なデジタル・NET化されていく社会変化にアナログ・伝統工芸産業の本質が変容していることも大きな懸念です。木の文化産業衰退の前にできることを手がけて参ります。

親方筋、先生、世話人、恩師、を持つこと

 英語圏では、良き指導、優れた案内,適切な助言をしてくれる人物を意味する「Mentor メンター」という職責ありますが、日本では師匠・恩師。最適な先達・先輩に出会うことからキャリアーが始まり、人生行路を豊かなものにしてくれます。 職人の世界では,「親方筋を持て」と先人から教わりました。親方や先生が居れば、何かかと相談でき、仕事のシェア・高い利便性もあります。最近は、親方も経済的に大変で雇用も減り、面倒を見てくれる御仁が少ない実情ですが、訪ねて押しかけるぐらいの度胸が欲しい。親方の手足になりかわり、仕事を覚えるのですから。
制約がない自己流では、「型なし」で、仕事の流れや業界の関係が稀薄になり、技能の修得も遅く、基本が疎かになる。逆にフリーな作家志向には、従来の職人修行の世界は、息苦しく、個性的な作風を目指すには、新しい修得コースも選択できる時代になりました。いろいろな専門学校・教室・講座・塾が活動しています。
いずれにしても、ベテランに習うことから仕事を覚え、作品を創作するために努力。やがて独立する過程に、手本・目標となる素晴らしい人に巡り合うことが一番の課題、「学ぶ」は、「まねぶ」からです。
玄人が、指導できる得意な分野・独自の才覚はいろいろ多彩・多能です。作風や工房スタイルも個性豊かなタレントもいれば、地味でも正統な技術を保持する伝統工芸職、エンジニア上がりのモダンなセンスで新機軸を切り拓く制作家も少なくありません。
個人で工房作品を手がけ、長年経営してきていますから、アドバスできる領域は多岐にわたり、材料・道具・機器、加工技術、デザイン、プレゼンテクニック、工房運営マネージメント、作品販売、情報・資料など 現場のノウハウが蓄積していますから、学校教育とは別の次元で生業直結、実践的です。
ウッドワークサミットメンバーは、この指導的先達として次世代の有望な若人に対面し、これから、世代間の継承をはかり、助言・支援者として最良の役務を担うでしょう。

危機的な木材産業、伝統工具・刃物産業構造の現実と社会的な環境変化

木の国・木の家具・木の文化が、石油・金属にかわり、身の周りには化学製品・人工合成無機質材料があふれ、電磁波の空間に住み続ける毎日となりました。伝統的な木の仕事である建築や家具、室内調度品、楽器、食器、工芸品が急激に姿を消し、その制作をささえてきた木材産業・資材、工具刃物生産が衰亡してきました。需要はなければ、製造現場は立ちゆかない。最近、松本盆地、安曇野地区では、製材所がいくつも閉鎖、人工乾燥サービスもほとんど消えて、もはや裾野周辺産業が廃業。キリンドライの輸入材へ移行しています。自然乾燥だけでは、ビジネスが成り立つのは、小規模の工房制作に限られます。多くの道具店・木材商がたたみ、最近まで手に入ったものが絶える瀬戸際です。次世代の担い手は、生活していけない仕事には、寄りつきません。
次世代への仕事の継承は、原材料・研磨剤・接着剤や塗料等の加工資材、刃物道具、金具など、一連の裾野関連産業の成り立ちも考慮しなければ十分ではないのです。時代の急速な変化で、産業構造が大きく変わり、存亡の影響を受けています。
針葉樹ばかりの林業政策が長く続き、広葉樹は、素材も枯渇し、レッドデータの樹種も散見されます。山に多様性がなくなり自然環境が大荒れして、生態系全体がおかしくなってきたことも見逃せません。国内木材市場では、高樹齢・太径木が枯渇し、輸入材に変わりました。日本にある優れた木が伐り尽くされ、山になくなり、数百年後まで良材が手に入りません。その間、外国の森林を伐採し、針葉樹集成・人工ボード加工材に置き換わるのです。今、日本の自然樹は、ビンテージクラス:貴重材になりました。実際の自然林には、樹種・生態の確かなデータは見当たりません。林業従事者も減少の一途です。
次世代の育成、産業振興・サポートは逓減し、技能訓練校の減少も続いて統廃合、次第に存在感が霞んできました。入学志願者は、上松技術専門校の昨年入学では、全国から少ない木材造形学科に集中して、倍率6.8 。指導技能職員も、減少の一途です。この教育機構の将来展望は、木の産業分野の総合的なオペレーションで新しい方向性が見いだせますので悲観的では有りません。人口減少・産業収縮、生産品目の収斂が起きてきますが、自然循環素材、エネルギー源として活路が開きつつあります。見渡せば、あちこちで煙立つハイリスクスポットが不気味な静かさを漂うといった印象です。
モノ作りの現場は、製造販売していく基盤がなくなると崩壊しますので、まず直面する道具の手当を優先したいと思います。
方策として、製造者の現場コンタクト、仕事のすべてを記録データ化、及び、現業の先行購入で一時的しのぎ。廃業後は、ストックの融通・譲渡頒布で継続。再現・復元して技術を伝承して新しい開発に結びつけていく「シード保存庫的な産業技術バンク」を目標。途中でパンクするかもしれないが、構想だけはイメージできます。生業として持続し、製品を供給できる内に時間稼ぎのスペアーをストックをしておくのが精一杯。そのストックがある内に、次世代が再生産できるきっかけがあるでしょう。絶えて消えても、実物ストック・現場取材記録・資料保存をしておけば、どこかで役立ことが必ずあるもの。
木材資源・周辺関連産業、訓練・養成プログラム、デザイン教育、資料コレクションなど、それぞれは連携してはいないので横断的に総合的なプログラムを作成することも求められるでしょう。フレキシブルで有用なMC:マテリアルコネクションが今後の課題です。自然生体としての人間がどこまで人工物質やハイテク環境に耐性をもつのか、安全性やその生存まで考慮しなければモノつくりが難しい時代ですが、ふさわしい作り手に、取って置きの材料が行き着くものです。静かにストックされている銘品・最上品は、以外にも現存しています。使い手との出会いがなく、紹介できる格好のメデイアもありません。
しばらく混迷の後に、人・材料・道具・仕事の新しい結びつきの形がこれから生まれてくるでしょう。
 

木工家、工芸作家・アーテイストの経済的シチエーション

木工は、材料手当、乾燥ストック、機械設備・ゴミ処理、刃物工具、接着・塗料、研磨材等、大変な施設費用がかかります。
作家志向ならば、ショウルーム展示施設もほしい。材料コストは、長期先行経費ですし、注文を受け、デザイン制作してからやっと入金なんてかわいそうなフトコロが主流。経済的にバランスがとれない楽しいあきれる仕事になります。好きな仕事ですから我慢を続けますが、見えない経費が大きいので、気が付いたら経理はイエロウ、ご本尊は青くなり、家計の預かる奥さんは、赤くなる…「楽・極」には、木の字がつき、囲まれると「困」は、やはり木が。「三代と続かぬ材木屋」巷の格言は、木の産業の寿命を言い当てています。不況といわれてきた産業の中には、忙しく「夜なべ」状態のところもあります。低迷は、おしなべてイメージ・ムードが支配している結果、ネガティブな見方になりがちですが。
嘗ては、高度成長期、木材販売や量産家具で収益をあげた時期もありましたが、現在では、生産性が下から二番の製造業レベルです。賃金ベースも低い先細りイメージですが、品目や販路により、発展盛業企業もあるので一様ではないのです。ちなみに、クラフト分野では個人営業自営、フリーランスが多く、複数業務で生計を維持している実情です。利益追求より、楽しみながら生活の糧にしているケースが多く、友人・知人の家計は、バンク口座に長期居残るほどではないと聞くことあまた。主要産業ではなくなり、構造的な制約が重くのしかかる現実は、次世代の育成まで余力が無くなっています。材料・加工機材・制作・販売、次世代継承、環境問題に直面して、まさに危機的と感じます。木は、人間ができる唯一の再生・循環素材、生命維持資源ですから、重要な命題そのもの。
安曇野会議は、続きます。

ⓒ 2013 Kurayuki, ABE 「木の総合学研究 2013」
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