「木識・木学」デザインの目工芸日本の自然色木と人間の関わり

「モアダ」シナの木内皮繊維採取 奥会津山里の手編み再生循環工芸 – 草木自然繊維・地上の美質 MOADA Basketry

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

古代から現代まで永続する樹皮自然繊維の工芸利用は、時代の流行にあわせてモダンなECOイメージをまとい、山里クラフトムーブメントを牽引。編み織り手仕事の魅力がハイライトを浴び、ネイティブな暮らしの技が次世代へと引き継がれる。

奥会津地方の独自の伝承技能は、用途・形を変え、モダンフォーククラフツへとシフトしてきました。自然素材を活用し、手仕事の篭編みは、人工合成物に囲まれている現代に素朴で新鮮な魅力を発散します。自然繊維の手編み物工芸品は稀少評価が高まり、作品は民具・民藝を越えて世界のBasketryステージへ。

樹林再生循環、自然更新のオーダー、樹皮採取適期は約30年サイクル

薪炭雑木林の伐採・蘖の維持周期は30年が目安でした。檜杉皮・オヒョウ・シナ・黄蘗・ニガキなど樹皮内皮を採取する樹種の「採り旬」はほぼ同じサイクルです。企業・業種の寿命も約30年壁説があり、生存活動のライフタイムが一世代の動きのように、樹木にもおおよその成長期段階・適期がある。森林資源の無理のないローテーション利用もこの周期です。

梅雨明け、シナの木の花が咲く頃(養分揚げ期で樹皮は簡単に剥が素ことが出来る)に樹皮を採取。池に浸漬して薄い内皮を剥がし整流で繊維を洗浄(ウルガス)。影燥しすると酸化して色変し、美しい強い繊維が得られる。「モアダ」という。内皮を小幅繊維状に裂き、撚りをかけながら編み物細工につかう。

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初夏、シナの花が咲く頃に樹皮と幹肌に養分を揚げ樹液がまわり、簡単に剥がすことができる。必要な数量を伐採、樹皮をバールで剥がし、池水に浸漬。内皮層が水で十分に膨潤し剥離する頃合いをみて引き揚げ、薄い内皮を剥がし、洗浄晒す。花芽が若いと内皮は少し厚く堅さが残る。赤茶色のモアダには、黴びや虫が付きにくい忌避抗菌性があります。木肌のぬめりは糖質でした。

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樹皮を剥がすと木肌にぬめりが残る(樹液を盛んに揚げている開花活性期で樹皮も肥大)

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共同作業:五十嵐林業 木樵 五十嵐 薫、諏訪幸彦、岩渕美雅子 20090704AQ

モアダ採取作業・編み工程

① 山里でシナの木 伐採 20090704AQ   蘖再生循環伐採 (大沼郡三島町淺岐西居平 )
32 – 33yrs. 枝下 6 -7.2 m 元木木口径 145 x 180, 145 mm
② 玉切り皮剥ぎ  モアダ用1200mmL
七月初旬に「アカソ」草繊維 林縁自生、花芽の前に茎を採取。 梅雨の晴れ間に天日乾燥し編み素材に仕立てる。

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③ ウルガス(蓮池水浸漬・分離・アク抜き)20日間 20090704AQ

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樹皮を剥がすと木肌に甘いぬめりが残る(樹液を盛んに揚げている開花活性期で樹皮も肥大)
池浸漬後のふやけた樹皮・内皮のヌルヌル状態
発酵臭がでるので清流で手早く
良く洗い、落ちない時は足踏みでぬめりを抜きます。腐りが出ると青黒ずみ、泥成分でグレーになる場合もあります。赤身のある長いものが上物。
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木質糖分を洗浄 薄く剥がした内皮繊維が目映いほどまで晒して 清水洗浄完了は繊維が透明になる
ウルガス:佐藤美智子  撮影:清水健司 20090807

④ 八月 内皮剥ぎ・清流洗い晒し (淺岐・大谷川)20090807  二百十日,九月初旬には縦糸に使うヒロロ草採取、乾燥保存

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編み素材準備:五十嵐ハナコ 2008

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⑤ 内皮の影干し4ヶ月 自然発色が進み淡肌色から赤身のある繊維となる

⑥ 冬期雪に閉ざされるころ、糸細幅裂き・撚りをかけつつ横糸を編み込み、作品を制作 (ヒロロ繊維を手撚り、太紐ロープ縦糸に使う。アカソ草繊維も併用)端部は糸針かがり,内部布地縫製仕上げ。

モアダ編み細工

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手編みサイドバック 2点 制作期間 45日 20100922AQ

素材・ヒロロ・モアダ・アカソ・茗荷・橡の実 内部布張り縫製   五十嵐ハナコ作

 

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手編み手提げ巾着

210 X 105 (底90) X 170H mm 約180g (他12点)  編み制作期間:冬場約 20日 素材採集・乾燥 約4ヶ月     素材・ヒロロ・モアダ・アカソ・茗荷・橡の実 内部布張り縫製   五十嵐ハナコ作

*ヒロロ・アカソ草自然繊維利用については追補記載予定です。

深い森林渓谷に囲まれ、冬期多雪地帶の暮らしの中で、手間暇を惜しまない篭編み細工手仕事が生まれる。この他、マタタビ・山ブドウ・木通編み細工が制作されている。

*「シナ布」の伝承工芸技能は、県境を越えた山形県関川地区にも残ります。

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*アイヌ民族「アッシ織り」繊維は、オヒョウ楡の内皮が使われています。20140607AQ

ⓒ 2016 , Kurayuki, ABE

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木の総合学研究2016 「シナの木・内皮モアダの自然繊維利用」「再生循環工芸素材」

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