固まらない引出し前板ソリッド材組手 Wrapped Dovetail Joint 設計ミス事例 デンマークTranekaer Furniture 木のジョイント-27
家具のデザイン設計は単純な構造にみえても、素材の個性・構成部材のデティールにより微妙な動きが出て、目違いズレ・剥離の不具合が顕れる。経年変化を読み、基本構造・正しい仕上げを知らないと、後から困り大変なことになることが多い。スタイリッシュで外見が見栄えしても、木の性質を尊重した使い方、基本ジョイント組立仕様を間違えると会社自体が立ち行かなないことになる。
デンマーク中古木製家具のレストアが盛んですが、30年使用すると品質クレームの原因追跡、強度耐久性や基本加工技術の検証ができる好機です。
戦後ドイツ家具の量産技術を採り入れながら、本来の手仕事・基本構造を機械加工で置き換えて簡略化した結果、塗装クラック・目切れ・留め隙間アキ、メチガイずれ、接着層剥離など、ソリッド無垢材特有のクレーム修理に負われはじめ、メーカー基盤ががゆらいでしまうことになりました。
制作現場を訪ね、製品を複数購入。実際に長期間使用して経時変化を記録していますが、美しい比重密度の高いソリッド材は、使いこなす基本技術、仕上げ塗装の念密な手順、ハードウエアー制作能力などが問われます。たかが引出しでも、摩耗し接合・ジョイントも暴れると修複も手に負えない。目立たないけれど重大な結果をもたらす事例です。
前板は、Wenge 目の詰んだアフリカ材に北欧産のWhite Birch材をつぐのは、密度比重・硬度差が大きく熱伝導率も大幅にふれる。細胞組織の違いは大きく、熱帯産材は密度が高く熱伝導は速いので冷えようとし導管も太い。寒冷地帯産材は、相対材密度は低く温もりを保つ性質でこの異種材接着親和性は低い。加工時はきつく閉まる感じでも、実際には接合部は濡れず、糊切れ(欠膠剥離)を起こす。引出し前板はどんずきですから、側板との結合部は直に衝撃があたる。赤道熱帯域と北欧極圏材では異質異相、馴染まず相性は良好ではない。
シンプルデザインをバックアップする内部の基本構造を知らないと品質クレームに
意匠的にはBlack and White ハイコントラストがノーブルな表情を生み、引き手を前板下端をざぐりモダンデザインにまとめた結果、下端は包まず開いたまま。引出し前板と側・底板が突きつけになり、しっかり固まりません。ダブテイル形も大振りで、最低限三口はないと接合強度不足。この場合、鳩の尾は真ん中ひとつで引っ張り強度はくっついている程度です。引出し構造の伝統技術力は浅く、ドイツ家具のような頑丈で詳細部まで考えぬかれたテクニックがなかったために、組手枘割り付けが粗く、接着不良が後に発生したもの。Wenge材がヨーロッパ圏でブームになった一時期がありました。
抽斗仕様
340 x 620 x 60 mm 二段摺桟仕込み
前板 Wenge 柾目ソリッド材 385 x 77W x 19mmT 側板・先側(サキカワ)白樺ソリッド材12mmT 上端欠き込み段つき 底深さ40mm底板3mmT バーチ突き板合板 3mmT ボディ:Wenge 突き板 0.6mmT 練りつけ木口張り 先側タッカー止めに底板木ネジ固定の安物仕上げ(剛性強度不足)
ハンドワークならば気がつく「落ち着かない木口接着、糊切れ」無理な組手ジョイントです。引き出し前板デザインはシンプルで好感度のモダン、内部を箱組にして剛性を保持し、側板を厚く、前板に組手を配するならば同等材を使うべきところ。指かかりを下端につけて延ばし(余長)、引出し時の前板側面デティールを手仕事風にしたのが逆効果になりました。さらにタッカー打ちをみたら気絶しますね。
用材はエキゾティックで美麗な色調の貴重材や欧米の選りすぐり銘材コンビネーション。デザイン寄せ木は、気品と格調高い雰囲気をもつ最高級家具として販売され、北欧家具のステータス高揚ともに羨望を集めたブランド家具の存在感はとても大きいものでした。木の材色・テクスチャーの魅力を十分にいかしたダニッシュモダーン家具作品としてノーブルデザインを送り出しましたが、組手ジョイントに機械加工はアブナイ。ルータービットは曲面切削穴ですから嵌合度は低く接着剤で固定されるので接着剤が効かない場合、画像のように浮きズレます。外見は同じようでも、ハンドワークは枘穴に底ツキ矩形で弾性固定、きつく嵌まり緊結します。
マシンダブテイルのテーパーによる拘束力は、外力で破壊される前に枘内側がすべるので、外見は似ていても手仕事の緊結強度耐久性はなく、接着剤で固める別の次元のジョイントです。
Tranekaer 社 Tranekaer Kirke 城主 President Count Preben Ahiefeld-Laurvig
伯爵自らが経営する工房で貴重木の寄せ木トップ最高級デスク・テーブル類を製作。
Design by Gorm Lindum Architect
Tranekaer Furniture : Tranekaer Castle , Langeland Denmark
ハンドワークの基本構造をマシン加工で簡略化する無理なジョイントデティール
デザイン優先でDove tail マシンのビットピッチをそのまま使い、前板とのジョイントが余長下端フリー、固め包まず。アリ型枘顎のテーパー咬み合いは、引き方向から無垢の前板は面あたりで反りかえる事になります。25年使用 更に、堅木前板厚が19mmですから側・先板は同等にしないと剛性は不足します。引き出しサイズ箱寸が大きいわりにスリムな枠まわしで軽く、固めるには前板底板下端に補強材が必要。実際の引出し荷重は収納物でかなり重くなります。
造作家具でも、現場で削り合わせをするのはその時は納まりますが、少し立つと渋り開かず、まして使用中となると大変厄介でした。
引出しは、形・見かけより材料を喰うだけでなく仕事量も多いのでコストアップ。既製品は引き出しを減らし、構造部材加工を省略してコストダウン。扉開閉頻度にくらべると、収納物をいれた荷重状態で繰り返し摩耗させているわけです。湿気の多い国では、内容物を保存するためにきつめの仕込みをしてきました。「開かずの引出し」は、受け桟下端に天板を節約すると入れたものが起き上がり、ぶつかるロックダンスも起きるのです。ガイドレール金具使用は、材料節約・コスパ重視で密閉は出来ませんから収納保存性能・耐久性は低い。
本来、設計仕様と現場職人技能のコラボが製品に反映して品質劣化・クレームを抑制する。
建築家の設計図面では、デスクトップソリッドフレーム留めズレ、 引き出し側板の動きなどの納まり・ジョイントデティールまでは検討されず、ベテラン職人に聞かなかったようでした。木の摺桟仕込みではなくガイドレールを使えば前板と箱体の分離がされるのでメープルで手仕事をみせるのが逆に問題を残しました。工場制作現場を見た時は、やがて起きる不具合の予測・品質クレームは定かではありませんでしたが、既に化粧銘木寄せ木パーケット接着層で2mm厚の木部塗装表面クラック発生が品質問題になり、二液型硬化剤による劣化が判明。透明一液性ウレタン塗料に変えて終息しました。
価格が高いエグゼクティブ用木製家具は、わずかな傷や変形でもクレームがつきやすい。Export商品の客先からの返品修理は難しく、使われる塲所も温湿度、空調、ライティング、夜間温度変動、化学物質の影響や摩擦スクラッチ、移設時の再組み立てダメージまで気を遣うことになりました。
引出し基本構造「Wrapped Dove Tail Joint 包む鳩尾」欧州と「鬢太天秤」日本のイメージ・枘形、箱体の違い
抽斗側板+前板のジョイント部は、収縮反り変形を読み、鬢太天秤の枘型を割り付けます。箱寸のボリュームに応じて側先・底板の厚みバランス・仕込みが変わります。
指し物は、ベタ底で「側板・先側サキカワブドウシ」同等板厚で先隅は相欠き、三枚組みなど箱で固める。底板は重要な剛性エレメントであり、箱矩形を確実に固めるとともに材の伸縮を吸収出来る納まり(逃げ)が常識。
欧米のDove Tail は鳩の尾っぽの形で胴の部分が太い枘型イメージ。「包み蟻組接」は、明治以降 英文 Wrapped Dove Tail Jointを当てはめたもので、日本では「鬢太天秤」が正調な名称です。前板木口が見えがかり、鬢太は顔側面のもみあげをイメージしたもので、前板を面(つら)に見立て枘勾配や割り付けが異なります。主に抽斗・箱組の前板-側板に使われます。
デンマーク家具のトップクオリティブランド「Tranekaer」
パドック・ローズ・チーク・ウエンジ・ブラックウオールナットなどエキゾティックウッド貴重材のソリッドカラー質感をふんだんに使ったエグゼクティブオフイスファニチャーでした。作品裏面や脚にはゴールドメタルプレートをつけ、Danish Furniture Control デンマーク家具品質認証の銘板を表示しています。
*Tranekaer社 制作仕上げアドバイスで1981年5月7日訪問 1982 – 1990 田園調布テーブル館よりTranekaer 会議テーブルデスク、日本向け寄せ木モザイクテーブル、Wenge収納棚を購入。ソリッド材の経時変化を観察。
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木の総合学研究2016 – 2019 「木工組手ジョイント考」 「Wrapped Dove Tail Jointと鬢太天秤の違い」
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