「木」と教育 | 「木識・木学」 | 木と人間の関わり | 木の内科 | 木の総合学
「材料学特別講義 2016」名古屋芸術大学デザイン学科 補講−1
デザインを専攻する人のための「木の材料学」。木の総合学研究から教科目を編成し、プロの現場の実学として講義しました。「木」のマテリアルをさまざまな分野から総合的にとらえ、デザイン関連の職能に必要な基本的で専問度の高い知見を身につけることが実際のビジネスシーンで大いに役立ちます。
木の知識は、構造や道具刃物、環境・資源だけでなく、造形美の本質、技術や歴史・伝統について多くのことを学ぶことができます。
本稿は、NUA名古屋芸術大学デザイン学部前期特別講義 20160728 受講生のための補講内容です。
はじめに
「樹木の嫌いな人はいない」「樹木があるところに、人間は住むことができる」「木目は美しい自然の芸術」
有史以来、ECOマテリアル・再生循環自然素材は、人類の生存基盤であり歴史・産業文化を支えてきました。
Tree and Wood 国や民族を超えて、デザインイメージを伝える事が出来る共通した原風景・意識であり、子供でもわかる明快で重要な根源的な存在です。ほとんどは安全・無害の素材ですが、人間の本性に深く関与している生理的、環境マテリアルであり、生存基盤、再生循環する基幹資源という見方が近年生まれました。
木に囲まれているとリラックスし居心地がよく、木の床は裸足でも気持ちがよい。地面に厚目の合板をしいて仕事をすると疲れにくいので怪我が少ない。コンクリート・石の上は落ち着かないのです。
最も身近でタダ同然の優れた便利な資材として使いつづけてきたので、空気のように普段は特別に意識しません。とてもいい感じは誰でもか感覚的に理解しており、樹上生活から進化した人類のテクノロジーの歴史は「木」から始まりました。デザインの本質、親和性に富むベスト自然マテリアルです。
□「木」にかかわる現代のデザイン・造形産業分野
木工・家具・建具・インテリアデザイン、建築設計、商業施設・展示デザイン
グラフィックデザイン・画像・ビジュアルデザイン
玩具・遊具・体操・スポーツ用具類
教材、文具・オフイス用品
工具・武具・道具類
楽器・装身具・宗教儀礼品
造園・公園・都市計画、グランドデザイン アートアンドクラフツ
この他、木の属性やイメージを利用した広告デザイン・メディア、医療・娯楽など多岐に渡ります。
木目・材質は、「立ち木の自立姿勢・樹体」倒れまいとする樹形の命そのもの。
積層年輪・芯柱硬化・逆目・斜め・バイヤス・筋違い・放射組織・逆放射向芯組織横筋などで、様々な風圧や自重、地面の傾斜に倒れないように構造組織を強化しながら生き存えます。
そのボディカット内部が木目(木理)として現れ、樹種の性質に個有の特長があります。
図-1. 樹木の基本的な部位名称 (樹形・枝出し・根張り・斜面の応力変形)
木裏よりも木表のほうが、木目は美しく見える。
樹皮外側へ年輪生長するので木理が盛り上がりマルチレイヤーになり奥行き感がでます。
天然木は、植林木に比べ材質は緻密で材色・木目は変化に富み美しい。外周辺材(白太)と芯材(通称赤身)のはっきりした樹種と芯央部がないフラットな樹種があります。
用途により、木口割り=製材方法・寸法・切断方向がことなる。樹皮や辺材白太は生長活性期にあり水分や栄養分が多く、軟質で木喰い虫・黴びが入りやすい。乾燥収縮率が大きく反り変形するので、含水率を落として品質を安定させる。
実際に使える部分の材積比率を歩留まりといい、無駄なく価値を高める用材ノウハウも重要なテクニック。
図-2. 原木製材・木取り材料名称
内部構造耐力の形は単一ではなく、複合して独特の樹相を造ります。
図-3. 立ち木樹体の耐久力 外部ストレスに耐え倒れない仕組み(木目・年輪樹体に影響した後遺メモリー)
枝つき出し・枝元(圧縮)針葉樹:天然木檜 70rys. スプルース植林木 60yrs. 周辺部は厚縮構造
枝別れ分岐:広葉樹の枝部は引っ張り構造 白樺10yrs.
⑦ 鬼胡桃 79 yrs. 元口「斜目」バイヤス入り縮み杢
樹体の重さが元木にかかり、風圧・捩れストレスに耐抗して幹に生じる拮抗組織変化。折れず、倒れまいとする構造(会津坂下町河畔林のオニグルミ 2010)
⑦ミネバリ 斜目バイヤス (木曽福島産出2016)
水木40yrs. 斜面立ち樹の根元縮み・引っ張りアテ
カラマツ人工植林木の目粗芯部 55yrs. (松本市入山辺梨の木平2015)
槐・自然林広葉樹目詰み芯部 90yrs.
木材の物性・審美的感覚的なマテリアル
強度・重量・硬さ・比重密度 音響・接着 曲げ・捩れ・剪断 緩衝・断熱性・吸収・遮蔽・摩擦などをもつ機能性素材です。
木材は自然の芸術的素材といわれ、そのままの素地、テクスチャーや木目模様「杢」・音感・香りを賞揚します。
「木」は、感覚的・情緒的でもあり、最も人体になじみ、表情が豊かな親しみやすい生物素材です。
Ex.樹種活用事例- 1「白樺の優れた多用性・有用素材」
工芸材料、医薬・エコ健康素材・食材、精製アロマオイルとして活用される樹木「白樺・朴の木」他
医薬的利用、樹液飲料の樹木利用
木と医薬、衛生・健康マテリアルとしても近年研究が進み注目されている。
教室では、燃やせませんでしたので実際の燃焼を画像で補足します。
白樺樹皮のサバイバル火付け方
表皮には油性WAX成分が多く、着火が早く勢いよく高温燃焼します。
樹皮は横に裂けますので刃物で横に切れ目を入れ、剥がして丸め、上方を切り拡げてずらし着火。
火力が強く油性分が燃え上がり、もくもく黒い煙がでます。(20160520 倒木玉切り)
樹皮縦切りでは、燃え上がらず消えてしまいます。
サンプル材:50 yrs. 2016年5月倒木伐採・玉切り
1902年(明治35年)1月八甲田山雪中行軍遭難死事件で190余の遭難死が起きた事例では、マタギのサバイバル知恵があれば火を起こせたと言われる。
また、樹皮は菌類・ウイルスに分解されないので山中に樹皮だけ腐らずにそのまま残っています。
枝幹木部も診療用糖キシラトールの原料としているほか、抗菌・抗がん作用等のメヂカル研究開発が進みます。
白樺樹皮工芸なども寒冷地方では有用材,北欧では春を告げるメイポール(夏至柱)民俗樹。
白樺は穏やかなすがしいクリーンなイメージの景観樹として造園設計にも良く使われます。材は衛生的で食品軸、容器、家具・建材等、多目的に利用される。
樹種活用事例−2.古代も現代も有用素材として活用される「松脂ロジン」
樹脂性分はむかしから利用されてきました。滑り止め、石鹸、製紙バインダー、インキ、テレピン、ハンダ付けフラックス、センサー、弦楽器、プリント装飾基剤、香料、鋳型、薬品 etc.
・樹木と民族文化・習俗 タッチウッド、ノックオンウッド
自然静物素材としての樹木と人間のかかわり 好感度が高い意味・効能・利点など
身近で親しみやすい 疲れない 寛ぐ 肌や目に優しい 快適 温もり 落ち着く 安全・保護 etc.
木の上で食べると美味しく感じる 木登りすると頭脳・全身運動で体調が向上する
・最新のハイテク用途開発分野 バイオ発電 ミクロファイバー(CNFセルロースナノファイバー) メディカル医療 森林セラピー メンタルケアー 食材酵母 電磁波・放射線遮蔽 透明化木材
立木の太陽光自然エネルギー換算と経済的価値
自然木の生長バイオコストと石油エネルギー / 樹齢200年の材積とオイル換算・素材コスト
木肌 テクスチャー・材色・性質の特徴
・世界の木材色は、生育土壌・環境により変化しますが、同じ地表に生きる人間の肌色も類似しているように見えます。土壌や日照・季候、菌類昆虫,動物・人間の影響を大きく受けています。
・日本の主要樹木は、火山灰土・腐葉土の影響で淡褐色系で、東南アジア・アフリカ産材に比べ、赤・黒・焦げ茶・黄色の濃色材は少ない。
・北極圏・シベリア寒冷地材は、凍り付かない暖かみを維持するソフトな保温性材質 生長速度はゆっくりで冬期の気象に耐えるため肥大年輪幅は細かい。
針葉樹は触ると材組織の熱伝導が低いので暖かみを感じる。温もりとクールな素材があるのです。テクスチャーと視触感,イメージや雰囲気など材質のもつ優れた性質として評価されます。
ぬくもり暖まる材と冷える材
・アフリカ・熱帯雨林、高温地帯は樹体密度を高くして放熱、生体維持のため冷える硬木濃色材が多い。密度比重が高い材は、触るとクールに感じます。また、薪を燃やすと本能的に生きている実感がわき、心も暖めます。
木理・肥大成長速度は、個性的で樹種によりまちまち。
木材の性質は、無害安全・絶縁性・遮蔽保護が定性ですが、樹種毎の個有の違いや変異・例外が多い。
木の流行色・デザイントレンド
・景気が上向くと明るい色調の素材・塗装色は白い家具・軽快な明度の高いカラーが流行ります。(ファッションと似ています。)
・不景気になるとダークカラー濃色が多くなります。汚れが目立たない,重厚で安定した高級感のある色調が目立つようになる。
木材の塗装濡れ色の比較
Claro WalnutとGranadillo(King Wood)
・針葉樹と広葉樹材面の濡れ違いと特長について (塗装手板見本)
針葉樹に比較すると塗装濡れ色が深く引き立ちます。素材表面の細胞繊維・極微管孔木部組織に浸透して反射光で質感が重厚になります。素地の状態では木目がはっきり浮き出ない。サンディング研磨により塗料の染み込みが大きく拡がる。針葉樹材は、仕上げカンナでそのままの木地でも美しい。
・木材流通と規格・呼称 商材と市場経済 産出地、土場・原木市場・製材・木取加工工程・木材部位別仕様 木材ビジネスの商慣習
・伐採時期 秋の彼岸を越えてから 厳冬期・新月(闇夜)の伐採が望ましい。水を揚げ始める春先から秋口までは伐採はしないのが原則。
・木の材質・商材用途品質・規格・商品価値
原木丸太・玉切り・木口割り・用途別製材 自然乾燥・天乾 / 人工乾燥・人乾 銘木・優良材・一般材・特殊材 練り物(接着) 役物(化粧材)・野モノ(屋外・下地用材) 品質工業規格
・擬木イミテーションと木目の自然「ゆらぎ」
複合板・ボード・合成木材・プリント人工木目・セメント化学工業製品で,インキやプラスチック樹脂、印刷シート・骨材が成分です。化粧という名のカモフラージュ・擬装。
添加物・顔料・粘度・木粉チップ・塗料・バインダー・接着剤・溶剤でかためてあり、人体に取り込むとダメージを与え健康を害します。木目風に表面を仕上げると売れるので、メーカーは製造をやめません。人間は、1/fゆらぎのある木目模様が大好きなのです。
実物サンプル材について(代表的樹種)
ヨーロッパ各国の樹種にくらべ、日本の木は種類が遙かに多く、個有の優れた性質を備えています。サンプル材は、80 -60 cm L 長尺・ブロック材など質量を実感でき持ち運べるサイズ、大きいものが望ましい。
下二段 水楢・櫟・コナラ・柏・白樫・ブナ赤
・ブナ科 ドングリの実のなる樹(日本の森林国土はブナ帶と呼ばれる)
ブナ(赤・白)・櫟・柏・水楢・大楢・コナラ・アベマキ・樫(白・赤・青・一位樫・アラ樫)、椎の木(春材部と秋期生長が逆に拮抗する交差木理となりブナ楢樫とは異なります。)、栗(幹の髄線:水平に入る逆放射細胞組織が違うので、分類属科を厳密にする必要があります)。
上段 黄;キハダ 紅:ハクジ 白:栃とトネリコ 褐色縞:シナの木
実物サンプル材の一部紹介 (画像追補予定)
□針葉樹:檜・杉・赤松・姫子・サワラ・栂 他
□広葉樹:朴の木(丸太カット)シナ赤・青 山桜 欅 銀杏 栃白・赤 トネリコ オノオレ樺 ウダイ樺 水楢 コナラ 櫟 柏 ブナ赤・白 栗 ケンポ梨 梨 カタスギ シデ 水目 キハダ 山桑 アサダ赤・白 シオジ 栓 水木 タモ 漆 楠 タブ ニガキ 一位 柿 楓 槐 榎 桂 シウリ 鬼ぐるみ 沢ぐるみ 白樺白・牡丹 白樫・赤樫・青樫 他
□有色外国産堅木材:縞黒檀 紅木 紫檀 パドック ブラジリアンローズ Wenge リグナムバイタ (唐木・貴重木)
濃赤色系は熱帶酸化鉄土壌に多く、個有種朴の木緑鶯色は全世界でも稀少な材色です。
国産材の多くは、火山灰土壌の影響で中間色・灰褐色を帯びています。
朴 シナ赤
栃白 オノオレ樺
水楢 コナラ
櫟 柏
ブナ赤 白樫
赤樫 青樫
水目 アサダ 白
山桜 キハダ
タモ ニガキ
イタヤ楓 鬼ぐるみ
緋カツラ カタスギアズキ梨
ハクジ 香木 シウリ
エノキ 黒柿
槐 ビンロウシ
縞黒檀 Ebony Macassar Wenge
グラナディロKing Wood 紫檀
紅木 Padak
Brazilian Rosewood Lignum Vitae
材質・寸法・形状による用途・性能
色・音響・粘り靱性・硬度・香り・肌相・木理・木目・杢 堅木 楽器
規格材 F1 突き板 ソリッド無垢材 集成材 芯材・辺材 美観
その他の資源・原材料、媒体マテリアル利用
染め織り 紙工 炭 灰 樹皮 花葉実根成分 茶飲料 香料 研磨材 道具柄 工業材料 臨床・リハビリ・癒やし・治療
天然記念物 保存樹 環境防災 庭園・街路樹・公園植栽 ランドスケープ 観賞 演出 教材 画像・図象 その他
実感リアル材料学とネット補講 実学の試み
講義は顔を合わせ相対。でもリアクションがないとレクチャーは、TV番組、モノローグになりかねません。また、目で見て触らないと現物の質感や香り、重さも解りません。素材の生々しさやリアリティが欠落するインターネット上では無理な講義でも、補講ならば画像補完・資料配布ができ、ある程度の実感は伝わりそうです。
追補修正がきる便利なネット上では受講者の姿が見えないので、電子文字・画像だけの世界は電子掲示ボードとなります。
実際の教室では板書で簡略しても受講者が解釈されて手を動かし、ノートするので講師は簡易に描きます。対話していると勢いがつき乗ってくる相互作用があり充実。
因みに、ネット上の乱雑な走り書きやイラストは下手な仕事と五階されかねなません。授業後にもできるオープンネット補講の試みは、継続的に内容を更新でき知見を充実することにつながりますから、資料もリライトして再構成。イラスト図版も仕上げて、遅れてばせながらアップ。また、ネット上の公開は高い完成度を要求されることに気がつきました。
樹木には、未知の未解明の性質や事象があります。木の力に偉大なものを感じていますので、さらに深く探求したいと思います。木の仕事は、木の命に向き合うことから始まる。
※ブナ・楢・樫・桂・朴・瓜肌・栃・白樺・オノオレ・ウダイ真樺・ニガキ・シナ・藤・かまつか・糊空木・タモ・水目・白樫・青樫・アズキ梨について「木の内科」を別ページに掲載しています。
*「ビンロウシ」「びんろうじ」は明治末期までは木色杢優美な工芸商業材として扱われています。 和風指物「東京指物」 堅木類ノ指物用材 S:「明治45年 木材ノ工藝的利用」
*Claro Walnut USサンプル材は、工房悠・杉山裕次郎氏提供による。
Copyright ⓒ1985 – 2016 , Kurayuki Abe
All Rights Reserved. No Business Uses.
複製・変形・模造・転載作り変え・画像転用・ロボット、Ai無用、業務利用を禁じます。
木の総合学研究 2016 – 2019 「木の材料学講座」「樹木とデザインの実務」「材料学特別講義 2016 / NUA 名古屋芸術大学デザイン学部」
▼ お気軽に一言コメントをどうぞ
次の記事:コモンセンスでは理解出来ない白樫材の不思議な挙動「板目取りが柾、柾目が板目性質」進化した不倒構造樹体・生存適応インテリジェントソリッド Insight 木の内科-29 →
← 衝撃振動を吸収する強靱なカマツカ・ウシコロシ細柄「赤・黄」識別 未知の棒材をカット初材見 ダメージ受創抗体治癒・セルフキュアー Insight 木の内科-28