「木」の道具・工具工芸木工

木工挽物名工「榛葉工芸」練達技能は刃物火造り自作 内製一貫 超ベテラン本職工房の研修イクスカーション -03

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

聞く方のレベル次第で解説講釈はドンドン拡がり、技法の深奥が直に身にしみこむ貴重な時間。相対で実削しながら伝授されるノウハウは、全て体で覚える身体記憶です。

削り屑の出方、刃物あたりの感触や音、動作手順はもとより、作業場の雰囲気すべてにカンコツ直伝。本職の手仕事ノウハウは教科マニュアル的ではなく、臨機応変、リアルに惜しみなく披露される。「時に習う」こうして次世代は、一派師の工芸作家になるのです。

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熟練職人から木工旋盤・轆轤の要諦を学ぶ機会ができ、友人後輩揃って先達の仕事場にお邪魔板しました。普段は聞けない手仕事の奥義、数量をこなす独自の刃物治具製作から、実際の挽き方テクニックまで、親身な熱い指導を受けました。

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現場で切削音や刃当たりの感触を確かめ、親方に見てもらいつつ実削しながら体で覚えていきます。現物の質感や削り屑の飛び方、刃先のびびり、音は画像では伝わりません。旋削と平面板切削では、被削物を回転させるのと刃物側を移動回転する違いですが、刃物を当てながら成形するので、木地木肌の研磨・塗装までケースバイケース。材料のくせによりだいぶ異なります。

親方は修業して覚えた技を次世代へ伝える時は、生々しいものはそぎ落とし、洗練したエッセンスで伝授します。また、使いかけの道具刃物を綺麗に手入れ整理されてしまうと手仕事の際限が消される。手の動き、削り具合や良否は見えなくなり、途中そのままの状態を見たい。余所行きではなく、あえて掃除しない時間帶に伺うことにしています。削り屑の出かたでも刃物の当て方や加減がみえてきます。プロは数量をこなし、手早く多作でないと注文に応えられない。

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既製刃物を買っていては間に合わない

刃物はすべて自作、バイトはHSS棒鋼・平鋼材を火造り。丸鋸盤・丸棒削り装置は自前シンプルなもの。外註では直ぐに対処できないだけでなく利益も出て行ってしまう。内製は工房維持、経営の基本。オリジナル刃物を造れてプロの領域です。

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木製簡易丸鋸盤 昭和30年頃 軸・レールのみ鉄製

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地元木工家のプロがこぞって賞賛される挽物旋盤名工榛葉さんは、熱く自作の道具刃物で実物伝授。教科や常識に囚われない手仕事の本質・規範を語ります。

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ネジ山切りHSS刃物 自作 量産型   縦轆轤は反転足踏み式

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ネジ切り用ブロック刃や平台カンナ台を旋削用に改造するなど、多量の注文をこなすため独自の刃型・治具を仕事にあわせて考案自作。鑿鑢鋼材を改造したものは長切れします。樹種や材質でも焼き入れが違うようです。火造りは長い時間同居しないと覚えられません。

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丸棒削り刃:15mm ・16mm (面取り盤刃転造火造り自作)長切れ

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常識を越える台カンナの内丸R アテ押さえ削り
刃口を斜めに開け、シリンダー形状を素速く量産でき能率抜群、安定し手持ちで疲れない。鉋台打ちもビックリの見事なアイデアです。

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手鉋同様、旋盤加工も逆目をいかに抑えるかが基本技能の一つですが、逆目、斜目、縮み、捩れ・硬軟、内部応力もバイトで綺麗に挽き別けるのがベテラン。木目をみて瞬時に挽き方を判断し、バイト刃先のあたりに応じて手の動きを微妙に調節しています。形状が変わる度に治具・刃物を制作。この道60年のキャリアです。

聞き取り取材した門外者が用語をいじってはいけない。「逆目」と「倣い目」 順目とは言わない専問職

「逆目」は、木繊維細胞が生長方向と反対に出来る、木が倒れまいとする樹体の構造的拮抗バランスそのもの。生育環境が細胞組織に深く影響を残し、硬軟不整、癖もの、暴れるなど切削性に直説関与します。通常、削る時は木目年輪の伸びる方向に忠実ならば刃物あたりもスムースですが、逆目にぶつかると、むしれ、めくれ・けば立つ粗い切削面となり、平滑な仕上げができません。逆目は規則的パターンで現れる材質とイレギュラーに表出するものが少なからずあり、一様ではありません。刃先角を寝かせたり、薄削りでは逆目は起きにくい。オーダーに応えて数量・ボリュームをこなすには、既製刃物では限界があるのでセルフメイド。考えれば、外註では収益が外へ出てしまいます。

「逆目」に対して木成りの「順目」という公務員が造った用語は、職人が耳にするとざわつき、異様に響きます。現場では、刃物に逆らわない木目をセットすること自体特別に言う必要はなく、木なり木目に従うのが当たり前。「順目」という用語は、最近の木材研究者の使い方であるとベテラン職の説明でした。「倣い」には、逆らわず従う、尊重する意味がこめられています。「習い目」ならば間違いではなく、「正目」「まともな木目」とは言わないし、順目を「ならいめ」とは読まない。逆目も斜目も混じり、難なく仕上げるのが職人技の基本。ことばはコトダマです。継承者でない俸給職員が歪めてはいけません。

「榛葉工芸」榛葉佳治
主な仕事:横浜ダニエル家具挽物パーツ、近隣の木工家具メーカーの特注、現代彫刻家最上 壽之の作品制作などを手掛ける。国内随一の技能保持者です。
〒 427 – 0012 静岡県島田市蓬莱町 6 – 4   TEL. 工房 090 – 5115 – 2312  自宅0547 -37 -7311

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*同行メンバー 長澤壽雄 (株)ナガサワ 代表取締役 「木の育児家具デザイン製造販売」島田市、工房悠 杉山裕次郎(木工職人的作家)焼津市、木工屋みしょう はやし弘(特注家具制作)長浜市、 Chaju 108 日野 健 京都市西陣(創作木工家具)現在は出雲市平田町に移転、 阿部藏之 松本市 .

※ 2023年9月27日 訃報がありました。

ⓒ 2016 , Kurayuki, ABE

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木の総合学研究 2016 – 2019  「木工挽き物旋盤・轆轤加工」「旋削治工具・刃物」「ベテラン木工房訪問研修」

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