巨樹見学紀行木と人間の関わり木工樹木調査

栃の王国-4 巨樹 新月伐採見学会 奥会津「栃の木の時間」

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

最大の地表生物が伐り倒される始終に立ち会い_稀少巨木伐倒の現場迫力・木の時間を体験

春の巨樹見学会のお次は秋の新月伐採見学です。新月:闇夜の日の伐採は、月の引力で木に特別な重力変化が起き、この日に切った木は、火が付きにくく・虫喰いがなく・狂わないと木樵伝承されてきました。スイスの大学では、科学的にも研究、実証されています。新月伐採とは

日本でも貴重な大木を切るのは、新月・闇夜の日とされていましたが、経済優先、人工乾燥、雇用事情でいつでも切ることが横行。水を上げ始める春先、生長最中の夏場でもかまわず。木を慈しみ、いたわることもなく。経済成長がスイッチをいれ、大径木を勢い切り尽くして今や数百年・高樹齢の保存樹だけになり国内森林では見当たりません。巨木を切り倒す現場をみる機会は一生に一度あるか無いか。里から遠く離れ、急峻な傾斜地でないともはや自然樹は有りません。奥山に入り、この作業を是非見ていただき、自然の営みや循環系の材料として人間が関わり続けた仕事に立ち会う機会をつくるため、栃の王国見学会のハイライトとして一年一度の伐採見学をはじめました。この貴重な木材を有効に活用できるベストタイミングが成長活動を休止した晩秋から冬の新月の日なのです。巨樹は観るだけの観光見せ物になりましたので、切ることは犯罪的に観られがち。

作業は、前日から道開け、安全対策をして当日のゲストを迎えます。参加者は、専門家・大工・木工家・学生・林業家・材木商・教員・公務員・リタイヤ趣味人、アーテイスト・クラフトマンとさまざま。林道をあがり、ガイダンスを経て斜面の現地に登ります。間伐カット作業とは異なり、大木・巨樹の伐採はプロでもベテラン最上技能です。枝にぶつかるだけでも大怪我、木の下敷きななればおしまいですから、事故無きよう見学者への配慮は相当なもの。嘗ては手斧から木挽き鋸になり10倍、チェーンソーになると約100倍のスピードで切断されます。
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切り始める前に、お酒を上げ敬意・安全祈ります。梯子や木登りフック・安全ロープ・数台のチェーンソーを使い、樹上での太枝切りをし(倒れたときに幹を痛めないように)、倒す方向の受け口という斜めカットを入れ、中心部へのつっこみ切りなど次第に切り口を大きく切除、最後に側の根背筋に切り込み谷側へ倒します。
切り倒す間近は、全員が気を張り、注視。その瞬間は空白となり、ぽっかり開けた切断面木口が露出し、鮮明な組織が見えると走り寄り目を見張る。重量感溢れる生き物の実感は、見る人を引き込む力が有ります。
意外性や新鮮な体験が身体を包み、急斜面を自在に歩き回る御仁が多いのも不思議ですね。転倒すること無く、杖は、いつしか使わずにスタスタと下山、野生の動物神経が蘇る時間でした。そう言えば、見学会で介護されて登ってきた高齢の一家は、御大が巨樹の前で足腰が立ち、自力で動きだした事に驚愕、肉体に響き動くものが確かにありました。幸せな「木の時間」でしたと感想しきりです。
切る巨樹は、樹勢が止まり朽ちていくものを選別、搬出ルートを考慮し、放置すると倒れた時に斜面を崩壊するので慎重に判断。地元淺岐地区の共有林で県の許可などすべて法的にクリアーしています。前日から搬出まで一連の作業を記録しています。(伐採は、会津の名杣 五十嵐 馨 )
「木」を切るという営為がどういうことなのか、人体が反応する哲学的な考察はまだ見当たりません。モノをいわず、動かず天空にそびえ立つ巨体に何がおき、感じるのかもまだ科学的な研究も皆無。「本当は痛いのさ」と詩人は表現できるけれど、細胞学的には極めてあっさり切断現象に見えます。闇夜の樹にきいてわかる時がいつか来るでしょう。
里に運ばれて次は「木の内科」が生で見られる「製材見学会」に続きます。(全ての費用は、材料頒布でまかなえる程度ですが、目的は「木と人の関わりを深める」ことですからスピリッツで推進。)数百年の生物時間ステージ、普段は見えないものを観ることから何かが動き出す予感が。水や空気のように「木」を特別に意識することは希です。
ⓒ 2013 Kurayuki, ABE

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「木の総合学研究 2013 – 2019 「栃巨木伐倒見学会」

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