クラフトフェアデザインの目工芸

クラフトイメージの拡張 | 顔がみえない「メーカーもの」から 眼も手も行きとどく「クラフト・工房手法」へ | クラフツ志向は、手仕事を魅力的にする手法として刮目され始める。| クラフツフェアー作品展示の視点 ・手具論 2017 秋

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

「クラフトスタイル」は好感度・集客効果が高く、各地のイベントは増え続ける。普遍の生業にクラフツ志向が高まり、生活用具から「食」の領域まで拡がりをみせて。「クラフツ・工房手法」は、良質な手仕事の命脈がまだある職域に真っ当な手立てとなります。

クラフツ志向の本質はノスタルジーではなく、エコロジーや環境と資源に対する配慮から、手間暇をかける手仕事の重要性を尊重して野菜・果物の食材、製菓・料理、飲料、発酵食品、ベーカリー・チョコレート製造にまで「クラフト」がつくようになりました。

他分野からのアプローチは、コモンセンスや業態を超え時代感覚を変えていきます。

加速するオートメェーション化に対して、ハンドワーク手先の技術を再評価し強調する意図が感じられますが、オーソドックスで自然素材を尊重し、有機スローマテリアルで丁寧につくりあげることをCraftsと表現しているようです。

メーカ工場生産の規模追求から、工房手法を基に小規模で無理のない、クオリティ優先の姿勢がユーザーの共感を得ているのです。

手の込んだマーケティング操作や趣向ではなく、古いやり方や伝承を基に、素材のもつ力を引き出し、良質な造りを目指す。効率やデザイン偏重を軌道修正するイニシエーションかもしれないと解釈しています。

「クラフトベーカリー」「クラフトビール」「クラフトスタイル」「クラフトチョコレート工房」どんどん増え、手仕事のよいイメージは、自然素材の加工やヒューマンタッチを形容するのにピッタリ。「クラフトを軸にしてつくり出すニューウエーブ」と呼ばれています。

自然材の恩恵 |木の癒やし作用 |クラフト手仕事の拡がり

樹木がもつ癒やしの力をセラピーにつかう「Heilende Kraft Der Bäume」という健康修援作用について書かれた本があります。森林歩きも精神作用や健康治癒効果があり、いろいろな樹種について研究調査がす進み、世紀末からドイツ国内で静かな拡がりが見られました。現在はオーストリア地方でも一つの森林療法、理美容としても有用性が認知されています。

花・実・樹皮からの芳香や樹脂・エッセンシャルオイルは、医療に取り込まれ、立ち木の発散物質のヒーリング処方もクラフトのカテゴリーとして捉えるようになります。ドイツ語Kraftは、自然力・心力・活気、動力などの意味のほか、派生して野菜造りもクラフトというネーミングがあるほど。本来の「工芸」は、Handwerk 、 Kunstgewerbe であり、手仕事や自然素材からの恩恵を意味する言葉の拡がりが感じられるようになりました。

  クラフツフェアーの本領と明らかな変化の兆し

30数年続いたクラフトフェアーには、出展者の準備・工夫、アイデアがいっぱい並び、ノウハウや刺激があふれています。各地から300もの作り手本人が作品を携え、自費で参加するのですから、一同に観覧できるオープンギャラリーウオークとなります。

 作品制作スキルから展示構成までを総合的な視点で観ると、クラフト志向は、世代の拡がり、造形デザイン重視の時代感覚を反映していることがわかります。最近、ヨーロッパ圏では、デザイナーが自ら製作までを手掛け販売する「デザイナークラフト」という動きもあり、クラフトイメージそのものが拡がってきました。

最近のクラフトフェア参加出展シーン(搬入から展示・接遇・搬出まで継続記録)

 

 

①沖原沙耶  「竹と暮らす」2014

②原澤幸治  「アトリエ原澤・鉄銀」2015

③       2015

④本山ひろ子  金属 2017

⑤安藤良輔   陶磁 2015

⑥きたのまりこ ジュエリー2015

⑦藤崎 均   studio fujino 2016

⑧クメマイコ  磁器 2010

⑨⑩松尾 剛  陶芸 2017

⑪柏木 圭   柏木工房 2015

⑫日野由英+健 chaju108 2015

⑬酒井隆司   木工 2016

⑭佐々木ひとみ 金属・布 2015

⑮(株)オグラ   木材 2016

⑯狐崎ゆうこ  木工 2017

⑰ナガオタカシ FRP 2017

⑱奥畑正宏      南部桶正 2016

⑲                     2015

作品展示の総合的視点

出展を長期・総合的に観ることで、モノつくりの資質や作品を的確に判断することに繫がります。例年、次のような八相の視点で、早朝から夕方まで撮影しながら、混雑の中、可能な限り話しを伺い、全展示小間を巡ります。楽屋裏には役物・真物が置かれているので見逃せません。

①搬入 梱包荷姿・機材 (準備・段取りから普段の仕事振りを察知できます。)

②設営 (工夫と手際の良さ、使用ツールは経歴を物語ります。)

③展示構成(レイアウトのユニークさ 用品・資材にもデザインセンスの良さを感じることがあります。)

④作品の独創性・完成度 (オリジナリティ、作品のネーミング、素材調達、制作技法の熟練度、既視感の有無)

⑤接遇 (応対の好感度は、配慮が行き届いた雰囲気と仕事の拡がりを印象づけるものです。)

⑥実演・プレゼンテーションの内容 (訪問客の持ち物、会話も注目します。)

⑦アピールの内容、インフォメーション、印刷物のつくりこみ

⑧搬出 (仕舞い片付けまで見届けます。)

美的センスがよい人物が集うクラフト月。来訪客の選りすぐりの持ち物はピカイチ。プロの眼を曳くヒューマンウオッチングの時間。

各地から遠路はるばるやってくるクラフトマン達は、作品制作だけで無く、持ち物にもいろいろな工夫こだわりがみられます。道具から工房スタイルや実力を察知することができるのです。対話から、テクニックの独自の工夫、デザインリソースや技法を開示しあう出会いとなり、交流も進みます。

 作品を観る側も、それ相応の知識が必要で、尋ねることは、逆に、こちらの知識レベルやキャリアが問われる。対面では、質問者のレベルに合わせて応えます。現実の仕事と情報は、人づてが基本です。センスある来訪者は意識も高く、選りすぐりの持ち物で登場しますから、造形センスの溢れるヒューマンウオッチングの時間。

会場では、幼児が元気に動き回り、ファッションから小物・バックまで「こだわり」が次々と登場するクラフトステージショウ。クラフト志向の人は、スッピンの人が多い印象です。「個展の集まり」が全体をイキイキとさせ、観賞される時間ですからゴミが出ません。

アイシャワーを浴びて尖った才能は目立ち輝く

 才能は、多くの人から目線を浴びると成長できる。人前に出ればオファーが舞い込み、手仕事も洗練され、品格が際立ってくるものです。類似や既視感のないことは勿論ですが、創作物の発表では、意匠の先例を調べて真似物ではないことを確認しておくことも責務です。アートクラフト専問のライブラリーはまだありません。

作品を多くの人に観てもらうことが一番大事なものですが、優れた作品は持ち帰らず、フェアー後もそのまま継続展示ができるスペースがあれば素晴らしい。

クラフトフェアーの基本は、作品発表「個展の集合体」であり、楽しむ時間。「人に酔う」こともあります。

制作者と相対し、クラフト作品に直にふれることが出来る屋外オープン展示スペースは、商業施設ではなく個展の集合体として配置されます。自由にアポ無しで近づき、ヒューマンコンタクトが生まれる、手仕事人の出会いの場にするのが当初の目的でした。販売収益は後からついてくるというスタンス。

屋外直売所と皮肉る人がいますが、ミュージアムやクラフトショップ・ギャラリーでは、見知らぬ客に接近し隣合うことはできません。イベントでは、無意識で体が触れるのも平気ですが、他の所で近寄れば不審で怪しまれる。屋外展示ブースでは、フリー展示ブースならではの非日常的な「ごった返しの露店状態」が生まれます。

芝生広場では、見知らぬ人と盛り上がる光景はなく、それぞれ離れて寛ぎ、子供は家族の範囲で遊びます。あまりの人出に、友人の京都の花師は「人酔い」したと言いました。上質観客密度が濃いのです。祭りやイベントの人混みは、ヒューマンディスタンスを縮めてくれます。

混雑する時間帶がありますが、売らない時間帶が必要になりました。

初日開場から数時間は、人混み。優れた作品を売り切れないうちに買いたい来訪者でラッシュアワーです。当初は、来訪者も少なく、作品を選び買う人は少なかったので、のんびり隣の職人と交流していました。トイレ、飲食も行列ができてしまい、五万人ぐらいが施設運営の限界のようです。

ある展示小間で行列があり、尋ねると、「ネット上で評判の作品が作家直で手に入るらしいから並んでいる」との事でした。ブースは、空いていると入りにくいので、まばらで遠巻きに観ていきます。つまり、誰かが手にして購入していると、どんな作品なんだろう、きっと良い品に違いないと近づく心理。他人が選んで買うのは良品のハズですから、財布が気がかりモードに入ります。

最近、SNSの影響とみられる買いあさりシーンが見られるようになりましたが、遅い人は観ることが出来ません。観賞するためには、売らない時間帶設定が必要です。展示するトタンに消えてしまう。屋外売り場ではなく、作品展示と交流が目的なのですから。

ゴミがなくアクシデントが起きない。クラフツ人は意識が高い。

一日中、騒雑音やアナウンスもなく、静かに整然とゆったりとした人の流れは不思議な光景です。数万人が集い行き交う公園ですが、いままで事故・盗難は無く、出展者はもとより、来訪者もゴミをださず、汚れません。展示什器が倒れたり、作品が壊れたこともない。展示サイトで大きな音がすれば一大事です。観客マナーは良好です。マーケットではなく、個展会場の集まりですから、暴れたり騒ぐひとはいない。旅行者、子供連れのご家族が眼につくようになりました。世代交代が進みます。

営利、集客効果をねらう流通バイヤー・広告メディアは、寄りつき手を伸ばし、入り込んではいけないのです。商業ベースになると打算で動き、才能を歪め、好感度に影響します。

フリーで観覧でき、作家本人から割安で購入でき、専問職も関心が高く、海外からも取材に訪れています。

クラフトフェアーには、デザイン系大学教職、専問訓練校、ギャラリー・クラフツショップ、バイヤーなど業界筋のプロの姿もあります。若手の斬新なデザインセンスにふれ、開花してきた才能をいち早くキャッチする目的で現れています。クラフト志向の若者も多くなりました。幼児家族連れ、カップルも多く、海外からの来訪者が増えています。2017年はニューヨークからジャーナリスト三人組みが訪れました。作家直販の割安感はありますが、諸経費・時間を考慮するとリーズナブルプライスですね。

見えてきた「クラフツ志向」望ましい「クラフトステージ」

五月になると全国各地から多大の費用と時間をかけてクラフトエネル技が参集する季節となります。作り手と使い手が出会い、相対でコミニケーションでき、沢山の造形作品を楽しみます。購入後も使うたびに記憶が蘇り、充実感・手応えは確かなものです。工業製品にはない感触、職人的作家の仕事場から届く手仕事の逸品は、現代の合成無機質の時代に潤いをもたらし、人間性を回復させます。経済効率から離れ、手間暇をかけた手仕事は、すでに現代生活には贅沢なほどになりました。平和な生活文化を持続するために、次世代が創作チャンスに恵まれ、生業できる仕組みを整えていきたいと考えます。

例年、多くの出展クラフツマン、来訪者ゲストを迎え、それぞれの方が美味しいものや優れた作り手や材料の処在を知っているわけです。とても有益な知識を持ち、素敵なものを身につけて会場に現れます。各出展者とお出ましの方々に話しができたら、有益なリソースを識り、膨大な情報ストックにつながる時空となる。行き交う人びとも洗練された「クラフトスタイル」の出で立ちが多くなりました。街中では、一目でクラフトフェアーのゲストと判ります。現役世代のライフスタイル、流行色、ファッションデザインの傾向が見えてきます。優れた展示作品をフェアー後も、持ち帰らず、どこかで展示したり買い取りキープできれば、クラフツハウスミュージアムの実現にも寄与すると思います。新しい才能がデビューできる場所なのです。

経済波及効果とインテリジェンスの交錯が増幅する五月

経済効果は極めて高く、訪問者の文化的影響も見逃せません。歩く姿とセンスのよい持ち物はデザイン趣向、流行を看てとることができます。五月は、街中あちこちで雑誌や著名人のライフスタイルが飛び出します。

普段は静かで人通りも少ない文教地区に、上質のインテリジェンスが漂うことは、素晴らしい時間です。実際、非営利のイベントは、運営サポートが困難ですが、人々の知的生産活動に反映され、文化活動への参画モチベーションを高めていきます。

1985年「クラフトフェアーなんてだれも来ませんよ。県外から参加するクラフトマンはいません。」と公園使用を断ろうとした市職は、眼をパチクリしているはずです。

 デザインクラフト、デザイナーズクラフツというカテゴリー

「Artcraft 」から「Designcraft」「DesignersCraft」「デザイン工芸」へ

近年、デザインワークに手仕事イメージを強調しようになりました。(家具メーカーロゴ雑誌広告 NY  )

最近では、デザイナーが木工工房制作して作品をインターネットで販売したり、プロダクトデザインを提案するようになりました。手仕事・クラフトや工房手法を訴求しています。

自動車部品メーカーも「Crafting」ものつくりイメージ戦略  (DENSO 株式会社デンソー  2017年1月3日新聞広告)

*クラフト作品の定義は、時代により変わります。工業製品、人工合成材料主体でつくるものは、ギヤーとかグッズと呼び、クラフトと性格やニュアンスの違いがあります。

ⓒ2017 , Kurayuki Abe

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木の総合学研究 2017 – 2019  「クラフツ志向のトレンド」「クラフツフェアー出展作品プロの見方」「クラフト的手仕事、工房手法へのシフト」

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