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松山枯れは、どんなに農薬を散布してもとまらない。 1960年代からの岐阜県林政部の対策先例と定見 赤松林伐採後の杉植林と柿果樹栽培産地の半世紀後 里山辺東山山麓の赤松枯れ、ニューヨーク州ASH枯れ対策の現在  2017秋

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

現在、松本市では「松枯れ防除ネオニコ農薬散布差しどめ行政訴訟」がはじまりました。こと人体・食・生態系にかかわる重大な事案ですから、森林樹木の研究者・林業専問職は、過去の対策から得た様々な経験と知見の提供、最善のソリューションを教示することが求められています。

過日の住民説明会では、市長・理事者は「農薬空中散布は松枯れ防除に効果があり、安全で問題ない。媒介する昆虫が飛ぶ前に早くまかないと地物名産山辺ブドウ・林檎果樹類に農薬風評被害が出る恐れもある。松枯れは止まらず、いずれ全滅するが、農薬散布で被害を遅らせる。(耕地林務課長)」といい、

中止を求める母親の会・弁護士グループは、「線虫・かみ切り虫だけでなく、蛍や他の生物にもダメージを与え、子供の発達障害の危険性が大きい。世界各地で毒性が認定され禁止規制が進んでおり、散布された地区では、市民にも健康被害がでている。」と提訴、2017年5月-10月の市民訴訟事案です。

「松枯れ」は自然災害や大気汚染によるダメージ、土壌の富栄養化などの環境変化で衰弱すると、昆虫・菌類が寄りつき、腐り倒れる。

1959年(昭和34年)9月、紀伊半島に上陸した伊勢湾台風は愛知県・三重県から東海・岐阜地方にも甚大な被害をもたらし、松茸の名産地・伊自良村では、松林が倒れて松茸が全く出なくなります。村中に松茸の香りがするほどの豊穣な松山が消えてしまう。その詳しい経緯を林政部・農山村振興局のトップを務めた友人を訪ね、松枯れ森林施業と防除策について現場経験を聴き、半世紀前に赤松林だった里山の変貌と元松茸名産地の現在の様子を観てきました。岐阜県元伊自良村平井(現山県市)の赤松林・松茸は皆滅、植林した全山の杉人工林が間伐期を迎えています。

柿果樹栽培地 沢筋以外は全山杉植林

1.全山の松林が伊勢湾台風で皆滅的な被害を受け松枯れが拡がる。農薬散布を続け、次第に強い農薬を使うものの止まらす防除できない。

伊勢湾台風の激しい風雨で倒れ、シェイクされた樹木は、台風通過後に立ち枯れが続き、全山へ拡がりました。数年後も松枯れは拡大が続き、カミキリムシで運ばれる線虫を原因として、殺虫剤散布を実施。30年あまり防除対策をするものの、次第に強い農薬を使っても効果はなく,台風で痛めつけられ衰弱した樹体は、線虫や菌類に抵抗出来ずに皆滅状態に。因みに、50年を過ぎるとほとんどの赤松は寿命で枯れ、自然林でも更新期にきている林分はやがて倒れるので伐採しなければ片付かないということでした。自然の生命盛衰、いわゆる伐期です。里山は人が立ち入り、暮らしのために利用してきたのですが、電気・ガスのエネルギーにかわり松林や雑木林の役割がなくなりました。その頃から松林や雑木林は人が入らず放置されるようになり、手入れされず林床の植生も変わり荒廃していることも見逃せません。

松枯れ対策を先行した岐阜県林政部専問職の見識

「1960年代から数十年間、岐阜県下では殺虫剤・農薬散布を実施したが効果ほとんどなく、次第に強い薬剤を使うようになっても松枯れは抑えられない。林床・土壌もダメージを受けており、伐採・樹種変更、人工林育成に転換して山林回復をはたした。四半世紀前に林務専問家たちは農薬散布は無駄であるということを認識し、全国の研究機関、林業振興組織関係者にも拡がっている定見。他の県市町村でも、この先例をいかして治山・森林管理を行ってきたので、いまさら農薬空中散布というのは驚く。多くの地域で経験してきた松枯れ対策は、生態系・生物保全、化学物質の安全性、環境重視になり、嘗てとは時代が違う。」

数十年の防除対策、森林管理から得た結論は、「どんなに強い殺虫薬剤・農薬をまいても松枯れは止まらない。被害は、赤松だけでなく、林床・土壌もダメージを受けており、50年生の赤松の多くは寿命で伐期にきていた。樹齢伐期も考慮しないと無意味な農薬殺虫剤をつかうことになる。」

裸地には、荒れ地を好む赤松などの一次林ができ、数十年経つと広葉樹林へと遷る。

赤松は肥沃でない荒れた土地で初期に実生で根付き、土壌を肥沃にしていく樹種の一つです。白樺やヤマナラシも同じように裸地に生えてくるので一次林樹種と呼ばれています。枝葉を伸ばし高木となりますが、寿命は50年程度とされています。立ち枯れは、害虫や菌類だけではなく、環境順応が阻害される他の植生との生存競争も関係します。土壌が肥沃になると広葉樹林へと変わる自然更新・二次林がはじまり、地表土壌、地下根系・菌類バイオータも変わる。

通常、立ち枯れ・広域衰退は、樹種、林相が動き変わる時期と判断されます。杉・檜・唐松の植林は、長年建築材料需要を見込み、日本中で一斉拡大造林され続けました。本来ならば、針葉樹種は樹勢の強い広葉樹に負けて衰退しますが、人為的に操作され、画一的に造林してきたのです。つまり、畑地農業的発想で自然にそぐわない無理な植え方ということができます。

沢筋以外は全山杉植林 伊自良・平林地区

山麓の柿果樹園を囲む杉林

里山杉の林縁 養蜂居留により柿果樹栽培は裏年でも連続の豊作でした。

現在、植樹された杉は成長し、周囲の里山は40 – 50年生の過密で間伐施業が必要な状況です。江戸時代からの渋柿産地で柿果樹栽培もあり、松茸からの転向で経済立て直しを達成してきた地域ですが、若い世代が市街地へ出て、高齢・過疎化にも直面しています。20171017ABE

2、松本市里山辺・入り山辺 東山山麓の赤松枯れの現在

 

藤井地区: 建物近接による被圧、排気・電磁波、土壌富栄養化の影響 から衰弱し、昆虫菌類が寄りつき拡がり立ち枯れ。蛍の里環境特別保護地があります。20170617ABE

観光ホテルの夜間長期ライトアップが衰弱要因ではないかという地元意見がでている裏山  夜も明るいと樹木も休めず疲弊します。

林地区:周囲が広葉樹林化したため孤立樹の衰退枯れ

西桐原地区:林床下草の繁茂・密生による衰弱  枯れた赤松が数本程度点在する松山

近隣・中山地区 未間伐・衰退期伐期にある過密モヤシ林縁部の立ち枯れ進行 広葉樹侵入 20170808ABE

 

 

近隣神田地区 千鹿頭山裾 用水地周辺

バイパス道路貫通による大気汚染・住宅地化が進み、立ち枯れがここ数年で目立つようになりました。樹齢50年過ぎて寿命で衰弱している伐期にある純林(全山松山)

枯れ松木伐採によるギャップ(空隙地)が出来ると広葉樹が拡がります。20171108ABE

松枯れ原因は赤松老齢衰弱、昆虫類による被害だけでなく、他の環境変化や天候激変によるダメージが重なり、地域全体で立ち枯れが目立つようになりました。広葉樹の林床占拠繁茂が著しい。

市長の散布実施宣告と住民説明と市民グループの対応

医師でもある市長は散布実施を表明してから、どうしても散布すると強く宣告するようになりました。私は、三度ほど説明会に参席しましたが、農林部長は精査といいながら説明はなく、林務課長は国が安全というから問題ないといいます。母親たちは市長面会を求めましたが排除されています。発達障害脳の危険性を察知して医療・蜜蜂被害などの研究資料を勉強し、散布地域内の蛍・蝶の生息地保護活動をする人びとは、研究会を開いて知見を集積しています。果樹農家有志、蛍環境保護活動・蝶類研究グループも関心を高め、散布中止を求めていますが、散布を推進する林家もいます。

森林管理100年責任・管轄地生涯居住

とりあえず農薬を散布しても効果はないと知りながら、短期の対策や目先の営利で対応するのではなく、数十年、数百年のオーダーで動く森林環境をみることが原則です。生態系も含めた農産・観光,健康・教育伝承を考えることが次世代への課題となりました。森林は50年 -100年のオーダーで動き、市県職員は3 – 4年毎に移動していきますが、ドイツの森林官は、管轄地で生涯居住です。自然相手の数十年のプロジェクトですから生涯責任を負うことになります。松枯れやナラ枯れは、先例対策から学べることが多い。

「山辺山麓松枯れ」木の総合学的な観点

有史以来、人間は森林樹木に依存して生存してきました。里山の大きな異変は、生存基盤が失なわれる予兆であり、山荒れは本能的に重大なシグナルとして受け止める。喪失危機感が反応するので、防除保全の一連の動きは、動物的心性がまだ麻痺していないとみえます。人は樹木に安らぎ寛ぐ生理的反応をしますが、木を嫌う人はいません。快適さを感じとりますが、これは人類が誕生してから数十万年も樹上生活を続けてきた身体記憶に潜むDNAなのです。

伊勢湾台風後の中部地方赤松枯れは、劇甚台風によるダメージで衰弱した樹体に虫菌がとりつき、広島などの都市近縁部の松枯れ被害の拡がりは大気汚染が主因のものでした。本来の植生では、荒廃地に侵入して二次林を形成して肥沃な土壌になれば松は住めなくなり、他の広葉樹樹種に入れ替わります。自然遷移という現象です。

衰弱する原因には、密生未間伐、林床の富栄養化、他の広葉樹による被圧、大気汚染による気孔ふさがり枯れ、市街地化による夜間のライトアップ不眠、台風による激しい樹体揺振ダメージなどがあり、衰弱した個体は昆虫・菌類がとりつき枯死にいたる。葉枯れがでてダメージを知らせ、枯れ腐りは、自然界の片付け始末屋の営業とみえます。土壌の中では、根菌類の作用も大きく影響しているのですが、掘り開けて調べることは至難です。

松枯れに関する先例と公害記録・図書資料

①「松枯れ白書」  松枯れの主因は大気汚染  1998
松本文雄著  ISBN4- 944098 – 21 -9(株)メタ・ブレーン発行

②「松からの警告」 松枯れ・大気汚染・農薬 1992
松枯れ農薬散布反対広島県民会議編
0036 – 101085 – 1504  (株)技術と人間 発行

農薬散布を強行しても、先送りや一次凌ぎの処置をしても赤松は倒れ、林相の経時変化は進み、処置判断の結果がハッキリしている事案です。数十年も前に、被害と農薬散布禍が社会問題になった記録をみればわかります。

3. 木喰い虫による立木枯れ対策先行例「枯れ木ソリューション」

現在ニュヨーク州で大発生・拡大しているアッシュビートルEmerald Ash Borer (EAB)  による枯れ木被害の深刻な状況と防除対策

五月、木の大学特別講座に来訪されたMoMAニューヨーク近代美術館の修複師は、松本周辺部の松枯れ(赤)とアカシア花(白)異常な景観をみて次のような話しをしていきました。

「現在ニューヨーク州では、2002年中国から輸入時に侵入したASH(トネリコ)の樹を喰い荒らす昆虫が拡がり、現在その防除対策として農薬は使用していない。異変木を早期に伐採して拡がりを抑えることが駆除につながるベスト方策とされています。

ダメージを受けた樹木の伐採を徹底するには、市民や森林所有者からの通告で立木を自分で始末できるスタッフが出向きます。森林管理所と薪ストーブで燃やす実益型ボランティアとが連携して対処。薪が欲しい人は多く、ワーキンググループが活躍して費用を低減する仕組みです。

殺虫剤・農薬を空中散布すれば、他の生き物を殺し、土壌に入り水を汚染します。農薬は残留し、過敏な人やアレルギー疾患、病弱・子供にダメージを与え、取り返しのつかないアクシデントがおきる可能性を認識しているからです。」

http://www.dec.ny.gov/animals/7253.html  

木の総合学研究の立場からは、赤松林農薬散布や発生丸太の土場殺虫剤噴霧、野積みではなく、枯れた木をすぐに始末して搬出してチップ材が足りない近隣のバイオ発電プラントに使うなど、安全で具体的なソリューションを提言しました。まず木を伐り片付け、運べる人のつながりを増やしたい。

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木の総合学研究 2017 – 2019 「松枯れソリューション」「松枯れ対策のハンセイ期」「森林樹木の片付け統合ワーク」

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