ジョイントシステムデザインの目工具・刃物環境産業イノベーション

替刃式鋸全盛 柄装着ジョイント機構のデザインレビュー|修理も目研ぎも再活もしないハイテク刃物工業製品の使い捨てブレーク ジョイントシステム-27

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

使い捨て替刃が世界に広がり、鋸の歴史も大きく変わります。安い・切れる・長持ちで便利。目立て修理や回収再利用はしないのでハイテク鋼材の使い捨ては資源・環境をそこね、産業の在続を歪めるもの。替刃式鋸刃と柄ジョイント脱着・係止機構からデザインテクノロジーを総合学的に考察していきます。

平たく言えば、替刃式鋸の特徴と使い捨てリスク。人類文明を開いた「鉄」を粗末にして、有り難みを感じないビジネスマインドは、鉄屑拾いを忘れています。

 替刃式ツール 着脱ジョインイントの基本要件

        ⓐ 替え刃交換が簡単で専用工具を必要としない(汎用ツール)

      ⓑ 刃先側に指を触れないで着脱できる(安全装着)

      ⓒ 使用中に刃が緩まず外れない(作業安全)

      ⓓ 構造がシンプルで脱着操作がわかり易い(使い易さ)

      ⓔ ハズレ防止安全機構がある(フェイルセーフ怪我防止メカ)

      ⓕ 修理・再生・転用への配慮(金属材料の資源循環利用・エネルギーセーブ)

ジョイント機構からみた替え刃式デザインレビュー

 ①「Zソー HI300 ハードインパルス」

67 x 300 x 0.7t mm     替刃:101g / 柄付き191g   フック挟み・袖係止機構  (PAT.)

挟み打ち込む最も単純な脱着機構で替刃の交換が早く、柄先につきだした袖金具に嵌まり安定します。

手前挽き鋸では刃背を押さえると柄との一体性が生まれ、刃の通直度が保てる理想的な支持構造。柄:東南アジア材藤巻

先行開発メーカーで1982年発売以来30年で一億枚販売というトップシェアーをつづけるリーディングカンパニー。(株)岡田金属工業所 三木市

②「NAKAYA胴付鋸  D210C組子用 スエーデン鋼刃」

弦付き胴突き 210 x 55 x 0.2 tmm  薄鋼プレス抜き刃付け 替刃:18g / 柄付き178g   柄:東南アジア材藤巻

刃背差し込み弾性固定、フック係止ネジ止め構造 弦抜け・ズレ止めピン差し(PAT.)

弦金具の固定にスリ割り付きネジで双方向から締め付ける簡易構造 ネジ機構は最も普遍的で安全ですが、柄も耐久性は低い低価格品 (株)中屋 三条市

 

③「Silky Master330 No.147-33」 四列目とびあさり・衝撃焼き入れ

60 x 330 x 1.0 tmm   替刃:101g / 柄付き:293g

鋭い切削性で長切れ 製品化に工業デザイン手法を導入してノコギリイメージを刷新。新素材を導入したレバーファスナー締具方式。嵌合部プレス成形。柄:アルミ異形押し出し 握り合成ゴム成形

刃後の切り込みフックにクランプレバーでストッパーバネを引き締めて固定。ロック機構がなく、長期テンションをかけたまま使い続けるので作業の衝撃でレバーが緩みがたつく。ビンディング締め付けでパーフェクトジョイントではない。安全のためジョイントシールテープを巻いて使用。レバーファスナー機構は脱着が頻繁な用具に適しています。刃は鋭く耐摩耗性が高く、オガ屑を溜めず排出するので生木には強い造り。目立て修理不可、使い捨て、刃先をカバーして危険物埋め立て出し。 (株)ユーエム工業 小野市

④ 「両刃替え刃鋸 従来型の替え刃式 」 諏訪鋸 九寸・八寸・七寸

 8寸 80 x 227  x 0.4 tmm  替刃:87g  / 柄付き:163g

柄先端クリップで挟み圧締するコミ構造 ロック機構ではないので長期疲労で緩むおそれがある固着方式

替え刃入れは柄尻をたたき、抜く塲合は口金を打ち外す木柄コミと同じ原理。柄:東南アジア材藤巻

値段の安い替え刃式が広がり、本目立て製から替え刃式構造に変更したモデルを販売。目立て・再生ができる替え刃でした。量産効率が低いため価格競争に追いつけず、製造中止後廃業。衝撃焼き入れ技術がなく、両刃の需要もなくなりました。

(本体 2.600- 替え刃 2000-    従来品 5.780-  / サライ目立て 1.200-  切り替え盛り返し1.400-   1993)      有限会社真道鋸製作所 長野県原村

 

替刃方式着脱メカの考案 製品開発の素地伝統的優位

手許に引く和鋸は、薄刃でも通直で鋸背と柄に差し込む「コミ」を圧着・固定するだけでジョイント構造が安定します。押し引き式洋鋸では柄元の支持部分が大きくなり、コンパクトな着脱・緊結メカニズムが形成が難しい制約がある。替刃方式が日本で考案される歴史的ベースがあったと言うことができます。

ネジ三本だけで緊結するミニマムジョイント

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ネジ型構造はシンプルで最も安い世界共通スタンダードパーツです。洋鋸押挽きを「切り立て目研ぎ」した改良歯ですが、替刃式改造余地や使い捨てはありえない全鋼ブレード。  ハンドル部のつかみ・握り動作角度の違いはブレードの形に反映します。刃道以上のものは切れません。引き切りは、鋸柄が性能を補足しているのです。長勝鋸・長瀬勝一 試供作品 20170527

替え刃式鋸全盛時代 使い捨てはいつまで続けられるのか

替え刃式、衝撃焼き入れハイテク技術が開発されて30年あまり、トップリーディングカンパニーの生産数は一億枚を越え、年間数百万枚の替え刃鋸生産が伸びています。業界全体で年間1.000万枚と仮定して、一枚約100gとして計算すれば、1.000トンの鋼鉄が捨てられることになります。

使い捨てるほうが安上がり、経済的ですので修理再生や転用のために回収することもなく、使い捨てが続き、廃棄埋め立てゴミにしています。一部再資源化するには、鋭い刃先はむき出しで作業者が怪我をする危険物扱い。量産刃物メーカーには、回収再利用する手はずはまだなく、刃物製造産業自体が大きなリスクを抱えていることも見えてきました。

自然素材から無機質合成工業材料へかわると刃物も同時に進化

木材から合板・ボード、複合板、石油化学製品、軽金属成形素材へと移行してきています。無機質工業建材には、硬質で衝撃焼き入れ刃は都合よく、ますます需要を拡げていますが、無限に使い捨てが続くのは無理で、メーカー回収・再利用などへ転換していく製造物責任の範囲拡大規制がやってくると考えます。

修理継続使用,転用重視の時代へ

今年の秋、スエーデン政府は消費修理減税を導入して新規買換を抑制し、修理スポットを設置して資源の有効利用と循環経済重視へシフトさせています。古い車を使い続けると重課税して新車買換需要を促す日本政府とは真逆のベクトルです。

エコ・環境資源への配慮や上質の造りの良い物より「安上がり優先」立ち止まり

そう言えば、安くて切れる、便利な使い捨て替え刃鋸は、手入れは疎かになり、使い方もぞんざいになります。直すほうが高くつくシステムはおかしい。自己修理できない仕組みが出来上がっているようです。また別の視点では、収入が少なくても古いものを上手く使いこなして楽しく暮らす若い世代も目につくようになりました。古物は素材や造りがよいので、輝きを戻せることに気がついてきたのです。

替刃鋸を使い捨てしないユーザーリアクション

ジョイント部シーリングテープ巻き ハズレ防止安全対策

止めネジは振動・衝撃で緩み、ハズレて無くなりパーツセルフ補修。

衝撃焼き入れ刃は硬く鋭い。欠けると鋸歯のダメージが大きい。捨てるには刃先をカバーしないと作業者が危いのでテープ巻き、、皮剥ぎ白太落としや薄刃はスクレーパーに転用。

プラスチック成形カバーは塑性変形で安全サックが脱けるので紐付け縛り。

長年使用してみて、デザイン的には格好良く、実際には傷み易い印象をうけます。メーカーは長持ちすると売れないのでユーザーが買換えるように、製品寿命を短く、製品種類を増やし、モデルチェンジを早くしていくようになりました。高価で貴重だった鋼材を使い捨てるのを見て、昔の職人は「もったいない、罰当たり」といいつつも、販売店にはクラシック鋸は残映だけ。主流は替刃式、研磨・目立ては高いというご時世。使い捨てるほうがメーカーは手軽なのです。

替刃鋸のグローバルスタンダード化と価格競争低品質・デザイン過剰

手前に引く日本鋸の歴史は長く、インパルス衝撃焼き入れ技術を替刃式に応用したことは革新的な製品となりました。用途・職種にあわせた様々な製品が開発されています。世界各地へ輸出され生産量は膨大なものになりました。

早晩、開発メーカーのPAT.占有権がなくなるとパクリジェネブレードが現れ、品質耐久性が優れているだけでなく、リサイクルや資源配慮の行き届いたメーカー製品仕様がユニバーサルデザインとして評価されるようになります。

着脱ジョイント機構に求められる安全性、操作性、耐久品質項目は、公的機関でテストされて性能評価されます。工業規格が適用されると製造物品質責任や表示義務と標準化が進み、企業のモノつくりは規制を受けるのが通例です。

市場価格が安いと製造コストや品質をさげて販売数量・シェア−を確保するので、ライフタイムは短くなり、粗悪品も出回るという油断出来ないマーケットにデザインの優位性で販売戦略をたてるのも必然的な動向でしょう。他社製品デザインとの差別化が製品モデルを増やしデザイン過剰になり、道具としての刃物の本質を離れた「うるさいデザイン」が目立つようになりました。使い捨てが製品の短命化・ゴミ化を早めているのです。生産ブレ−クにブレーキとギャチェンジが必要な段階にいたりました。

ⓒ2017 , Kurayuki Abe

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木の総合学研究 2017 – 2019  「替刃式鋸の柄ジョイント機構デザインレビュー」「替刃使い捨て再考」

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