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日本独自の両刃鋸の世紀末衰滅、使い捨て替え刃時代に鉄鋼資源の再生永続を再考|産業歴史製品の実物ストックとスキャン記録 再活ハンドツールコネクション-19
縦挽き、横挽きを両刃形にした鋸の開発は明治後期の画期的な考案でした。1960年代に電動工具の出現すると手鋸需要は減り、さらに超硬チップソーの発明で激減して両刃鋸は世紀末に消えます。近年の衝撃焼き入れ替え刃式は、鋭利で長切れの経済効率最優先で刃先だけの損耗で捨てるモッタイナイ代表作。替え刃ヒット製品は膨大な生産量になり、このまま使い捨て続けると有限の鉄鋼資源は立ち行かない。
本来あるべき技術イノベーションは、修理・目立てをして繰り返し使い続けることができ、回収・再生の産業循環へ導くもの。使い捨て替え刃製造は、刃物道具に対する産業技術精神と有り様が未来から問われています。自然素材が無くなり、工業ボード・合成人工材が増え、刃物はますます研磨・再使用しにくなる傾向です。
日本独自の伝統鋸型をノスタルジーではなく、目立て・再利用できるReユニバーサルデザインとしてとらえ、実物新品ストックと記録データ化を進めます。
「両刃鋸」のはじまり ハンドメイドから機械製造へ
一枚の鋸の上下に縦挽き・横挽きダブル歯付けという仕様は、芝居大道具職が縦横挽き合わせ刃を考案し、大工職に拡がり普及したもの。刃元の刃数を細かく付け引き始めのかかりが良く、手許に挽くので刃道より広い材料を切ることができるほか、枘挽き込みには一丁で縦・横挽きが素速く事足りる利便性が高い道具でした。因みに、先端が狭いテーパー形西洋の押す鋸ではありえない両刃形状です。
片刃の鋸身が主流でしたが、明治末期には両刃鋸がでまわり、昭和期に入り省力合理化され、研磨・刃付け・焼き入れ等の主要工程は機械加工へ移りました。
鋸刃は新品でも鉄板研磨地金がむき出しで棚置保管中にも錆びがでやすい。使い続けられ傷み消滅するので完品がすくなく、販売店の仕入れデッドストックがごっそり出ることは通常有り得ないのですが、過日全部を引き取り購入し、同時代の新品作品が揃うことになりました。
同じ産地でも制作者の作風には微妙な寸法・デティール・仕上げの違いがでています。
20世紀後期の信州諏訪鋸 「八寸両刃」1970年代最盛期の製品
① 五味春永 97g 12.000-
② 中屋是正 88g 12.000-
③ 中屋秀吉 85g 12.000-
④ 両角忠三郎 83g 12.500-
⑤ 木島善弘 96g 12.000-
⑥ 真道勝雄 106g 15.100-
⑦ 伊勢吉 103g 16.400-
長勝鋸・京都 長瀬勝一の品位見立て
信州鋸の品質・技能からみると、真道勝雄 作が最も優れており、ベスト作品と評価されました。(ストック9丁)
スキャンデジタルッコピー 100% -50% 解像度は飛躍的に向上
1993年当時のNTアナログコピー50%
デジタルコピーで精密・鮮明な画像記録 「刃型の拡大・縮小 カラー・モノクロ 無段階 画像データ化」
最近では、街中コンビニのコピー機はデジタルScan方式になり、25% ~400%まで無段階、カラー・モノクロの精密で鮮明な画像がプリントされデータも読み込みされるようになりました。A3サイズ以上はデジタル処理専問加工所でスキャニングしています。従来の写真撮影・プリントでは難しい、精緻で鮮明な歯型実測ができます。目では判らない微細な傷や地肌などもハッキリ出ています。(画面走査方向でコントラストが微妙に動くことがあります。)
業界では名工と言われてましたが、1995年替え刃式サンプルと鋸地スクレーパーを注文したのが私の最後のオーダーとなりました。代表作を長勝流の切り替え目研ぎをして、近日に性能比較をします。
登録商標、塩ビ防湿カバーやシール・ラベル防錆紙包み等 商品アピィールを始めた最盛期の製品パッケージ 1970年代
産地衰滅の要因
信州鋸は、江戸期に山林杣仕事用からはじまり、寒冷地冬場の鍛冶手ハンドメイドで産地形成。昭和期に専業工場生産へ発展し、造林、土木、建築大工・家具木工用精密鋸へとひろがりました。原村穴山、茅野市横内などに鋸製作所がありましたが、プロの鍛冶職・道具商の産地技能イメージは、高いものでは無かったようです。
諏訪地方の鋸職人は品質を自負、担ぎ屋さん販路で岐阜・長野地域で販売するものの、産地全体の宣伝広報、ブランドをつくらないでいたため全国知名度がなく、他の地方へも問屋流通制度ではばまれ、相対で販売ルートが細かったこと。更に、鋭利な切れ味の替え刃式鋸の登場で市場を失い、居職は仕事が無くなり衰滅状態へと変貌しました。(真道勝雄氏の説明による)
「安い 切れる 使い捨て」「高い 手入れ 目立て再生・資源節約」
スピード時代に目立て外註で時間がかかり、目立が高くつくのでユーザーは離れます。安くて目立てをしない替え刃式が有利になり、本目立ては市場が無くなり転廃業に至る。(1998年頃に終焉、現在茅野市内に一人在職。全国の本目立て職人は、数人と成りました。)使い捨て替え刃は鋭い硬い切削肌ですが、従来のアサリつき刃形では挽き肌は柔らかく、木の繊維組織が合着しやすい感じがあります。
製品価格が半額になる過当競争時代に
刃付け・焼き入れ・磨きは機械製造方式でも歪取り・仕上げ調整などは手仕上げです。他産地でも量産化が進み、過当競争に陥り、更に替え刃が登場しすると製品価格は従来の半額となりました。電動工具の普及で、さらに手鋸の需要が減少。
替え刃式鋸が開発され、衝撃焼き入れ技術による硬質刃は切れ味が優れ、挽き肌も綺麗にあがり、安い価格におされて従来の鋸は、使い捨鋸にとって変わられました。次第に本目立ての需要がなくなります。機械量産物目立て職も生業が立ち行かない時代になり、鍛造手打ち鋸は消滅。原村穴山地区と茅野市横内地区に多くの職人がいて産地を形成したのですが、現在は一人になりました。(真道製作所工場見学 1993年6月工場見学取材 サンプル購入)
両刃鋸の再活躍を実現する切り立て目研ぎ 品質・性能アップで使い捨て替刃からの脱却の試み
播州三木、信州諏訪、越後脇町三条で制作されていた頃の製品を更に長勝鋸 長瀬勝一(京都)に再目研ぎに出して切れ味を際立たせ販売しているウエブサイトがあります。この伝統型両刃鋸の良さを評価する動きもあります。三木・三条・諏訪産の両刃本目立て品の引き取り価格 (当時の卸価格)¥5,000- ~ 7,000- + 長勝鋸切り替え目立て @7,500- +諸経費とも 二万円前後 でインターネット上で販売されています。鋸鉋の標準的な値段は、昔から人工の1~2日程度が相場でした。(寸法や材質、制作者銘格付けにより品質・価格差があります。)
やがてくる使い捨て規制の前に鍛造鋼材製品の回収、再生・転用をはかる先導産業へ
現在、使い捨てる替刃鋸が効率優先で圧倒的に市場を占有しました。本目立て技能者もいなくなり、膨大な量の鉄鋼製品を廃棄していることは経済、資源・エネルギーや伝統技能の継承からも大きなリスク要因となりはじめてきました。昔は「鉄は文化を支配する」と言われてきましたが、再生・転用を可能にする循環産業にしないと、やがて産業自体が行き詰まると思います。買換えを抑え、直して使い続けるように、この秋「消費修理減税」政策がスエーデンでスタートました。資源・環境重視により使い捨て製品も影響をうけ、修理・再利用 Reプロダクトの推奨が進むと予想しています。大量生産、多量消費使い捨てはもう出来ないところまできています。
尚、良質両刃鋸は既に店頭にはないのですが、製造廃止時に絶滅を苦慮してデーラーが別ストックされていると聞きます。往時の問屋卸価格程度で取引されており、現在でも入手できますのでお尋ねください。雁頭、穴挽き鋸は、別頁に記載してあります。
ⓒ2017 , Kurayuki Abe
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木の総合学研究 2017- 2019 「木工道具刃物の進化・改良」「使い捨てしない鋸の上質切れ味格段アップ切り立て」「SUWA Double Saws in the end of 20th century」
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