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ある日突然の集成材矧ぎ糊切れ_化学合成熱硬化型接着剤の「時限接合」 ジョイントシステム-28
接着・練り物の寿命は、接合面の耐久強度だけでなく、接着剤自体の分子劣化でもクラック破断。製品サンプルピースでは、無負荷・衝撃なし棚置き40年で自然剥離が起き、予兆なく音も無くパックリ。素材間の合着ジョイントではない合成化学物質接着によるくっつきかたまり状態の固着は木破率ゼロ。
尿素ユリア系接着材は、ホルムアルデヒトをつかい縮合重合させ、熱硬化で接着時間が短く価格も比較的安い。耐熱・接着強度が高いので工業用建材接着剤として脚光を浴び、首都圏では1960年代にはかなり普及していました。硬化剤を使うため接着剤内部で経時劣化が起き、やがて接着層内部の分子崩壊から剥離・糊切れをおこします。
「糊切れ」保存サンプルの経時劣化 1976 製造 – 2017 室内ストック無負荷剥離 木破率ゼロの接着面(化学合成樹脂硬化による接合剥離界面)
縦フィンガージョイント部 70 x 373 x 25 mmT 17 Fingers 4 mm pitch
幅剥ぎ 21w x 36mmT シベリアタモ材(極東ロシア産輸入材) 二方柾・追柾の集成材 (階段踏み板のカット材)
集成材ソリッド材面の方向接着材使い別け
繊維方向・縦フィンガージョイント(木口)接着は、酢酸ビニールエマルジョン型接着剤を使用。木端・横幅剥ぎには、初期接合強度が高く、圧締作業性がよい尿素系接着材・硬化剤を併用して集成、加熱圧着加工。
収差・反りを減らすため集成接着材面の木目合わせは、原則的には追柾と二方柾を交互に配置します。
建築内装用量産集成材コントラクトビジネスのはじまり 量産集成材加工にプレオーダーデザイン仕様を取り込むアウトリーチ型産業へのデザインソリューション
1970年代には、フローリング材などの需要や家具需要で良質道産材が高価になると北洋タモ(ロシア材)が集成材に使われ始めます。国産材に比べて半値程度で人工乾燥材材を集成したブロック材をバンドソーで切り分ける工法がコストパフォーマンスもよい製品形態でした。化粧合板や突き板「煉り物」からソリッド材へのシフトをはかり、量産品の加工度を拡げてクライアントを取り込むコントラクト志向のアプローチから安定した工場ラインの稼働を目指したもの。
素材加工からセミオーダーメイドのワークトップ、カウンター制作・納入をスタートするために受注デザインパターンを用意したカタログ・受注プレゼンテーションパネル制作まで担当しました。施工後もフィンガージョイントは剥離するトラブルはありませんでしたが、継続的に使用されている現場では20年前後で改装、取り壊しされます。接着層が割れるのは見当もつかないので、実際のフィンガージョイントブロック材のストックサンプルを残して観察しました。
① 「集成ソリッド インテリアカウンター・システムキッチンカウンター」のデザイン開発プロジェクト1970
クライアント:株式会社コレクションイワクラ 三矢木材工業株式会社
Design:GUG / AQ DESIGN R&D.
② モダンウッド 道産 「楢・タモ・カバ材」の有効活用 集成・積層製品先例 1971
高度成長期に 高層建築、ビル内装の手摺材、住宅階段・付枠・造作材として量産商品化して販売。職人現場仕事の流れをひき、木肌仕上がりにはうるさい顧客が多く、量産品といえども材質や加工品質は良いものだったのです。内装・造作材は、専問技能職が仕上げる時代でしたから、内法・役物を機械加工の規格品にして工場生産することに対して違和感を感じる、まだ「インテリア」というコトバがまだぴんとこない現場雰囲気でしたが、需要が多くなり既製品化する動きも加速されたのです。 京橋八丁掘・ 篠田銘木店販売カタログ 昭和46年
当時は小幅の良質選材をつかい無欠点・最高級集成材としてJAS品質・規格をPRします。現場ですぐ使える均質の半製品は、直ぐ使いの手間が省けるというメリットが大きく、工業建材製品が材木店に並び始め、設計積算単価が明確になると原木からの加工から規格製品材へ移行するイニシエーションとなりました。後発建材メーカーや住宅産業による市場参入が続き、貼りモノ低価格品が出回ると、従来からの銘木建材販売はすたれ、既製・工業製品化へのシフトが起きる前兆でした。
③「芋剥ぎ」ではもたないイス座面のパックリ割れ
2010年、穂高の山荘で松本民芸家具ウインザーチェアーの座板がパックリ割れたものに遭遇しました。この座板剥ぎは、1970年代、当時の尿素系硬化剤使用による破断で木破部はなく、接着剤の接合力だけでくっついていたもの。「核いれ剥ぎ」のまともな仕事ではなく、サブコントラクター納入品でした。座る時に割れてしまうと怪我を呼びます。糊切れ割れでは、修理できません。
無垢材の一枚ものの無垢材と信じていただったので、オーナーは民芸イコール職人作りと思い込みショック。修理にだせば新品と同額でビックリ。「民芸家具」というブランドの手作りイメージはたいしたものだったのです。
ユリア樹脂接着は、湯水、衝撃には弱い硬い接着層ですので座面や床板の板矧ぎ、劣化しやすい繰り返し荷重のかかる部分には使わないほうが無難です。「芋」は「ちょん切ったまま手をかけない安易な」という意味の木工職人用語です。
合成化学尿素樹脂硬化接着剤の寿命は荷重・衝撃なしで40年 家具耐久品質規格のない国
メーカーによる接着強度テストレポートでは標準的な耐久年数は、劣化促進試験結果でMDS換算値を告知しています。
接着力は、樹種の性質、加工時の含水率や接合面粗さにも影響をうけ、製造メーカーのロットにも関係しますので家具のような長期耐久財は、実際の使われ方、例えば、住宅用と公共施設、業務用では仕様も異なり、家具の安全品質規格表示は必要ですが、日本はISO/TC 136 – Furniture – International Organization for Standardization 国際標準化機構 家具部門には加盟して来ませんでしたので家具の強度試験・品質に関するスタンダードはありません。
また、工業生産・ハウスメーカー住宅は20数年で建て替えられてしまうので、バラバラ破断する前に壊される。接着ライフタイムは目だって問題になることはないようです。植物・動物由来のグルーは再接合のできるものがありますが、化学合成樹脂系は部材を入れ替えないと修複再生は困難です。
化学合成樹脂製品は、生産された時から材質そのものが劣化しはじめて、じょじょに内部崩壊へ進む性質です。石油化学製品の不安定さは製造物だけでなく、人間の環境・生活文化・メンタル 全てに影響してきました。
接着・接着剤の専問書 ベストブック
「ADHESION AND ADHESIVES」
Second, Completely Revised Edition
Edited by R.HOUWINK and G.SALOMON Volime 2 APPLICATIONS 1967
178 x 250 x 30 Tmm p.590
ELSEVIER PUBLISHING COMPANY AMSTERDAM – LONDON – NY
(CONTENTS 略 )
接着に関する総合的な知識と実際の研究成果・ノウハウをまとめたハイレベルの便覧的専問書
現在の合成工業建材は、バインダーや接着剤で固める製造法ですので、接着剤そのものの劣化が耐用年数となります。縁張り化粧板、金具による緊結アセンブリーや目地シール、コーキング剤のジョイント部分の劣化や崩壊は意外に速いのです。
ⓒ2017 , Kurayuki Abe
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木の総合学研究2017 – 2019 「集成材のジョイント部接着耐久性」 「フィンガージョイントと幅剥ぎ」「酢ビと尿素系接着剤の接合部使い別け」「積層・集成材製品デザイン」
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