MT マテリアルトリートメント木材品質表示・仕様

木材産業を蘇生レスキューしたい売買データシート表示フォームをつくる

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

明治時代のままの木材原木取引、国内最低賃金産業のビジネスセンスは相変わらず

木材取り扱い業務改善のアプローチですが、業者の関心は起きず社内用に留まりました。

 

  木材売買出データシート−3-1木材売買データシート−1-1
 このデータシートは、1995年 安曇野・木工家具制作家の大竹 收氏と丸太買いのケースの売り買いデータの記録書式を作成したものです。売り手は「手間をかけず、説明を少なく、高く」買い手は「品質を確かめ、材質の良い素材をできるだけ安く」材質が製品加工に直接影響するために素材の情報を多くを知りたい。
木材は生物素材・生鮮商材ですが、コスト明細・品質表示も無く販売責任もない、現代の不思議なビジネス世界です。物件出所、品質情報を教えず、不都合なリスク付き現物判断、全て買い手責任の曖昧な伝統的商慣習がつづいて来ました。
使う時まで自然乾燥2-3年経過、欠点は言わず、リスクなど判らないほうが売りやすいので表示・説明しないほうが利口と。木材は、狂い・暴れるのでどの段階で責任を負うのかも曖昧です。JAS農林規格がありますが建築材主体、実際のビジネスではあまりお目にかかりません。
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J  GRADE  日本向け規格外選別材  British Columbia, Canada
2 X 4カナダ規格も、はじめは内装材にも使えそうな木目・材質でした。輸入が増えると次第に「Japan Grade」と輸出業者が品質規格を勝手に落とし、規格外品を手がける。ごまかせば儲かる商材の宿命かも。収縮・反り変形、材色劣化、虫喰い・カビ変色など木材の歩留まりが低く、正味使える寸法が三割程度のこともあります。
魚はすぐ腐りはじめ、冷凍という手がありますが,木材は数週間〜数ヶ月は放置しても問題なく、扱いが粗雑でもOK。生物素材の性質の違いが近代化を遅らせました。工業規格があっても現場では関与しないで使われて品質は劣化の一途。この地方では製材所・乾燥工場が消えつつあります。以下、私見です。
同じ生モノで鮮魚・青果のように生産者データをオープンに出来ないわけは
・伐採時期・原産地を開示すると材質の優劣が判り、高値がつかいない
・出品者・現場が割り出されると、他の業者がすぐに行って自分のテリトリーが荒らされる
・現地を調査されると不法行為や(隣地の切り株が残るので)売り主・出荷が割り出される
・取引内容・値付け利幅、流通ルート・転売がばれる
・虚偽表示、偽装すれば高く売れる
・売り方・使い方次第で材質の隠れた欠点・不良も転用・ごまかせる
・書面に記録すると後で困る。返品をさけたい、製品責任をとりたくない (返品されると大型重量物で費用と手間がかかり、転売しにくい。)
・記録ペーパーが残ると在庫管理・税務処理上不都合?
等々、教えると困ることが起きるから曖昧にしているほうが楽で美味しいのです。
マグロ市競りに似た価格帯・入札システムで値段つけもピンキリ。有名産地にすり替えるか産地不詳にして現品取引。現物熟覧、買い手はプロだけで一般のユーザーは想定されていません。

木材データシート ビジネスフォームの試み

 この木材データシートは、原木丸太購入が買い手側に情報がほとんど無い上、どんぶりで、樹種・材積とおおよその見立てだけで販売する業者に明確な材料調達、品質データが得られるよう促す試みでした。木材会社は、手間が面倒だと。書面に記録すると不良・返品問題が起き、製品加工責任をとりたくない業者数社は返事しないままに。一方、アメリカ・カナダなどの木材輸出販売社は、業界団体の戦略を打ち出し、産出トレーサビリティ、木目・乾燥材スタンダード規格、品質管理のパンフレットをくばり、セミナーやデザインコンペを開催して日本のマーケット開拓を続け、家具・建築材のシェアを拡大し続けています。現在、家具用材はアメリカ産が多くなりました。

伐採時期・産地・材質は知らない、教えたくない。

  現在、野菜・果実、鮮魚は、畑・船上で収穫物を画像と共に買い手に携帯電話連絡。販売仕入れは、明確で現場直です。記録はすべて残ります。一方、木材流通・取引では、産出地・伐期さえ全く表示されず、聞いてもほとんど判りません。
教えない事由は、伐採時期が春から秋まで水を上げている時期では、材質の問題(カビ・変色・狂い)が起き、更には、伐採地が判るともっと困るので産地を偽り。ロシア楢・シベリアタモが道産材に化け、盛岡にまわると岩手産。現在の情報社会では、出品材木業者は、どこで入手したか、樹種・コストもバレバレ。(去年、エビや牛肉食材の偽表示問題が起きましたが、天然自然素材は商品イメージと値段に反映されます。)
 優良材(玉)がでると同業他社は、直ぐに産出現地へ走ります。産出地元も、山での出材作業が同業・縁者に知られると不都合な物件になることがあるので出自は一切教えないのです。原木は、汚れるし大形重量商品で目立ち安いことがラフな扱いの要因かもしれません。また、木目が似ている木を塗装で偽装するのも見た目のカモフラ、仕上げ技術の一つでしたから、偽装は長く続いてきた次第。
一般ユーザーは、木の名前すら判らないのです。輸入材・木目調プリント、人工木目全盛でプロでも見たことがなく、知らない樹種も多くなりました。
梨(白)-1製材950620梨(白)-2製材950620-1
No.95ー7 梨・白  製材950901
元玉木口割り製材 一見優良材、反対側は、大節3ヶ所、2番玉は、節多く芯荒れ
(産地・伐期不明、落札価格は木材商3倍ほど掛値 ダラ挽き製材時間コスト30分込み)

製材リスクが大きいので値段にドーンと跳ね返る

 更に、製材時に釘やボルトが入っていたり、内部割れなどの販売責任が問われることを回避するために、買い手責任にしているわけです。丸太の返品はきかないし、動かすのも大変な重量物で搬送費用も高額。当然、価格にリスクを加算しますから、割高になり、木材業は近代的安定産業にはほど遠い。中世の取引がまだ生きて続いています。
国産ものは、製材ゴミが出るし、未乾燥材で品質リスクがあり、在庫ストックをさけて当用買いへシフト。規格・仕様が明確な輸入外国産材が物流市場を圧倒しています。更には、旅の人なる正体不明の出品があり、玉(原木)不足の折、少しでも売り上げるために不明な材でも持ち込み売却される商売優先。
国産木材産業のビジネスソリューションは、材質表示から
 産地・生産日、中身品質も判らない商品は、木材だけです。仲介・口利き・代理・ピンハネ・偽表示・説明なし、販売責任ゼロでは、まともなビジネスが発展しないわけです。それぞれが不都合なことをさけ、当たり外れがあるのでは、経営的にも不安定です。
使う側では、高価な材料を制作に先行して購入・ストックするのでリスクは大きい。極めて高価な商材なのに品質表示が無いまま、ギャンブル的な取引が続きます。正確な収益は計算できないから、賭け事に似て、人は期待と欲目で引きずられる「木」という特別な生物商品なのです。
銘柄商材は、ごまかせばガッチリ利益を生むのです。規格化された輸入材がもてはやされるのは、入札・搬送・保管、人工乾燥処理が省ける。さらに倉庫スペースやゴミ処理が少なく、品質規格・値段が明確で在庫せず当用買いですむからです。材料を手当する資金を寝かせて置くのは企業経営上もマイナスと考えるようになりました。一時、国産材敬遠のウエーブが高くなりましたが、このところの建築需要アップで引き合いが強まっている相場をみると経済変動が強く反映する業界です。

次世代の専門知識・技術のために今のうちに優良樹材を記録・サンプル収蔵したい

 丸太原木の見立て・加工品質の予測が難しい上に、嘗ての高収益が望めず、後継プロが育たないため、木材市場の入札にくる業者は、ほとんど高齢でした。現場の実務経験や現物知識を得るためには、多くの樹種に出会える場が必要です。
経験を積んだベテランでないと的確な判断できないという制約もありますが、この材質表示を常識にするため、樹種毎の製材記録・実物研究サンプルを集めることから始めています。樹種も減り、良質材が少なくなる一方です。近いうちに製材用CT  Scanが出てくると問題が解決しそうです。
*製材記録:アサダ・白赤、栃・白赤ピンク、水目・赤白、コナラ赤青、水楢、イタヤ、シウリ・青白、桂・緋青、トネリコ・糠タランボ、苦木白・赤、鬼ぐるみ・白赤、沢ぐるみ・軟硬、朴・白青、こぶし、水木、楡・赤青、ブナ・赤白、桐・畑山木、槐・白赤、ニセアカシア・白赤、セン・糠目タランボ、白樺・白ボタン、真樺白赤・白樫・餅ボタン、青樫、シナ・赤白、栗、一位、小柿・黒柿、山桜・赤白、オノオレ・赤白、山桑、真弓、 小豆梨・白赤 ほか。
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木の総合学研究 2014 – 2019 「材質表示・製材」「木材取引データシート」

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