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二つの熱帯南洋材クライシス 「熱帯雨林森林破壊、資源枯渇・生態系撹乱」「海水貯木塩分含浸による腐蝕リスク」見えない塩分ダメージ 数百年先も重要であるために AASCF アート作品の科学的アプローチによる保存額装のはじまり
額縁をつけ、ガラスを嵌めると保存できるような錯覚がおきます。額装の見栄え品格は表・顔化粧ですが、保存品質は裏側の造りが重要な役割を担います。裏をみれば保存のレベル・仕事の品位が判る。
絵画・書画に額縁をつけると安心します。 額装の劣化リスクは、壁掛けでは照明による紫外線、室内空調など、裏面からは枠材の材質が経時変化を起こします。バブル期前後は、額縁材に輸入南洋材が多くつかわれました。海水貯木で塩分をたっぷり含浸させていますので、腐蝕錆び、木部のダメージ、接着部の糊切れ・剥離は放置され、症状はかなり重篤なケースが多いのです。
第一の熱帯南洋材リスク:資源枯渇、森林破壊・生態系撹乱・居住民の生活環境妨害被圧
敗戦後の住宅復興期には、建材・家具需要に膨大な東南アジア輸入原木が使われ、高度成長期には額縁・器具工芸材料として大径木で均質、軽量・軟質の「ラワン材」は南洋輸入材の代表的な樹種でした。
1960年頃は、「伐採しても直ぐに成長して資源は再生し、無尽蔵である」と商社に喧伝され木材需要は南洋材シフト。加工し易い「安いラワン材」「良質のラミン」は、その代表的な樹種で100年輪あれば銘木級でしたが、1990年代には枯渇してしまいます。量産ラワン合板が安物で取引され、無垢材も同じイメージで扱われてしまったわけです。フィリピン、インドネシア、マレーシアへと熱帯林は商業伐採されていきました。
輸入原木丸太・海水貯木による塩分吸収・吹きだし
第二の熱帯南洋材リスク:塩分含浸によるダメージ・腐蝕劣化
重要作品の額装となれば細心のケアーとともに、安定した長期保存が前提です。微気象の閉じた額構造では、産出地、製材ストック環境、素性が判らない材料品質では、額装が作品の劣化要因となる恐れが高まります。
海洋塩水貯木は、原木丸太の黴び入り腐蝕を防ぐと同時に、浸透圧の違いから木材内部の自由水と入れ替わり、脂を抜くので、人工乾燥炉で安定した材質とすることができる」と 1960 – 70年代の木材加工学・材料学特論で教えていました。間違いですね。
実際は、無理やり水分を抜く強制熱風乾燥炉では、生材を高温で炒めるようなスケジュールで内部応力・歪みが起き、木質のクオリティはむしろ荒れる。自然乾燥の生物素材の良さ・抗体性を損ない、安全無害ではありませんでした。
同じ頃、建材業界ではヒラタキクイムシ被害で騒然となり、バブル期に額装界では南洋材の塩分ダメージが明らかになります。
南洋材の塩分腐蝕リスクは高まり、絵画の保存環境によくないと言明される専問家も動きますが、コスト経済優先で現在まで改善されないままに推移してきました。じっと額内に入居されている方への負担、影響を思いいたさず、先の迷惑ダメージは配慮しないまま。確実に傷み劣化が進行していきます。数十年、数百年視野で作品と向き合う保存修復家の心配は大きい。
海水塩分のダメージが顕著なのは、金属腐食が最も目立ちます。接着剤・糊料の腰切れ、ファブリックの酸化変色、紙質劣化、合成樹脂クラック、顔料色材の退色、塗装部分の剥離等 構成材全てに影響しています。
海水貯木・人工強制乾燥炉材による劣化ダメージは明らかになり、専問家のリスク警鐘は無視されてきました。南洋材額縁の塩分ダメージの実例から、保存修複上の問題提起とソリューショを明らかにしていきます。
更に輸入南洋材の強い刺激臭は逃げだしたくなるのものが多く、臭い成分は外気に曝されて漂います。人体や被収蔵物に影響が有ると感じることも経験しています。
Photo. by KUDOU
木ネジ・釘、吊り金具は海水塩分で腐蝕劣化
Photo. by KUDOU
額装改善作業 腐蝕した吊り金具、「ドロ足」の除去
粗末な裏面の仕上げでも購入者は判らない。壁際の埃たまり、イレギュラーなエアーサーキュレーションで反りズレ、損傷の誘因になります。
処置内容:既存グレージングのガラスを低反射・紫外線カット・帯電防止アクリルに変更 金具:ステンレス製に変更 木部:Basswood 北米シナ材を使用 作品の保存性能を高めるとともに、メンテナンス性能も高めるためにバックフレームを新たに構築。(小職の領域はジョイント部位まで、処置後の作品画像は制作者後述)
「大径木均質、挽き材歩留まりが高く、安く、軽くて彫刻しやすい」熱帯雨林材の輸入の推移
カポール(建具・額装等の用途)大手材木店2017
ラワンからはじまり、メラピー・アピトン・アガチス・ニャトー・ジョンコン・マトア・ラミン・メランチ・アユース・ペルポックと商材は移り、近年ではアフリカ熱帯雨林材へシフトしています。木材成分に支障があっても、建築材や建具・家具では、施工制作後30年程度で壊されてきましたので破損したりクレームは出にくい。100年後を視野に入れるアート作品、絵画の保存額装では、耐久性はもちろん、作品に対する劣化要因の有無が問題になります。
針葉樹では、スプルース、パイン、ファー、レッドウッド、米ヒバなど、主に建具・音響用は北米から、世紀末には広葉樹にひろがりメープル、楢・タモ・オニグルミ、カラマツ、紅松がシベリアから輸入されていました。ボーリング場レーン用ハードメープルは、1968頃からだったと記憶しています。経済成長とともに「外材」の輸入が増大した時期です。
「AASCF Art – Archi Scientific Conservation Framing 」 アート作品の科学的アプローチによる保存額装
「数百年先も重要であるために」工藤額装工房の現場から
保存額装という微気象パッケージを構成する部材には、耐久性はもちろん、パッケージ内の環境を整える役割が求められます。
木材はパッケージを構成する主要な部材であり、その調湿性能や抗菌性能は自然生物素材がそなえている巧妙な仕組みを活用することになります。また、再生循環できる由一の素材です。
しかし、作品保存に比べて短期的な用途に対する需要が中心となり、供給される木材は、木材が本来もつ有効性を損ねて、短時間で無理矢理、急激に人工乾燥炉で高温脱水処理されたものを使うようになりました。内部に応力歪みを残し、細胞レベルでは蒸し焼きに近い傷みが発生します。輸入材人工乾燥は、作品をいたわり慈しむには、ふさわしいやり方ではないのです。
国内産材再生循環にも配慮し、木材の耐菌抗体性に注目する丁寧な工房手法は、これからの絵画芸術作品の保存に重要な役割を拡げていきます。小職も天然素材の木材を最高に活かす処方として高樹齢貴重材のストックと慎重なシーズニングを進めてきました。15年も寝かせると穏やかな材質に熟成して、瑞々しい初出勤となります。
優良樹種の長期ナチュラルシーズニングから、抗体・耐久性の実証は数百年の歳月をかけて行われます。
北米材・シベリア材の原木海中貯木
スプルース、ダグラスファー、米ヒバ、レッドウッド、ピーラ、パインやタモ、カラマツ、ナラなどの輸入材も一時的に海中貯木されて塩分含有がおきます。KD人工乾燥・製材品は、塩分は入り込まないとみています。
数百年先に絵画作品の保存アーキテクチャー、ケアーをしてくれる保存修復家への確かなメーセージは、最善の素材手当メモリー、マテリアルトリートメントからはじまります。その手法とノウハウ、及び知見は、進捗に応じてこれから順次掲載していきます。
* 本稿は、絵画保存額装の第一人者 工藤正明氏の教示を反映しています。http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/17925
ⓒ2018 , Kurayuki Abe
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木の総合学研究 2018-2019 「額装材 熱帯南洋材クライシス」「海水貯木塩分の絵画額装ダメージ」
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