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「薩摩烏賊餌木(エド)之研究」続考  「白焼き」名工人 肥後喜一郎作実漁モデルの発見 擬似餌木釣具からリアルアートクラフトモデリングへ  クラシック餌木ケーススタディ -1

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

実漁釣具の造り込みは、改良を重ね、素材選別とフォルムを極め、遊びの造形も熱中して華やかにリアルに美しく洗練されていきます。

研究専門書の図版に所収されたモデルは、実際に使われた実漁餌木そのものではなく、同一型写しを寄贈されたもの。実漁モデルで使われ、製作者自身の造り置き、ストックが廃棄散逸をまのがれ、 半世紀後に62体まとめて出現するのは極めて稀れなケースです。

実物の精査、改良モデルの違い、制作プロセスからもリアルな現場の様子や技法の全容が明らかになります。モデル制作のための樹木選別、伐採期判断、樹芯央の木取り方法実録、海中曳き遊泳動作の解析と胴体面取り錘ウエイトバランス、月光海中での発光輝度など、これから研究の余地があります。

出現と遭遇購入の経緯

1988年(昭和63年)12 月20日 国分寺市南町にあった「古箪笥・木器アンチークショツプBP」に竹篭いっぱいのクラシック海老型木製ルアーが並びました。

直ぐに全部購入して店主に出所を訪ねると、「各地で蔵出しを専門にしていて餌木箱ごと現地で買い付けたもの。擬似餌木(エド)が仕舞われていた抽斗付きの箱は立派な造りなので別格販売、中身は邪魔なので別バラ売り」という話し。抽斗小箪笥としてかなりの高値がついたそうです。当時は、古箪笥インテリアブームで箱階段・階段箪笥もよく並んでいました。先客が4 -5本購入しており、約70体が出たことになります。

収蔵と実測・写真記録

入手後に同名同型モデルが文献に有り、作風・銘も近似して、薩摩烏賊餌木(エド)「白焼き」の名工作であることが唯一の専門研究書「薩摩烏賊餌木考 岡田喜一著 昭和53年 内田老鶴圃発行」で確認できました。全てのモデルの撮影・実測精査を始めましたが点数が多く、更に材種木理などの資料や関連知識を得るために相当の間を費やし、現在に至りました。

作品撮影と実測図面記録の作成、材質・仕様の判断と解説まで30年余り、餌木クラフト作品のケーススタディとしてまとめました。骨董古美術品ではなく、アートクラフツ、学術的価値があり、原作者ルーツが明らかになった貴重な歴史産業記念物資料です。他作の混入はありません。

 

数多くの丁寧に彫り刻まれた手仕事は、いずれも見事な出来映え、貴重な作品の類型モデリングがゴッソリ残されています。 丁寧で美しくシンプルな造り込みですが、漁撈実用で損傷消耗し、原形で全体を残すことは稀です。散逸しない、揃いに近い状態で収蔵保管しました。実漁のアタリ、自家用・歴代などの墨書が印されています。

餌木には個体毎に銘と墨書があり作者を同定、確かめることができます。「月光」「霧島」の二体が「烏賊餌木考」所載と同じです。ネーミングは、遺失しても所有者がわかるように、地域で談合し似通った命名は避けていたので制作者が識別できます。

また、類型の拡がりや細部の細工造り込み、曳き糸の絹撚り糸からテグスへのシフト。かな鈎(傘針)結束技法は、真鍮細線縛りからヒューム管厚締めなど、素材や簡易構造化への試みがありました。

アタリ記録は、毛筆・墨差しからペンへの時代変化も伺えるなど、揃い一式は、多くの手仕事を語ります。実益を兼ねた遊びのデザインは、実用漁具・民具を超え、ハンドクラフトから彫刻造形デザイン・民俗文化資料としても一級のコレクションです。

実物ワークモデルの記録 No.1 – No.62   「白焼き」肥後喜一朗 代表的作品

□1.銀河 130 ( 胴長さ)・(157全長)L x 31H x  25W mm(胴腰幅)

 赤ビース眼 垂水型 針尾竹カナ軸太さ 3mm x 27L   胸ほろ:長羽植え  キール形鉛錘:16 x 11.5mm腐蝕無し 竹釘固定 30g   かな鈎(真鍮)一丁傘針10本立て / 径・曲げ 21x 10mm スマート小振り ヤケ 全長G重心位置  3.9 : 6.1

□5.  千代田 139(165)L x 24H x 27W   桃色珊瑚眼(左欠)  銘:左側に毛筆墨書「ウニ中明」腹に鉛筆書き  直助型秀作  角キール形鉛錘:14 x 19  垂水型   胸-腹ほろ(植毛)溝筋彫り 左右七ヶ所 かな鈎二丁傘針12本立て: 径・曲げ 20 x10 /14 x 7mm    クサギ目粗材  頭部額角ギザ目細密彫り リアルで腰太 木彫アートクラフト仕上がり完成度が高い作品 33g  全長G重心位置 4.2 : 5.8

 

□6. 日之丸二代 138 (165)L x 35 H x 24,5W mm   赤ビース眼 板鉛錘:14 x 8 四つ割り 腹面取り 錘:穴空き古銭寛永通宝3枚  径25mm 竹釘止め 口緡(ヨマ):テグス30mm  かな鈎一丁傘針10本立て/ 径・曲げ:21 x 11mm    竹カナ軸太さ2.4mm 尾差し込み漆固め  垂水型  「小シビ・アコ」墨書   色気女性的 アタリ型スケールアップ セカンドモデル    30g     全長G重心位置 4 : 6

□7. 日之丸  122(142)L x 30H x 21Wmm     黒小粒ビーズ目(左欠) かな鈎一丁傘針12本立て/ 径・曲げ 21mm x 10    板鉛錘:14 x 9 x 3.5 mm  腹面取り 赤ビース眼 一丁傘針10本立て/ 径・曲げ:21x 11mm     錘:14 x 8 四つ割り 腹面取り 錘:穴空き古銭寛永通宝3枚  径25mm  竹釘止め  垂水型  胴・腹に「アコ・クロ・シビエ・マソラ」墨書 小柄の初代アタリモデル・ヤケ  23g   全長G重心位置 4.4 : 5.6

 

□56. 山ヒワ三代 137.5(161) L x 35H x 26W mm  赤ビース眼竹釘止め   銘:顎下に毛筆書き 直助型 口緡(ヨマ)絹撚り糸 30mm   胸ほろ縁彫り 左右3ヶ所植え竹細釘打ち / 腹(尻)ほろ左右4ヶ所 羽損耗 胸下腹(尻)底凹面取り  厚板鉛錘:17 x 9.5 x 6.5 Tmm 竹釘止め  かな鈎(真鍮細針)結束黒塗装 :二丁大傘針12本立て/ 径・曲げ 18 x 9 mm / 13.5 x 6mm 大針1.2 小針0.8   竹軸:3.4 – 4x30 mmL ( ペイント墨塗 ) 背・腰甲紋は鮮明な木理でシンメトリー顎角頭頂部は繊細刻み彫り 39g  全長G重心位置 4.3 : 5.7 木取り芯部2ヶ所に髄(芯)逆放射組織髄線が現れ偏光反射光がでる真芯木取りの名木 ヤケ傷みの少ない美形傑作モデル 美しい木肌を存分に魅せる彫刻アート作品

 

a. 垂水型   明治末期から昭和初期のモデル

 

b.直助型 大正中期から昭和初期に流行した餌木型

*「白焼き」胴体を加飾・塗装しない素木地のまま使う餌木モデル

炭火で中まで十分に炙り、木部の表面から内部までを高熱で処理するもの。黴・虫がつかず、海水中で使用しても変色や傷みが進まない。表面を焦がさない程度に遠赤外線で表面組織を過乾燥した組織は、ほぼ絶乾状態になり、炭化寸前でとめて材を安定させるやり方。用材樹種:クサギ・アマギ・クス 等

モデリングの造りこみポイント

目玉・顎角ギザ・髭(羽植え) 頭背 – 腰尻に甲紋浮き出し木目あしらい  胸・腹・尾に脚羽植え

*車海老イラスト(上)は 、図鑑・雑誌サライ(瀬戸  照氏原画)を模写しています。

詳細部・専門図書等は、次稿に続きます。

ⓒ2018 , Kurayuki Abe

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木の総合学研究 2018 「餌木樹種と木目・杢・木取り」「炭火白焼き防腐処理」

「薩摩烏賊餌木 木の擬似餌デザイン類型と仕様」

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