「木」と遊び工芸擬木・擬造木工

「薩摩烏賊餌木(エド)之研究」続考 -2 妖しい騙しのイカモノ造形  フェイク囮のディティール

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

烏賊餌木の各部分詳細・仕様について

E1. 胴  ボデイサイズ   長さ

最小サイズから最大型まで 胴寸法の比較

板鉛錘付き 46.垂水型、他は直助型または改良型 46. 一草:151mm L (写真は47.岩根 148mmL ) –  38.丸三:156mmL –  39.ナカレ:157mmL –  10. 千代田 :172mmL

重心G位置

全長重心G位置は、下腹のほぼ 4 : 6 の位置にあります。4.2 – 4.3 : 5.8 – 5.7 付近に集中。(錘ウエイトバランスや沈降曳き操作から、経験的に得られた胴変曲点、腹折れ後部近辺に集中。)

E2.頭  E3.背・腰

辺材を背表にとり杢目を強調する「木表」使い (クサギ・あまぎ・楠)

木取り・割り木

木目選び、材質木取り・細部の削り仕上げ

アオリ烏賊の誘引、食い付きアタリは、餌木材質の次第で見た目に大きく左右されると現場報告されています。ヒット作は、木の光沢材質と芯央かかりの木取り模様が釣果を大きく左右されるので、良く食いつくヒット材質の名木を捜すことが餌木造りの基本とされています。

意図的に使う「入り皮・入り節」

入皮を取り込み  胸甲(腔縁)に見立て際立たせた卵巣露出モデル  月光下の海水遊泳では、屈折反射しながら空気泡が立つのでは。 ⑨小夜姫

入り皮・入り節部は、海老の甲殻縁割れの形に見立てて、作り物の限界をこえた生々しさを出す狙いと見えます。

E4. 眼玉

左:ガラスビーズ 竹釘打ち 色:赤桃白緑  右:珊瑚 穴埋め松ヤニ固着(珊瑚眼は、大正年間に一時流行したモデル)

E5. 胸ほろ(尻 ほろ)

 

地鶏の羽植え付け 竹細釘止め

E6.  錘

  

A .板鉛:キール、斧鉞形、小判、花弁 曲げ・エッジ面取り、ダブルウエイト補足

B. 穴空き古銭 :竹釘止めして沈降ウエイトバランスを調節できる。(寛永通宝・乾隆通宝) 一枚・二枚・三枚・四枚・五枚合わせ

E7. 腹・尻

  

顎から胸脇、腹 尻まで底面のボデイ面取りが海中遊泳に「ゆらぎ」をつけ、リアルな動きを与えて上手に曳き、烏賊を誘うための工夫がつきないので、それぞれのモデルには微妙な違いがあります。左脇腹・底平面取り部には、毛筆・墨差し、ペン書きで銘と曳きアタリメモが記載されています。注目すべき自然素材の使いこなしでは、テールの縞縮み杢を根曲がりアテ材から削り出し、リアル感を出しています。胸腰の膨らみボデイコンシャスも惹きつけ、色めかしくセクシーで肉感的です。

この烏賊餌木に多く選ばれるクサキ名木は、芯央部に髄(空木)が入り初期成長肥大がおきく目粗。成長した辺材部目詰みが濃色杢理となる、一般の広葉樹種とは逆の材質です。背・腰部の甲紋は色濃く現れ、年輪模様が浮き上がり拡がるデホル目になる巧みな木表使いです。

 

E8.口緒ヨマ 正面顔相とテール

①銀河

⑤ 千代田

⑦ 月光二代

56.  山ヒワ三代

ボデイラインの美しい造形に比べると、顔面は妖しい崩れた雰囲気です。イカさんはバックシャン後方から喰いつくから判断を誤るのですね、前のほうも確認しないと。口緒ヨマは、両側小穴明け紐通し、1寸ほどの二本よりもどしを付け、手竿道糸に結ぶ。昭和期には、絹糸撚糸からテグスへ代わり、釣り具素材の変化が明らかです。

E9.   かな 鈎(傘針)

  

竹串軸に真鍮針を傘骨状に曲げ結束。喰いついた烏賊の脚を鈎で引っかける仕組み。「一丁かな」一段鈎と外れにくい「二丁かな」二段ダブルフックの二タイプ。この実漁モデルは、海中曳きで電解イオン銅腐蝕が起きていますが、墨塗りやペイント塗装して保存されたものは保存状態もよく綺麗です。劣化する竹軸鈎針は、外して交換修複できるように松ヤニで固着。

E10. 顎角彫り

 

作品モデル銘

収蔵作品銘:62体 (同名一対を含む)

1.銀河 2.  弁天一 3.  川島 4. 中イソ3 5.  千代田 6. 日之丸二代 7. 日之丸 8. 月光一 9. 小夜姫 10.千代田 11. 水月 12.大藥 13. 日の丸 4. トヤモ四 15. 城山 16. 秋月 17. 庭武市弍号 18. 夕立 19. 小鉄 20. 南木 21.正子(リネ) 22. 曙 23. 竜王 24. 勝田 25. 初日 26. 新旗一 27. 玉垣 28. 屋久 29. キリシマ 30. 大園 31. よし 32. 廿六 33. 明月 34. 千成 35. 松信 36. 新一旗一 37. 松波 38. 丸三 39. なかれ 40. 利永 41. 秋櫻 42. 湯之宮 43. 桜島正宗 44. 松風 45. 楠 池田 46. 一草 47. 岩根 48. 明月 49. 千成 50. ハヤト 51. 青島 52. 丸三 53. ユの一 54.  カネキ「木 55. 十八 合録 56. 山ヒワ三代 57. ハリケーン 58. 宮隈 59. 源 60. 東 61. 新谷 62.マホー (同名同型 4点:千代田 千成 新一旗一 丸三 )

洋名は末期の作品に「ハリケーン」、「マホー」があり、毛筆・墨差し墨書からペン書き(インキ)への移行時代変化がみられます。手許に保存したものには、エピソードのある銘や名木・ヒット作、思い入れの重要なメモリアモデルが残されたと思料します。

「薩摩烏賊餌木考」所載図版の喜一郎作品銘

鬼 イカ 天狗 大島 岳 大和 大山 後谷 月光 前谷 五字 文化 刃葉 雲井 霧島 瀧壺 梅枝   龍虚 口之島  計19 銘

製作者別作品掲載図版数:源次郎 が最も多く、44点 岩次郎 34点 治右衛門 24点 次いで肥後喜一郎作が19点所収されています。多くの類型の中に、独自の創作モデルとして注目されています。

肥後喜一郎の人物略歴と評価

「薩摩烏賊餌木考 第十章  著名な烏賊餌木作者とその作品」  p.80   から引くと

「このほかにも素人で自家用に巧みに餌木をつくり、そして楽しんでいる人も少なくない。例えば、指宿の肥後喜一郎翁や鹿児島市郡元の河野通保翁等である。肥後翁は、幼少のころから烏賊曳きに親しみ、多数の名木を発見されたり、白焼の数千本の餌木を自作しておられた。型は治右衛門型でも垂水型でも伊太郎型でも巧みに模して作り、時には独特の肥後型とも言うべき新型を考案されている。翁の発見された名木で名高いものは、鬼、滝壺、前谷、後谷等数々多くのものがある。明治17年4月30日に生まれ、昭和31年8月10日に病没された。行年72歳、なお、翁の長男、正樹氏は、元指宿市長で、現在政界に活躍されている。」

作品のバリエーションを構成パーツ、細部からみると

実益型の趣味道楽的作品から独自の新型を創出し、名木の探査から木割り、餌木型制作まで高度の専門職化していたことがうかがえます。

モデルチェンジ・新規性の手加減

全ての制作モデルを精査した印象は、表情が少しずつ違い細部も同じ物がなく、微妙に造り込み、新作に仕立てています。烏賊は、同じものでは贋物と見破りよりつないため仕様変更して新味をそそるアタリの工夫が常に必要です。全く新しいものは敬遠され、ちょっぴりモデルチェンジしていくのは、自動車メーカ営業戦略・カーデザイン販売促進に似ていますね。

イカモノ喰い悪食でも「イカガワシイもの」にひかれるうちはヒットしてい」ますが、イカス新作が好きなのは人も同じです。「イカレル」「イカモノ」とは、外れていて変わっているものに関心をもつという本性ですからしょうがない。また。仲間内で連れ添い、競い合い、美味実益をかねた趣味道楽で遊びの熱中時間は如何にも楽しいものであった事でしょう。

「イカもの」の造形

各モデルのスタイルは、妖しい雰囲気もさることながら、フォルムが洗練されていく過程、合理的な制作技法や美しい造形的な処理にも魅力を感じてきました。いずれも完成度が高く入念なつくり、撮影、実測とイラスト・図面化が進みましたので、一級の民俗文化・クラフツ資料としてまとまります。

今後の課題は、①月光海中での発光輝度の確認 ②ボデイの面取りと遊泳動作の関連度解析、③ 3D デジタル立体計測による雛形制作、④ 画像の複製と教材利用、工芸体験ブランクとしての活用、⑤ 公開展示・保存ケースの制作など。

指宿EDO工芸館へ

誕生の地を離れ、バブル期に東京へ出たわけですが、散逸転々することもなく、揃いで大切に収蔵保管してきました。指宿へ里帰りして公開され、郷土のクラフツ文化、仮想「EDO工芸館」に落ち着く時期も近いのです。ダンダン

*材質・ジョイント工房手法については次稿に続きます。

ⓒ2018 , Kurayuki Abe

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木の総合学研究 2018 「餌木各部分詳細と木目・木取り」「薩摩烏賊餌木・擬似餌デザインモデルの造形と仕様」

 

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