「木」と芸術「木」と遊び修複・保存工芸

「木と竹のつなぎ」工房自然有機技法  熱メルト・脱着できる天然植物性グルー松脂ロジン瞬間接着の再評価 薩摩烏賊餌木続考-4 ジョイントシステム−30

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

松脂ロジンには、低温熱溶融、常温固形化、接着・固着剤、乳化剤、滲み防止サイジング、疎水性、水溶性付与、顔料分散性など多くの優れた化成作用があり、最先端ではハイテク電子基板・半導体のソルダリングフラックスとして金属皮膜除去に使われています。

適度の粘り、硬さ、粘着性添加、滑り止め、モールド離型などの工芸・アート材料、弦楽器・弓、香料等にも便利な天然由来の材料として使われて来ました。

天然グルーの「三千本膠」や「続飯」は水で剥離し、漆は松脂抽出ガムテレピン油で稀釈洗浄したり、松脂は低温加熱で再溶融し、剥離脱着することができます。化学工業製品ではなく、無害の循環系有機自然素材、小さな規模で出来る簡便な工房技法としても今更に注目します。

テール部竹串軸の松脂接合 ⑥日の丸二代 墨まぶしの松脂テールシールド(松脂に少量の胡麻油を使用すると専門研究書に記載があります。)

脱着できる松脂ロジンの炭火接着・固着

江戸期より伝承されてきた薩摩烏賊餌木エドテールのかな鈎(傘針)・竹軸串接合に松脂が接着剤として使われていますので低温炭火で尻部を加熱するとかな鈎を抜くことが出来ます。溶けた松脂は膠状ですが、被着材の温度が低いので嵌めると直ぐに固まる瞬間固着。

本来、素木胴体を炭火で炙る「白焼き」が主要な造りですから、おき火溶融できる接着剤は便利で身近なホットメルトの天然グルーでした。傷めば、木部と竹差し軸をかな鈎を新品に付け替えできる修理可溶接着です。

炭火とともに、自然素材でまかなえるジョイント技法は、文化財の再生・修複にも有効な伝統技法の一つです。

「かな」を餌木に差し込み付ける方法

竹の「かな軸」の先端を1寸5分ぐらい細く尖らして削り、 餌木の尻にあらかじめ錐であけ差し込む。

「かな」傘針は、烏賊ががかかった時は絶対ぬけず、取り替える時は簡単に抜けるようにしなければ成らない。

松脂を炭火で溶かし、少量の胡麻油をいれ、溶けた松脂に中に竹軸の先端をつけて餌木の穴にさしこめば、

そのまま冷えて固まり、抜けない。抜き替える時は、尻部を遠火で炙れば松脂が溶けて抜くことができる。 「薩摩烏賊餌木考 p.55」

琥珀色の天然松脂塊・フレークとパウダー状松脂の溶融固形化の性状・瞬間固着型ホットメルト

パウダー状松脂の軟化点:約80℃、溶融液状化は90 – 100℃

炭火は、胴体素地の炙り「白焼き」にあわせて松脂溶融を再現しました。尻部を遠火で炙れば、内部で松脂が溶けて抜くことができます。かな竹軸の先端を溶けた松脂にいれて胴に差し込むと冷えて即座に硬まり固着。喰いついた烏賊がどんなに暴れても抜けないのです。

モデルno.58. 宮隈 (尻に火が回って暑そうですね。)

尻・テール部から深く錐もみして差込まれた竹軸串部 :1寸2分 36mm  x 軸長さ67.5mm x 竹軸中央径 3mm – 傘針芯3.5mm

 

「薩摩烏賊餌木考」 唯一の専問研究図書

Lures for Squids and Cuttlefish in Kagoshima Prefecture, Japan
岡田喜一著  Lures for Squids and Cuttlefish in Kagoshima Prefecture, Japan With 500 Photographs and Text – Figures

U.R.No. 171 303 X 218 X 25Tmm 上製クロス装幀本 1978 昭和53年
目 次
・口絵
・序
・自序
・凡例
口絵図版
薩摩烏賊餌木の時代変遷の代表的作品 1〜4 原色図版
薩摩烏賊餌木の時代による変遷   1〜 60 単色図版
汎論
第一章 日本産の烏賊の種類            1〜2頁
第二章 烏賊曳きの対象となる烏賊の種類   3〜5頁
各論
第一章 薩摩餌木の創始とその発祥地        7〜 9頁
第二章 薩摩餌木の形態的分類とその特徴      10〜15頁
第三章 内湾型烏賊餌木の名称           16〜22頁
第一節 餌木銘           16頁
第二節 餌木の部分的名称      20頁
第三節 模様焼きの名称       21頁

第四章 内湾型薩摩餌木の変遷と分類        23〜30頁
第一節 第1期(江戸末期から明治10年まで)  23頁
第2期(明治10年から明治末期まで) 24頁
第3期 (大正初期から昭和現代まで) 25頁
内湾型烏賊餌木形式.Ⅰ.Ⅱ.Ⅲ. 27〜29頁
内湾型烏賊餌木の変遷と「烏賊曳き」盛衰対象図 30頁
第五章 「模様焼」及び「焼版模様」        31〜37頁
第六章 薩摩烏賊餌木の材種            38〜45頁
烏賊餌木材一覧表          37頁
第七章 薩摩烏賊餌木の制作法           46〜60頁
第一節 餌木材の選定と餌木の制作  46頁
第二節 「錘」(種類と位置と目方) 51頁
第三節 「かな」の変遷と付け方   55頁
第四節 「ほろ」と植え方      56頁
第五節 「口緡」と付け方      57頁
第六節 「眼」の時代的変遷と付け方 57頁
第八章 月の照度と海水の透明度          61〜 68頁
第一節 月の明暗          61頁
第二節 海水の澄濁         62頁
第九章 烏賊を誘引する原理についての考察  65〜68頁
第十章 著名な烏賊餌木作者とその作品       69〜80頁
第十一章 薩摩の「烏賊曳き」           81〜92頁
第一節 仕掛け           81頁
(1)烏賊棹;(2)「錘」と「緡糸」;(3)烏賊餌木箱
第二節 餌木の「曳き方」と競技   87頁
第三節「烏賊曳き」の実況    88頁
薩摩「烏賊曳き」用語解説    93〜94頁
参考文献                     95頁
跋                        96〜97頁
英文解説                     98〜100頁

20171002ABE

 

② 別冊 つり人 Vol.169 「アオリイカ地獄II」雑誌 210 X 285 X 9Tmm P.178 2003 – 08 株式会社つり人社
ISBN4 – 88536 – 383 – 7 ¥ 1.143-
「薩摩烏賊餌木考を読む」 不破 茂 p.12 – p.17  「時空を超えた旅 餌木のルーツを訪ねて」北見常雄 p.18 – p.24 「餌木の漁獲選択性とは」アオリイカを科学する 東海 正 p.142 – p.145 他。

 

以上、薩摩烏賊餌木の工人肥後喜一郎作品のその全容と詳細、及び関係資料を記載しました。彫刻作品としてもユニークな造形性、木の特質と接合ジョイント技法の巧みな工房手法についても続考しています。専業職人では思いつかない多様なバリエーション、美味しい道楽・遊びのデザインも文化の創造力なのです。

偏光反射・微光素材の撰材や松脂ホットメルト接着などは、歴史的にも注目されるべき工芸的前衛手法でした。当時、和弓の産地が近臨にあり、工芸産業での松脂の利用法はかなり普及しており、陶芸界では松薪の窯変作用が尊重されています。お楽しみいただけるEDO白焼き彫刻工芸の世界が明らかになりました。極めつきは、日本刀鍛錬、研ぎの最後の鏨銘切りに刀身固定に松脂を使います。

ⓒ2018 , Kurayuki Abe

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木の総合学研究 2018  「松脂ロジンの接合・固着」「工芸工房技法」「修複・保存技法としての天然由来素材活用」

 

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