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江戸初期から続く生薬和方「ボクソク」櫟樹皮剥がし  初夏水揚げ成長期には樹皮が膨らみ、伐採・打撲ダメージには抗体治癒反応が忽ち現れる。里山のケミカルリソース、見得ないダイナミズム・樹体内変化をとらえる。 Insight 木の内科 – 47

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

櫟の立木は、虫や菌が侵入すると感知し、伐られば即座に修複へ動きます。殴られ傷つけば、抗体・治癒色素が滲み出て細胞壁をスルー。直ちに損傷に向かい、抗体バリアーでデフェンス。芯央からの動きは、木口年輪層に鮮明に現れる。木も痛いでね。

水揚げ成長肥大期にカットされると、激しいほどの生命維持アクションを起こします。移動できない樹体は、痛み苦しみ、もがきながら、細胞レベルで見事にガードしていることが判りました。杣人 炭焼きも製材職人も材木商はもちろん、学者・木工家も未だ見たことが無い樹界ミクロコスモスです。

梅雨明けから初夏の樹皮採取 里山循環林伐採現場から

内皮には樹液がべっとり 空気にふれると酸化しはじめ、褐色にかわるので搬出、洗浄・乾燥を急ぎます。清浄な肌ですがしい香り。

櫟林は、伐採・玉切りの翌日、素速い皮剥ぎハンマー打ち。束ねて夕刻に山から下ろします。未明に生薬工場が引き取り、午前中に洗浄し乾燥、素速く中間体にします。今年は、1トンを出荷。樹皮成分は密閉保管します。

薬理成分のスピード処理

翌朝、日の出前に山里をくだり、工場で直ぐ洗浄され自然乾燥する生薬です。薬用植物の本・小事典には櫟樹皮の記載は消えていますが、日本薬局法には「撲樕」について記載があります。酸化しやすい成分です。

櫟林伐採現場は、枝葉・樹体からの嫌避発散気でヤブ蚊などは寄り付かず、森の見学者が早速訪れました。

「和方」生薬採取・櫟樹皮剥がしの記録

樹液が上がり、樹皮が浮いて剥がせる一時期のタイミングで作業を完了します。本来、豊かな里山杣仕事は絶滅寸前。オーガニックマテリアルの研究や山産物ビジネスでは食べていけないからです。シーズン作業は天候にも左右され、リアルな現場シーンは、樹体内の動きとともに貴重な記録になるでしょう。

薬物を自然の産物から利用していた時代からの伝承は続きますが、里山採取季節作業の現場は、画像で記録されることはなく、ボクソクは薬用植物の専門書にも記載されないまま。現在は、暮らしの知惠や処方も消えて、需要もわずかになりました。石油が無くなれば、合成化学薬剤もお仕舞い。

里山は自然のケミカル物質・資源生産ファクトリー

里山は、薬物生産の塲でもありました。いろいろな樹種には薬理作用があり、木材だけでは無く、昔の里人はその薬効を理解して生活物資に利用してきました。季節による樹木の性質が変動しますが、ベテラン杣職は経験的に採り旬・適期を見極め、身体記憶で完遂されています。多くの具体的な実例や体験からの教示をいただき、先達の技能と知見は専門性が高く、木の総合学へ反映できる重要なコンテンツとして受け止めています。

樹齢50yrs. 末口径:27 x 25.5  mm  伐採2018年7月中旬  一ヶ月後の木口芯央色変材拡散

 

玉切り樹皮剥がし原木2トン120本を研究サンプルとして購入 木口の再カット・斧割りで樹体内変化を凝視、干割れ・内部変化がドンドン進行するので撮影同時進行で木の内科は忙しくなります。

玉切りの元口を落とせば生々しい内部の動きが現れます。

142日後の辺材部  逆放射向芯髄線と収縮干割れ

 

芯央抗体色素の拡がりは、入り節周辺から

樹液分泌物が乾燥してボクソク化学成分の付着酸化した木肌

綺麗な枝節切断面の包合、見事な巻き被り修複や抗体治癒の動きは、切傷、打撲ダメージの治療法の開発、ホメオスターシス的解釈にも繋がります。外科手術の名医を彷彿させますね。

 

メクヌギとヺクヌギ (白・赤)

牝櫟

明科町東川手 2018

池田町2018

牡櫟

明科町東川手2018

櫟は雌雄異体ですが、果実団栗のなる牝櫟は葉形がシンメトリーではなく、歪みゆらぎ乱調。樹皮はやや薄く木理年輪が淑やか。

牡櫟の葉は整い、シンメトリーで栗にそっくり、樹皮はごつく厚め、材質・木理は目粗堅い。材色の違いは微妙ですが、牝櫟は白身、牡櫟は褐色。地質や環境でバラツキあり、現在は明確な差異が判りません。幾つかの特長はあり、さらに立木カットで雌雄の識別の手掛かりがつかめそうです。

牡櫟・白 20016 入山辺

現在も続く櫟の利用 樹皮を剥がした材には虫が入らない

長野県中信地域では、ブナ科コナラ・ミズナラ・アベマキ・櫟の樹皮を自然乾燥して生薬に使われています。タンニンの含有が多く渋いものが良質。果実ドングリはツルバミ色と呼ばれる鼠黒・茶色染料。

薪炭燃料の利用では、美しい割れヒビ櫟炭(池田炭)は上品茶道炉の主役 炭火は、穏やかな輻射遠赤外線を出します。半生菓子の加工などには好適でした。

昔の囲炉裏では櫟煙は目に障らず、火の粉は弾けない。薪ボイラー・ストーブには、堅木で燃焼効率が高く、火持ちもよく、純木灰は藍染めアルカリ中和剤、畑地のオーガニック肥料となります。30 ~ 40年サイクルの循環、里山の環境生活資源として重要な役割がありました。薪の上等品です。この時期に剥がした薪には、不思議にも虫黴が取りつきません。

多量の原木現場カットサンプルから見えてくるもの

玉切り樹皮剥がし総数180。間を置かず、生木木口カットを繰り返し、全て手斧で割り。爽快な香りが漂い、木の内科担当は未知の樹性発見の連続です。清潔で気高く、雌雄異体のユニークな性格などは、人に近いイメージです。抗菌・抗体、損傷治癒の動きは、カット後も密かに進み、樹体の優れた形質と内部の見事な生体反応に引き込まれた木の時間でした。冬を迎え、重要な研究サンプルを残して、ストーブの薪棚におさめます。

*櫟樹皮剥ぎ作業 2018年7月:内川林業 内川利喜夫 「ストーブ薪・キノコ原木榾木」専業・里山林業二代目の大ベテランです。安曇野市里山環境整備ワーキンググループ さとぷろ専門委員 「ちいさな環境講座」、地元小学校屋外体験学習指導、環境講座などを担当  昭和12年(1937)生まれ 81才現役  安曇野市 明科東川手木戸 13238-1   協力:熊井勝夫・藤原 誠

 

ⓒ2018 , Kurayuki Abe

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木の総合学研究 2018 「櫟の損傷ダメージ治癒、抗菌・抗体」「櫟の季節樹性変動とメディカル・化学成分」「有用樹種里山の自然循環資源」

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