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刃物が錆びない木「保寶(ほほ)の木」 古代から木工鞘職が継承してきた自然素材の力 その抗菌作用・防錆性をつきとめる。Insight 木の内科−48

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

冬目・髄線は極薄、年輪は目立ず、均質緻密で軽く、樹体内の抗菌抗体が動き、異物を抱き包み。黴・錆びつかず、刃当たりのよい削り。膠漆のり、拵え劔太刀をおさめ、ぶつけても崩れず。

刃物をさびさせず、食べ物を包み盛る抗菌性、日本固有のネイティブスーパーツリー。オーガニック・エコマテリアルのすごい実力が見得てきます。

ほほのき「寶を保つ木」 宝物の劔太刀を保管する鞘木「ほう」

「ほほ」は「保寶」 劔太刀を保存する鞘材。天平時代の樹名は、鞘造りからきています。古墳時代の出土遺物にホウがあり、既に刃物が錆びない性質を識り、工人は使いわけていたのです。万葉表記の「ほほ」はホウ、寶には縁が無いので、古からボンヤリしていました。

万葉集 巻十九 4204 「吾勢故我 捧而持流 保寶我之婆 安多可毛似加 青盖」

吾が背子が 捧げて持てる 保寶(ほほ)葉(かしは) あたかも似るか 青き蓋(きぬがさ)

傘のような大きなホウの葉。大きな花は華やかで気高く、香りは清々しく元気になります。

鞘材はホウの木を使う

鞘師は、刀劍鞘にホウの木だけを使います。緻密で狂いが少なく、刃物アタリが良い。加工性に優れ、膠・漆の相性は生物素材のなじみがあり、技法は相伝で継承されてきました。鞘に使われるわけは、「脂を出さず酸を含まないから刃物が錆びない」と言われてきました。

釘抱き樹体内の抗菌、治癒、防錆リアクションを明らかに

刃物が錆びない、防錆効果があることは鞘師の長い歴史と実務経験で明らかです。科学的な実証となると樹体に刃を突き刺し、数十年長期に抱かせて実際に錆びがつくのかどうかを調べることになります。鍛造とはちがうのですが、刃物同等の鉄片や軟鉄釘ならば錆び方は早い。樹体内に釘打ち残された原木丸太に出会い、釘位置に到達して周辺部の汚染がなければ防錆の実証になります。

洋釘抱き樹体内断層カット 32年先行試験中の幸運なサンプル材

■ホウの木 原木データ:2003年伐採 樹齢 40 yrs.  元木: 元口 径 50cm  末口47cm  高さ80cm  長野県南安曇郡穂高町 畑地隣斜面の里立ち木  枝下2.6 m    伐採17年前に太釘三本打ち込みあり  伐採原木ストック15年 白太辺材部に割れ 腐蝕菌侵入  2018年11月製材

白太辺材部に拡がった腐蝕菌と芯央からの抗菌・抗体のせめぎ合い

 

伐倒後も十数年間抗菌活動を続け、芯央色素抗体がバリヤーをつくり腐蝕菌侵入をガード。

木口切断面は、鮮やかな鶯グリーン色。年輪層細胞壁を通過して抗体色素を滲み出し、白太辺材部境界へ張り出し対峙しているのが鮮明です。伐採されてから15年間、芯央は腐食菌の侵入拡がりを防衛し、生命維持活動を続けています。

伐り倒されても内部は動きます。芯央は活動を止めたり、命は絶えていない。木は長く生きています。内皮から芯央へはいる髄線逆放射組織は、肉眼では見えないほど微細密生、切り刃が深く入らないミクロのレイヤー構造。比較的ソフトな材質ですが、ぶつかっても崩れにくいしっかりした組織です。

 

刃物が木部へ突き刺さると樹体内でははどう反応するのか? 釘抱き立木の抗菌・防錆の究明

長釘やライフル弾が樹体に入っていれば、受創錆びの出方でソリッド材の性質があきらかになります。この状態をつぶさに観察するには、金属片を打ち込み、少なくても十数年年間にわたり追跡しなければなりません。さらに内部からほじくり出す「き」の遠くなるような…そもそも研究者はいないのです。薬学分野にホウの木の抗菌性物質の抽出・分析に関する既往の研究がありますが、立ち木生材の抗菌反応・防錆作用の究明はありませんでした。

このホウの木の外観は、斜面で立つ幹特有の出張りがありますが、スックリした良材元木に見えます。里木ということで釘打ちなどが予想されました。小幅でダラ挽きすると、はからずも、三十年余りの打ち込み釘抱えの姿が現れました。軟鉄太釘を包囲する抗体色素の動きも見えます。

元木は、地表から近く、実生からのストーリーを記録し、木理が安定して材質・色気もよく、一番玉として価値が高い材料ですから研究サンプルとして一級です。

製材:元口から21mm 正七分・ダラ挽き 材芯を超えた中程にまさかの釘打ち

抜いた釘は、打ち込まれた当時にかぶった頭首に水濡れ酸化はあるものの、封じ込まれて錆びの進行はみえない。

太い里木には、釘打ちが度々あり製材所泣かせ

この里木は樹齢23の時釘打ち込まれ17年経過し、樹齢40年で伐倒。玉切り後、更に15年間原木ストック、2018年製材。他の樹種の塲合、釘・ボルト入りは赤錆びはひろがり、材色を汚染しますが、ホウの木は包み込み固めています。立ち木の繊維縦方向に色素集積が紡錘形に濃く滲み出し部分的な閉じ込め。32年間釘を抱いていました。

釘を挽くと帯鋸刃をいためるので、プロの木材業者は里木を敬遠します。人里近くの立ち木は、ボルトを打ち電線・ワイヤーを張り、狩猟の銃弾をうけたり、呪術で釘打ちされることがあるのです。そのような金属片が取り込まれ、そのまま肥大した樹体は、木材の購入者にはわかりませんので潜在的な大きなリスク。期待した良材が台無しに。釘挽きはバンドソーの目立て修理代がのりますが、この釘抱き防錆サンプルとしてとても有り難く、大きなイタデにはなりません。

侵入細菌・虫攻撃出動の痕跡  自然乾燥 十年

ピスフレック・菌侵入ダメージへ芯央からのアタック(別サンプル20111116)

辺材白太で拡がる腐蝕菌を芯央抗体色素でガード、侵入阻止デフェンス30年あまり

 

刃物が錆びない材質の究明と鞘用ベストマテリアル

①抗菌性材質で黴がつかない。黴が付着すると、繁殖した菌糸体自体が水分をよびこみ、刃物に酸化汚染がはじまる、錆びのステップがあります。

②肥大成長が均質緻密で、髄線・冬目が微細なために菌類の侵入が困難、外気が内部浸透しにくい。

③抗体が激しく動き、色素を集積しバリアーでデフェンス、異物を封じ込める。釘・銃弾は包み抱いて肥大成長。

④材組織に酸性物質を含まず、脂を出さない。

⑤ぶつかっても衝撃を吸収し崩れない。

⑥重くない密度比重で刃物あたりがよく、削り易く、膠漆の「くっつき」相性がよい。

最も優れた鞘材として唯一無比の存在です。

国内各地の里山近く、沢沿い湿潤な塲所で育つことも身近な有用材でした。また、強い大きな鼻をつくような花の香りは、ホウの木が一本あると広い沢でわかるほど。回復力、繁殖・結実力の強さを感じさせるものです。

  

ホウの木内皮の被覆力「厚朴」由来   20181203ABE

河畔林のホウの木 20111023 会津州走

葉形は巨大で広がり重なり、目立つほどの伸び繁り。雨傘になります。大きな白い花は見事で、赤い実の固まりは強烈な存在感があります。

ホウの木の花・葉 会津三島町・松本市入山辺

ホウの葉は器、食べ物を載せたり葉で包み、巻いたり焼くと香ばしく、木曽・飛騨地方の季節食材です。腐らない傷まない性質と香り成分を活かした民間伝承です。芯材に脂はでない、鶯色は匂うほどではない。樹皮ホウ精油は、アロマテラピー、抗がん転移抑制に臨床で使われます。立ち木は周囲を清潔にし、オーガニック、メディカルな用途が広がる貴重な樹木となりました。

ほう研ぎ 刃物の相性

「ほう研ぎ」という、切れがとまった鉋刃を木口斷面にあてて擦ると刃先が回復して、しばらくは削りはかどる。現場の知惠でした。鞘に出し入れ擦れる刃先は、均質で微細な組織で擦れると研磨効果もあり、緻密な材質で封じられ空気が動かず、同時に錆び曇りがこないというユニークな性質を利用していたわけです。

木口カット面の粒度は約#1000 ~ #1200、朴炭は漆塗研磨に使いますから、朴材の穏やかな研磨力にも注目します。

生木のソフトな材質、抗菌防黴性を利用して、飛騨・雫石地方では素木鉈削りの杓文字に使われてきました。軟らかく、崩れない材質が食材を崩さないので、鍋汁物に重宝な生活道具。ぶつけても崩れず、傷は目立ちません。生物素材どうしの相性は不思議です。

木口ほう研ぎ 仕上げ砥の雰囲気

ほほの木は生命維持・文化持続資源そのもの

鶯緑の材色は世界でも唯一の日本固有種。伐られても芯央は生き続け、日本固有の樹種の中ではダントツの抗菌力です。自然乾燥のソリッド材は、抗菌・防錆作用を活かして鞘制作から収納保存、食材・メディカルの用途を拡げています。日本の生存樹木資源として大切にしたいと思います。

素戔嗚尊 (すさのをのみこと)は、「ほほ」の木を識らない

日本書紀神話には、毛を抜き、「杉」:舟材、「檜」:造宮材、「柀」槇:臥ぎ屋根葺き、「く樟」:舟材をつくれと指定。「ほほ」は登場しません。瑞穂の国の森をみていないのです。渡来民族の鉄器・劔の鞘は革製だった?のか、劔は重要な武器ですから軍事機密だったでしょう。草木名が列記されている出雲風土記にも登場しないわけは、注目されない地味な樹木で、鉄が統治のカナメ、刃工と鞘造りは一体ですから、隠されていたかもしれません。古墳から出土する劔太刀とともにホウ木片が見つかるのも、昔から適材の細工技術があったことがわかります。

蜘蛛・カメムシ・テントウムシは入らず

他の端材薪箱には越冬ゲストがいますが、朴板落とし端材には入りません。防虫・嫌忌の確認をしました。衣料・食材でも試します。

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木の総合学研究2018  「ホウの木の抗菌・防錆性」「刃物が錆びない樹名の由来」「ネイティブツリーの木識・木録」

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