ジョイントシステム工芸木工

「割り楔」「楔締めジョイント-Ⅱ」 相伝されない正調 寸足らずの糊切れ吐き出し 造形的木口処理パーソナルタッチ 木のジョイントシステム-31

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

割り楔に定寸はなく、ソリッド材木口の締め固め構造ジョイント。テーパーをつけ、ひと鉋、楔丈は母材厚みの2 / 3 見当。本来は隠す角枘・丸枘頭、近年は手仕事を魅せる造形的ロック。チップソー切断のまま打てば接着剤濡れ浅く、痩せて糊切れ、浮き出てざわつく脚物。

楔締めは、構造部材を固める裏技で、本来は表に出すものではない締め固め。脚物で割り楔を意匠的に見せるようになったのは、ウインザーチェアーが紹介され、キャビネットメーカーの巨匠James Krenovの創作、造形手法が注目されてから。寸法比率や技法の決まりはない裏技。正調な手仕事、枘頭浮き出し、糊切れ吐き出しの実際をあきらかに。

① 角枘・通し枘の割り楔締め 明治末期の工夫

 

踏み台の角枘割り楔 明治44年  新調(1911年) 所蔵:工房春夏秋冬 藤原哲二氏

江戸から昭和初期まで、踏み台は町屋大工の仕事でした。指物では箱組、外からみえない内枘にします。枘出しは無粋とされていました。

角枘の楔締めは、枘先が開く1/3 の位置あたり外側に割り楔入れ。経験で見当がつきます。一ヶ所、組み立て時の枘スキ、埋木でガタを防ぎロック。國政流には「枘は空いても枘割るな」の箴言があります。

この赤松材の踏み台は、持ち運びがしやすいように軽く、踏み板に枘先が出ているのは、板厚の制約から構造強度を上げ、足位置の目安。安全ステップマークにもなっていますね。養蚕棚作業に使われ107年、続飯打ち楔にガタなし。

② 丸脚・通し枘割り楔

 

KAYスツール  所蔵ABE

・三角三本脚:楡中杢 座面:275mm  厚み29mm 高さ590mm   脚:山桜  丸枘 :枘径 23mm 2004 年 6脚制作

・スクエアー:楡中杢  座面:400 x 300  x 45mm   脚:山桜 丸枘 :枘径 23mm  中央太さ36mm  x 長さ425 mm  2010 年 制作

   

木工造形家・柄物師  柏木工房 柏木 圭  最近作 2017

割り楔:オノオレ樺、もしくは真樺堅木 丸枘径より0.3 ~ 0.5mm 広く、乾燥収縮で枘径より小さくならない配慮です。僅かな出は係止効果があり、ジョイントを安定させます。座板下端は丸枘ショルダーで荷重を受け止め、段ツキ。脚が折れにくい。見えない部分まで丁寧で基本に忠実な仕事です。経験を重ね、栗・鬼胡桃は衝撃でひび割れがおきますが、楡ソリッド材は、繊維組織がからみ、座板は割れないそうです。どこかオブジェ的な雰囲気で「ウエパユ」彫刻センスも感じさせます。

 ③ 座板やせ  割り楔抜け

  

サミットチェアー 1991  星野秀太郎工房作    座面:鬼胡桃材厚み40mm   脚:水楢 抜き:山桜 スポーク:トネリコ材 オイル仕上げ 割り楔:東南アジア材紅赤木 座板が痩せて枘先浮き出1.5mm  糊切れ楔抜け2017年

割り楔の幅・長さ不足  打ち込みテーパーなく楔材は油気あり濡れ不良 接着糊絡みが弱い木破率ゼロ  乾燥痩せに効いていない。

楔頭にオイル仕上げ含浸、背凭れコーンバックの丸枘割り楔は動いていません。前脚のみ楔抜けが起きているのは、座面前縁部が乾燥痩せのため。優良材の無垢座板、バックシャン 27年使用。楔は直せますが、欠膠板離地見本として掲載しました。10脚制作   ABE所蔵

④ 脚先丸枘・伴材割り楔

日高工房 日高英夫作 ウインザーチェアーモダーン   所蔵:日高雅恵

割り楔は伴材の真樺を使い、一体化。玄翁で叩き止める、手応えタイミングの感触があります。割り楔に異種堅木をつかうと締まりますが、きつく入れば糊絡みは浅くなります。緻密で丁寧な手仕事をしていました。

長期間使い続けると、振動・衝撃で枘頭が 浮出ます。割り肌の接着効果が高い伴木がベストですが、馴染みの良い類似近縁が望ましい。丸枘・割り楔の挽き肌をよく見ると、チップソー丸鋸挽きのままでは接着剤の濡れは十分ではありません。出てきた頭は、反り台鉋ではらいます。フラッシュカット。

割り楔の祖型 18C – 19C初期の Primitive Construction ” Staked leg “simple wedged joint

S; OAK FURNITURE   The British Tradition

 A History of Early Furniture in the British Isles and New England

by Victor Chinnery    Antique Collectors’ Club Ltd.  Woodbridge, Suffolk    1979. 1980       ISBN 0 902028 61  8    222 x 282 x 40mmT     p.580    £ 30:00

チップソー切断面はシャープに見えるが、高速回転刃の圧縮擦れがおきる。接着剤の濡れ、糊絡みは十分ではない。

シナ・山桑自然乾燥材のチップソーカットひき肌と鋭利なカミソリ削ぎ面

鋭利な薄刃でカットした部分は、繊維組織が鮮明。白濁部分はチップソーカット面。

脂分を多く含む堅木材では、細胞間腔まで十分な濡れが起きず、接合界面は接着剤と楔テーパーで圧締されて固着状態になっています。接着剤と繊維間の強い結合ではないので、劣化や振動・衝撃でやがて剥がれ浮いて吐き出す。手鋸刃のアサリが被着材の接合面をほど良くアラシ、木繊維のケバ立ちが糊絡みを深く分子間力を作用させる「合着」ジョイントとなります。

枘抜けしないために、枘挽き肌を「一鉋」「スクラッチ」する現場の知恵は有効なものです。プレーナー・手押しジョインター回転刃ツースマーク痕跡もフラットではない。酢酸ビニールエマルジョン・尿素系・エポキシなどの化学合成接着剤は、二十数年で劣化、分子崩壊して糊切れを起こしています。

 “Personal touch”  Through – joint

割り楔ジョイントを魅せるキャビネットメーカー巨匠James Krenovの手法

 

指物では、見えない所に高度な技法を造り込みますが、現代では構造ディティールを意図的にみせるようになりました。

S ;THE FINE ART OF CABINETMAKING

by James Krenov  1977        ISBN 0-442-24555-6

Van Nostrand Reinhold Company A division of Litton Educational Publishing ,Inc. NY 225 x 286 x 20 mm   p.192 ハードカバー

 

※ 関連サイト 相伝國政流の楔について「http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/9506」

ⓒ2018 , Kurayuki Abe

All Rights Reserved.  No Business Uses.

複製・変形・模造・転載作り変え・画像転用・ロボット、Ai無用、業務利用を禁じます。

木の総合学研究 2018 「通し枘・割り楔技法 強度と造形的処理」「脚物の枘先処理パーソナルタッチ」「割り楔考」「Staked leg construction 」「Wedged  through joint」

▼ お気軽に一言コメントをどうぞ

次の記事: