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20世紀初頭に内製化した製図具 三角スケール・鐵道曲線定規・三角定規・雲形定規・製図板は指物師が制作 発明家的指物師伊藤吉之助の第九・第十の道具抽斗から -3

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

測量器材から製図用具、計装・保存容器まで精密機器には、木工製品が多く使われてきました。手触り感触がよく、疲れない。特に光学精密機器類は、外部衝撃ダメージを受けても損耗が少ないだけでなく、ソリッド材の容器が落ち着き、居心地もよかった。庫内気相の安定や調湿保管性能は確かに認められるもの。

● 鐵道曲線定規(R定規)サンプル

桂(赤)緋桂目詰み材 軽良緻密で崩れない緋桂を使用

サンプル 500 /20000 m 700 /20000 m  800 /20000 m    8400 /20000 m  R面の鉋仕上げ・研磨後に挽き割り

●鐵道曲線定規専用「回転棹罫引き」の考案

曲率に合わせて半径を無段階にスライド調節する軸棹回し自作ケビキ

ボディにバランスウエイト埋め込み|軸先回転芯:木ネジ切り立て|上蓋木ネジ止め:欅追柾材|下ボディ:白樫追柾材

①ボディ:棹のスライドをタイトにする板バネを上蓋下部に内臓、棹位置を固定する押さえネジで締めつけ。芯軸を浮かせて、棹の 左右、微少上下動を制御しつつケガキ刃でマーキング。

②棹差し口:内部隧道(ヒツ)芯央に微妙なクリアランスをとり、スムーズで精密な動作をする工夫があります。制作数は膨大、長年使い込まれくたびれ、棹は入れ替えました。

●雲形定規 初期モデルは雲流形

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外側ラインは鉋仕上げ。内側トリミングは、ミシン鋸切り抜き。(内隅は切り止めとなり、半円形の曲率は少ない)

 それぞれの曲線には筆法の由来やモチーフがあり、抽象フリーラインではない。図案の想定イメージがあり、頭部からテールへ流れ曲がる自然の曲線としている吉之助型。雲のイメージが基本形ですが、定規の形にも時代感覚や意匠の好みが反映しています。 緋桂・柾目目詰み優良材を使用(10枚組み)

▲三角スケール  初期モデルサイズは四種|大中小ミニ携帯用

柘植目詰み追柾材成形|ハンドワーク目盛り手刻み・文字刻印 ・1/100 – 1/200 m  ・1/300 – 1/400 m  ・1/500 – 1/600 m

敗戦後の高度成長期に量産化がはじまり、プラスチック成形・機械目盛りへと変わり、JIS規格化で手工業は終焉しました。菱三角溝ツキは、同型継承。 ミニサイズ11mm:TOKYO冨士山刻印

柘植良材が枯渇し、計算尺と同じ狂わない竹積層材表面プラスチック目盛りに代わる。

狂いがほとんどでない竹材の積層加工は、計算尺を制作していた時期もありました。表面張りセルロイドに目盛り付け刻みが難しく、精度の限界から他社専業メーカーに替わりました。

▲ 三角定規

緋桂:柾目・追柾目詰み材を使用     透明で薄く、線画が見えるアクリル製に替わりました。雲形と同様に、面取りカット、円・楕円定規は、回転切削刃物や打ち抜きが主流となります。現代は、PCプロッタ、プリンター印字線画となり、手書き図面を描けるプロは消えていきます。製図版、T定規、ドラフターも無くなり、熟練身体記憶のおもしろみは自動機械が楽しんでいますね。電気が止まると全滅麻痺です。

精密ウッドワーク ソリッド材の移り変わり

昭和初期まで、柘植・本櫻・緋桂・栓の上質材が豊富にあり、高品質で精密な手仕事が続きました。

「吉之助は、三尺 x 五尺の檜柾製図版を鉋目をつけずに仕上げるほどの技倆。風呂焚きもの燃料には困らず、仕事塲には芳香が漂っていた」と、母の思い出話しを聞きています。

敗戦後の経済復興、高度成長期に商社経由で多量に輸入されたラワン材は、安く無尽蔵とされ、軽量で加工性は抜群でした。量産化による軽合金、プラスチック製へとシフト。実際には、東南アジア熱帯雨林材が自然環境資源からみても貴重な銘木クラスだったのです。

輸入南洋材の塩分含有・電解腐蝕

 輸入される段階では、港湾貯木され、原木丸太は海水の塩分をタップリ吸収します。製材・人工乾燥された板材は、精密機器・絵画額装に使われ、塩分で金具類は電解腐蝕を起こして錆びる。現在、絵画などの収蔵保存では、予想出来ない南洋材の経時変化・ダメージが起きてきました。深刻な事態ですが、額の裏はみえません。絵画アート作品のバックフレーミングの第一人者であるコンサベーター工藤正明氏(工藤額装工房)は警鐘を鳴らします。

 この他、展示保管用木ケース、精密木箱などいろいろな計装を手がけてきました。箱内擬装には、羅紗フェルトを成形パーツに張り、アテ緩衝材に多用して完成度を高めていたことも印象的です。専用の道具を制作することは、創意工夫、至福の時間。ユニークな鉋・罫引きは、精査していくと気が付く細部のタッチが判り、系統的な広がりを観ることができます。

 

ⓒ2019 , Kurayuki Abe

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木の総合学研究 2019  「木工芸指物から近代工業技術を支える計装・測量器具・製図定規制作の精密木工へ」「セパレーツ合せ台・ジョイント構造化」「木の定規計装 ツールジャパン産業歴史メモリー」

 

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