「木歴・木録」「木識・木学」木の内科

極寒の地で生き抜く紅松大木 の不凍・不倒樹体_圧雪 XWバイヤス異方多重逆目|厳しい風雪に曝され長期連続ストレスに木理を造り変える樹体芯央 | 激しい交差逆目を起こし、円環中杢を描き、氷雪圧力に耐えた目摘み材の杢目はゆらぎ耀く| 稀少シベリア針葉樹大径木200年生 見えない不屈の生命維持力、知られない特異な耐圧変性構造を削る  Insight 木の内科-67

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

長い冬の重い圧雪や風圧で捩れ、樹体には、大きな圧縮・引張り応力、捩れモーメントがかかります。過重ストレスを受けて歪み、圧迫された組織は対抗する方向に45°くっきり。圧縮剪断荷重_モーメントに耐えられるように動き、大径木樹体内では、肥大成長とともに「木目造り変え」がおきる。

幹の上層は大きくゆらぎ、異方バイヤスを生み、元木芯央部には風圧による揺れに自重もかかり、逆目立つ斜目交差木理が現れます。立木の「木目」の動きは外からは見えませんが、成長肥大を続ける立木が倒れまいとバランスをとり、外力に耐える姿そのもの。 200年生の芯材部もダイナミックに構造組織を自ら改造していたのです。

 ダメージや負荷がかかると、破壊されないように立木の繊維細胞は成長方向を変えて、逆目や引張り・圧縮アテを変性部分を造り出します。バイヤス・逆目部分は、被圧され浮かび上がる繊維束の「ムクリ」が刃先に対向し逆らうようになり、荒れた削り肌になるもの。

多重のストレスが刻まれたこの紅松中杢は、まさに材料構造力学の解析理論とピッタリ。

シンメトリーに現れ、交差する斜目_逆目も鮮明です。長い時間に樹体に及ぼす影響がどのようにでてくるのか、外力による変動を読みとることが出来ます。

45°の方向に圧縮剪断力がおき、バイヤス・逆目が入ります。

圧雪で芯央が圧迫され丸みを帯びる中杢グレイン

外力を受け流すようにできる丸みを帯びる芯央分の中杢は、圧雪に耐え、長い時間の内部応力を分散、自重も和らげるように変身しています。

耳付き白太辺材部に青入り(青色腐朽菌)

様々なストレスがかかった原木の木肌は歪み、両耳は絞り変形。製材後の自然乾燥では、青黴(青色腐朽菌)が侵入しますが、抗菌成分のある芯央赤身には入りません。

芯央の目摘み微細年輪

成長肥大は極めてゆっくり 柔く緻密で冷えない温もり材質

短い夏に微細成長し淡紅色の木肌 |年輪層は脂細胞が多く油気あり芳香が強い

氷雪に埋もれてても凍結しない緻密な耐寒組織|冬目は動かず微細幅で脂分泌源となる

生き節 / 末口 枝上  応力を受け止める周囲組織にバイヤス・逆目がおきる

活き節は紫色で材色の出基、姫子松に似ており、人工高温乾燥材は脂ヤケが起きパサパサ。

 この長尺中杢板(枝下長さ4.1m x耳落し幅 550mm, 450mm / 1寸二分挽き)の紅松中杢は、見事な総身圧雪バイヤス逆目入りですが、全ての天然木に出るのではなく、稀に大径木に現れるもの。

右の板は、陽表片側偏在。NIKEロゴのようなハネ部分バイヤスが多く、シンメトリーで綺麗に耀くものは2枚ほど。シベリア原木丸太輸入の当時、新潟港に入った唐松原木に混じり選別。緻密軟質、目の通った素性の良いものが多くありました。主に建具・内装材・佛具漆工木地に使われ、高級材に化けたのです。

寒冷地針葉樹大径木の不凍材質

樹齢200年の針葉樹大木樹体が造り出す、総身逆目のシンメトリーグレインに出会うことは極めて稀です。寒冷地帯で育つ樹体は、緻密で脂気を多く分泌し凍えない樹体を造ります。触れると暖かい「温もり材質」。冷えるように熱伝導をよくする密度比重の重い熱帯材とは逆の性質です。微細放散成分や木香は体が休まり、防湿性や抗菌性があり、快適で水廻りにも有用です。

芯央部はダイナミックな生命維持活動を続ける

 木材専門教科では「芯材は活動をやめ、枯れた赤身部分」と教えてきました。実際は、倒れないように芯柱のようにバランスをとり、構造組織を強く改造したり、抗菌抗体や治癒物質を分泌蓄積する代謝もします。

逆目を止め、バイヤスを綺麗に削り仕上げる技

 樹体を支え護るために出来る複雑な逆目部分を削るのは難しいのですが、平滑に仕上げ、光沢・艶を出す鉋刃の刃口調整、材質に応じた刃先角に整える研ぎ方があります。一子相伝、熟練職人技の凄みでした。

詳細は、別稿にて。

ⓒ2020, Kurayuki Abe

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木の総合学研究 2020「紅松の圧雪逆目・バイヤス木理」

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