栗の大木は倒れまいと自ら芯央部グレインを造り変える |ストレスに耐抗するバイヤス・逆目筋違いを入れ、忽然と木理がダイナミックに変貌するナッツツリー| 200年生のすご技、年季バイオミステリアス 木の内科-68
成長肥大の途中で逆向きに成長する交差拮抗する木理は、冬目環孔材から春夏部を散孔変換してゆらぎ、斜目筋違いを入れ不倒樹体に造り変えていました。プリント擬木に見間違えそうなハイブリッドパターンは、長い時間を経て到達した極めつきのソリッド材が発散する凄みです。
2019年秋、友人の工房悠では希有な栗大木の家具制作が始まり、製材から鉋削り仕上げ、拭き漆仕上げまでを観る機会に高樹齢木の内部変動・抗菌・抗体、治癒などの生命維持、富貴化の様子も見えてきました。なんと追柾部分が「筋違い、逆目バイヤス」に改筋されています。
栗大木厚板の製材から鉋削り_ 枘刻み _ 拭き漆仕上げまで
小幅のバイヤス筋違い筋や逆目、部分的に内側引張り層に造り変えた栗大木の元木芯央部
倒れまいとする樹体の構造が「木目」として現れます。特徴的な部分が立木に刻まれたストレス(応力)の影響や変形を起こしていいます。
完成後、甲州勝沼へ搬入され、組み立て時に立ち合い、記録させていただきました。
T氏邸 門 栗一枚板扉伴材
拭き漆栗厚板長尺書斎デスク
寄せ蟻、送り蟻、吸付き蟻、蟻かけで落とし込み
T氏邸 拭き漆栗厚板 書斎デスク 2019年12月 杉山裕次郎 制作
締まり固めるジョイント技法が使われ、手際良く組み上げて天板自重でガッチリ。全くズレ動きませんでした。見事な構造設計と完璧なまでの納まりです。材料も凄いのですが、才覚・腕もお見事。
「漆」と「栗」ナッツツリーの相性、タンニン渋が強い材質の除菌力にも縄文の通底重脈が感じられ、制作作業を注目。新たな出会い、多くの知見も得られました。「呼ばれないのにお茶にいくこと」も、時には大事ですね。秀作にお目にかかれる絶妙なタイミングでした。
ご協力いただいたクライアントをはじめ、同行作業メンバーに感謝し、関連記事を添えます。
https://koubou-yuh.com/blog/?p=9654#more-9654
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栗の交差拮抗木理 (秋冬期に導管が斜め下方に変筋して環孔配列)
夏から秋に途中で逆向き成長する三層拮抗年輪
年輪肥大途中でターンして逆向き成長 散孔材から環孔配列に変えて肥大する特異な構造
揺れ、圧力で複雑に現れる強いバイヤスは、「斜目」に出来やすい。江戸指物では、鉋刃に逆らうグ木目は、全て「逆目」です。綺麗に仕上げる鉋刃角度、刃口調整、削り技法があります。
200年の生命持続は、風雪圧縮や捩れ揺れに耐え、自らの重量を支えるために臨機応変に樹体構造を改造しており、高樹齢木のすご技です。栗は、樹皮・年輪層に強いタンニンを含むので、腐蝕菌や昆虫が寄り付かない性質ですが、芯央に抗体・治癒物質を貯め込まないでも腐り倒れにくい。大木の拮抗年輪は更に「筋違い」を追入。渋い、気安くない、落ち着いた性格というイメージです。
学校の教科では、芯材部(赤身)は「活動を停止したり、枯れて動かない硬い組織である」と教えてきました。実際、前稿紅松芯央部の変性・異方バイヤス逆目のように変化を遂げ、生命持続の姿も全然違うのです。
木の内科は、新しい樹体構造学域を見出します。
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木の総合学研究 2020「栗200年生の芯央造り変え、逆目・バイヤス筋違いを入れ拮抗する木理」
「芯央色のできる樹種とできない樹体の差異」「樹体内の抗菌防衛作用_抗体物質の生成_木香微細成分の放散」