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「木」が「木材」へと形を変える過程を診る|長期自然乾燥で「木を寝かせる」木味がよくなる養生「木守り」|An organic maturization between Tree and Wood|オーガニック成分の「熟成・富貴化」初考|気が付かないことを、知らないものを明らかに  木の内科 -74

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

原木から挽き材した木材を人工乾燥処理をしないで、長期間ストックすることを「寝かせる」といいます。ジックリ時間をかけて材料を安定させることは、古代から木工人が伝えてきた重要な材料基本作法の一つです。樹木から木材へ変わる時に、樹体内では目に見えな生命維持活動が続き、不朽・耐性を獲得し材質に影響を残します。

手間暇と時間は相当かかりますが、材質が向上するだけで無く、美しい木理となる熟成効果は高い。材料に支配される木工専門職のニコニコ悦楽。制作意欲を掻き立てるものでした。

さらに、適度のトリートメントで色艶がよくなり、材質が向上して刃物アタリが良くなります。油気や樹脂オーガニック成分が凝集したり、抗体治癒作用が変性し、材色が深まります。高品位な材質に変わり、削ると美麗な木肌となって香り立つ「時の賜物」。酒や食材の熟成・発酵変性とは異なり、内部からの成熟と富貴質への変化が起きるのです。ジックリ寝かせたら、起こすタイミングが大事です。

長期自然乾燥・マテリアルトリートメントによる「熟成・富貴化の実際

 

① オニクルミ  2007年  青森県三戸産出材 元口 780 x 710mm   末口 600 x 630 mm  長さ4m    20080223  元口再カット2.19 m 製材20080323 安曇木材

②梨・白1995年 74yrs. 岐阜県地方 元口 740 x 640mm    NS・MT 20年 フルーツウッド

 

③花の木イタヤ   2010年   80yrs.  奥会津柳津野老沢

④紅タブ 2006年   180yrs.    NS/MT36年 香木

⑤赤樫 2000年 岐阜県地方 NS/MT20年

マテリアルトリートメント手法、長期乾燥による「寝かせ」「木守り」「熟成・富貴化」「トレーサビリティ」について

  人任せにしない原木の直接購入、冬期伐採、産出地の確認をします。地域差があり、ソリッド材厚みは、45mm – 60mm – 90mmを定寸とします。30mmでは暴れる。

・10年から20年間のナチュラルシーズニングでは、初期の手当とマテリアルトリートメントが劣化を防ぎ、材質を向上させることに繋がります。

・素性のよい材は更に上質に。問題があればダメージや不都合なところを治し、コンディションを整える。良材は刃物が傷まず、仕事が速い。仕上がりが一段と映え、木材を尊重する扱い方が仕事を円滑に運ぶのです。

① 木口なめ再カット:元口末口を再カットすることにより、汚れや内部ダメージを察知でき、樹体内部の様子を読む。

② 樹皮は虫喰いのパラダイス。両耳落とし・木口カット、白太辺材部、芯央に割れ止め塗布 黴び避けに柿渋や生漆を塗り、黴び除けも適度に行う。

木喰い虫は、生材から三年ほど経過するとりつきます。動かすことが一番大切ですが、湿度の徐放、通気はあり、直接紫外線や外気に曝されないことが熟成を助けます。

③ ズブ生材は、桟木積み、マテリアルトリートメント前に数ヶ月立てかけ、水落とし。太角・厚材は、立木をイメージして縦置き。

④  両木口、芯央、辺材部、節回りには割れ止め。元末マーキング(刻印)が木取り加工、組立てに役立ちます。

⑤ 天乾桟木積みは少し傾斜させ、水抜き勾配をとる。土台ベースは、雨はねが届かない高さをとり、枕木上に桟木積み。風の通抜けを開ける。

⑥ 桟木には、黴がつかない栗材を使います。タンニンを多く含み、柿渋の濡れもよい。材厚の半分程度の厚みが理想的。素木には、桟木位置に柿渋を塗布する塲合もあります。数年起きに点検を兼ね、桟木位置、厚板の並びをかえる。

⑦ 長期自然乾燥では定期的に桟木ズラシ、虫・黴・小動物の巣、フケなどを除去。

⑧ 屋根付き保存塲所へ移し、乾燥ストックする。林場の立てかけは、梅雨後に動かし、材質や重量・乾燥度の推移から使うタイミングを判断。

空気を入れ換え、湿気を逃がす。材表面温度計測、含水率計、室内平衡湿度、結露点の計測と「割れ反り捩れ」を見る。適時、反台鉋で材色をみたり、微生物・虫喰いの手当をします。

⑨ 割れ止めは、クラックが進むと挽き割るか、塗り直し。軟鉄製の鎹締めは効きません。

⑩ 購入した板材、角材は、手入れしながら順次屋内保管され、水分は緩やかに抜け、長期間の熟成から色艶が深まり安定。「木味」が良くなる富貴化状態を迎えます。冬期伐採、産出地を必ず確認しいています。その土地柄に因む属性があるのです。

⑪ 保管塲所から出したらそのまま直ぐ使うのではなく、実際に使われる環境に徐々に近づける。粗木取り後に、冷暖房を経験させています。

人の暮らしに馴染ませることも木を尊重する扱い方になります。

⑪ 木取り加工は梅雨時を避けますが、室内移動雨の前に含水率を14 -11%近くまで下げ、測定器で確かめています。自然乾燥では、動かすことが一番重要ですが、全体は均一になりません。

加工精度を要求される部材は、粗取りから段階的にカット。時間をあけて動きの有無をみる。

⑪ 黴ツキ・虫汚れは、短時間陽に当て、鉱物油を少し含ませた布拭きが有効です。水拭きは、黴を拡げることになりました。白太辺材のコントラストが綺麗ですが、耳落とし材でも白太混じりにすると虫喰い変色の誘因ともなります。屋外天日乾燥では、柿渋の効果は三年くらい。割れ止め塗料は、約5年で風化します。

⑫ 自然乾燥材のフレーミング・箱体加工では多湿をさけ、作業途中で除湿剤を添えラップしたり、当て布団も被せ、水分移動を防ぎます。

以上、主な作業を記載しました。割れや芯央の材色移動は、樹種・樹齢で異なります。

 A.長期自然乾燥、マテリアルトリートメントによる熟成・富貴化が起こる樹種

 ・姫子松・脂松・榧・一位・柏槇・天然唐松

・オニグルミ・欅・水目・真樺・斧折れ樺・キハダ・アサダ・山桑・ホウの木・槐・楡・梨白・ケンポ梨・楢・ぶな・イタヤカエデ・桂・ニガキ・シナの木・楠・紅タブ

B.熟成・富貴化がハッキリ分からない樹種

・樅・栂・檜・椹・ネズコ・杉・ヒバ・槇・赤松・トドマツ

・沢胡桃・水木・栓・真弓・山桜・シウリ・オオバボダイジュ(シナ青)・トネリコ・タモ・栗・椎の木・ハンノキ・柘植・柳類・栃の木・銀杏・シデ・アズキ梨・桐

現在まで判明した天然樹木です。

 「熟成・富貴化」の学術的な定義はまだありません。科学的には、「木材の水分含有を下げつつ、自然環境で長期の乾燥による収縮変形や内部応力・歪みをとり、樹体のオーガニック成分・樹脂・色素の抗体成分を損なわないように材質を安定向上させる材料手当の仕方」ということになります。

この「熟成・富貴化」は、小職の造語ですが、水分を抜く「枯らし」や調整する「Conditoning」、古美を造る「Aging」も「尖ったもの」がまろやかになり、材質の安定や加工性を改変する点で、同じような効果があります。

 因みに、活きている自然素材を扱う上で重要なことですが、ビジネス上だけでなく、産地や来歴を伝えることは、信頼性や材料価値や説得力が強まるもの。食材で言えば、料理人は下ごしらえまでイメージアップできる。トレーサビリティは確実に仕事の幅を拡げ、専門性を高めます。

 小職が始めた「マテリアルトリートメント」や「キュアー・メディカルウッドワークス」は、元よりソリッド材にある抗体・治癒反応から、オーガニック成分である木の見えない力を少しずつ明らかにしてきました。工業生産で失われてしまうものをセーブしたいという思いは、活きている素材の力を究明して尊重するデザイン手法にシフトしていくことが避けて通れない道筋と考えてきました。

大きく言えば、人間が唯一できる再生循環素材は樹木であり、産業経済、環境、エコロジー・医療、建築・工芸、資源問題までを包括しうる総合学域がみえてきます。

有史以来、木の手仕事は「伐る切る削る」でしたが、さらに新しい高度な内科的知見と先端的なキュア・メディカルイメージを獲得していきます。

 木の抗菌・抗体物質は生命維持物質の塊です。オーガニック成分を活かし、木香微細放散成分など、素材のもつ力を十分にひきだすために出来ることは、まだ沢山あります。木の生命維持の仕組みが少しづつ見えてくると、人体への影響もさらに明らかになります。人は生まれて来た森林樹木から遠く離れてはいけない。

©ABE, 2020

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木の総合学研究 2020 「木から木材へ形が変わる過程の樹体内変化」「ソリッド厚材の熟成・富貴化」「マテリアルトリートメント手法_割れ止め・木口処理法」

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