「木のぼり」キコリ杣仕事木の総合学林業・森林の仕事

木の大学講座 講義記録-2. 第四期1989年|枝打ち卓越技能者・木登り世界チャンピオン山本總助の森林育成・管理手法|多能工先達が構築した「良質材を造る枝打ち技術」現場で使える育林テクノロジーの普及指導は、日本林業に多大な貢献を果たし、森林系専門職として嘱望されていた碩学の人でした。

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

独自の知見やプロの技能をもち、実践理論を明らかにする森林技能者がプロフェッサーとして教育現場にいて、総合的で高度な専門性を身につけることが必要な時代になりました。

第一線で林業に従事し、業績をまとめ研究成果を公開して積極的に業界を指導する卓越技能者が関ヶ原で活躍していました。技能も学識も備わる多能工の現職は「木の総合職」の一つの在り方として注目。講師のお一人に招聘したのです。後年、予期せぬ落下事故で雲客となり、樹上の碩学を失いました。

木の大学講座第四期  科目内容

名刺には

環境庁自然公園指導員
岐阜県枝打ち指導員
岐阜県自然保護員
県行造林管理員
砂防監視員
林業士
岐阜県指導林家
(枝打ち専門職・森林育成の総合技能職 59才)

 

講義内容は、スライドを使用して今須林業の概要、配布プリントの解説と屋外杉林で実際の枝落とし、ブリ縄一本木登り、逆さ降りの実技を披露をしていただきました。

小職の受講ノートには、今須地域に根ざし、長年の実務・現場のリアルな経験から得た重要な知見にあふれています。

① 実生苗は、雪に耐え、曲がりながら成長する。さし木苗・杉などは、降雪に穂先が折れる。
② 違う樹種の混植が望ましい。 2000本/ ha 複層鵜林、択伐林として管理
③ 苗は適当な時期(適齢)に移植しないと強くなりすぎて、山の上で良質木の生育がおかしくなる。
人間に例えると、娘が30過ぎになると強くなるのに似ているようだ。

④ 古い木の実生種は、生えるのは遅いがしっかりした良い苗になる。
⑤ 若い木の種は、蒔くと直ぐに生えるが長寿命ではない。
⑥ 今須の山林は、6回枝打ちし、樹高 20-30m 下刈りして林内もきれいにして木材を見せることができる。
⑦ 肥大しすぎると折れやすい
⑧ 枝打ちはすべて鉈 鋸は使わない(傷口が塞がりやすい)

枝打ちは、枝元を切ることで損傷ダメージを与え、生命維持・治癒の緊急スイッチが入り、下枝への養分を減らし、節を抑え上層の発育肥大を促進させます。

以下、詳細は添付画像資料に記載されていますので説明の重複を避けます。

 

配布資料「良質材を造る枝打ち技術」A4・B4 p.11

 

ブリ縄木登り滑り落下の技の披露 樹木の仕立て方、管理手法など

実際に見る目を引くスゴ技は。素人はビックリ、己はやりたくないとプロはたじろぐほど。達人の技能や総合的な識見は、傍にくっついていないと分からない。連続する技では説明不、脈絡は掴みにくい。道具立て、刃物の研ぎ、打刻音、姿勢や勢い、コツ、下準備などは重要ですが、相当の経験がないと見えてこないもの。
職人は、聞き手や取材側の知識にあわせて応答しますから、話しを理解出来るかどうかを確かめつつ話し、詳しければスイッチが入り、奥義まで披露。逆に聞き手のレベルが問われるという微妙な応対から、話しの成り行きが決まります。学者や教員は教えるのが専従ですから、相手が理解できるように整えて上手に説明します。職人は、相対で身体記憶に繋がるように伝えてきました。知「識」は、言偏。「職」は、耳偏という違い。体で識る、覚えるのは「月偏」になりますね。

「プロ」と「プロフェッサー」

「プロ」は、プロフェッション専門職能をもつ人。「プロフェッサー」 個有の専門技能・独自の知識を教授する人ですが、大事なことは、実地現場で使いものになるかどうか?です。
本来、卓越したプロが指導し、技能伝承してきたのですが、現在では試験にパスして学校を出れば、センセイになれます。指導員は、インストラクター。教員はTeacherで「センセイ」に混同されてきました。山本總助さんは、現地今須村に居住し、多くの経験を重ね、独自の手法や理論を構築。まさしく、枝打ち職「親方」マイスターであり、森林育成科目の「プロフェッサー」でした。現場を取り仕切り、実際にできる技能を身につけた指導者は、無理粗雑を嫌い、慎重で派手に目立ちたがらない人柄も感じます。

 独立しプロフェション「職能」をもつ人が教授するから「プロフェサー」であり、役所や学校にいるのは「オフイスサー」と呼ばれ、雇用されている塲合は、エンプロイメントです。

過日、ドイツ森林・木材加工関係学科のカリキュラム・教科目を知るために訪問したバイエルン州立 ローゼンハイム大学 Hochschule Rosenheim では、建築系プロフェッサーの研究室・講義は市内にある教授自身のアトリエで行われており、教務担当者から「そちらへどうぞ」とコンタクトされたことがあります。

訪問時、大学院の授業をされており、第一線でバリバリ。飛び入りを歓迎していただき、小職はJOINT SYSTEMのガイダンスをいたしました。短い時間でしたが、自分の仕事場でレクチャー、現場を動かし、インデペンデントであることが、プロフェッサーの重要な資質と知りました。

辞書には、「Profession : 特別な教育と訓練を受けた仕事」とあり、「Professor は、とりわけ優れたハイランクの専門をもつ」普のレベルではないと。確かに、器量も違う思い当たる人物がいます。

(ローゼンハイム大学:Hochschule Rosenheim ドイツ語では「高等専門学校」ですが、英文では、Rosenheim University of Applied Sciences(応用科学工科大学)と記載されています。)

■突然の訃報
数年後、欅枝切り作業中に枝渡りした枝元が折れて落下、事故で亡くなりました。換え替えののない怪人クラスの人で、後年の岐阜県木の国大学・森林大学校構想にも参画していただけるはずでした。偉業はご子息が継承されています。1995年 平成七年九月二十日 滋賀県坂田郡山東町大野木で畑の欅伐採中に枝折れ転落死 。

・「今須林業」 西南濃県事務所林務課発行

  
この他に雑誌記事があります。

先達の経験や技能に裏打ちされたノウハウが応用力に結びつくことになり、現場感覚や判断を的確にしてきました。
「百聞は一見に如かず」体験した作業の身体記憶や臨場感からピンとくるものが確かにあるのです。共通しているものや全体を察知する能力は高まります。
四季の移り変わり、山の動静、森林の生き物全ての営みまでを総合知として身につけた達人のこの講座は、現場で実際の作業をしながら指導と教示を受けるものですから迫力があります。第一線のプロを招き、ガイダンスを受ける貴重な機会でした。初心者は「参観」レベルですが、拝受した専門資料は他の樹種にも十分役立ち、有効に使い続けることができます。

メデイア紹介記事

・「日本きこり武勇伝 世界の木登り名人が語る森の哲学」ウッディライフ16 1985年秋  山と渓谷社発行

・「BE-PAL野遊び大学 現代の忍者・山本總助さんに聞く」●木登り健康講座 

木の登り降りだったらリスにも負けないね 1986年 vol.55 小学館発行

・「怖くて遠い木登り名人への道」 BE-PAL 1991-b11月号 vol. 125 小学館発行

枝打ち職のインタービュー記事
・マリオン 暮らしの情報 「筑紫哲也の気になるなんばぁわん 山本總助」朝日新聞夕刊 1988年4月21日
・インタビュー記事 「枝打ち」 現代林業1988年6月   全国林業改良普及協会

 既往の研究成果を上手くまとめた整えた学説理論は、樹種や森林土壌、地形・気象がそれぞれ違う例外だらけの林地現場では使いものにならない。学識を引用したり造りかえにはじまり、一度ほぐして造りかえたものは上手にまとめているだけでなく、ネイティブ本来の姿を見失う事になります。木を育て手入れするとともに森林に寄り添い住み続ける。伐り削ることから見えてくる樹性・木材の世界は、学説や教科とは違うリアルな世界が拡がります。

 

ⓒ2020 , Kurayuki Abe

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木の総合学研究 2020 「枝打ち技術と林業現場のリアルな知見を伝えた卓越技能総合職」「プロフェション専門職能をもつ人がプロフェッサーとなる高等専門校から総合学域へ」「バイエルン州ローゼンハイム大学森林・木材加工教科調査訪問」

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