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クラフトフェアベストプロダクト−3.漆工 酒井邦芳の漆匙
阿部蔵之|木とジョイントの専門家
蒔絵職人から漆工芸家への歩み始めの会心作 和食がユネスコ世界無形文化遺産となり、フランス料理シェフが注目するハンドメイドカトラリー栗漆匙 10g の逸品
2001年6月「くらふてぃあ駒ヶ根」クラフトフェアーに出かけ、一際優れた漆の手仕事が目に入りました。酒井邦芳は、輪島の漆芸研修所を経て蒔絵を手がけ、更に木地からの漆工作品ジャンルへと踏み出した時期で小品を出展。翌年の2002年クラフトフェアまつもとへ出展を推挙, 4回連続参加を果たし、その後一年置き2011年まで続きます。
当時、彼は木工技術習得のため、昼間は建具職工房で働き、合間に削り出しの小作品・匙類を制作。木理の美しい栗材を削りあげ、漆溜め塗りで仕上げていました。以来、私は、毎年クラフトフェアまつもとで1 -2本づつ購入。食べ物を掬い、口元へ運ぶと軽妙で繊細な口当たり、感触に驚きました。溜塗りの栗木地匙では、これだけ洗練された周到な仕事は、他に見当たりません。伝統的なフォルムの中に独自の柄尻をつけ、カブトムシの角をイメージし、力強くせり上げた男型(Beetle horn ) ,女性用は魚尾をイメージしたふっくらフォルム (Fish tail)、女性・男性用のペアーに。
木地は栗、前稿 柏木 圭の「栗懐中箸入れ」と同じくAzuma型棒鉋から巧みに削り出されています。栗の実の皮色は、縄文時代から生存基本食として身近にありました。口に入れる自然食の色は、長い歴史時間にしみ込み、DNA が現代人に引き継がれ生理的な反応を起こす。この溜め塗り栗色は、食欲をかき立てる作用があり、「美味しい自然色」を味わえるうるわしい仕事です。
漆匙 栗手彫り漆溜塗り仕上げ 男型、女型 各 10g @ ¥ 10,000 – / 2002~
和食の文化は世界的評価へ
2010年9月、軽井沢ホテルプレストンコート浜田統之総料理長が「42回ル・テタンジェ料理賞コンクール・ジャポン」3位入賞。酒井の漆匙がプレストンコートユカワタンに採用され、評判を聞きつけたフランス人シェフが酒井工房に来訪するようになりました。駒ヶ根の作品発表から12年、作品は研ぎ塗り重ねの15工程を経ているものの、膨大な手間の塊と見えないことから評価が遠かったのです。
漆匙をはじめ、漆器は、深みのある艶が美しく堅牢。栗の木目が漆の浸透で浮き出て一層引きたちます。熱いものは、熱いまま、冷たい料理はクールに保温・断熱機能を発揮します。シェフに選ばれ、ようやく時代が追いついてきたようです。
漆は、JAPAN、伝統から時代トップの眼差しを集めはじめた、まさしくクールジャパン。欧米では、食器・カトラリーのコレクションが盛んですが、和食と共に漆や木地の食事道具が注目されてきました。わずか10gの漆スプーンは世界に類似品なく、絶妙な使い心地が賞賛されフレンチに。作品性・品質が秀逸で伝統技能を現代の形にいかしており、削り出す形の美しさは見事です。前稿の「栗懐中箸入れ」と同様にクラフトフェアベスト作品のひとつに選定したい。「栗と漆」は縄文時代からのテクスチャー記憶が現代まで連綿と続き、美の趣向に深く結びついています。
匙削り用「バンカキ・酒井型」
ハイス・4本組み 230L x 13W x 3t (mm)85g、AQ特注
岡崎喜久治作 /岡崎製作所(1999年8月、高岡市)手打ち鑢の名工
ハンドツールコネクション クラフトフェアでの出会い、相互交流
AZUMA棒鉋(南京鉋)の制作について柏木工房 柏木 圭は、酒井へのアドバイス。クラフトフェア本来の目的である交流が拡がり、技能の伝習・シェアが進みます。人の出会い、繋がりから道具・技能の継承が実現していきます。実際、クラフトフェア会場での制作者同士の出会いがノウハウの交換、アイデアを触発する契機になることが多いのです。情報も仕事も人づてが確実。私の「ジョイントシステム」に関する研究は、構造体の機構やメカニズムだけでなく、モノや人の繋がりも関心領域にあります。
木・漆工房 酒井邦芳 略歴
1958 長野県木曽郡楢川村生まれ
1976 輪島にて伊川敬三氏に師事 (1976 -1998 輪島市在住)
1984 石川県立輪島漆芸研修所蒔絵科卒業
1991 同所 髹漆科卒業, 1995年まで専修科蒔絵助講師
1994 石川の伝統工芸展入選 4回、第12回日本伝統漆芸展入選
1996 第43回 日本伝統工芸展入選
2001 くらふてぃあ駒ヶ根(長野県駒ヶ根市)漆匙・小物出品
2002 クラフトフェアーまつもと初参加、漆匙等展示販売(以後、4回連続、2005年から一年置き、2011年まで7回参加・出展)
2003 信濃美術館「北大路魯山人展」記念公募展「食の器展」最優秀賞
2004 ~ 2007 漆植樹(贄川)、漆掻き(4 回) 松本市中山、木曽平沢・贄川にて
2007 「木彩会」銀座清月堂ギャラリー、杜の市 駒ヶ根市、「匙・器展」アートハウス(飯田市)、「木工房樂との二人展」蔵シック館(松本市)、「木・匙展」Galery 絵舞遊(町田市)
2008 「匙と漆展」ギャラリー&カフェ迦哩迦(山形市)、木彩会六十回記念展(銀座清月堂)、「木工家が作る木のスプーン展」ラシック5F(名古屋市)、「木の匠展」蔵シック館(松本市),「漆と陶 二人展」ギャラリー藍クラフト(森岡市)、「信州木曽の工芸家たち展」木地屋やまと小椋アートギャラリー(南木曾町)、「木で食す」名古屋市Cana家具店、「大切な人に送りたい器たち展」ミルクギャラリー(国立市)
2009 「信州の工芸家たち展」松坂屋(名古屋市)、「匙と備前焼展」ギャラリートータク(東海市)、「木彩会」銀座清月堂ギャラリー、「木の匙と器展」ギャラリー楽風RAHU(さいたま市)、工展 木漆竹陶染織金 かんてんパパホール(伊那市)、「匙と漆展」ギャラリー&カフェ迦哩迦(山形市)
2010 「匙と漆展」王冠と猫(安曇野市)、「うるわしい器展」ギャラリー楽風(さいたま市)、「木の匠たち展2010」蔵シック館(松本市)、「うるわしい器展」アートハウス(飯田市)、「漆と陶の出会い展」ギャラリーのざわ(京都市)
2012 「信州クラフト作品& 信州の味展」近鉄百貨店(大阪市阿倍野区本店)「心地よい暮らしのご提案」一誠堂(半田市)、「木地師村地忠太郎と木の匠たち展」ガレリア表参道(長野市)、「信州木工クラフト展」広島市福屋
2012-2013 鵤工舎小川三夫棟梁より依頼され建築儀式道具墨壺(木地・漆塗り)、釿(ちょうな) 蒔絵制作
2013 「信州クラフトフェアー」近鉄百貨店(大阪市)、「信州木工クラフト展」福屋(広島市)、「木と漆の器」アートハウス(飯田市)
2014 「木の匠たち展」第五回 グループ展 松本市蔵シック館 20140905 -0908
現在、木地制作から漆塗りまで一貫作業を続けています。
酒井邦芳 ハイライト作品
第27回クラフトフェアーまつもと2011 Photo. by AQ Design R&D. Abe
2013 鵤工舎建築儀式道具墨壺、釿蒔絵制作 Photo. by Sakai Kuniyoshi
参考比較 ・韓国のスッカラ
Sutgarak Design /Classic and Modern in Soul 1971
伝統型真鍮製:50g と新ステンレス製モデル:40g-42g-60g 仕上げ品質バラツキあり。伝統型真鍮は直ぐに曇るので手入れが必要です。磨きを省くためステンレス製が1971年に登場、鋳物研磨が少し雑。ソウル東大門市場にて購入 @50ウォン(当時のレート 1.2円)韓式金属食器も時代のデザイン変化がありました。若き日のソウル滞在経験から、木と金属の食器の違いは、食生活文化の本質的なものがあると感じています。
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木の総合学2014 – 2019 「木の食器」「漆工芸」「栗と漆」「日本の自然色」
「クラフトハウス・ミュージアム」収蔵・展示をイメージして構成、連載しています。
*GSギャラリーストック 2002-2009 漆匙ストックM6本、F4本
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