クラフトフェアジョイントシステム工芸木工

クラフトフェアベストプロダクト−2.柏木 圭の「箸入れ」+「製本手締め器」

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

 AZUMA型棒鉋から削り出される栗割り子・留輪構造。エコライフスタイルを創り出すクールジャパン作品

環境保全・循環資源、エコロジーシフト時代にふさわしい木のナチュラルデザイン。ロングセラーの新しい造形実用品は、ESPエネルギーセイビングプロダクツそのもの。自薦クラフトフェアーまつもとベスト作品です。

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1994 クラフトフェアーまつもとに初参加出展、循環再生ひこばえの栗材を遊び心で箸入れをモダンな携帯デザインに

 箸は、古よりいろいろな素材、形状が創り出されてきましたが、弁当箱に付随した蓋スライドケースが雑貨として日用品として生産されてきました。当初、木箱だったものがアルミプレスやプラスチック製になりましたが、かさばり実用性優先でデザインやスタイルは二の次。カラフルな色や模様付きがほとんど。箸入箱の固定イメージが出来ています。外食で使えるかっこいい、粋な箸入れが無かった。

 「木の細棒箸入れ」はパカッと割れる意外性や栗の直裁な木目がナチュラルデザインとして評価されて沢山の注文を受けたヒット作です。使い捨て箸に対する節約意識から箸を携帯するムーブメントが起きてきた時流にマッチしてベストセラー作品となりました。開閉は、籐編みの止め輪をずらす全く新しいシンプルな構造。使う人を小粋に奥ゆかしく印象づけてくれる、趣味やセンスが光る役物です。

新しいジョイントシステムの誕生

 はじめてこの箸入れを見たとき、これは今までにない締具ファスナー機構であると察知、シンプルな考案が伝統的な自然素材から生まれることに感動しました。留輪の籐編みが締具として蓋のジョイント部になり「用の美」は、目から鱗、意外なところに使われていますす。私のジョイントシステムの研究・開発に新たな視点や発想が加わりました。意表を突く構造、「木と籐」素材の組み合わせがシックリ馴染みます。
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桧(あて)限定品
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槐 縮み杢 限定品

栗の素材・用途について

 鉈や剪・南京鉋で削りだす栗の木肌は、清潔感があり、素材自体がタンニンを含有しカビや虫が付きにくい。食器に適材です。栗は山中に自然更新、実生・ひこばえで再生します。また、山栗の実は美味しい自然食ですが、近年は森林樹種の減少で動物昆虫のほうが早どり、虫の子幼稚園が目立ちます。
栗薪は、楢や胡桃などの広葉樹に比べ、火力はさほどでなく燃やすとはぜる。数百年の大木は、材料として建築・家具材に重用されますが、数十年程度の丸太は、使い道がなく放置されたり、間伐してもチップ材にする程度の限られた用材です。自然更新、循環系樹種は、薪炭林利用と同様に30 – 40年サイクルで続いていてきました。

初作1990年、自然体で率直なモノつくり

 柏木は、栗の通直な木理・性質をいかした生活道具に活かせれば面白いとコンパクト箸入れのアイデアを結び付けたのです。栗材の組織密度は粗く割り肌は、綺麗に分離します。このぴったり合わさる蓋のフィット感もよく素材の特性を活かしています。製材して接合する機械木工の回転刃物による量産でなく、手工具の鉈刃・万力、剪、鑿、棒鉋により天然木地の質感をそのまま活かし、魅力的な小品を遊び心と現代センスで削り出したのです。
もとより、料理好きで調理道具も自作していましたので、関心領域が「食」道具にも拡がっていた素性。里山の循環系素材を活かし、環境負荷を抑制したナチュラル・エコプロダクツ。自然を活かした手仕事そのものですが、縄文時代から人間の生活に利用してきた栗の木に新しい使い方が生まれました。
注文が増え、制作ボリュームをこなすにつれ手練れになり、作品の形が自然に決まるようになったのが1995 年。身体が覚えるまでに到達。削り出すシンプルな意匠は、洗練を極めて行きます。この代表作品は、「クラフトハウスミュージアム」収蔵・展示品にふさわしい日本の「食」のかたちです。

2007 「かたち・現代日本の意匠」展 フランクフルト市立複合芸術美術館に栗懐中箸入れ選出される。Selection  of「 KATACHI,FORM 」Museum Angewandte Kunst (Frankfurt am Main) 2007

仕様

本体:山栗 50~60年生、間伐。木地仕上げ 235mm L x 20mm(先)~ 21.5mm(元) 棒状,  約 34g ~ 42g
蜜蝋拭き仕上げが定番、アンモニア還元色付け仕上げの他、割裂できる槐・木曽桧などの限定作品もあり。内部に竹箸一膳内蔵
柏木工房箸入れ型録2006
 
工 程

① 北の森にて冬期新月伐採、間伐玉切り

② 柾目荒取り、万力割り
③ 室内自然乾燥一年
④ 鉈二つ割り
⑤ 箸収納内部鑿彫り
⑥ 本体両端接着
⑦ 整形仕上げ削り
⑧ 両端カット 仕上げ
⑨ 蜜蝋拭き
⑩ 蓋止め輪 皮籐編み

火災消失前の柏木工房 1997年3月

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シェイビングホースでの箸入れ整形 剪・棒鉋削り
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荒取り後に栗材自然乾燥 一年     東さんの南京鉋など道具類
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名工の鋸・鑿 鉋などが揃い充実した工房内部
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AQ970304  CLE /28mm, ASA 400

「木のデザイン・ウッドワーク」特別講座で制作実演

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2011年6月名古屋芸術大学デザイン学科公開講座
 デザイン教育の現場には、デスクワークだけではなく、現物・本物に直接触れることが重要です。授業に実際の仕事を結び付けることが知識や技術の実践につながり、学習の基層・原体験となります。
 この講座では、私の実物プロダクト・素材をもとにした「木のデザイン」講義の後に柏木が実際の工房作業を実演。学生は、初めて見る木の手削り、刃物道具の威力を体験して盛り上がりました。授業に連結して工房作業・実技を修得するには、仕事場工房設備が近接しているか、学生たちが泊まり込みで出かけるしかありません。工房から出向いて機材を搬入する多大な労を感謝。ベテランの手際に驚き、体験できる素晴らしい時間でした。

実務・実学・実践を教える場は学外にある

 現場を踏むといえば、「ジョイントシステム」の調査研究のためローゼンハイム大学を訪問した際、教務科職員の方が同じ研究分野の教授がいるので大学院の授業現場を訪問する手配をいただいたことがありました。教室は学外、市内にあり、教授である建築家のアトリエ。実際の仕事場での6名受講となりました。デザイン教育は、実務・実技であり、教授 Professorは実業専門職プロフェションを持つ人であることということを再認識。

 突然の訪問は、学生たちに「ジョイントシステムについて」ガイダンスをすることになりました。訪問客もただでは返さない。実社会の交流体験をもさせる機会ととらえていただきドイツの実学・実践の場を体験しました。芸術系大学では、工芸作家やベテラン技能職を招聘して実地講座を設けるプログラムが増えてきています。

教育制度の違いもありますが、大学を卒業する時は、直ぐに専門実務が出来ることが就職条件、大学構内で出会う生徒は社会人の風貌です。職場に入ってから仕事を覚えるのでは遅い、最高学府を経て技能を身につけるには感覚神経が固まっています。身体で覚えるには、幼少期の体験がものを言う世界です。

*柏木工房  取材・記事
単行本:
・「エコロジーグッズダ大図鑑」 ~ニューエイジ生活実践カタログ~
JICC出版局  1991/06/20
・「究極のお箸」 高橋隆太著 三省堂 2003/12/20 p106~107
・「木の匠たち・信州の木工家25人の工房から」 西川栄明著 誠文堂新光社 2006/04/01 p74~79
・「あたらしい日用品」 小林和人著 マイナビ 2011/12/20 p68~70
雑誌:
・サライ  小学館  1995/03/02
・Nao  カントリープレス  1996/04/10  「信州のクラフトマン」
・MANO  No.3 (寄稿) 松本クラフト推進協会  1997/04/20
・チルチンびと  風土社  2000/10/01
・クロワッサン生活雑貨の本  マガジンハウス  2000/10/20 (中村好文が箸入れ紹介)
・pen   TBSブリタニカ  2003/01/15
・KURA No.23 カントリープレス  2003/10/15    「木の仕事をするなら木に囲まれてくらしたい」
・Hanako  マガジンハウス  2004/08/01
・ミセス  文化出版局  2004/09/04  (片柳草生が箸入れ見開きで紹介)
・Lapita 小学館  2005/08/01 (モナコのオテルドパリ アラン・デュカスのレストラン 食卓に箸入れ)
・手仕事の道具と暮らしたい  学習研究社  2005/08/25
・家庭画報  世界文化社  2007秋号
・翼の王国  ANA機内誌  2008/08/01
・KURA     No. 80   カントリープレス  2008/07
・暮らしの手帖  暮らしの手帖社  2008/12/01 (松浦弥太郎が箸入れ紹介)
・家庭画報  世界文化社  2009/12/01
・クロワッサン  マガジンハウス  12/07/10 (いしいしんじが箸入れ紹介)
・GOETHE   幻冬舎  2012/11/01(坂本龍一が箸入れを見開きで紹介)
柏木  圭 ハイライト作品
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・スツール 楡、脚:山桜・イタヤ楓
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・三角スツール 楡、山桜、イタヤ楓
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・手締め製本器 ハードメープルソリッド材・ワックス拭き

L: 510L x 90D x 160H  ネジ芯間隔360mm,5kg

M:475L x 90D x 160H  ネジ芯間隔360mm,4.8kg
S:450L x 90D x 160H   ネジ芯間隔340mm, 3.6kg
(工房参考価格:36,000 – ~ 33,000-/ 2003年)
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制作パーツ
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工房制作シーン

・厳冬期20120208  箸入れ制作

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・ PISA教会の献金箱再現 2005(逆四方ころび )

鬼ぐるみオイル仕上げ / 制作依頼:笠原恵美子 (現代美術家,NY)20050518ABE
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ABEギャラリーストック
*栗懐中箸入れ  ストック: 25 本 AQ 20140204
* 手締め製本器  ストック: 2台
ⓒ1994 – 2019,  Kurayuki , Abe

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木の総合学研究2014 – 2019  「クラフトフェアベスト作品」「木」のクラフト「ジョイントシステム・締め具」

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