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簡略し雑になった斧の厄除け・安全祈願マークのルーツ|北斎画に描かれた斧の神紋、ミネバリ伐採現場に見る木樵空師のロープワーク|怪我・災難事故を呼ばない神聖な形に作銘・ブランドマークを打つ錯誤道断|斧鉞考・続 ハンドツールジャパン-36

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

猟師・木樵・採集や出作りの人々が祠る山之神は深山里山至る処にあり、山仕事をする時には必ず参拝奉納をするものでした。大木を伐ると災い祟りが降りかかるので畏れ、事故災難が多い危ない塲所に入る人々は安全無事を祈願。木樵・杣人は、樹命を奪うご赦免・鎮めの形を刃型に刻みつけます。

「神の命で伐るから、暴れたり傷を負わせてはならない」当初の紋刻は、厳格な威圧する図形にはじまり、江戸時代中期には線刻に形式化。手間を惜しみ、次第に簡略化していきます。世紀末には、工場量産品が出て雑な造りになり、屋号やブランド銘をつけるようになりました。

怪我をしないように神紋や安全祈願ではなく、商品マークへと変わり果てましたが、銘や屋号を打てば品質責任を負います。「製造物無限責任」を表明したのは敗戦後の鋸鍛冶山口介左ヱ衞門だけです。

 斧鉞は、本来、兵器で人を殺傷するもの。世界各地のミージアムに収蔵された斧刃物には、威厳と神の加護を刻む装飾が施され、兵器「Arm」は、やがて美術「Art」へと辿ります。民族文化や産業技術史のなかでは、手仕事の刃物・道具類は造りはとても魅力的です。

神の印しを刻み、辟邪ご加護で災難を避けるという呪術的な意味がこめられていますから、鍛冶屋は、ハッキリ目立ち、両側から見えるように大きく入れました。

諏訪型ヨキ 平成8年 信廣 土佐山田鍛造 ヨキで頭を叩けるカンブチ木馬斧

写真・実測図イラストは、楔を外しています。研ぎ減り

東京型 四本矢印マークはAmazonマークの先祖?

薪割り斧 2.17kg 柄付き   石堂輝秀作(鉋鍛冶) 敗戦後混迷期の作品  関東型  柏木工房 柏木  圭 所蔵

 斧身線刻のルーツ

江戸中期に出版された多くの版本画には、木樵・杣職、大工・細工師、工匠具が「職人尽繪」に描かれ、現在では収蔵ライブラリーで検索することができます。

杣人「職人尽発句合」下巻  五舛庵藏 編著・鴨祐為 画  寛政9年 1707

 

The Smithsonian Libraries Artists’ Books Collection on line

「富獄百景 二編 遠江山中ノ不二」北斎画 見開きを合成

画工は図形に敏感ですから、枝元の伐り斧線刻紋を描き分けています。構図は太枝逆さ伐り。ミネバリの幹にへばりつく姿、縄からみや、斧の細部を描写。(握り柄は細身一寸、斧頭の衝撃を吸収。重い刃は、しなり長さ3尺定寸)綱掛は枝絡み巻き、谷側に落ちないように枝上に張られ、高値の貴重な材質を損ねない切り方。引き子が下からサポートして、ロープワークは首尾よく進みます。枝上の難しい伐り方は、空師の仕事です。一度落ちると地上担当に。

ミネバリは器具材になり、裂けないように空師が「逆さ伐り」の姿勢で斧を構え、もう一人は枝下から迫ります。ズームアップした画面構成からみると、実冩する画工は、刃型・柄据え、斧身の線刻まで刻明に描いています。高い足場を組まないとこの構図の視点にはなりません。北斎先生は、ドローンの目をもっていた天才。(*関連コンテンツ http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/12680 ミネバリ・斧折れカンバ」の実物の優良サンプル材質は、別稿ABEギャラリーコンテンツに記載しています。)

地上からでは、視力2.0でも斧の彫り紋までは見えない。図形にかなり注目して意識的に配置。因みに、斧の線刻がくっきりしていますから意図的に強調したり、白墨を刷り込み目立たせ、山に住む魔物を威圧し、樹霊に顔付けした?という解釈はどうでしょう。不二を樹形の背景にした構図は見事で、凡人が気がつかないミネバリ樹皮の特徴や木樵の脚絆も捉えています。

 

 

「絵本庭訓往来」葛飾北斎画 永楽屋東四郎版 文政11年 1828 模写

 杣頭がもつ大斧には山之神命を表すビックマークが刻まれ、目立つ様に構えています。おそらく儀礼斧で大振り。紋刻は、祠の屋根に扉をつけた形や「命」の字体をイメージさせます。「斎」にも見える。 厳しい山中で災難事故を逃れ、厄除け安全祈願をこめ、威厳と神性を帯びたシンボルを見せつけるプレゼンス凶器。杣頭の出で立ちは、祭神職を感じさせる装束前垂れを羽織り、左谷側に向かってホラ貝を吹く小僧が描かれています。

鏨刻み彫り

鏨打ちの動きからみると三本ないし四本の線刻になりますので、実際の斧に入れた線刻は、両面とも同じか、3−4本の組み合わせがあります。「陰陽五行説」や神道の四柱から引いているという俗説の雑誌記事がありました。鍛造火造り職人は、古代中国の難しい説話などを知ることはないから、後世のとってつけ。恐ろしい災いを避けるために山之神への祈願と威光を取り込み、平伏させる印しをルーツとみるのが無理のないイメージです。

和漢三才図会  1712  兵器類に「杣斧・をの」が記載されています、三本線彫りの図形に説明があり、「鉞 和用ニ鉄鉞ノ二字ヲ者非也鉄ハ則斧也 」「杣人斫キル木ヲ者ハ鐇タツキ也 木樵キコリ人割ル薪ヲ者ハ木樵斧キキ」俗ニ興岐ヨキ  軍中所用者鉞也 —

  火造り鍛造注文が減り不安定になると、柄 を据える櫃ヒツ孔あけも精度が落ちて具合がイマイチ。手間暇をかけられないと雑になり、技能継承者や斧の品質もゆらぎます。樫柄材は、国産材がなくなり輸入されています。

 因みに、斧・鉈は材料も火造りの燃料も喰うので、やりたくないという現場の声が聞こえてきます。樫柄の堅木木工所は健在ですが、柄据え_研ぎのベテラン指導職がいないので、現場仕事を覚える次世代は困るようになりました。斧鉈は、これからも必需品です。

■斧関連コンテンツ;

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木の総合学 2020 「斧・鉞厄除け安全祈願のシンボルマーク線刻」「斧柄据え_先端ジョイントテクノロジー」「斧割りヨキの種類 _ハンドツールジャパン」

 

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