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白樫斧鉈柄・ハンマー握り、及び ステト聴診ハンマー| 樫材堅木木工の現場 | 刃物をホールドし 手に馴染む疲れないベストマテリル 古代では「檮」、室町末期では堅い「樫」江戸期には諸々に使われて「櫧」から、明治からずっと「樫」に辞変。

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

樫材の握り柄は衝撃・振動を吸収し痺れない。繊維組織が汗を適度に保湿するだけでなく、表面粗さは摩擦保持力となり、手の握り具合が優れています。農具・工具柄には最高の適材。耐久性・強度に優れ、粘り靱性が高く、成形しやすい。棒柄をはじめ舟の櫓櫂や山車、防武具・織物杼・道具に多く使われてきました。

 樫材は、江戸期から明治に諸々の用途に多く使われたので樫材は「櫧」と表記されたほど。工業化が進むと、農山村では良材を伐り尽くして植樹することも無くなり、現在では東南アジアぶな帶原産国からの目粗半加工材輸入に代わりました。握り柄だけで無く、楽器撥・カンナ台など工具には、国産材がベスト。樫目(逆放射向芯髄線組織)が細くしまって緻密で刃物をくわえ、粘りがあり折れないなど、材質は最上です。既に、この白樫材が無くなりかけて専問職も消え、白樫柄の装着による基層道具文化が崩れてきたようです。

因みに、「テストハンマー」という間違いがひろまって本来の意味が損なわれてしまいました。ドイツ語由来でステト「聴診」なのです。

木柄製造・棒屋職が衰亡へ向かう

関東平野大宮から高崎群馬地方、岐阜や足助・中部地方は白樫の産出地でしたから木柄棒屋職が多かったのです。近年まで九州地方では宮崎の樫材が多く、野鍛冶・農具販売店で製造されていました。価格の低い工業量産品に押されハンドメイドは駆逐され、現在では名古屋地域に「株式会社近藤樫材木工所」一社、豊田市足助に「加茂樫材」、堺市にも一社あり、樫柄・堅木木工品が製造されています。樫柄の他、カケヤ・撥・土工具は木製に限るものがり、他には、カラクリ機巧・織機材、水車小屋駆動機構歯車などの用材は大工職が手掛けています。地方での小規模の工房制作により、鍛冶屋パーツ組み込みで少ないものの、地域では販売が残ります。年間オーダー20本でニケ月数本替え程度の需要と聞きました。風前の灯火です。

安い使い捨て工業量産品に駆逐され、身近な鍛造鍛冶屋・道具店が衰亡し、使い手の要望に調整したり修理して使い続ける流通の仕組みが崩壊しつつあります。佐賀小城の納富農具刃物店は、野鍛冶農具の火造りで活躍されいろいろな作品がずらりと店頭に並んで勢いを感じたもの。1985年に訪問記録がありますが、既に廃業、道路拡張後みつかりません。鉋台・工具木柄では、京都・兵庫北部の山陰地方に良質の白樫目詰み材がまだ産出されています。

棒屋職人の工房訪問に続き、名古屋地方唯一の樫材木工所を訪ね、木柄製造工場を見学させていただきましたので記録資料と取材レポを併せて掲載板します。

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ヨキ斧(メド穴・木割り用)、ツルハシ・ハンマー柄、カンブチ・片手斧柄「 諏訪型」

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ヨキ斧柄 既製標準品 白樫材 三尺

① 大 頭30 x 57x907 L mm 尻楕円30 x 37 mm  950g
② 中 頭25 x 52 x 908 L mm 尻長丸27 x 38 mm  800g
③ ハンマー柄 24.5 x 32 x 903L 首26 x 34 尻楕円 26 x34 mm  580g
④ ツルハシ柄 大 35 x 51 x 914L mm 尻長丸 28 x 35 mm  640g
⑤ ツル柄 中 35 x 47 x 907L mm 尻長丸 27 x 34 mm  580g
⑥ ツル柄 小 29 x 37 x 910L mm 尻長丸 25 x 34 mm  510g

ハンマー柄 三尺

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大工斧・カンブチ・木馬斧・片手斧 (トップ画像)

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① 18x45 x 726 mmL 尻長丸 30 x 45 mm 550g

② 17x45 x 605 mmL 尻長丸 30 x 45 mm 450g
③ 17 x 47 x 479mm L 尻長丸 26 x 43 mm 320g

④24 x 43 x 461 mmL 頭尻長瓜丸25 x 40 mm 320g

⑤ 刃付き手斧 12 x 37 x 375mL  24 x 35 mm  尻長楕円 759g

関連ページ:斧柄ジョイント「割楔・打楔」 棒屋の手仕事は、先端ジョイントワーク 木工ジョイント-17.  http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/9327

「ステト聴診ハンマー」のロストネーミング

「ステト(聴診)ハンマー」は、誤って「テスト(試験)ハンマー」にされてしまったままの半世紀。
道具名にはその用途・機能がわかるように呼ばれますが、カタログ印刷文字を誤植と感違いして「ステト」を「テスト」に変えててしまい、製品の模倣引用がつづき業界ではテストハンマーになりました。現在、製造現場でもテストハンマー。間違いが広まると本当の意味も分からなくなります。おかしだべし。

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保線区作業用 159g  ボディに菱TK マーク刻印 昭和55年西八王子駅踏切線路付近で拾ったもの 「ステト」捨てたのかもしれません、頭部固定割り楔は脱落 。

打音の響き・振動を聴診して内部のヒビ・変質を察知できるステトハンマーは、鐵道機関車保守、保線作業の分野では長い歴史があります。この他、自動車など車両検査や駆動機械の保守点検にも使われている重要なハンマー白樫木柄です。

ステトハンマーの木柄部分は、白樫の目詰み材を削り出し、木部から振動が減衰せずに手に伝わるように細めてありました。ずんどうだと鈍くヘッドの振り回しも機敏になりません。白樫材は手に馴染み、振動を収束吸収しつつ微妙な感触の違いも手掌に伝導します。先端に割り楔を打ち込み固定していますが、衝撃を吸収し締まる材質ですので吐き出します。伝承されている形には意味があるので名前を安易に変えてしまうのは困ります。テストするのではない。

ステトハンマー語源: Stethskop 聴診器 聴診器は医療現場では通称「ステト」。ステトスコープ (シュテト)ドイツ語からきている名称(英語Steho) ハンマーヘッドは点と面で場所に合わせ打てる形状。打音が収束し整え振動が伝わる細面取り。何時からか「テストハンマー」と呼ばれ出し、間違いには気づきません。

 

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ステトハンマーの規格 (昭和28年 三木刃物工具販売品カタログに所収)当時の木柄は丁寧な造り磨きでした。
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1/4 113 g
1/2 227 g
3/4 340 g

木柄専問加工と金物をすげて仕上げ調整、修理する現場の分業化

農工・土木用道具の需要が高まると、棒屋の仕事は柄付け仕立てが忙しく、木取り鉋削りや木工旋盤加工に手が回らなくなり、木柄加工が分業化して木柄専問職が生まれてきます。

スタンダードの木柄・握り柄グリップは、製材・木取り・切削面取りが機械加工量産へシフト。刃物の仕込み据え付け、調整が棒屋職の専業になります。斧柄は、名古屋、郡上型や諏訪形など地域性があり、特注仕様以外は価格の低い機械加工品になりました。既製品ではすべての人に合うものはなく、使用頻度の高い専問職は自作削り柄をすげています。
更に、金属製や合成樹脂の工業製品が出て,木製手造りの握り木柄は次第に減り廃業。現在では数社のみとなりました。木柄はなぜか疲れにくい。ずっと大昔には樹上で枝を握っていた由来からでしょう。

樫材木工所は現在数社、貴重な製造供給拠点であり、専問技能伝承の場。

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□株式会社近藤樫材木工所  土農工具・園芸・山林用各種木柄製造  20160728ABE  愛知県清洲市西枇杷町地領1−6−2 TEL.052 -503 -3155
代表取締役会長 近藤芳弘氏、社長 近藤芳行氏 E-mail : kashizai@lilac.ocn.ne.jp  www.kondo-kashizai.co.jp/

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棒屋の削り仕上げ台「長当て」位置決めに楔止めが活躍

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ラオス産の白樫(樫目が丸みを帯び太く、木目の緻密さが異なる。半製品輸入)

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椎の木 鋤柄 (先端装着形、地域の土壌、畝起こし、傾斜地で握り位置長さ違う)

・関東向け丸ヒツ型 3尺

・郡上型3尺、3.5尺

・越前型 3.5尺、4尺

・山梨型 3.2尺

・諏訪型 3尺

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太鼓楽器用撥と鐘打ち

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曲がり修正加熱プレス装置・製造面取り円盤カンナ・切削マシン

( 堅木木工:樫・欅・椎の堅木を使用して農具や工具・臼杵・丸棒・楽器・祭礼具・木型・土木用具なとを制作する専問職)

製造品目:鍬柄   鋤鍬農具木柄 ツル(ツルハシ)  鳶口棒柄  斧(ヨキ)鉞・鉈柄  木槌 玄翁・ハンマー柄 楽器附属品 拍子木・太鼓撥・祭りお囃子鐘打ち木 タコ槌・二人用四つ脚  土場打ち 等 (農具用は、各地方で仕様に差異があり未記載。)

木割柄は木目に倣い、木成りに削り仕上げるので丈夫で通直、歩留まりが低く高価。

挽き材柄は、製材カット後、木目繊維を加熱矯正して材料ロスをセーブ、無駄なく使える。目切れ材も出るが、製品価格は安い。因みに、樫柄の工場出し単価は上代の五掛けが流通価格です

プロの刃物道具・白樫柄

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鋸目研ぎ名工の「切り刃槌」 大・中・小 丸刃槌  長勝鋸 長瀬勝一

繊細な仕事用はスリムな柄形、打撃が強い大振りものは太柄。握り位置はそれぞれ違う。 長勝鋸  京都市大将軍西鷹司23  TEL.075 – 468 – 1974

ハツリ・ハビロ鉞 杣大工用

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ハツリ大工実演  市川 歩

重量級のハビロ大鉞になると手腕動作に無理がない形に自作,刃先を振り下ろす通直性をだす平柄にされています。握りやすくしたR面取りの既製木柄では,手元が振れる。鍛造大鉞の自重で下げおろす規則的な連続動作で原木木端をハツリます。足先をちょん切ることはありません。姿勢制御は、握りの位置、筋肉活動波形・重心移動バランスで無理が無く、原木太鼓ハツリはリズミカルに進みました。
「第一回 匠の祭典2016京北 」20160717ABE  (株) のじま家大工店 広島県福山市神辺町道上2540-2 TEL.084 -962 – 2297

白樫木槌

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自動車エンジンアセンブリーや機械修理、木工大工作業用金属を叩く木槌

組織を破壊しないほど良い打撃力が持ち味です。

加茂樫材工業所製 豊田市足助町八万34 TEL. 0565 -62 -1031

木柄専門

木庖丁柄、ナイフグリップは別の業種があり、岐阜県関市には、握柄木工として刃物産業に付随した小木工産業が根付いています。
庖丁は、朴や南洋材、ナイフは有色堅木の輸入材・唐木類が使われています。庖丁柄は堺市、林業用刃物の主産地の土佐山田町、絵画用ペインティングナイフなどは三条市内などで金属道具パーツ工場と結びついた家内工業所で小規模出製造されています。

白樫のない地方の代用材

北安曇地方美麻村では、やまぼうし。楢、ブナ赤、楓、カタスギアズキ梨、枇杷を使う。朴雨、椎はやや軟質で軽く代用。古代近畿では、ユズリハが専用樹でした。

無尽蔵といわれたブナ材資源と同じように樫材も宮崎県で僅かに植林されましたが、日本国内では消えつつあります。木の材質が変わると、物性だけでなく音や質感も動き、道具の性格やイメージも変わります。

樫材の硬さ・重さ・ネバリ靱性の由来(補足 20210109)

カシの気孔は、他の植物と比較すると圧倒的に多く、緻密な木部を造り、重く堅い強靱な繊維組織となります。

気孔数が極めて多いことは、常緑厚葉で生成される養分の経年蓄積も多く、冬目も順当に肥大成長する生理活性に富む樹体ということが判ります。

「カシの気孔 1m㎡の気孔数=表面 0  / 裏面340  」(S;理科表 坂村徹 「植物生理学」増補改訂 1953)

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木の総合学研究 2016 – 2021  「樫材木工と堅木木柄製造」「ステト聴診ハンマー白樫柄」 「ヨキ斧・鉞・鉈・農工柄」

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