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鉞斧柄ジョイント- 続 「 打楔仕込み」読書村杣師の「背子・前子」「西型・東型、木曽型・紀州系」木工ジョイント – 18

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

高度な専門職の道具には、長時間連続の手仕事から工夫・考案されてきたエッセンスが宿る。相伝の道具には、仕込みの目立たない部分にも先代からのノウハウや改善が見出され、 細部が語る手仕事のクオリティに注目。

 日本の山林・杣仕事には、技能の集積、発展の歴史と伝承があり、木曽地方には、伐採・はつり道具にも独自の柄仕込み「背子」「前子」がありました。寿命を延ばし、手入れし易く、激しい肉体労働を軽減する直伝のデティールは、表にみえない匠の技。肉体を駆使している現場では、僅かな工夫や改良が大きな利便に繫がりました。使い捨て量産製品では使い手のノウハウが蓄積せず,刃物道具の伝承ルーツや専問知識も消えて行きます。

「背子:セゴ 前子:マエゴ」 木曽型、刃広鉞・斧の柄ジョイントにみるプロテクター挟み構造

鍛造成形刃物をいたわる緩衝パーツとして白樫や竹・鉄片を挟み込み、柄の衝撃や損耗を抑える独自のプロテクター片。背子には、樺皮や鉄薄板、前子には樫材の楔に鉄板、竹を使用。堅木木工・棒屋の仕事では「打ち楔」が一般的ですが、この「背子・前子」は他所では使われていないようです。独自ことばがあるということは、より高度の機能を求め、使い勝手を良くしようとした「改善」が行われていたと見えます。ここまでキコルセンスはさすが。
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「○○子」語彙について
 小さい、付帯している、カワイイ,内にある、間で補い欠かせない、大事な部分的存在を表現する職人用語。「呼子」「中子」「稲子」「假子」「割子」「釣子」「板子」「力子」「拈子」「竪子」「際子」「柵子」「内子」etc.。「子持ち綾スギ」(三味線胴彫り)など木の手仕事には子沢山。位置、サイズ、納まりがイメージアップできるような簡潔で親しみ易い語感です。

杣頭 下林金之助の鉞・斧 杣仕事用

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木曽刃広・大 3.61kg (土佐打ち刻印)

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中 3.24kg

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小  3.05kg

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目度ヨキ(与岐)2.37kg

木曽狭(木扁の字)刃 3kgを超える鉞を振り下ろすには、相当な筋力・鍛えた体格が必要です。3.6kgの幅広大鉞は、とても降り回す事が出来ません。2kgを超えると恐怖感がつきまといます。刃先には、枷やツル紐編みの安全カバーをつける。「はつり鉞」は、片刃。23年ぶりの再取材撮影、手入れ無し錆びだらけです。 29151207ABE
 
 
 木曽型・諏訪圏の鉞ハビロ(前子入れ)とメドヨキ(背子入れ) 頭打ちと楔逆打ち 旧入山辺村の大和合神社御柱祭にて  20170429ABE

斧の「西型」と「東型」

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 西国型は、首下背丸で刃高が広がるずんぐり。丸み部分がつき、振り下ろしに剛性が大きく、衝撃重量バランスが良い感じがします。また丸みで恐怖感も軽減される。東型は、直裁でシャープ、切刃が鋭く見え、切れ味が良い気分になり、無骨で迫力・威圧感を帯び、緊張感が漂う。好みや気質が反映しており、伝統刃物文化の違いと見えます。丸餅と角切り餅の違いという感じ。西型は、曲線部の鍛造成形に手間がかかるため、現在、西国の斧鍛冶が減り、製造販売されている刃物型は機械加工、東型・土佐物が多い。

*「鉞 」を「まんきち」と呼ぶ飛騨地方(高山市・古川町・宮川村)は、「東型」である。明治の有形民俗文化財「飛騨の山木樵及び木工用具実測図録」平成4年 古川町教育委員会

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家庭向き地方形 名古屋型 東型 

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「紀州系刃広・西型・片刃」  徳島県那珂郡木頭村の林家 上野さん (1999年2月29日 Kデザイン研究室 高橋健二撮影) 刃型で西東、地方ごとの特長や系統が識別できます。

鍛冶専問職  白鷹幸伯の「斧・鑿・鉋・鋸 鍛造変遷図」

(竹中大工道具館講演録・1991  「鍛冶の木」より 1997年 削ろう会第二回武生大会 配布コピーの転載許諾)

鍛造刃物の錆だし・さび止め、ワックス蠟

 打ち刃物の錆は、椿油(不乾性油)の晒しが一番。塗りしみこませて、しばらく放置し、錆が浮いてきたら拭き取り、何度も油をしみ込ませて錆をとります。内部に深く腐食する前に手当。江戸時代は、長期保菅の場合、鑿鉋刃先に「鬢付け」を使用。マシンオイル・鉱物油は添加剤を含み、臭いや蒸散した油気が木部などに移ります。保存手入れには、自然の植物油・蠟がベスト。展示民俗資料の刃物の多くは、手入れされず錆がまわっており、「油拭き隊」が必要です。

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「南木曽町博物館分館 民俗資料館」 南木曽町教育委員会文化財街並係所管 20151207ABE

 杣師道具「下林コレクション」現在の長野県筑摩郡読書芳川(現木曽郡南木曽町読書芳川)御料林幕末から明治期に活躍した先代の杣師(下林金之助)使用道具と読書村内の山樵木工道具・民具を蒐集。1991年から2003年まで私設民俗資料庫に展示公開 2005年逝去後、南木曽町教育委員会に寄贈。現在、南木曽町博物館分館に保存。一般公開ではなく、専門家、研究者に要望に応じてその都度開示。
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新聞記事:1991年9月14日 信濃毎日新聞中信地区生活版
990730 ABE見学取材、実測・撮影  同行:名古屋芸術大学デザイン科平田哲生
* 鉞斧や玄翁の頭に柄を入れる穴は「シツ」若しくは「ヒツ」と呼ばれますが「木扁に必」や「櫃」字をあてる。装着する貫通穴。斧柄すげでは、明治期に「枘袋」「枘穴」という用語がありました。本来は繋げる臍の意味でホソの転化。

 *読書村:明治初期に近隣の与川ヨカワ・三留野ミドノ・柿其カキソの三ヶ村が合併、その頭文字の読みをあてたもの。(現在の南木曽町)

重要事項:

斧は、柄のホールド感と打撃バランスが最も重要です。

伐採、根切り、切断、ハツリ、穴あけ、薪割り、打撃、レスキューなど用途別の仕様があり、近代になると種類が増え、家庭用・プロフェッショナル用と使い分けてきました。

本稿では、杣木樵・メドヨキ・薪割り斧のヘッドと斧柄ジョイント部について記載しました。

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 木の総合学研究 2015 – 2019 「斧・鉞型と木柄ジョイント」「山木樵・杣師の道具刃物」「西型・東型 刃型の違い」(20170430追補)「斧・鑿・鉋・鋸 鍛造変遷図」

 

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