「木」と遊びジョイントシステム工芸木工

木のメカクラフト「 鮭子ロック」ナチュラルクラフトデザイン丹野則雄 附属「箱の本資料」

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

鮭の赤ちゃんがつまみ鍵に隠れています。蓋を開く度に楽しい遊び心の精密ウッドクラフトボックス_意外性に富み、好感度が高く新鮮です。

自然に向き合い、自然素材を活かした造形を再評価。次世代木工クラフトデザインへのガイドポストとしてレビュー

 あえて木でメカニズムを創作し、自然素材の魅力を高めた完成度の高い作品の一つでが、ハードウエア−( 金具)もすべて木でつくる発想、木の創作デバイスを考案し続ける相棒 丹野則雄作品です。1987 年、福岡クラフト展向け6個制作された「キューブボックス」。あらためて所蔵作品を「木のクラフトの最高作」としてお目にかけることにしました。

安直に売れそうなものだけを手がけていると創作力や技能が飛躍せず、時代を動かすムーブメントにはつながらないからです。イクラからうまれる生命造形の神秘な形が鍵です。

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  静的な箱自体に意味や性格を与え、作品に「生き物」作りこめる造形センスは秀逸、ナイスアイデア。独自の機構部分細部に宿る、操作しないと見えないパーツに遊び心で形を与える、そのインスピレーションが斬新で粋でした。

蓋開閉ヒンジ・鍵錠を後付けするのではなく、はじめにデザイン制作テーマやストリー性をもたせ、細部の形が装飾ポイントで全体を性格づけようとするクラフトマインドがうかがえます。ジョイント機構を構造に一体化して作り込むには、精度の高い加工技術も必要です。ボリュームをこなすことから自然と次のアイデアを思いつく「質の変化」がおきるのです。
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普段は鮭子キーを差し込んで使い、ロックする時はかんぬき(コイルバネ内蔵)を爪先で押して一旦解除。この状態でキーを外して蓋を閉めるとカチリとロックされる構造。スペアーなし、紛失したら複製至難です。
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「キューブボックス」 Cube Box with the Salmon Baby Key

クラフトとハードウエアー

ヒンジとつまみ兼ロックキーに仕込みコンパクトに収めた精密木工デバイスは、シンプルでハンドメイド・オリジナル性を際立たせます。(量産メーカー金物をつけると手作りの作品イメージが「製品」になり、他社マスプロダクションが表にでてしまいますので家具など手作り工芸品にはマイナス効果。
Fitting は、「取り付け金物」ですが「とってつける」のではなく自作が基本です。市販金物類を使うことは安直ですが、押っつけ量産工業品イメージが強烈にでしまいます。家具や小物では、つまみ把手、ヒンジなどの表にでる構造パーツは、表情の重要なアクセントになる需要部分なので全体の印象を左右しがちです。自作オリジナルがベスト。)
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 鮭子キーは、つまみと一体化しているので普段はついたまま、鮭子形は見えません。、先端部を差し込むと「かんぬき」(鍵で出したり引っ込めたりするパーツ)が揺動してロックが解除される仕組み。鮭の稚魚(2.5 -3ヶ月)の形を「刻み」イメージしたつまみ鍵型、ショルダーの部分がお腹についている 卵嚢を形作りロックの丸穴にはまりセットされます。着脱ジョイント機構として注目しました。
・鮭子キー付き印鑑ボックス  94W x 90D x 92H mm,  内底:コルクシート貼り  208g
箱体:ブラックウォルナット、ヒンジ:ブラジリアンローズウッド、キー(つまみ bow):紫檀、
オイル拭き仕上げ      製作:丹野則雄  クラフト&デザインTANNO 、旭川  1987
仕様:箱体ブラックウオルナット ロック部:ブラックウオルナット、ブラジリアンローズ
ヒンジ:ブラジリアンローズ コルクシート底貼り/オイル仕上げ

丹野 則雄 略歴

 1951 北海道旭川市生まれ

1969 北海道立旭川東高校卒業

1973 北海道デザイン研究所(現 北海道造形デザイン専門学校)卒業, 家具メーカー(株)インテリアセンター(現 カンディハウス)にデザイナーを目指し入社。

1973年~1977年 工場での研修後  設計企画を担当。デザインするために自らが製作技術を身につけるため退社。

1980 工房ノアウッドデザイン研究室 開設、後にノアウッドクラフト旭川・TANNOデザイン研究所に改名

1981 「遊びの木箱展」道立近代美術館 奨励賞(中井啓二郎と共作)、’81 – ’90 JCDAクラフト展 入選

1983  「朝日現代クラフト展」入選、「木の椅子は語る展」道立旭川美術館出品、クラフト&デザインタンノに改名
1984 「朝日現代クラフト展」入選

1987 池袋西武主催「アトリエヌーボーコンペ」 準グランプリ賞受賞、「北海道クラフトグランプリ’87」優秀賞

1989 池袋西武百貨店 「木は気まま木のまま展」アトリエヌーボーにて個展、札幌芸術の森クラフト展 入選
1991 工芸都市高岡クラフトコンペ「HASHI CASE II 」銀賞

1992「箱で考えるー遊びの木箱1992-3展」(道立旭川美術館)遊びの木箱展 大賞受賞

1996  フィンランドヘルシンキにて個展

2001  東京 代々木・クラフトコレクションにて個展

2006  スウェーデン カールマルムステン工芸学校(Carl Malmsten School)にて講師を務める

2009  スウェーデン ストックホルムにてグループ展

2010  スウェーデン カールマルムステン校にて講義

2011  スウェーデン ゴットランド島にてワークショップ&個展  (Visby, Gotland)

2013  ニュージーランド CFW(Center of Fine Woodworking )にて講義&デモンストレーション Nelson ,New Zealand.

2014  ニュージーランド    CFWにて「夏休み木工教室」に招聘され講義・指導。9月フィンランド フィスカルス村にてサマークラフトワークショップ講義・実技指導、10月 「ルーター講座」 信州木工会 工房塩津村・谷工房にて

雑誌・出版

・1987  Voice 6月号 「昭和の主役」 丹野則雄 撮影・渡部雄吉
他多数。

あそびの木箱・箱の本 参考資料

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 1980 – 1993 :箱の遊びのデザインがトレンドになり、個展や 彫刻家、伝統工芸士、パッケージデザイナー、グラフィックデザイナー、木材学者、クラフトマン、建築家、木工作家たちがコンペに参加した時期で、様々な「木の箱」がクラフト・アート作品として発表され賑わいました。
箱は、面白いアイデアが出て造形分野で人気が高い対象です。バブル期のゆとりが生み出した「木の箱」あそびのクラフトデザインムーブメントが数年ありました。木を使うことが環境・資源への配慮したエコではなく、ひたすら面白さ・奇抜さを求めた消費時代です。箱への思い入れが強いのは、桐箱のように日常生活で様々な箱体を使い親しむ日本文化が底流にあります。
・「あそびの木箱」 秋岡芳夫 淡交社  1982   ISBN: 4-473-00808-8    3,800-
・「はこで考える – あそびの木箱’87」図録 北海道立旭川美術館  1987
・「木の箱」WOOD PACKAGE  六燿社 1987   ISBN: 4 – 89737 – 060 – 4   9,800-
・「はこで考える- 遊びの木箱  1992−1993」図録 北海道立旭川美術館  1993
・「箱」工芸文化史の断層 郷家忠臣  毎日新聞社  1987 ISBN: 4 – 620 – 30565 – 0    3,800-
・「箱」ものと人間の文化史- 67    宮内 悊 法政大学出版局 1991    ISBN: 4 – 588 – 20671 – 0  2,900-
* 「クラフトハウスミュージアム」収蔵・展示予定作品に推奨したい。初期作品展示は、次回掲載します。
ABE ギャラリーストック 鮭子ロック・キューブボックス 1pcs.
ⓒ 2014 Kurayuki, ABE
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木の総合学研究2014  「木のクラフト」「木のハードウエア−」「デザイン標本」
 
 

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